ヨコオタロウ×岡部啓一(MONACA)スペシャル対談~『NieR Orchestral Arrangement Album』& 『SINoALICE -シノアリス- Original Soundtrack』同月配信リリース記念 ~

哀愁を帯びた独特な世界観や物語で人気を博している、スクウェア・エニックスのアクションRPG『NieR』(以下『ニーア』)シリーズと、おとぎ話の主人公たちが互いに滅ぼし合うというシナリオで人気のスマートフォン用ダークファンタジーRPG『SINoALICE -シノアリス-』。(以下『シノアリス』)

今回、『ニーア』シリーズの楽曲のオーケストラアルバムである『NieR Gestalt & Replicant Orchestral Arrangement Album』、『NieR:Automata Orchestral Arrangement Album』(共に9月12日配信)と、『シノアリス』のサウンドトラック『SINoALICE -シノアリス- Original Soundtrack』(9月19日配信)の同月配信リリースを記念して、両作品にてディレクションを手掛けたヨコオタロウ氏と、音楽を手掛けた岡部啓一氏(MONACA)の対談を実施。『ニーア』や『シノアリス』、そして戦友ともいえるふたりの関係や、クリエイティブへのこだわりなどを存分に語り合っていただきました。

インタビュー:斉藤健二(2083), 永芳英敬

 


 


インタビューの様子(イラスト:牧野良幸)

 

■念願だったオーケストラコンサート

――本日はよろしくお願いいたします。まずは『ニーア』のオーケストラアルバムの制作や、オーケストラコンサートの開催のきっかけを教えていただいてよろしいですか。

岡部 スクエニの音楽出版さんには、「いつか、オーケストラをやりたいです」ということを、ふんわりとずっと伝え続けていたんです。ただいろんな意味で、なかなか難しいだろうなと思っていたんですよ……。

――オーケストラはお金もかかりますからね。

岡部 そうですね。あと、オーケストラのCDを制作するという意味では、なかなかこのご時世では簡単にCDを発売できないだろうなあと思っていたので、「いつか叶うといいね」的な、夢のお話のような感覚だったんです。でもおかげさまで、『NieR:Automata』(以下『オートマタ』)のヒットがあって、オリジナル・サウンドトラックもたくさんの方に聴いていただけて、オーケストラアレンジを聴いてみたいというファンの皆さんからのお声もあって、ついに具体的なお話をいただきました。満を持して!

ヨコオ 金に目のくらんだスクウェア・エニックスと、さらなる名誉を手に入れたい岡部啓一の利害が合致した結果、闇のコンサートが開かれることになったと(笑)。

岡部 闇じゃないよ!(笑) 光! 光に満ちています!

――(笑)。岡部さんにとって、オーケストラは念願だったのですね。

岡部 そうですね。『ニーア』は『NieR Replicant/Gestalt』(以下『レプリカント』)の時にもコンサートをやらせていただいていたんですよ。帆足(帆足圭吾氏。MONACA所属)のピアノとエミ・エヴァンスさんのボーカルで、対バンのコンサート(※2011年に開催された「KEYS OF GAME」)で演奏したことがあって。そういうコンサートもすごく楽しかったんですけど、本当に夢物語的な感じで「いつかオーケストラで『ニーア』のコンサートができるといいね」とずっと言っていて。それがついに実現します。

――ついに、という感じですよね。『ニーア』のオーケストラコンサートチケットは、無事完売したそうですね。

岡部 はい、おかげさまで。僕のホクホクな顔を、ぎりぎりと歯ぎしりをしながらヨコオさんが見ている感じですね(笑)。

■『ニーア』オーケストラアレンジの方向性

――岡部さんは作曲者としてアレンジを監修された立場だと思うのですが、『ニーア』をオーケストラにアレンジするうえで、大切にしたことはありますか。

岡部 僕の個人的な解釈なんですけど、最近映画の劇伴やハリウッドの音楽って、メロディがはっきりあるというよりは、けっこう合理性高く、編集しやすい曲になっている気がします。展開が多い曲って、やっぱり編集しづらくなっちゃうんですよ。切りづらかったりとか。そういうものではない、比較的編集しやすい作りの方が今は主流なんだろうなと思っています。

それに対して『ニーア』の曲は、メロディが朗々と流れていくような感じなので、切りづらいんですよね。ある程度、切っていい場所が限られてしまうというか。なので編集もしづらい部分があるんですけど、ある程度やりたいようにやらせてもらっている部分が大きいんです。その甲斐あって、メロディがしっかり立っている曲というか、メロディありきみたいな感じで作らせてもらっているんです。メロディをはっきりと皆さんの印象に残せることができれば、どんな形でアレンジしても、「あっ、この曲だ」という認識がしやすくなると思うんですよね。

今回のオーケストラアルバムのアレンジは、基本的にはアレンジャーさんに委ねている部分が大きいんです。多少はメロディを崩す部分があってもいいんですけど、「どこかに原曲のままのメロディはあってほしいです」というオーダーはお伝えさせていただきましたね。僕からお願いしたのはそれくらいで、あとは基本的にはアレンジャーさんに自由にやっていただきました。

――なるほど。あと『ニーア』の音楽といえば、エミ・エヴァンスさんや中川奈美さんらのボーカルが印象深いのですが、今回は、原曲のボーカルパートをコーラス隊が歌っていたり、楽器で演奏している形になっていますよね。今回はオーケストラを前面に出してアルバムを作ろうという形だったのでしょうか。

岡部 そうですね。ボーカルを入れるとなると、結果的に全部入れたくなってしまって、せっかくのオーケストラアルバムという形なのに、コンセプトがちょっとブレてしまう感じがしたんです。その点はヨコオさんにも最初に言って、「だったらボーカルはないほうがいいんじゃないか」という話になりました。

ヨコオ ボーカルを入れるなら、半分くらい歌わないと変だよねって話をしましたね。

岡部 そうそう。もちろん歌のバックのオーケストラというのもそれはそれで素敵なんですけど、やっぱり歌があると、歌が主役で、歌を盛り上げるためのバックにオーケストラがいる、みたいな形になるんですよ。『ニーア』の本編自体がそういう作りになっているので、今回はせっかくなのでオーケストラのよさを前面に出そうと。なので、思いきってボーカルはなしという形にしました。原曲でエミさんが歌っていたボーカルパートを、コーラス隊のみなさんが歌ったりという変化もおもしろいので、そういう点も含めて楽しんでもらいたいです。

■オーケストラアルバムの選曲について

――オーケストラアルバムの選曲は、どのように決められたのでしょうか。ヨコオさんともご相談されたのですか?

