吹奏楽アレンジで新たに彩られた「キングダム ハーツ」の音楽世界 ~下村陽子×和田薫~

ディズニーとスクウェア・エニックスから生まれたロールプレイングゲーム『キングダム ハーツ』シリーズ。これまでに10作品(「ファイナルミックス」版も含めると16 作品)を発表、2012 年3 月には10 周年を迎え、全世界で累計2,200万本以上を出荷する人気シリーズとなっています。

そんな『キングダム ハーツ』シリーズから、2016 年8 月に開催されたシリーズ初のオフィシャルコンサート「KINGDOM HEARTS Concert -First Breath-」で演奏された楽曲を新規録音し収録したアルバム『KINGDOM HEARTS Concert -First Breath- Album』(演奏:Osaka Shion Wind Orchestra)がFLACAACで同時配信スタート。

moraでは『キングダム ハーツ』シリーズ全般の音楽の作曲を手掛け、今作のプロデュースも担当した下村陽子さんと、アレンジャーの和田薫さんによる対談を実施。吹奏楽アレンジで新たに彩られた「キングダム ハーツ」の音楽世界に迫ります。

 


 

インタビューの様子(イラスト:牧野良幸)

 

 

――本日は、『KINGDOM HEARTS Concert -First Breath-』が発売されるという事でお話を色々とお伺いしようと思います。昨年『キングダム ハーツ』シリーズ初の単独コンサートを吹奏楽の編成で開催いたしましたが、いかがでしたか。

下村 吹奏楽が一番手って新鮮ですよね。

――そうですよね。オーケストラが先にということが多いですよね。

下村 なかなか出来るものではないですし、自分自身も元々吹奏楽育ちで地元の大阪公演も開催できたので感無量でした。

和田 確かに僕も下村さんも吹奏楽出身者というか経験者で、でも、最初が吹奏楽なんだという事でちょっとびっくりと新鮮と、これを吹奏楽でやるんだ(笑)という。

下村 すいませんでした(笑)。

和田 アレンジャーとしてはちょっとプレッシャー(笑)もありつつ、でもやはり僕も吹奏楽小僧だったので、嬉しいというか、吹奏楽をやっている人達にも親しんでもらえたらいいなと楽しみながらやりました。

 

――曲によっては吹奏楽の方が合うようなものもあったように感じましたが、アレンジは結構工夫されましたか?

和田 以前から「キングダム ハーツ」のアレンジもご一緒させていただいて、下村さんの音楽の世界観も分かっていたのでなるべくそれを再現できるようにしました。なにせコーラスもあるし、ピアノもあるし、色々たくさんある中で吹奏楽とピアノだけという編成の中、吹奏楽ならではの迫力や音圧が「キングダム ハーツ」の音楽世界観とうまく合わさるよう工夫しました。

下村 私、和田さんに質問したのを覚えています。オーケストラのアレンジと吹奏楽のアレンジどっちが難しいですかと。そしたら吹奏楽ですと即答でしたね(笑)。

和田 オーケストラの場合は、元々オーケストラの編成をイメージしたものも、録音したものもたくさんあるので、比較的再現性という意味では聴いているお客さんもスッと入ってくると思うのですが、吹奏楽を初めて聴かれる方は、「コーラスがいない、弦がいない。あれ?これどうなってるの?」ってステージを見た時に感じると思います。そういった場合でも違和感なく音楽の世界に入れるようにという事が大前提だったのでそのプレッシャーはありました。

下村 本当ですか!?プレッシャーなんてまったく感じませんでした(笑)。

 

――コンサートの中で特に印象的だった楽曲はありますか? 実際演奏してみて吹奏楽映えしたなとか。

下村 私は「Destati」がコーラスがメインの曲なので、正直コーラスが無くて「Destati」って感じがするのかなと思ってました。コンサートの一曲目でもあるし不安もあったのですが、でもちゃんと、吹奏楽映えして華やかになりました。あんな暗い曲で華やかというのも変ですけど力強くて、コーラスが無くてもちゃんと「Destati」という曲になっていて、しかも吹奏楽として凄くかっこよくて驚きました。

