【本人インタビュー】“演技者”サラ・オレインが作り上げたシネマミュージックアルバム

3オクターブを超える音域や、1/fのゆらぎ成分を持つといわれる美しい歌声によって、多くの人から人気を集めるサラ・オレイン。日本メジャーデビュー5周年を迎える2017年は、2月にアルバム「ANIMA」をリリース、10月にはSING LIKE TALKINGの「闇に咲く花 ~The Catastrophe~」(TVドラマ「ブラックリベンジ」主題歌)にフィーチャリングヴォーカリストとして参加するなど、積極的な活動を続けている。そんな彼女が、5周年記念活動の総括ともいうべきアルバム「Cinema Music」を作り上げた。映画音楽をテーマとした最新アルバム「Cinema Music」について、コンセプトや1曲1曲に対する想いなど、サラ・オレイン本人に語っていただく機会に恵まれたので、お届けしよう。

インタビュー・文:野村ケンジ

 


 

――2017年4月開催の『シネマ・コンサート』がきっかけとなり、今回のアルバム「Cinema Music」の制作がおこなわれることとなったのでしょうか?

サラ・オレイン はい、確かにシネマミュージック・コンサートをプロデュースしたことがきっかけにはなっています。あのコンサートに来てくださったお客様がもう一度あの空間の楽しさを味わえるよう、そして来られなかった方もコンサートを体験したかのような気持ちになっていただけるよう、アルバム「Cinema Music」を作りました。でも、シネマコンサートを行ったのも今回のアルバムを発売したのも、もともと私自身が映画が大好きで、映画にとても憧れている、というのが根本にあります。映画って、マルチな才能を発揮できる素晴らしいエンターテインメントだと思うんです。クリント・イーストウッドやチャップリンなどは、ただ監督をするだけでなく、主演したり音楽を作ったり、映画作りに様々な才能を注ぎ込んでいます。私もいつか、彼らのように映画作りに携わることができたらなぁ、と思っているんです。まあ、究極の夢ですけどね(笑) そういった、私自身が持つ映画に対する憧れをひとつのカタチにしたのが、このアルバム「Cinema Music」なのです。

サラ・オレイン
『Cinema Music』

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FLAC|96.0kHz/24bit

――実際、これまでのアルバムとは歌い方が違うといいますか、1曲1曲、それぞれの楽曲に合わせて歌声をまるっきり変えているのに驚きました。

サラ・オレイン 実は、大いに意識したところではあります。サラ・オレインというと、高音で歌う歌手というイメージがあるかもしれませんが、それはあくまでも私の中のひとつでしかなく、様々な歌声を持っていること、様々なアクターを“歌い”“演じ”分けられることを知っていただければ、という思いもありました。

――特に、「007 Medley(映画『007』シリーズより)」などは、これまでのアルバムからは想像できない、全く異なる方向性の歌い方でしたね。

サラ・オレイン そういっていただけると、嬉しいですね。低音が、非常に楽しかったです。女優になって演じるつもりで、ボンドガールになりきって(笑)普段とは違った自分が表現できたのは、本当に楽しかったです。

――さて、ここからは収録されている楽曲についていろいろとお聞かせください。1曲目「オン・マイ・オウン(映画『レ・ミゼラブル』より)」は、かなり構成にこだわったように感じるのですが。

サラ・オレイン アルバムを通して聴くと、ひとつの映画を見ているように感じていただきたくて、シネマの開幕といえばこれだろうと、この曲を最初に持っていくことにしました。ですから、メインフレーズの部分からだけではなく、オリジナル、前奏の部分からの構成となっています。ミュージカル、特に悲劇が好きなので、この曲はエポニーヌの気持ちになって“演じ”ています。

――2曲目、「ウィンターワンダーランド(映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』主題歌)」は、サラ・オレインが日本語と英語の2バージョンを担当されている楽曲ですね。今回のアルバムでは日本語バージョンが収録されています。

サラ・オレイン はい。今回のアルバムでは、自分が好きで取り上げた曲もあれば、自分が関わった曲もあります。ムーミンは後者なのですが、そもそも私、ムーミンがとっても好きなんです。ですから、日本語バージョンのオファーが来たとき、ムーミンの映画に関われること自体がとても幸せでした。とはいえ、私の母国語は英語ですから、日本語の歌と共に、英語バージョンも一応録ってお送りしたんです。もちろん、それが採用されるとは夢にも思っていませんでしたから、しばらくのちに“英語バージョンの歌手はどのように歌っているんだろう”と気になりネットでチェックしたところ、私とキーが同じだったんです。実は、ムーミンのかわいらしさを出そうと、元の歌よりもキーを高くしていたんですが、英語バージョンも同じように高くなっていて、ああ、同じようなことを考えていたんだなと思いました。しかし、よく聴いてみると声が私と一緒だし、さらによく見ると、クレジットが私になっている! ビックリしました。ということで、日本語と英語の2バージョンを担当することになったんです。