岡部 そうですね、少し。ただ『レプリカント』は曲が少ないので、大体「これを入れたいね」という曲を選んでいくと、そうなるみたいな感じもあって。いっぱいある曲の中からどれを外すか大変、というのはあまりなかったですね。「たぶん、ファンのみなさんもこれを聴きたいだろうなあ」というのを並べていくとこうなるかな、みたいな。『オートマタ』の方は、どれを入れようか少し悩んだのですが、やっぱりオーケストラで聴きたい曲として考えたらこの曲かなというのは、大体同じでした。

――ヨコオさんからはなにかオーダーを出されたのでしょうか。

ヨコオ 『ニーア』のコンサートって、これまで4回やったんですよ。最初に、無料でご招待した、モーションキャプチャースタジオでやったコンサートがあって。次に「KEYS OF GAME」というピアノの対バンコンサートがあって。そのあとに「滅ビノシロ 再生ノクロ」があって、朗読劇がはさまった「人形達ノ記憶」があったんですけど。『ニーア』の曲って、ゲーム用に派手に作っているので、小さな編成だとやりづらい部分があって。いままでコンサートの曲を選ぶ時に、すぐ岡部さんは派手な曲を「やりづらいから」と言って外してたんですけど、僕が「これはゲームで大事だから入れなきゃだめだよ」と言って岡部さんがしぶしぶそれを入れる……みたいなことをけっこう何回かやっていたんですよ。でも今回は、オーケストラで大編成ということもあって、そのあたりは全然心配せずに、派手な曲は派手なまま入っています。

岡部 そうですね。というか、僕も派手な曲をやりたくないわけではなかったんですけど、今までにやったコンサートって、一番大きなものでもカルテットとピアノとアコースティックギターとボーカルという感じだったので、ゲームのボス曲みたいな、ちょっとオーケストラっぽいスケール感のある曲はなかなか再現性がなかったんですよ。それをしっとりしたアレンジにしてもいいんですけど、曲のイメージ的にも、あとはヨコオさん的にも、「いや、この曲の役割はそうじゃない。ドーンと来る感じが欲しい」となると思ったので外していたんですね。でも今回は、むしろそこをすごく再現できるので、今までなかなかできなかった曲も、けっこうすんなり入れられました。今回はヨコオさんからもあまりリクエストがなかったですね。

ヨコオ うん。あとは、これまでのコンサートがわりと僕のほうで、コンセプトはこうで演出はこうで、こういう朗読が入って……と強く牽引していたんですけど、今回オーケストラになって演奏が豪華になった瞬間、岡部さんがすごくやる気を出して。

岡部 やる気は今までもあったけど(笑)。

ヨコオ じゃあ岡部さんが好きにやれたらいいんじゃないかなと思って、今回はあんまり内容については口を出していないですね。

岡部 あと、今回の会場はすごく大きなホールで、今までは一番大きなところでも1,000人弱ほどのホールだったので、お客さんとの距離もけっこう近かったんですよね。小編成で、しっとりだけど奏者さんの息づかいとか楽器のニュアンスまで聴こえるような、おとなしめのアレンジを意識していたんですけど。それがヨコオさん的にはやる気なく見えたのかな(笑)。

ヨコオ 1,000人のお客様も4,000人のお客様も、同じお客様ですからね!

■レコーディングで大変だったこと

――オーケストラのレコーディングの際に印象的だったことはありましたか。

岡部 普段僕が担当しているゲームや映像作品の曲は、基本的には弦楽器や金管楽器といったセクションごとに別で録音するケースが多いんですけど、今回は全員で、せーのドンでいっしょに録音したんですよ。コーラスだけは別なんですけど。

セクションごとの録音は、まず弦楽器を録って、金管楽器を録って……と、録音するたびに「ああ、できあがってきた」って少しずつ積み上がっていく感じがおもしろいんですけど、オーケストラのレコーディングははじめからドン!と出来上がっている音楽が聴こえるので、それがすごく新鮮で、作っている僕でもハッとする瞬間でした。すごくいい側面もあるんですけど、難しさもあって。全員が一緒に演奏するからこその大変さみたいなものも感じましたね。ただ、やはり全員が一曲をその瞬間で作り上げている感じがすごく素敵で音楽的な感じがしましたね。

――ヨコオさんは、オーケストラのアレンジをお聴きになっていかがでしたか。

ヨコオ 豪華だなと。あとは、ちょっと説明しづらいですけど、ディズニーの音楽みたいになったなという感想でしたね。

岡部 もともとの曲自体が、ちょっとクラシック寄りな曲と、ちょっとジャズっぽい和声の曲があるんですよ。ディズニーの音楽って、ちょっとジャズっぽい和声をクラシック並みの大きな編成でリッチに聴かせる、みたいな曲がけっこう多くて。たぶんヨコオさんが言っているのは、そういうちょっとジャズ寄りな和声だけどクラシックみたいな編成で聴かせる曲、というのでそういう印象になっているのかなという気がします。

