ももいろクローバーZ ハイレゾ試聴会@ソニーストア 作曲家・横山克さん×音楽プロデューサー・宮本純乃介さん(キングレコード)
7月1日(日)、ソニーショールーム/ソニーストア 銀座にて、ももいろクローバーZとウォークマン Aシリーズとのコラボモデル「MOMOIRO CLOVER Z 10th ANNIVERSARY MODEL -Hi-Res Special Edition-」の発売を記念したハイレゾ試聴会&トークイベントが行われた。コラボウォークマンにプリインストールされている限定リミックス音源を含む、ももクロ楽曲のハイレゾ環境での試聴に加え、トークゲストとして「D’の純情」など多くのももクロ楽曲を手がける作曲家・横山克さんと、キングレコードの音楽プロデューサー・宮本純乃介さんが登壇。作曲家・プロデューサーそれぞれの視点から見たハイレゾ音源の良さ、制作秘話なども明かされ、音にこだわるモノノフだけでなく、音楽ファンにも必見のイベントとなった。
当日使用したオーディオ機器はこちら
・HAP-Z1ES
(ソニーストアスタッフ) 内蔵のハードディスクに楽曲データを取り込むことで、CDの入れ替えやPCを起動しなくても音楽を楽しむことができるプレーヤーです。
・TA-A1ES
(ソニーストアスタッフ)HAP-Z1ESと同じシリーズで、ノイズの少ないクリアな音質が楽しめるアンプです。
・SS-AR1
(ソニーストアスタッフ)ソニーの一番“いい”スピーカーです。見た目は渋いんですけれども、ロックからポップスまで、ジャズといった幅広いジャンルもしっかり鳴らせるスピーカーです。
ソニーショールーム/ソニーストア 銀座 公式サイト: https://www.sony.jp/store/retail/ginza/
好評配信中!
ベストアルバム
『桃も十、番茶も出花【通常盤】』
ハイレゾでより伝わる、ももクロ楽曲の仕掛け
――はじめに「BLAST!」のハイレゾ音源を聴いていただきましたが、宮本さんどうでしたか。
宮本 やっぱりハイレゾというフォーマットで、こういった環境で聴くとそれぞれのトラックが粒立って聴こえて気持ちいいと思いますね。この楽曲はすごく声ものが多くて、いわゆる本人たちのメインのボーカルと、ラップでかぶさってくる「カブセ」と「ハモ」と、それに黒人のゴスペル隊によるコーラスも重ねています。歌まわりに関してはすごくバランスを意識してミックスをやっていたので、ここまで歌の抜けがよく聴こえると嬉しいですね。
――レコーディング現場で鳴っている音をそのまま楽しめるというのがハイレゾの魅力でもあるんですけど、横山さんいかがですか。
横山 いやその通りですよね。サビとか後半でビートが裏拍に変わるとかっていうのも、この環境ですとそれがよりわかって。もちろんハイレゾでない環境でもわかるんですが、よりそれが伝わりやすいというのが大事だと思います。
――バラードの「青春賦」はいかがでしょう。
宮本 この曲に関してはももクロの楽曲の中でもすごく構成がシンプルというか、トラック数が少ない曲でもあるので、本人たちの声の存在感がこの環境でより感じられたんじゃないかなと思います。楽曲によっては歌い手さんのブレスってちょっと抑えたり切ったりすることもあるんですけど、この楽曲に関してはふんだんに残してまして。すごく緊張感のある曲だなあと、改めてこの環境で聴いて思いましたね。
横山 ブレスの作り方って、たとえばスーッと長く入れてから歌い出すのか、スッと短く入れてから歌い出すかというのでも大きな違いがあるんですよ。よく計算して、いつも「伝わるかわからないけど、でもこれは大事だからやろう」って思ってやっているんですけど、それがここまで伝わるっていうのはすごくいいなと思います。
――レコーディングのときってやっぱり緊張されるものですか、メンバーの皆さんも。
宮本 緊張……してますね、いまだに。何年やってんだって話ですけど(笑)
――でもその緊張感も伝わってくる気がします。
宮本 そうですね。だと思います。
宮本純乃介さん
リミックス音源が見せる新たな楽曲の表情
――ここからはももクロとのコラボウォークマンにしか入っていない音源を聴いていただきたいと思います。ベストに収録されている音源をリミックスした音源になりますね。
♪「MCZ×NRSK Pulled out Remix(Remixed by NARASAKI)」
――宮本さん、これはかなり遊ばれたリミックスになってると思いますが。
宮本 そうですね。この後楽曲が「天手力男」から「ミライボウル」「黒い週末」「『Z』の誓い」「ピンキージョーンズ」と続いていくんですが、基本的にはNARASAKIさんがいままで手がけた楽曲をご自身でリミックスしているということになっています。これはもうNASASKAKIさんに自由に遊んでもらったという感じです。
――特にリクエストはなく?
