『交響組曲 AKIRA 2016』 試聴会レポート ~独自の技術「ハイパーハイレゾ」とは!?~

アーティストであり研究者でもある大橋力(山城祥二)さんのお話は「音」に対する考え方を根本から揺さぶるものだった。

 

『交響組曲 AKIRA 2016』のハイレゾは普通のハイレゾじゃない!?

大友克洋の劇場アニメーション『AKIRA』はカリスマ的な作品であるが、その音楽もまた個性的だ。それは『CD AKIRA』として発売されて世界的な好評を博した。その『CD AKIRA』がこのたびハイレゾとなりリリースされることになった。(購入はこちら→DSDFLAC

しかしそれだけで驚いてはいけない。今回のハイレゾはただのハイレゾ化ではないという。『AKIRA』の音楽を担当した芸能山城組。その代表で『交響組曲AKIRA』の作曲者である山城祥二さんは、大橋 力(おおはしつとむ)という脳科学者の顔を持つ。その大橋さんが独自の研究をもとにハイレゾ化がしたのが今回の『交響組曲 AKIRA 2016』なのだという。これはちょっと気になる。ハイレゾのリリースに合わせて大橋さんの研究所で試聴会があったので、さっそく行ってみた。ご報告しよう。

試聴会がおこなわれたのは大橋さんの研究所。スタジオには大型スピーカーとルパート・ニーブ設計の特別なミキシングコンソールが並んでいた。ハイレゾを試聴する前に、まず仁科エミさん(放送大学教授、工学博士)が興味深い話をしてくれる。

難しい内容を書くのはとても僕の筆力では無理なので、ここでは大きく語らせてもらうと、なんでも自然の音の中には人間の耳では聞くことのできない超高周波があり、それが人間の脳深部や前頭前野に活性化をもたらすという。つまり人間が音楽を聴いて「美しい、心地いい」と思う感情には、この聞こえない高周波に寄る所が大きく、どうやらそこに人間の感動の回路を刺激するものがあるらしい。この高周波による効果を大橋さんは〈ハイパーソニック・エフェクト〉と呼んだ。

そこで何が問題かと言うと、ご存知の方も多いと思うが、CDでは規格上、22kHz以上の高周波をばっさりカットしていることである。よくグラフで見る右のほうのだらり下がっていく部分である。どうせ聴こえないから必要ないや、とCDではカットしたわけであるが、これが高周波までを含んでいるアナログのLPレコードと比べると、CDが硬い音、落ち着かない音に聴こえる原因ではないかというわけだ。今人気のハイレゾはこの高周波をCDのようにカットせずに収録しているから、アナログライクな音なのであろう。

ただ『CD AKIRA』はオリジナルが48kHz/16bitのPCMデジタル録音だった。先の話に照らせば、そもそもオリジナル音源に高周波成分が含まれていない。そこで大橋さんが研究したのが、ハイカットデジタルの音に高周波を補完して、アナログ録音のような音に蘇らせる方法だった(厳密には80〜88kHzあたりの高周波領域がいちばん脳活性化を及ぼすとか)。

そんな魔法みたいな方法があるのかと思うが、これがなかなか興味深い。大橋さんはアフリカ、中南米、東南アジアなどの熱帯雨林に出向き、天然の熱帯雨林の環境音を採集。そこから超高周波成分を取り出した。それをハイカットデジタルの音に補完してやったところ、〈ハイパーソニック・エフェクト〉がおこり、アナログ録音のような音源になったということである。大橋さんはこの補完方法を〈ハイパーソニック・ウルトラディープ処理〉と名付けた。

ということで長く書いてしまったが、今回のハイレゾ『交響組曲 AKIRA 2016』は、2002年発売の『DVDオーディオ AKIRA2002』の96kHz音源を主音源として、一部にCDマスターを同期させて、新たに新音源を作り、これに大橋さんが考案した〈ハイパーソニック・ウルトラディープ処理〉を施して制作された。どうです、これまで存在しなかったアナログ・ライクな『AKIRA』の音楽が聴けそうである。楽しみになってきた。

 

いよいよ試聴開始、3つの音源を聴き較べ

いよいよハイレゾの試聴である。今回はハイレゾの音の変化を感じてもらうために、オリジナルのCD(48kHz/16bit)、CDをアップコンバートした音(192kHz/24bit)、そしてハイレゾのDSD(11.2kHz/1bit) の3つを聴き較べる趣向だ。曲は1曲目の「金田 KANEDA」。

まずCDである。迫力のあるサウンド。クリアだけどエッジが強く、コントラストが強い音。まあ典型的なCDの音。普段からハイレゾを聴き込んでいる僕には、やはり耳にキツい音である。

続いてアップコンバートした192kHz音源。ここで補説すると「192kHz/24bitなら22kHz以上の高周波を含んでいるから、これで問題ないじゃないか?」という疑問である。しかしこれはもともと高周波の入っていないCDから制作した192kHz音源でしかない。その結果として、確かに繊細な響きになった。でも音楽を聴いた時に感じる〈根源的な高揚感〉までは感じない、とか。つまり超高周波の問題は人間のDNAにまで関係した問題らしいのだ。

そのアップコンバートした音であるが、前のCDの音と比べればあきらかに、エッジが柔らかいのがわかる。そして繊細でシャワーのような音である。僕も「これは、よく聴くハイレゾの音質に近いんじゃないか」と思った。192kHzの効果はあると認めたい。今回の新しいハイレゾはこれのもっと上を行くのだろうか……。

いよいよDSDである。ハイレゾでは音のエッジがCDの音に戻ったかのように際立っているのがまず意外だった。しかし音全体に厚味がでて、かつ音が重たいので、CDの時のようにエッジだけが際立つことがないのだった。全体でさらにパワフルになった感じ。

加えて音に艶が出ている。色彩感があるというか。これは高音質というオーディオ音というより、日常生活で耳にしている自然音の印象だ。これに比べれば、なるほど先のアップコンバートの192kHzは、ただ奇麗にしただけで精気がない音に思えてしまう。

この曲にはバリ島の巨竹打楽器ジェゴグが使われていて、重低音から高音、そして倍音に溢れることになる。大橋さんによればハイレゾで一番鮮明に分かるのは「低音の増強感」であるという。確かに低域がズンズン出て来るけれども、音に圧迫感がない。ボリュームをどんどん上げられるし、上げたくなる。大橋さんは「ボリュームを上げたくなるのはいい音源であり、いいシステムですよ」と言っていたが、それはこの音を聴けばうなずけるだろう。他にも合唱など、凄まじい音質が聴けた。

試聴はこのあとも続き、いくつかの収録曲を聴いた。ハイレゾの『交響組曲 AKIRA 2016』、それはアニメ『AKIRA』の世界を音で新体験するような時間だった。

※moraではDSD(5.6kHz/1bit)での配信。

 

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