よくゲームの音楽を作っている時にあるのが、打ち込みのデモの段階でチェックをしてもらって最終的に生音で完成した時に、打ち込みの方がトガった感じの音のことが多いんですよ。それを生音に差し替えると、特に大きな編成のものって、ちょっと音場感が遠くなったりで、柔らかくて厚みのあるリッチなものになることがあって。ゲームの中に入れる分にはリッチだけど、打ち込みの音のほうが粒立ちがあったり、アタック感も強くて、「そっちの方がよかったね」みたいになることがたまにあるんです。

今回のオーケストラアルバムは、最初にヨコオさんに聴いてもらう前に、僕にしては珍しく、録音の段階から「すごくいいよ!」と言っていたんですよね。で、アルバムができあがっていざヨコオさんに聴いてもらったら、「すごくいいね、豪華だね」と言ってくれて。僕が「だよね! これをゲームに入れたかったよね」と言ったら、「いや、これはこれでいいけど、ゲームに入れるのは原曲のほうがアタック感も強くて、音場も近めで、その分激しさみたいなものが出てるから、原曲のほうが合うんじゃない」みたいに言われて。ああ、やっぱりそうなんだなと。ディレクター側と音楽制作側の溝みたいなものを若干感じました(笑)。

ヨコオ まあ、だいたいテレビで聴く音ですからね。上と下がなくて、真ん中からドカンと聴こえてくるようなものが成立していないとまずくて。そういう意味では、ゲーム中では味付けの濃い音の方が、はっきりゲームで聴こえていいなと思いますね。

岡部 たしかにそうですね。

■オーケストラで生まれ変わった『ニーア』サウンド

――ところで、『オートマタ』のほうは原曲がややオーケストラ寄りのサウンドだった部分もあったと思うのですが、『レプリカント』の原曲はわりとファンタジックで、やや民族音楽的な要素も入っていた気がするんです。『レプリカント』の曲をオーケストラにするうえで心掛けたところはありますか。

岡部 そうですね……どちらかというと、『オートマタ』よりも『レプリカント』のほうが、メロディがはっきりしている曲が多いんですよね。ある意味ちょっと歌ものっぽいというか。なので、音色として楽器が民族楽器からオーケストラ楽器に変わってそういう部分の個性はなくなったとしても、メロディ自体ははっきりしているので、たぶん原曲の中核になる部分はちゃんと残るだろうなと思ったので、その辺は特に問題ないかなと思っています。

『レプリカント』の「光ノ風吹ク丘」というフィールド曲があるんですけど、今回それをマリアム・アボンナサーさんにアレンジしていただきまして。原曲はちょっとケルト音楽っぽい感じなんですけど、そういうテイストは少し薄くなっていますね。ただ、マリアムさんって光田さん(光田康典氏)のプロキオン・スタジオ所属の方なんですけど、光田さんに鍛え上げられている感じがすごく出ているんです。「あ、プロキオンさんのサウンドっぽくなってる!」と思って。仕上がりが、すごく大作のゲームのフィールド曲みたいになっていて(笑)。民族音楽的な部分は薄くなっていますけど、それと引き換えにすごくいいものが入ってきたので曲が非常にいい進化をしていますよ。

ヨコオ 岡部さんは、『レプリカント』の時からそうだったんですけど、短い曲を作ることが多いんですよ(笑)。だから印象に残るとも言うのですが、飽きるのも早くて、「短いから長くして」ってよく言うんですよね。でも今回のオーケストラは、曲の前後にアレンジャーさんがいっぱいおかずを足してくれて、曲が長くなっているからすごくいいなって(笑)。「長い曲はやっぱり飽きなくていいなぁ」と思いながら聴きました。

岡部 たしかに今回のオーケストラアレンジでは、1曲1曲の中に、構成や流れをちゃんと作っていただいていて、1曲1曲がドラマチックになっています。そういう意味では、長尺であるがゆえの良さみたいなものを感じました。

ヨコオ あと、曲のスタートの時点で、どの曲か分からないものがいくつかあって。アレンジの部分からスタートするんですよ。原曲は何なのかを聴きながら探すことが4回くらいありました。それはそれで楽しかったですね。途中でわかるんですよ、「ああ、この曲か!」って。

岡部 そうですね。原曲とほぼ同じような感じのアレンジと、原曲をあえて崩しているアレンジがあって。聴いてすぐ「あっ、この曲きた!」っていう、わかっている部分が最初からドーンと来る嬉しさと、最初に「あれ? 何の曲だろう?」と思って探りながら聴いて、「あっ、知ってるフレーズが出てきた!」とハッとする面白さの両方があると思うんですよね。そのバランスがすごくいい感じになっているかなと思って。ヨコオさんがおっしゃっていることもすごくよく分かるし、ある意味狙い通りです。

ヨコオ 『ニーア』の『レプリカント』も『オートマタ』もそうだったんですけど、ゲーム中では曲がレイヤーに分かれているんです。で、ゲームを作っていた時には、それを切り替えるタイミングや演出を全部僕が設定していたんですよ。その時に死ぬほど……半年ぐらいですかね、ずっと同じ曲を聴き続けなければいけなかったので、ゲームが完成すると二度と聴かないんですよ。うんざりしちゃって(笑)。でもこのオーケストラアルバムで、ようやく曲が聴けるようになりました。

――おお、そうなんですね。

ヨコオ これなら聴いてもいいかなって。

岡部 曲が生まれ変わった感があるよね。特に『レプリカント』の時は、開発のすごく初期の段階から入れてもらっていた曲も何曲かあって、それは「聴くだけでうんざり」みたいなことをヨコオさんからよく言われていました。

ヨコオ 「もう聴きたくない!」とかね。ループは短いし(笑)。

岡部 (笑)。『レプリカント』の時は、最初のほうに作った曲と最後のほうに作った曲とで、2年以上間が空いていましたからね。

■目指すはワールドツアー!?