宮本 そうですね。まあ構成の部分で打ち合わせはしたんですけど、その後は特にディレクションせず。ところでこれなんで「Pulled out Remix」なんだろうって思う方もいると思うんですけど、たしかナッキー(NARASAKIさんのこと)が尿管結石かなんかで石が出たっていうところから……全然関係ない(笑)
(会場笑)
横山 NARASAKIさんって本当にそういうことする人ですよね(笑)
宮本 独特の価値観があるんだよね。
――メンバーは知っているんでしょうか……(笑) 続いてもリミックスの楽曲になります。横山さんの楽曲がふんだんに使用されているものですね。
♪「MCZ’s スーパーストロングマシーン Remix(Remixed by サイプレス上野とYasterize)」
――横山さん、いかがでしょうか。
横山 「Chai Maxx」から始まるリミックスなわけですけど、とにかく本人たちの声がすごく若い! 2011年の曲なんで、まだ10代ですよね。レコーディングの面白さってやっぱり当時のものを残せるってことだと思うんです。やっぱり10年前の自分の音とか、歌い手さんであれば声とか、そういったものが残るってのがすごく大事で。それはいまでは出せないものなんですよね。僕のアレンジとか作曲にしたって、いま「Chai Maxx」が作れるかっていったらたぶん作れないですよ。それがリミックスによってまた違った見え方がして……これなんかはビートがTRAPで、すごく今っぽいじゃないですか。そういう生まれ変わりが面白いですし、それをこういうハイレゾの環境で聴けるっていうのは僕にとっては本当に幸せなことです。
――宮本さんはいかがですか?
宮本 そうですね……さっきからなんでかわからないんですけど、妙に高城(れに)の声が艶っぽく聴こえるなと。
(会場笑)
横山 いや、でもすばらしいことですね。
宮本 もしかしたらハイレゾ向きなのかもしれません(笑) ひとつ大きな発見がありました。
――新たな魅力が発見されましたね……! では3曲目のリミックスを。
♪「MCZ “春夏秋冬” Remix(Remixed by fox capture plan)」
――生ドラムが心地よいこの音源は、宮本さんどうでしょう。
宮本 そうですね、いま聴いた「行く春来る春」のあと「ココ☆ナツ」「いつか君が」「白い風」と続いていくリミックスなんですが、いわゆるももクロの春曲・夏曲・秋曲・冬曲をチョイスしてfox capture planというアーティストにリミックスしていただきました。彼らはベース・ドラム・ピアノというシンプルな構成のバンドなので、今回ハイレゾでかつリミックスということを考えると、こういうジャズ的なアプローチはいままでももクロ楽曲にはなかったので面白いんじゃないかと。より本人たちの歌を感じられるリミックスにfoxさんが仕上げてくれました。
――がらりと印象が変わりますよね。横山さんはいかがでしょう。
横山 「ココ☆ナツ」とかこんな上品になるなんて誰も想像してなかっただろうと(笑) 作家にとって曲の見え方が変わるというのは、僕は幸せだと感じるタイプなんですけど。ライブも一緒なんですよ。ライブでバンドアレンジになるって僕はすごく好きで、日々を経ると本人たちの歌い方も変わるし、当初レコーディングしたものがオリジナルとしてあって、だんだんと変化していくと。それが見えるのは非常に楽しいですね。
――今日の音源を聴いた上で改めてオリジナルの音源を聴き直してみるというのも面白いかもしれませんね。
今後のハイレゾリリースはどうなる?