和田 元々の楽曲が凄いんですよ。

下村 もう。何を言ってるんですか(笑)。

和田 あの世界観というか、吹奏楽のオリジナルの曲でもあのような曲はなかなか無いですよ。なかなか無いですが、逆にいうと歌詞の世界というか声の世界を吹奏楽で出すというのは難しいですが、根本にある荘厳さとか迫力とか、音楽がもつイメージ感というのは、ひょっとしたら吹奏楽が目指しているものにリンクできるのかなと思ったので、そういった意味ではコーラスをもちろんイメージしていながら、吹奏楽の迫力あるものを中心に出していくというような形でアレンジしました。気に入って頂けましたか?

下村 ありがとうございます。とても素晴らしいです。

 

――『キングダム ハーツ』シリーズには何百という楽曲があると思うのですが、選曲はどのように決めたのですか?

下村:キングダム ハーツ10周年のアルバムの時に投票でベスト盤を作っているので、ある程度どういう曲が人気があるのかイメージがあって、おそらくこの辺は外せないという曲をまず決めました。その後はやはり世界を巡る系とか、ワールドを巡る感じのメドレーとか、バトルメドレーとかは絶対必須だろうと思い、外せない曲、こういう感じでやったほうがいい曲、これは吹奏楽でやったら映えるんじゃないかとかを考えて選びました。

――確かに、人気曲がしっかり入ってますね。

下村 例えば自分の中で「The Other Promise」のメロディーは絶対に弦だと思っていたのですが吹奏楽の木管のメロディーもすごく綺麗で新鮮でした。吹奏楽っていうとブラスバンドって呼ばれるくらいに金管が「パーン」と華やかで派手な曲っていう印象で、私自身もそう思ってた所があるんですけど、木管の柔らかさとか、表現力とかすべて含めて吹奏楽なんだなと感じました。最初から向かないんじゃないかな?とかじゃなくて、色々トライしてみたのがいい結果に繋がったと思っています。

和田 管楽器ってある種のパイプオルガンに近いものがあるんですよね。

下村 なるほど。そうですね。

和田 「The Other Promise」などは、どちらかというとそういうイメージでしたね。弦楽器のもつ叙情性とはまた違う感じで荘厳さを大事にしました。吹奏楽、特に管楽器で一番苦手なのが弱奏なんですが、小さい音が難しくて。弦楽器は薄くやっても音が鳴るんですけど管楽器って薄くやると音が鳴りづらい。逆にいうとしっかりとパイプオルガンのイメージで進めていった方がより違ったアプローチで、目指すベクトルは同じだなというところで、いけるのではないかと思ってはいました。

下村 吹奏楽によるピアノコンチェルトって中々無いですよね。

和田 うん、中々無いですよね。

下村 ピアノが伴奏で入る吹奏楽はたまにあるんですが。

和田 ピアノがメインで吹奏楽が伴奏で入るって曲はあまり無いです(笑)。

下村 すいません(笑)。

和田 いえいえ(笑)、新たなレパートリー開拓という感じで。

――音量のバランスを取るのが難しそうですね。

和田 そうですね。管楽器はやはり大きい音が得意なので、ピアノは埋もれてしまいますけど、今回の演奏やアレンジはステージで聴いていてもそんなに違和感なかったと思います。その辺りは、レコーディングと名古屋・大阪公演を演奏してくれたShionさん(Osaka Shion Wind Orchestra)、東京公演を演奏してくれたシエナさん(シエナ・ウインド・オーケストラ)で、それぞれアンサンブルやバランス感が凄くいいので、コンチェルト風の部分はピアノをしっかり立てながらという演奏してもらったので良い響きになったと思います。

 

――以前から下村さんの楽曲を和田さんがアレンジされる機会もありましたが、改めてコンサートやアレンジを経て、ズバリ下村さんの音楽の魅力はどういったところにあると思いますか。