ヨコオ でも岡部さん、これは僕からの質問なんですけど。岡部さんさあ、うだつの上がらなかったころにさ、こうやってインタビューをしていただけるような身分でもなく、「ゲームでチヤホヤされるといいな」とか「コンサートやりたいな」とか思っていたじゃないですか。で、いざゲームが売れてコンサートが開催できて、チヤホヤされたら今度はオーケストラやりたいとか、人間の欲望にはキリがないなと思いながら見てるんだけど、これが終わったら岡部さんは次は何をやりたいの? 何を目指しているの?

岡部 オーケストラと違うことというよりかは、今回横浜でコンサートをやらせてもらって……

ヨコオ ワールドツアー? 岡部啓一ワールドツアー!? 大きく出たね~~~。

(一同爆笑)

岡部 岡部啓一じゃなくて『ニーア』!『ニーア』だから!(笑) でも去年、『人形達ノ記憶』も台湾で2公演開催させていただいたんですけど、台湾ではすごく盛り上がっていただいて。やっぱり反応が日本と違うというか、国民性が出るものなんだなぁと思いましたね。日本のファンのみなさんは、すごく食い入るように聴いてくださっていた感じがします。『人形達ノ記憶』の前の『滅ビノシロ 再生ノクロ』の時は六本木EXシアターで開催したんですけど、びっくりするくらい静かで。1,000人近くの人がいるのに、まったく音がしなくて! すっっっごく緊張する感じだったんですよね。それぐらい集中して聴いてくださっていて。

ヨコオ 「聴くぞ!」っていう感じでね。

岡部 そうそう。台湾の時は「キャー!」みたいな感じですごく盛り上がっていただいて。

――ロックコンサートみたいですね。

岡部 そうなんですよ。だいぶ空気感が違うなというところも含めて、反応がおもしろかったです。今はネットやSNSなどで応援のメッセージをいただいたりもするんですけど、「世界中の人が聴いてくれているんだ」ということをリアルに感じられる機会はなかなかないので、嬉しかったですね。あと、今年の春もボストンの『PAXEAST 2018』というゲームのイベントで、ファンミーティング的なものをさせていただいたんですけど、ああ、やっぱり本当にみなさんが聴いてくださっているんだな、というリアリティをすごく感じられたんです。もしオーケストラコンサートを海外で開催して、海外のみなさんに聴いてもらえるようなことが出来るのなら、それはすごく嬉しいご褒美だなあと思いますね。

ヨコオ 岡部さんさあ、ちょっとゲームが当たって音楽もヒットして、オーケストラコンサートができるような立場になって、次はって聞かれてワールドツアーやりたいですね、っていうミュージシャンがいるとしたら、×□△(ピー音)だなって(笑)。傲慢極まりないよね。

岡部 いや、思うけど(笑)。多くの人に聴いていただいてるから。

――『オートマタ』は、世界中で大ヒットしましたからね。売上も300万本を超えて。

ヨコオ まぐれ当たりは恐ろしいですね。

岡部 でも今の時代、新作のタイトルで……『オートマタ』は続編ではあるんですけど、何作も続いているようなビッグタイトル以外でヒットが出て、サウンドにもこうやって注目していただけて、コンサートを開催できて、いろんな音楽商品を発売できる流れ自体が、なかなかないことだなあと思っていまして。そんな中で、こういう風にオーケストラコンサートを開催できる事は本当にありがたいお話だと思うんです。それは僕たちだけじゃなくて、たぶん、ゲーム業界のサウンドの若手の人にもちょっと夢がある話かなと思うんですよね。なのでもし『ニーア』のワールドツアーが実現したら、夢を与えられるかなと思って。

――サウンドの賞も受賞されていましたからね。

岡部 そうですね。でも、僕も若いころはどちらかというと、活躍している人たちを指をくわえて見ていた側だったんです。なので、がんばって続けていけば、いろんなことがあるんだなあと思って。そういう風に思ってくれる若い人がもしいれば、嬉しいですね。


(左から)ヨコオタロウ氏、岡部啓一氏

■ハイレゾ音源の良さ

――ところで、『ニーア』のオーケストラアルバムについてはハイレゾ音源も配信されるそうですね。やはり、ハイレゾでオーケストラを聴くとより良い音で楽しめますか。

岡部 そうですね。今回はハイレゾ前提で録音しているのですが、個人的にハイレゾって、音の“隙間”のところにすごく意味があるなぁと思っていて。残響音だったり、空間を感じられる度合いみたいなものが、ハイレゾは強いなぁと思います。今回はホールでレコーディングして、隙間もちゃんとあるようなアレンジも含めて、すごくハイレゾ向きな音源になっています。今回のオーケストラアルバムは、今まで僕が関わらせていただいたものの中では、ハイレゾにする意味が一番ある音源だなと思っています。ですので、是非ハイレゾで聴ける方は聴いていただけたら、ハイレゾの良さもそうですし、音楽自体の良さもより感じてもらえるかなと思います。

――よりいっそう、オーケストラによる『ニーア』サウンドの世界に浸れそうですね。

岡部 そうですね。没入感をすごく感じていただけると思います。楽器の生々しさとかも全然違うと思うので。

ヨコオ でも、車で聴いててもよかったよ。車のスピーカーで流していても、ちゃんとそれなりに聴けるなと。なんかオーケストラってすごく細くなったりして、ほとんど鳴ってないような時があってイヤかなと思ったんですけど、そんなに苦じゃなかったなと。

岡部 たしかに。クラシックとか、「ほんとに間に音鳴ってる?」みたいな時があるもんね。それは今回あんまりないからね。

ヨコオ 車で聴いていただいても大丈夫です。

■『SINoALICE -シノアリス-』のサウンドについて

――ありがとうございます。では次に『SINoALICE -シノアリス-』(以下『シノアリス』)のことについてお聞きします。『シノアリス』もお2人のコンビで作られていますけれども、『シノアリス』の音楽制作の際に念頭に置いた点はございますか。『ニーア』にはなかったエレキギターのサウンドが入っていたり、という違いも含めてお聞きできればと思います。

