14年ぶりのMONDO GROSSO最新作について、大沢伸一に聞いた

大沢伸一のプロジェクト、MONDO GROSSOが14年ぶりのアルバム『何度でも新しく生まれる』を6月7日にリリースする(デジタル6月6日先行リリース)。本作ではMONDO GROSSO初の試みとして全曲日本語歌詞に取り組んでいる。ゲストには、bird、UA、満島ひかり、齋藤飛鳥(乃木坂46)、やくしまるえつこ、YUKA(moumoon)などのヴォーカリスト、谷中敦(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA)、宮沢和史、Tica・αなどの作詞家を迎え、先鋭的なポップミュージックの再構築に成功している。まさに、2017年を代表するアルバムとなることは間違いないだろう。自由度の高い制作スタイル、芳醇なサウンドによる深みある音の調べ。今後の音楽シーンの羅針盤となるべき傑作の誕生だ。ハイレゾ版も同時リリースとのことで、完成したばかりの最新作について大沢伸一に聞いた。

取材&テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 


 

インタビューの様子。(イラスト:牧野良幸)

 

 

背中を押される感じで動き出したのが一昨年の暮れでした。

――音の質感の気持ちよさや広がりを感じるアルバムだと思いました。大沢さんのなかで、いい音へのこだわりってどんなものでしょうか?

大沢 僕は否定も肯定もなくアナログも好きだしハイレゾも好きですね。今回、レコーディングとして圧縮をできるだけしなかったんですよ。マスタリングの過程でガツンとダイナミズムを与えてもらえるのはわかっていたので、制作途中にトータル・コンプレッションを使うのをやめました。それでなくても今、技術が進化して、各トラックにもいろんなプロセッサーを使っているので、そこで圧縮されちゃっているんですよね。それをまた、まとめて圧縮するのって、なんか一回作ったハンバーグをもう一回チンするみたいで。クオリティーが落ちるのがなんか嫌で。

――そういった細部へのこだわりの結果なのでしょうね。MONDO GROSSOとして6枚目となるアルバム『何度でも新しく生まれる』は、耳が喜ぶ音作りへの情熱を感じています。なぜ、14年ぶりにMONDO GROSSO を復活させたのでしょうか?

大沢 明確な理由はないんですよ。ちょっと延ばし延ばしにしていたらこうなっただけで、絶対にやらないでおこうと思っていたわけではないんです。きっかけがあったらやろうとは思っていたんですけどね。意外とこれぐらい空いちゃったな、という感じで。ちょっと開けば開くほど、触りにくくなるじゃないですか? 今年は違うかな、今年も違うなとやっているうちに、14年経ったというのが正直なところです。他にもたくさん様々なプロジェクトをやってましたから。それこそ、エイベックスに移籍してMONDO GROSSOを1回もやっていないっていうのがあって、スタッフ(制作ディレクター、マネージャー)のチームワークの中から“やっぱりやりたいですね”と、声が出てきて。僕が背中を押される感じで動き出したのが一昨年の暮れでした。

――アルバム構想におけるとっかかりは?

大沢 完成したイメージにたどりつくまで何ヶ月もかかりました。従来のMONDO GROSSOが持っていた洋楽というか、いや、洋楽邦楽とかあんまり関係ないですけど、最初は海外のシンガーをフィーチャーした作品を想定していたんです。なのですが、デモでイメージが浮かんでこなくて。そうこうしているうちに「ラビリンス」のメロディーが生まれてきて、それを形作ろうとしたときに日本語が面白いなと気がついて。いっそのことなら、前例のない試みで、全曲日本語にしてみようかなと。すごく勇気のいることなんですけど、時間をかけてもいいから向き合って、日本語の音楽としていい作品を作ってみようと決めたんです。

――女優として活躍する満島ひかりさんがヴォーカルを担当する、「ラビリンス」の作詞は、TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRAの谷中敦さんですね。触発された言葉があったのでしょうか? 

大沢 谷中さんに歌詞を頼む前から日本語にしようと決めていました。紆余曲折があって谷中さんに頼んで、なかなか戻りが遅い間に、別でやりたいっていう人があらわれて、というか勝手に歌詞を書いてきた人がいたんですよ。誰とは言わないんですけど。谷中さんにはこんな風に書いてくれた人もいるんで、もう待ったなしですよと話して。でも、最後の最後に谷中さんからいただいた歌詞が素晴らしくて。やっぱりそこはクリエイティヴ優先で、いいものを採用したいということで、途中にお願いしかけていた方にはきちんと断りを入れて現在に至ってます。

 

世に出す時って恐いんですよ。大丈夫かなみたいな。

――MONDO GROSSO復活直前に、パンキッシュで硬質なニューウェーヴ・バンドAMPSをやられていたじゃないですか? 大沢さんって、ものすごく精神的にパンクな人だと思うんです。そんななか、MONDO GROSSOでは全く違うアプローチとなりました。最新作『何度でも新しく生まれる』の制作にあたって、事前に決意というかコンセプチュアルにプロジェクトを考えられていたんじゃないですか?