和田 本人を目の前にして(笑)。今回のコンサートでは最初に吹奏楽をやらせていただいてその後、オーケストラにも参加させていただいたんですが、やはり音楽のもつメロディーのパワー、表現力の奥深さ。そこがなによりだと思います。編成がオーケストラから吹奏楽に変わっても、それ以外にも例えば合唱アンサンブルやピアノソロになっても、下村さんの創られた音楽の世界観が確立されているので感動は変わらないと思います。
 たくさんアレンジさせていただいた中で、シンプルな所もあれば複雑で色々な要素が組み込んでいる所もあって、我々はそれをコンサートや録音のためにアレンジをしていきますが、いかに一番良い要素を引き出せるかを考えています。その辺は長年一緒にやっていると、下村さん的にはこっちに行くと更に良いようになるだろうなとか、忖度しながら(笑)やっています。元々の「キングダム ハーツ」と下村さんの世界観が素晴らしいので、どの編成で関わってもやりがいのあるお仕事でした。

下村 ありがとうございます。光栄です。ほめられると伸びる子なんです(笑)。

和田 ただアレンジに関してはオーケストラの弦と違って吹奏楽って息を吸わないと死んじゃうんです。下村さんの楽曲は往々にして演奏者を非常に働かせるので……

下村 すみません……ゲーム音楽全体そうですね(笑)。

和田 弦楽器はまだ大丈夫なんです。いくら演奏しても腕が疲れるくらいで。ただ管楽器の場合は死んじゃうんですね(笑)。そのさじ加減は大変で、ステージをやりながらこうやってほしいというより、最後は「みんな頑張れー!ゴールはもう少しだ。がんばれー!」と言うしかなかった。僕も限界ぎりぎりまで書いちゃったんですが、そういう意味で吹奏楽の生死を彷徨うギリギリ感、パワー感があったと思います。

下村 吹奏楽のコンサートってBRA★BRA FF(ファイナルファンタジーシリーズの吹奏楽コンサート『BRA BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO』)でもそうですが、途中で木管のアンサンブルだけだったり、サックスだけでやったり、その間、金管の奏者さんはお休みできるとかあるんですが、基本的に今回はそれがなかったんです。セットリストでどうにか最後まで行けるようにするしかない。最後にボスメドレーとか続いたら無理だよねとか、そんな話もしましたよね。

和田 ちょっとこの曲の前にトークいれません?(笑)とか。

――セットリスト的には終始フル編成で演奏されていますよね。

下村 結構そう。

和田 最後、畳み掛けるように……

下村 先ほどの和田さんの話のように頑張れ―っ! て思ってました。

和田 Shionさんもシエナさんも若いメンバーが非常に多くて、ゲームを実際にやられて好きな方が何人もいらっしゃって、好きなのでどんなに辛くても頑張るというチームとしての連帯感がありましたね。

下村 楽屋でリラックスしてたら「写真とサインいいですか?」とか(笑)。光栄ですね。

――いちファンですね(笑)。

和田 オーケストラとか吹奏楽のコンサートに下村さんのように作曲者が来るってことは珍しいと思います。クラシックの楽曲ではすでに亡くなられている方も多いですし。作曲者が同席のもと、アンコールでは下村さんも一緒に演奏もしましたし、そういう事はなかなか無いことなので演奏者にとっても刺激になり、財産になったと思います。

――下村さんはCDでもピアノを弾かれたんですか?

下村 CDでは弾いてないです。コンサートのアンコールで弾いた曲はそもそもCDでは時間がギリギリで入っていないので…。このアンコールの曲はいつかまたどこかで演奏されることを楽しみにしていただければと。その時はもう少しピアノがマシになってればいいなと(笑)。

――楽しみにしてます!