岡部 そうですね……エレキギターの音が入っているのは、“現実篇”というちょっと別のモノガタリなんです。もともとのローンチの時に出ていた曲との差別化を図るという意味合いで、ちょっと近代的なイメージでという意味も含めて、そういう方向性でというオーダーがヨコオさんからありました。『シノアリス』の曲はもともとファンタジー寄りというか、むしろ『オートマタ』より全然幻想的なイメージだったんですけど、現実篇が出た時に、現代的にというか、楽器構成もちょっとバンドっぽい感じにして作ったんですよ。最初のローンチの時に乗っていた音楽と現実篇とで分かれるイメージがあるんですね。二極化している感じのコンセプトで。

――差別化を図っているわけですね。

岡部 そうですね。別のもの、という感じで作っています。

ヨコオ 『シノアリス』はソーシャルゲームなので曲の全体設計ができないんですよ。もう、そうなったら変化しつづけるプレゼンテーションしかないなと思って。岡部さんとは『レプリカント』から『ドラッグ オン ドラグーン3』、『オートマタ』と一緒にやってるんですけど、『シノアリス』では「こういう感じでやろう」というのがなくて、“変わっていく”というのが一番大きなコンセプトとしてあります。それは次が何なのかはぜんぜん決めてないですけど、サービスが続くの限り違う感じのものをやりたいと思っていますね。そしてまだ『シノアリス』のゲーム本編はまだ続くので、曲のジャンルがだんだんなくなっていくんじゃないですか。そのうち、童謡とかが入る可能性もあるなと(笑)。

岡部 たしかに。どんどんハードルが上がりそう(笑)。

ヨコオ ただ『シノアリス』の曲は、岡部さんにお願いして、『ニーア』に比べてループを倍の長さにしてもらっているんですよ。だから飽きづらいです。みなさんにもぜひ、倍の長さの岡部さんの魅力を堪能してほしいなと思いますね。

岡部 ただ、長い曲はけっこう限られてますけどね。最初のころに作った、PVでも使ってもらっている……テーマ曲ではないんですけど、結構“『シノアリス』といえば”という形で僕が最初に作った曲がすごく長いんですよね。『ニーア』とかは1分半ぐらいのループなのに対して、「5分で作れ」みたいなオーダーが来て。「長っ!」みたいな(笑)。

――だいぶ長いですね(笑)。

岡部 そうなんですよ。最初、けっこう苦労して作りましたね。

ヨコオ 『シノアリス』は、GvG(※)という、30分ぐらい戦闘をやる人はやるってタイプのゲームだったので、真面目に聴いてくださるお客様に負荷にならないように、曲も変化がある感じにしたいなと思って。ゲーム内でもいろいろ調整はしているのですが、曲自体もあんまり飽きないような長い感じになればいいなというお願いを岡部さんにしました。ただ、油断するとすぐ短くなるんだけど(笑)。

※GvG……Guild vs Guild(ギルド・バーサス・ギルド)。プレイヤーの集団同士が対戦するシステムのこと。

岡部 『ニーア』からは曲をある程度分けた状態で実装しているので、普通のリスニングの……ステレオの状態で作る曲とは違って、たとえばリズムを抜いたりできないんですよね、曲の構成の中で。リズムが途中で“バン”と入ってくるタイミングの時に、リズムがないところだと、タイミングが合わなかったりするので。

ヨコオ リズムだけになったりするから。

岡部 そうなんですよ。ってなると、普通の5分の曲を作るうえで、例えばリズムをなくしたりとかメロディのないところを作ったりとかできるんですけど、別で実装するものだとそれができないので、どのパートも常に音が鳴ってないといけない、という状態になるんですよ。それで5分曲を作るというのがすごくキツくて。ちょっとメドレーみたいな曲になったんです(笑)。ひたすら変化していく、みたいな。メロディも変わっていくみたいなことになってて。これ、3曲分を1曲にまとめたみたいなことになってるなぁって(笑)。

ヨコオ でも、それが飽きなくていいんだけどね。

岡部 そうですね。なので、ちょっと制作カロリーの高い作りになっているなとは思いますね。でも、ヨコオさんがそういう風に言ってくれたからよかったなあ。

――ゲームの配信開始から1年3カ月ほどを経て、満を持して『シノアリス』のサントラが発売になりますが、おすすめな楽曲や、これはぜひ聴いていただきたいという聴きどころはありますか。

岡部 そうですね……やっぱり、先ほども言ったテーマ的な長い曲というのは、僕の中では『シノアリス』といえばこの曲だなというものなので、それはぜひ聴いていただきたいなと思いますね。あと正直、『シノアリス』はまさかこんなにヒットするとは思っていなくて。サービスが続いていって、音楽もどんどん作っていくとは思っていなかったんですよ。最初のころは曲もそんなに物量がなくて、「これはサントラが出せないんじゃないかな」とちょっと思っていたんですよね。

ヨコオ そうそう。CDにならないかなと思っていたんですよ。もしすぐサービスが閉じてしまった場合、お客さんがいないってことだから。そうなるとサントラ化はむずかしいので、その時には同人誌とかで出そうかなとか、そういうことを僕は妄想していたんですけど、普通に発売できてよかったです。

岡部 いやあ、本当にそうですね。サントラで全曲通して聴いていただくと、また違った印象になるかなと思うので、全体を楽しんでいただけると嬉しいですね。最初のころの曲と、現実篇の曲の違いとかも明確に感じてもらえるかなと思うので、そういう聴き方をしてもらえたらと思います。