――次の曲に行く前に、お二人にお伺いしたいことを事前にアンケートで伺ってきましたので、いくつかご紹介したいと思います。まずは宮本さんに。今後ももクロの音源は配信が主になっていくのでしょうか? またハイレゾ音源と並行してリリースされていくのでしょうか。
宮本 そうですね、CDがメインか配信がメインかっていうのは、そのときの時代の動きに合わせて臨機応変にやっていけたらなとは思っていまして。この前の東京ドーム公演で発表させていただいたんですが、来年の5月に新しいアルバムを出します。で、その前哨戦ではないですが、8月から5ヶ月間、毎月配信限定でリリースを切っていくことになっていて。これに関してはもちろん、ハイレゾも合わせて動いていくことになると思います。
――おお! 聞きましたか、ハイレゾ確約です(笑) moraにもリクエストたくさんきておりますので、ユーザーの皆さんも喜ぶと思います。ではもう一問、ハイレゾ音源があることで楽曲の作り方は変わっていきますでしょうか。
横山 これに関しては面白い話があって、すごく音にこだわってそうなハンス・ジマー*という映画音楽の作曲家がいるじゃないですか。でも彼は44.1kHz環境で作業することがあるそうですよ、実は。大事なのはその後の処理で。僕もいま48kHz/32bitをメインにしてるんですが……高いレートで制作すると、当然制作環境にも負荷がかかります。いまの作曲家が大抵使っているPro Toolsというソフトがあるんですが、96kHzがそこそこ自由に使えるようになったのはようやくここ数年の話で。でも「そこそこ」なんです。96kHzにするっていうと一瞬決意が必要ですね(笑) さらに、ももクロの曲なんかは非常に情報量が多いので……
* 近年の代表作に『ダークナイト』『ブレードランナー2049』など。
宮本 そうなんですよね、データの量が尋常じゃないんで。だから96kHzで作業できる曲と、できない曲っていうか、これは48kHzで作業して後から96kHzに持っていくってほうが都合がいい曲と、たぶん分かれることにはなると思うんですよね。
横山 (制作時から高いレートで作ると)クリエイティブが非常に制限されやすいんですね。「この処理をかけたいんだけど、96kHzだとパワー食うからやめておこう……」とかってことが、やはりあるので。でも、向いている曲ではちゃんと効果はあるので、どのレートで制作するのが良いのかを曲によって見定めるってことが重要だと思います。
横山克さん
ももクロ楽曲は「情報量が多い」!
♪「D’の純情」
――改めて曲の試聴のほうに戻りたいと思います。ベストアルバムから横山さん作曲の「D’の純情」ですが……先ほどお話にもありました通り、情報量が多い!
横山 J-POPってただでさえ情報量の多い……世界で一番情報量が多い音楽ジャンルなんじゃないかと思うんですけど、その中でも、ももクロの楽曲はさらに多いという気がします。この曲ではリズムの打点をちょっとずつずらしたりとか、そういう小ネタを挟んだりしているんですけど、バンドで演奏しようとすると、イヤモニからクリックを聴かないと絶対演奏できない(苦笑) バンドメンバーもめっちゃ困ってるんじゃないかと思うんですけど、そういう悪質なチャレンジをすることがちょっと好きでもあるので……(笑)
宮本 横山さんの曲はそういうトリッキーなものが多くて、割と歌い手殺しだったりもするんですよね。横山さんの曲でいうと「Chai Maxx」からの「D’の純情」という流れだったわけですけど、どちらも最初ライブで表現するのにすごくメンバーが苦労していた記憶がありますね。
横山 これは作曲家あるあるで、飲みに行くと「自分の曲歌ってよ~」って「Chai Maxx」をカラオケで入れられたりするんですけど、「歌えるわけねーじゃん!」って。
(会場笑)
横山 でもメンバーさんとか何度も何度もやっているうちに、もうケロっと歌えるようになるじゃないですか。僕にとってはそれは不思議なことで。
――自分では歌えない曲を作ってしまう。
横山 よくやりますね……(小声)
宮本 レコーディングもなかなか終わらなくて、地獄でしたね(笑) でも横山さんとはももクロより前からずっと仕事をさせてもらってて……もう10年くらいですよね。
横山 そうですね。
宮本 だからもう形になるのはわかってるっていうか。そこに持っていくために横山さんが準備してくれることも、こちらでやるべきこともわかってるし。トリッキーな仕掛けがいくらあっても、個人的にはなんか安心感がありますね。
横山 と、思っていただけるとうれしくって、僕もギリギリを攻めれるので(笑) やっぱりひとりでは作れないですね。
確かな信頼関係が感じられました。
――もう1曲聴く時間があるようなので、何かリクエストがあれば。
宮本 そうですね……では「GOUNN」でお願いします。
――この曲をチョイスした理由は?