 

――今回ハイレゾでも配信されますが、吹奏楽ならではのハイレゾの聴きどころをお願いします。

下村 今回ホールで録音しているので、空間の響きや空気感がハイレゾの方がより豊かだと思います。ハイレゾとそうでない曲を聴き比べるとハイレゾの方が緻密な感じがするので、空気感に大きく影響してくるのではないかなと。細かい所、豊かな所まで聞こえるのではないかと思います。

和田 吹奏楽をやっている中高生とか大学生とか、10代20代の方の多くはCDは買わず、配信でダウンロードしてスマホで自分たちのやりたい曲を聴いてる方も多い思うんですよね。その意味で中高生や練習している人にもいい音でまず聞いてもらって、これをきっかけに若い子たちにもいい音が広まるといいなと思います。

 

――話は少し変わって、今回は以前CDでリリースされた『PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS』と『PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS/Battle&Field』が同時にmoraで先行配信開始するという事で、改めてピアノコレクション制作時のお話をお伺いできればと。

下村 改めてコンサートやりたいな。3枚目出したいなとか、言わないと叶わないから(笑)。

――ピアノではコンサートをやっていないですものね。

下村 そうですね。プロモーションでミニコンサート的なものはやったのですが、ちゃんとしたコンサートは開催してませんね。ピアノコレクションは譜面も発売されているので色々な人に弾いてもらっていて、中には全曲マスターしましたという方もいるので、そんなに時間をかけてくれているという事が嬉しいです。聴いて頂けることが嬉しいし、弾いて頂けるという事が嬉しいので、チャンスがあればコンサートだったり、3枚目という機会が設けられればいいなーと思いつつ、まずはせっかく配信がスタートするので、これまで聴いた事がない人にも聴いてもらえたらいいなと思います。

――譜面は結構難易度が高いそうですが。

下村 かなり難しいです。今の亀岡さん(アレンジャーの亀岡夏海氏)のピアノアレンジも相当難しいですが、当時はさらに難しかったので(笑)。そういえば、KINGDOM HEARTS Orchestra –World Tour-の日本公演のピアニストであるベニー(ピアニストのベンヤミン・ヌス)がこの前の大阪公演の時に指ならしでサラッと引いていてビックリしました。

 

――吹奏楽、オーケストラのツアーとも大盛況だったと思うのですが今後の展開などは考えられているのでしょうか。

下村 具体的な話は出来ないですが、次にやる機会があれば新曲もいれて、IIIの曲がある程度発表出来る時にやれたらいいなと思います。あとは、オーケストラでは映像も映すので中々難しいのですがPAを使わない会場で生音のオーケストラコンサートをやってみたいですね。吹奏楽ツアーでは生音がすごく良かったので。あとは、ピアノコレクションズがでているのでピアノコンサートやりたいなとも。他にはオルゴールアレンジとかやりたいですね。どうしても『キングダム ハーツ』って壮大な方に向かってしまいがちなので、コンパクトにできるオルゴールのアレンジやピアノトリオもやってみたいですね。

 

インタビュアー:斉藤健二(2083)

 


 

KINGDOM HEARTS  Concert -First Breath-  SET LISTS

M-1 Destati
M-2 Dearly Beloved
M-3 Traverse Town
M-4 Hand in Hand
M-5 Journey of KINGDOM HEARTS(※1)
M-6 Lazy Afternoons
M-7 The Other Promise
M-8 Another Side
M-9 Gearing Up~Shipmeisters’ Shanty~Blast Off!
M-10 Destiny’s Union
M-11 The Unknown(※2)
M-12 Musique pour la Tristesse de Xion
M-13 The Power of Darkness(※3)
M-14 March Caprice For Piano & Orchestra

※1 KH1 フィールドメドレー(12曲)
Destiny Islands〜Traverse Town〜Welcome to Wonderland〜Olympus Coliseum〜Deep Jungle〜Winnie the Pooh〜A Day in Agrabah〜A Very Small Wish〜Under the Sea〜This is Halloween〜Captain Hook’s Pirate Ship〜Hollow Bastion

※2 Unknownメドレー(3曲)
Disappeared〜Rage Awakened〜Dark Impetus

※3 The Power of Darkness (6曲)
Destiny’s Force〜The 13th Struggle〜The Encounter〜Unforgettable~Ice-hot Lobster〜Vector to the Heavens

 


 

KINGDOM HEARTS Concert -First Breath- Album 

FLAC|96.0kHz/24bit ¥4,000

AAC-LC 320kbps ¥2,400

 

PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS

AAC-LC 320kbps ¥1,500

 

Piano Collections KINGDOM HEARTS FIELD & BATTLE

AAC-LC 320kbps ¥1,500

 


 

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