■ヨコオ氏と岡部氏がつくるゲームサウンド

――ありがとうございます。今日はせっかくヨコオさんと岡部さんのお二人がいらっしゃるので、ディレクターのヨコオさんと、作曲家の岡部さんそれぞれから見た、ゲームの音楽の作りかたの部分をぜひお聞きしてみたいと思っているんです。岡部さんは、ヨコオさんが手がけるゲームの音楽を多くご担当されていますが、どのように制作を進められているのでしょうか。

岡部 そうですね……ヨコオさんとは何回かご一緒しているので、曲のオーダーのしかたはもうなんとなく慣れているところはありますね。もちろんオーダーの内容は毎回違うんですけど、多分ヨコオさんも、「岡部ならこういう感じで発注すれば、望むものが来るかな」というやり方が出来上がっている感じはしますね。

音楽制作の際には、お互いに「はじめまして」という状況でやるケースも多いのですが、そういう時には「この人がこう言っている時は、どういうことを実際に望んでいるのか」ということを汲み取るのが大変だったりするんですよね。でもヨコオさんは、「こう言ってる時は、たぶんこういうことだろうな」というのがある程度わかるんです。あとは、既存の曲を渡してきて「この曲のこういう要素が欲しい」みたいなことを言ってくれて、オーダーがすごく具体的で明確なんですよ。ヨコオさんとやる時は、音楽制作だけに集中できる感じがしますね。

――なるほど、非常に制作がやりやすいのですね。そういえば、おふたりは同じ大学のご出身なんですよね?

ヨコオ はい。僕が先輩で、岡部さんが1年後輩で。なんですけど、年は岡部さんのほうが1つ上で。

岡部 そうなんです。で、ヨコオさんは1年海外に留学していたので、会社では同期になるという、ちょっとよく分からない感じで(笑)。

ヨコオ 話とかは軽くしていたけど、仕事をやったのは、『レプリカント』の時がはじめてだよね。

岡部 がっつりやったのは『レプリカント』の時ですね。それ以前にも、お手伝い程度でちょっと参加したり、みたいなことはあったんですけどね。

ヨコオ なんか、岡部さんは『レプリカント』でクリエイター人生を閉じるつもりでいっぱいだったんですよ。

岡部 (笑)。そうですね。当時は、「世の中にすごく素敵な音楽はいっぱいあるし、若手にも素敵な音楽を作る人がいっぱいいるから、もう僕じゃなくてもいいかな」みたいなことを思っていて。年齢的にも会社を仕切る側に回った方がいいのかな的な思いがあったので、『レプリカント』の制作当時は、がっつり手を動かすのは今回が最後かなと思って実はやっていたんですよね。

ヨコオ よかったね、人生の後半のほうでチヤホヤされて(笑)。

岡部 本当にそうですね。よかったです。いい冥土の土産ができました(笑)。

ヨコオ でも、本当にいい思い出になったよね。コンサートもできて。作った曲をみんなに聴いていただけて。

岡部 もう本当に、思い残すことはない感じ。

ヨコオ 楽しいイベントでしたね。さよなら岡部祭り!

岡部 やめて、終わらせるのは(笑)。まだまだやるから。

――まだまだお願いしたいです(笑)。ところで、ヨコオさんの作品には『レプリカント』、『ドラッグ オン ドラグーン3』、『オートマタ』、『シノアリス』と続けて岡部さんが音楽に関わられていますが、ヨコオさんにとっては、岡部さんの作る音楽が必要不可欠という形なのでしょうか。

ヨコオ 文句が言いやすいんですよ、すごく。

岡部 たぶん作っている曲自体がどうこう、というのはないんだろうなと思っていて。出した曲に対して、「いやこうじゃなくて」と言う時も、ある程度関係性ができているというところが大きいかなと思いますね。

ヨコオ 発注してきちんと曲が出てきて、「こうやってほしい」みたいなお願いをして、完成するまでのステップが早いんです。でも、それをやりながら薄々、岡部さんが作りたい音楽になっていないんじゃないのかなぁって思いながら僕は発注していますね。

岡部 ヨコオさんが修正要望を出す時は、“なぜ修正するか”ということを明確に理由を言うんですね。音楽として良くないからではなくて、「演出としてこういう要素がこの曲には必要だけど、今もらった曲には、それがないから役割を果たしていない」みたいなことを明確に言われるんですよ。それを言われたら、もう音楽として良い悪いじゃないところですし、「それはごもっともだな」と思うので、奴隷のように「分かりました」と言って修正する感じですね(笑)。

逆に言うと、そういうところ以外の演出を壊さない要素に関しては、まあまあ好きなことをやっても許容してくれる感じはあるんですよね。でも、「絶対にここはこれが必要だ」という部分は本当に譲れないところなんだなあと思って。そこを拒んでもいいことは何もないし、作品自体にもデメリットにしかならないと思うので、そこはできるだけ要望に応えたいと思ってやっていますね。

ヨコオ けっこう僕からは、「リズムを入れてくれ」って言うよね。ドン、ドンって言ってるのを、「倍の速度でリズムを増やしてほしい」みたいな感じで。バトルの時のスピード感みたいなものを、ゲームを作っている側の僕らは想像できても、岡部さんはそれを見ずにやっているので。岡部さんからちょっとスローな感じの曲が来た時に、「もっと早くしてほしい」とか。そういうことをお願いするのは結構多いですね。

■演出としての音楽

――ヨコオさんは相当音楽の部分にこだわられているというか、“演出としてサウンドを効果的に使う”ということを、すごく重要視されている印象が以前からあったんです。

ヨコオ そうですね。やっぱり、音楽は一番届くものだと思っていて。演出的にも、いち早くユーザーさんの感情に訴えかけるなと思っているんです。ただ、それをゲームでコントロールするのはすごく難易度が高くて、それをちゃんとやらないといけないなっていう気持ちが『レプリカント』のころからあって。そのために曲がシームレスに変化しないといけないから、レイヤーで分けてほしいとかいろんな無茶振りをするわけですけど、そういうことを言えるのは岡部さんぐらいだなと思って(笑)。他のコンポーザーさんには申し訳なくて言えない(笑)。