宮本 自分の中でいろいろと一番悩みの多かった曲で……ベースがハマ・オカモト君、ドラムがピエール中野君、そしてギターがNARASAKIさんっていう、いわゆるスタープレイヤーが揃ってできた楽曲だったんですね。だからけっこう取りまとめには苦労したところがあって、ミックス段階でようやく手応えを感じました。ライブでは最近やれていないんですけど、ベストを作るときに改めてハイレゾで聴いて、やっぱりいいなと思ったので。
♪「GOUNN」
――ベースの存在感がすごいですね。
宮本 やっぱりハマ君でなければ弾けなかったベースラインというか。ミュージシャンに助けられたって感じの曲ですね。
横山 こういう曲って他にないじゃないですか。それがももクロの曲のよさだと思ってて。ありきたりな曲ってひとつもない。だから作るほうもめっちゃ苦労するんですけど(笑) 「これはいいかもしれないけど、普通かもな」っていつも自問自答しながら作っています。
おわりに
――お時間がきましたところで、最後に何か今後の展望があればお聞かせください。
横山 僕らが作っている環境って、いわゆるハイレゾといわれているものが日常・標準なんです。それがいろんな方に伝わってほしい。ハイレゾというフォーマットがこうやって使いやすくなっていくことはチャンスだと思っているので、あとは試聴環境ですよね。ふたつが同時によくなっていくことによって、僕らが作った音がリスナーの皆さんにもそのまま伝わるようになってくれれば非常にうれしいと思います。
宮本 ももクロに関して言うと、先ほども申しました通り8月から配信シングルがリリースされ、来年5月にはアルバムが出る予定になっています。もちろん横山さんのお力も借りながら、「こんな曲きいたことねーよ!」っていうももクロならではのオリジナリティを追求してみなさんを驚かせたいなと思っておりますので、今後とも“ももクロちゃん”をよろしくお願いします。
――新曲、本当に期待しております。本日はありがとうございました!
登壇者プロフィール
横山克(よこやま・まさる)
映画やテレビドラマ、アニメ、CMなどの映像作品に楽曲を提供する劇伴作曲家。近年の代表作はNHK連続テレビ小説『わろてんか』(2017年)、 映画『ちはやふる』3部作(2016年~2018年)など。 女性歌手・声優アーティストへの楽曲制作でも知られており、ももいろクローバーZには、2011年の「Chai Maxx」(当時はももいろクローバー名義)など、多くの楽曲を提供。
インタビュー「劇伴作曲家 横山克が感じたハイレゾという選択肢」(SONY公式サイト)
宮本純乃介(みやもと・じゅんのすけ)
キングレコード/ももいろクローバーZ 所属のEVIL LINE RECORDS 主宰/チーフ・プロデューサー。
アニメ『さよなら絶望先生』シリーズ、『じょしらく』『電波女と青春男』のプロデュース、『とらドラ!』『輪るピングドラム』の音楽プロデュース等を経て、ももいろクローバーZ 所属のEVIL LINE RECORDSレーベルヘッド兼チーフ・プロデューサーに就任。EVIL LINE RECORDSには、「ドレスコーズ」「サイプレス上野とロベルト吉野」「TeddyLoid」「清竜人」「どついたるねん」など多様なアーティストが所属。