大沢 実験とか冒険が大好きなんですよ。あと、コンセプトに沿って物作りをするのも好きですね。決めてしまえば逃げれないんですよ。条件や足枷っていうとネガティヴに聞こえますけど、制限があったほうが、達成に向かって努力しやすいんです。もちろん、出来上がっていくごとに不安は増していきますけどね。もう「ラビリンス」なんて、発表するくらいの時には聴きたくもなくなっていて。世に出す時って恐いんですよ。大丈夫かなみたいな。

――たまにSNSでの投稿で表面にあらわれていますよね。

大沢 はい(苦笑)。ずっと混乱しているんで、頭も心も。

――今、こうやってアルバムが完成されていかがですか?

大沢 まだ冷静じゃないですね。作り終わったところなので、あんまり聴いてないんです。聴くたびに聴こえ方が変わっていて。できるだけギリギリまで直していたいんですよ。でも、もう3日ぐらい前に終わっちゃたんで。もう直せませんよってところまできたので。そうするとしばらくは聴きたくないんです。直したいところが出てきてももう直せないので。

――もともと「ラビリンス」がリード曲となるのは想定されていたのですか?

大沢 考えていなかったですね。完成した順番かな。他の曲がそれに値しないとは僕らチームも思っていなくて。逆に言うと、アルバムとしてまとまっているのが奇跡なくらい、作り散らかしていましたね。

 

コンセプチュアルというものを取り払うというコンセプト

――海外の様々な音楽シーンに詳しい大沢さんですが、本作のサウンド感において、何かインスパイアされた曲、ジャンル、ビートなどはありましたか?   

大沢 特にないんです。それが今回は特殊というか。割と毎回サウンド・フォーマット的に、四つ打ち限定とかやるじゃないですか? 2ステップにしてみたりとか。今回は、日本語縛りくらいじゃないですかね、コンセプチュアルに考えていたこととしては。

――もともと大沢さんってコンセプトを考えるのがお好きな方ですよね?

大沢 そうですね。そういった意味では今回は、コンセプチュアルというものを取り払うというコンセプトだったかもしれませんね。

――なるほど。

大沢 ははは、皮肉な言い方してるなぁ(苦笑)。

 

耳に音として空間で聴こえている時に気持ちがよかったら正解なんです

――この14年の期間の間で、制作スタイルに変化はありましたか?

大沢 テクニカルな面でいうと、MONDO GROSSOでは、14年前ぐらいはまだサンプラーやドラム・マシンをメインに使って作っていたと思うんです。そこからDTM、デスク・トップ・ミュージックっていう言い方もおかしいんですけど、それに変わったっていうのが一番大きいですね。

――アプローチの方法がより自由になったということでしょうか?

大沢 そうですね。ランダムというか、アブストラクトなものから作るようになったかな。慣れてくると、何をやってもまとまっていっちゃうんですよ。だとすると、それに遠いとこから始めて旅をした方が、より豊かな作品が育まれるっていう理屈で。ものすごいむちゃくちゃなことからスタートしていくんですよ。

――とっかかりの入り口を広くされたということですね。

大沢 昔は恐くてできなかったんですよ。このコード進行だったらこうとか、方法論で考えていたんです。でも今は、コード進行がどうとか、メロディーがどうとか、それに対するカウンターがどうとかじゃなくて、音楽って目に見えなくて掴むこともできない一瞬で意味がなくなるものでしょ? だとしたら、耳に音として空間で聴こえている時に気持ちがよかったら正解なんです。自分で一番体現できる方法ってなんだろうなって考えた時に、アブストラクトな作り方が一番ピンときたっていう。

 

生まれ変わるのは作品だけじゃなくて気持ちとか考え方とか、アプローチの方法とか

――アルバム『何度でも新しく生まれる』は、2017年を代表するアルバムになることは間違い無いと思います。かなりの大作となりましたが、今回のクリエイティヴ作業を通じて、いろんな可能性を見つけられたのでは?