岡部 いやいや、俺でも申し訳なく思ってよ(笑)。

――ヨコオさんの音楽的な演出を実現するための無茶振りができるのが、岡部さんなのですね

ヨコオ そうですね。

岡部 たぶん、どのコンポーザーさんでも聞いてくれるとは思いますけどね。ただ、ヨコオさんが言っていることの意味を理解するまでに、ちょっとなかなか納得いかないみたいな気持ちになる時はあるかもしれないです。

ヨコオ やっぱりゲームの音楽って、ゲームの中に入って合わさって初めてひとつのものになるので、音楽だけ聴くと薄くなったりする時がなくはないんですよね。言ってしまえば、ちゃんとした料理を作ったけど、シンプルに醤油だけにしてくれ、とか。ただ、そういうシンプルなものをゲームの中に入れることで意味が成されることがまあまああるんですよ。そこは、普通の一般的な音楽だけを聴くというメディアの扱い方とはちょっと違うなと思いながら聴いていますね。そういう音楽が、サントラになって、オーケストラとか、そういう形になって聴くというのも新鮮な体験だなと思います。

岡部 僕はヨコオさんとがっつりやり始めたのが、ある程度歳をとって、いろんな仕事をやったうえでだったんですよ。「ディレクターがこう言う時は、こういうことなんだろうな」といった、ある程度自分の譲れるところみたいなものがあったタイミングからやり出したのも大きいかもしれないですね。自分も若いころだったら、「違う!」みたいなことを言っていたかもしれないです。

ヨコオ むしろ、岡部さんはやりたくない曲とかあるの? 「これはちょっと俺、プライド的にないなあ」とか。

岡部 若いころには、あんまり好きじゃないジャンルとかもけっこうあったりして、最初はやっぱり、「全然良さが分からない」みたいな気持ちなんですけど、「プロジェクトでやるからには、ある程度向き合おう」と思って、今まではただの情報みたいな感じで聴いていた曲を、ちゃんと聴こうと思ったんです。ある程度の量をちゃんと向き合って聴くと、やっぱりちょっとずつ分かってくるというか、「たぶんこういうジャンルが好きな人は、ここのかっこよさが好きなんだろうなあ」というのがある程度わかってくるんです。そうすると、今まで全然興味がなかった部分にも新しい興味がわいて、それで自分のできることも、音楽の興味への幅も広がったという。そういう経緯が若い時にけっこうあったんですよ。「これ、たぶん仕事で音楽をやってなかったら、ずっと俺はこのジャンルの良さはわからなかっただろうなぁ」と思いましたね。それを感じられるようになってからは、最初は「えっ」と思ったとしても、「ああ、また自分の糧になるかもしれない」というか、「新しい音楽の面白さに気づけるかも」っていう期待を込めて向き合う形でやっているので、あんまり「こういうのやりたくないな」というのは、ある程度の歳になってからは全然ないですね。

ヨコオ 短く言うと、お金をもらえばなんでもやると。

岡部 違うから(笑)。ぜんぜん違うから!

――今後、おふたりで作ってみたいゲームや作品の構想などはありますか。

ヨコオ ぜんぜんないです(笑)。クリエイティブとして内面から出てきてやることはなくて、何らかのお仕事としていただいて、それを成立させる時にわがままを言いやすいから岡部さんにお願いすることはあるかなと。

岡部 そうですね。僕も基本的には、自分の中から何かが湧き出てくるというよりかは、ヨコオさんが生み出す世界観や舞台設定やキャラ設定といったものがあって、「こういう音楽がほしい」「こういう要素を入れたい」というオーダーがあったら、そういうものの空いている部分を僕のカラーで埋めていく、みたいな感じですね。

ヨコオ 岡部さんは、『レプリカント』も『オートマタ』もヒットしたので、それっぽい曲をリクエストしていただくということが多くなったんですよね。でもそれだけをやっていったら縮小してしまうし、そもそも僕は飽きているのでイヤだっていう話を、『オートマタ』の開発が始まる時に岡部さんにさんざん言ったんですよね。だから『オートマタ』は『レプリカント』とは違う感じの曲調にしようと。短く言うと豪華にしようと。

岡部 そうだね。スケール感みたいなものとかね。

ヨコオ そうそう。

岡部 世界観としては、『レプリカント』も結果的には最後にちょっとSFっぽい要素が入ってくるんですけど、けっこう前半はザ・ファンタジーみたいな感じだったんですよね。でも『オートマタ』は最初からSFっぽい方向性なので、スケール感が大きい音楽にしよう、というのを最初から相談しましたね。

ヨコオ うん。だからそういう意味では、もし何か次にやるとしても、違うことをお願いするかなと。ただ、『シノアリス』はちょっと特殊で、いつ終わるかわからないから、ずっと変化するためにいろんなことをやっていく感じですね。

――ありがとうございます。せっかくの機会なので、ヨコオさんと岡部さんそれぞれに、今まで伝えていなかった感謝の言葉などがあればお願いします。

ヨコオ ないですね、正味のところそんなに(笑)。お互いを踏み台にしてここまで来ました。

――(笑)

岡部 そうですね、利害が一致してるみたいな。

ヨコオ 僕らを表す一番近い言葉は“ビジネスパートナー”です(笑)。いい取引先……というか、正確に言うと、スクエニさんという良い会社さんを相手に、指紋が消えるくらい手を擦って生きています。

岡部 (笑)。そうですね。

ヨコオ そういう意味では、スクエニさんへの感謝の気持ちでいっぱいだよねって。

岡部 僕も同じ(笑)。おかげさまで、ゲームチームに『レプリカント』の時に音楽を評価していただいて。 また、一部のお客様にはすごく音楽を評価いただきました。それはヨコオさんの作るゲームの世界観と、僕が作った音楽の相乗効果みたいなものがあったんだろうなあと思っています。その相性がよかったのかなというところは、もう本当にWin-Winの関係性じゃないですけど、双方にすごく意味があった感じですよね。

そして、『オートマタ』も引き続きそういう感じでうまくいって、そこである程度僕とヨコオさんのコンビで作ったコンテンツはこんな感じ、という認識をしていただき、いいねと言ってくださったお客様が多かったということで、たぶん運営側もそこにバリューを感じたのかなと思います。この座組で、また素敵なオーケストラコンサートができるような流れがあれば嬉しいなあと思って、手を擦って生きていきたいなと思います(笑)。

■ファンのみなさんへ

――では最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いいたします。

ヨコオ 今回をもって岡部啓一の音楽人生が終わるわけですが、最後のコンサートや最後のアルバムを聴いていただけると、冥土の岡部さんも喜んでくださると思います(笑)。よろしくお願いします。

岡部 今回の『ニーア』のオーケストラアレンジに関しては、アレンジャーさんやエンジニアさん、そして演奏してくださった皆さんのお力で、本当にいいものになったなあと思っていて。今まで自分が作った曲の中でも、おすすめできる度合いがずば抜けて高いと思っているんです。『ニーア』ファンのみなさんに聴いていただいて、ちょっと違うなということがない出来になっていると思います。もし想像と違った場合であっても、これはこれですごくいい、と思っていただけるものになっていると思うので、ぜひ、『ニーア』の音楽に興味を持ってくださっている方に聴いていただきたいです。

――自信作というわけですね。

岡部 そうですね。なのでおそらく、僕の音楽を作る人生の中ではたぶんピークだと思っています(笑)。もちろん、これからも音楽を作っていきますけど、多分これ以上に僕の中で「いいものができたな」という達成感を超えるのは、なかなか難しいだろうなと正直思っているくらいの出来になっています。

ヨコオ 『シノアリス』はいつも通りお金もらって適当に作っている感じがするよね。こっちもほめないとだめでしょう。大人なんだからさ(笑)。

岡部 『シノアリス』は自分で作ってる感が強いから。いつも通りのいい出来なので。

ヨコオ ああ、なるほどね。わかる、人の手が入ると、なんかすごく輝くよね。

岡部 そうそう。自分の曲ではあるんですけど、やっぱり人の手を入れてもらうことで、自分の至らないところをすごく持ち上げてださっている感じがして、すごくいいものになっている印象が強くて。今までもアレンジアルバムはありましたけど、その中で今回のオーケストラアルバムはずっと夢見続けていたところがあるんです。アレンジャーさんも、すごく『ニーア』に向き合って取り組んでくださったのが曲から伝わってくる感じがあるんですよね。なので、いろんな人のお力で非常にいいものになったなと。そういう思いがすごくあります。『シノアリス』のサントラのほうも、いままで僕の作った曲に興味を持ってくださっている方は、また喜んでいただけるものになっていると思います。

ヨコオ 人の手が入ると、自分で作ったってわからなくなるよね。

岡部 そうなんですよね。

ヨコオ 僕、この前舞台に関わらせていただいたんですよ。僕はふだんゲームのディレクターとして隅から隅まで全部自分で見るんですけど、舞台の演出は演出家の方が別で立っていらっしゃって、舞台はその方におまかせして進めていたのですが、自分じゃない方が統括してより良くしてくださった時のビックリ感がけっこうあったんですよね。そういう意味では、岡部さんが言っているような、『シノアリス』は自分で全部やって隅々まで見ているけれど、『ニーア』のオーケストラは、自分の予期しないことが入って、関わっている自分もワクワクできる、というのもわかりますね。

岡部 僕自身もハッとしたというか。レコーディングの時もそうなんですけど、気持ちの高揚感が作っている時からすごくて。

――出来栄えに、いい意味で驚かれたのですね。

岡部 そうですね。

ヨコオ 『シノアリス』のCDは?

岡部 『シノアリス』は『シノアリス』で別の良さがありますから。『シノアリス』のサントラは多分、『シノアリス』に興味がある方が買ってくださるだろうし、『ニーア』のオーケストラアルバムは、『ニーア』が好きな方が基本買ってくださるのかなと思います。ただ、オリジナルのサントラは普通に買ったという方でも、アレンジはどうしようかな?と思っている方も多いと思うんですよね。でも今回のアルバムは『ニーア』サウンドの集大成的な意味もあるので、もし迷っていらっしゃる方がいれば、自信を持っておすすめできます。もし迷われていたら、買っていただいて後悔がないと思いますよ、と言えるような出来になっていると思いますので、ぜひ聴いてもらいたいですね。

――楽しみにしております。ありがとうございました!


動画コメントも頂きました!

 


【リリース情報】

■9月12日(水)配信開始(AAC/ハイレゾ)

■9月19日(水)配信開始(AAC)

『SINoALICE ーシノアリスー Original Soundtrack』

 AAC[320kbps]

【プレゼント情報】

『NieR Orchestral Arrangement Album』のどちらか、『SINoALICE -シノアリス- Original Soundtrack』それぞれをお買い上げの上ご応募頂いた方から、『NieR』…20名様、『SINoALICE』…10名様の計30名様にお二人のサイン入り台紙をプレゼント!

【応募期間】

『NieR Orchestral Arrangement Album』

2018年9月12日(水)~ 2018年9月25日(火)23:59 まで

※応募は終了しました。

『SINoALICE -シノアリス- Original Soundtrack』

2018年9月19日(水)~ 2018年10月2日(火)23:59 まで

※応募は終了しました。

NieR:Automata ゲーム公式サイト(SQUARE ENIX)

SINoALICE ゲーム公式サイト(SQUARE ENIX)

NieR:Orchestra Concert 12018 公演情報はコチラ

MONACA | 有限会社モナカ 公式ホームページ