大沢 そうですね。14年間自分のソロがあって、いろんなことをやっていたつもりですけど、やっぱりMONDO GROSSOにきちんと向き合うと新たな発見がたくさんありましたね。これは終わったなって思っていた素材からたくさんのヒントを見つけたり、そんな発見ばかりでした。

――“何度でも新しく生まれる”ってことですね。

大沢 そうですね。手法やアプローチの仕方とか、たとえば技術などを会得していても、結局は、アルバムタイトルの通りなんですよ。新しく作らないとダメというか。たとえにならないかもしれないんですけど、うちの母親は80歳を超えているんですよ。で、この間父の七回忌に家に帰った時に、僕は普段は朝ごはん食べないんですけど、実家に帰ると食べるのが親孝行みたいな感じがあるでしょ。朝ごはん食べるのしんどいなって思いながら、うちの母親がね、バターをスティック的に持ってパンに塗ってたんですよ。普通はバターナイフで塗るでしょ? どうしたのって聞いたら、これが一番効率いいって言うんですよ。冗談とかでもなく、進化してるなって思ってしまったんですよ。

――日常生活でも、研ぎ澄ますことで新しい発見はたくさんあるわけですね。

大沢 伝統芸能でも、ずっとやり続けていくことで、発見があって、新しい技術を取り入れることってあると思うんですよ。そういうのと一緒だって思ってしまって。生まれ変わるのは作品だけじゃなくて気持ちとか考え方とか、アプローチの方法とか、そんな意識の持ち方って大事だなって学びましたね。そんなこだわりが音のよさや、メロディー、歌詞、リズムの構築にあらわれていると思いますよ。

 


 

NEW RELEASE

MONDO GROSSO
『何度でも新しく生まれる』

 

FLAC(88.2kHz/24bit)

通常(AAC-LC 320kbps)

ビデオ SD (AVC/H.264)

 

収録曲

01. TIME [Vocal : bird]
02. 春はトワに目覚める (Ver.2) [Vocal : UA]
03. ラビリンス (Album Mix) [Vocal : 満島ひかり]
04. 迷子のアストゥルナウタ [Vocal : INO hidefumi]
05. 惑星タントラ[Vocal : 齋藤飛鳥 ( 乃木坂46)]
06. SOLITARY [Vocal : 大和田慧]
07. ERASER [Vocal : 二神アンヌ]
08. SEE YOU AGAIN [Vocal : Kick a Show]
09. late night blue [Vocal : YUKA (moumoon)]
10. GOLD [Vocal : 下重かおり]
11. 応答せよ[Vocal : やくしまるえつこ]

 


 

MONDO GROSSO(モンド・グロッソ)

91 年に京都でバンド結成。大沢伸一はリーダー兼ベーシスト。
93 年にメジャー・デビュー、世界標準のアシッド・ジャズ・バンドとしてヨーロッパツアーも行う。 96 年にバンドは解散し、大沢伸一が楽曲によって様々なアーティストをフィーチャリングするソロ・プロジェクトとなる。以降もその時代時代の革新的な音楽性を求めながら、「LIFE feat. bird」を収録した『MG4』、「Everything Needs Love feat. BoA」を収録した『NEXT WAVE』などヒット・アルバムをリリースして2003 年に休止。
2017年、満島ひかりをボーカルに迎えたシングル「ラビリンス」を皮切りに14 年ぶりに再始動。

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MONDO GROSSO ディスコグラフィ

 

―ACID JAZZ期(1991 ~1995)

1991年に京都でパンド結成。大沢伸一はリーダー兼ベーシスト。1993年フォーライフレコードよりデビュー。MONDO GROSSOとはイタリア語で”大きな世界”,アシッドジャズムーブメントの日本代表格として海外でも高い評価を得る。ヨーロッパツアーも行う。豆知識:初代マネージャーはKYOTO JAZZ MASSIVEの沖野修也。

 

―渋谷系期(1996~1999)

バンドは解散し、大沢伸一が楽曲によって様々なアーティストをフィーチャーするコラボレーションユニットとなる。楽曲はR&Bに傾倒。プロデューサーとしてもUA, CHARA, birdなどに楽曲を提供し大ヒット。1998年にソニーミュージックアソシエイトレコーズに移籍。

 

―メジャーブレイク期(2000~2002)

ジャズ、ラテン、R&Bなど大沢サウンドの集大成ともいえるアルバム『MG4』が世界25ヶ国でリリースしヒットアルバムとなる。MONDO GROSSOとして初の日本語楽曲「LIFE feat.bird」がANAのCMソングとなりスマッシュヒット。

 

―ダンス期(2003~2005)

BoA、Kj (Dragon Ash), UAらをフィーチャーし、ハウスミュージックに傾倒したアルバム『NEXT WAVE』がヒット。

 

―(2006)

エイベックスに移籍 SHINICHI OSAWA名義の活動となり、MONDO GROSSOでの活動休止。

 

―(2016)

約13年振りにMONDO GROSSOとしての制作を始動。

 

―(2017)

約14年振りに待望の新作アルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。