――最初から両バージョンを担当することになっていたわけではないんですね。

サラ・オレイン はい、そうなんです。私自身、去年いちばんビックリしたことでした(笑) また、歌詞のテーマも凄く共感できるんです。ムーミンが雪のクリスマスに憧れている歌なのですが、私はオーストラリア出身なので、同じくホワイトクリスマスに凄い憧れがあるんです。なので、とても感情移入して歌うことができました。

――続いて3曲目「美女と野獣(映画『美女と野獣』より)」ですが、こちら、オリジナルの男性ヴォーカルであるピーボ・ブライソンとのデュエットとなっていますね。

サラ・オレイン この曲ができるまでには、かなりドラマティックないきさつがあるんです。「美女と野獣(映画『美女と野獣』より)」をチョイスしてはいたのですが、誰と歌うのかが問題となっていました。実は、2年前にテレビ番組でピーボとデュエットさせていただいたことがあり、SNSでは繋がってはいたんです。たまたま東京ブルーノートでライブをした前日が彼のライブで、ダメ元でオファーしたところ快くOKいただいたんです。さらに、この曲はもうひとつチャレンジをしています。実は、オーケストラと歌を一緒に録ったんです。レコーディング当日、サウンドシティ・スタジオに来たピーボ自身、とてもビックリしていました。こういったレコーディングをするのは本当に久しぶりだと。そういった、ライブレコーディングに近いやり方だったためでしょうか、彼も凄く刺激されたようで、普段とは違う歌い方をしています。「美女と野獣」が好きな人や彼のファンにとって、ぜひ聴いてほしいレアバージョンといえるものになったと思います。

――続く「白い恋人たち(映画『白い恋人たち』より)」も……普段とはかなり誓った印象の歌声でした。

サラ・オレイン 歌でコスプレしているようで、とっても楽しかったです。今回のアルバムの楽曲選びをする際、英語のものばかりになっても行けない、と考えていたんです。フランス語やイタリア語も入れたいと考えていました。で、フランス語はこの曲だろうと。ちなみに、アレンジに関してはモダンなものとかいろいろとチャレンジしたのですが、オリジナルに近いイメージの方が良かったのと、ちょっと軽いイメージの高い声がとっても合っていて、セリフを話しているかのような不思議な楽曲になりました。

――5曲目「シネマ・パラディーゾ(映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より)」は。

サラ・オレイン 実はこの曲、1枚目のアルバムにも入っているのですが、“シネマミュージック”というタイトルのアルバムにこの曲は絶対に必要だろうと、再び収録することにしました。とはいえ、同じアレンジではつまらないと思い、いまの自分らしい表現として、歌声だけでなくソロヴァイオリンのパートもかなり多くなっています。

――「君をのせて(映画『天空の城ラピュタ』より)」は、原曲と違う雰囲気がユニークですね。

サラ・オレイン 以前のアルバムにも入っている曲ですが、ジブリで日本語を覚えたたこともあり、映画『天空の城ラピュタ』は毎年見直しているんです。そんな、想いの強い曲だから、今回のアルバムにも収録させていただきました。実は、昔からEDMも好きで、絶対この曲にはEDMが似合う!ということで、今回のようなアレンジにチャレンジしました。

――「ラ・ラ・ランド Medley(映画『ラ・ラ・ランド』より)」は、映画の総集編のような凝った構成になっています。

サラ・オレイン もともと映画『ラ・ラ・ランド』のオリジナル劇伴にもメドレーはあるのですが、さらに作り込み、映画を見ている人だったら分かる、印象的なシーンが浮かぶような構成にしました。

――「ついに自由に(映画『グラディエーター』より)」は、他の収録曲とちょっと毛色の変わった印象がしました。

サラ・オレイン ラッセル・クロウがオーストラリア人だから、と言うこともありますが(笑)、コンサートでみんなで歌える曲も入れたい、と思っていたんです。いろいろと考えて、この曲を選びました。

――「ポル・ウナ・カベサ(映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』より)」はインストゥルメンタル曲です。

サラ・オレイン サラ・オレインというと歌手というイメージが強いかもしれませんが、もともとはヴァイオリンがルーツですので、そういった部分をお見せしたいと思いました。非常に難しい楽曲なので、自分にとってのチャレンジでもありましたが、“ヴァイオリニスト”サラ・オレインをうまく表現できたのでは、と思っています。

――「なんでもないや(映画『君の名は。』より)(English – Japanese ver.)」は、

サラ・オレイン 実は、アレンジや歌の表現でかなり悩んだ作品でもあります。新海誠作品が大好きで、思い込みが強いこともありますが、もともとの映画が素敵で、もともとの歌が素晴らしく、そんな楽曲をいかに自分風に仕立てるか、大いに悩みました。そのため、楽器はギターとピアノなど最小限の構成にして、あえて素朴なアレンジにしました。また、歌い方も、オリジナルの男性ヴォーカルでも、上白石萌音さんのようなフェミニンな感じでもなく、少年の歌声のようなイメージが合うな、と思って歌いました。

――「Shadows Of Time (軍艦島 世界遺産登録推進映画テーマ曲)」はオリジナル曲ですね。

サラ・オレイン こちらは、軍艦島の世界遺産登録を推進するために作られた映画に提供した楽曲なのですが、歌手、演奏家としてはもちろん、作曲家として映画に携わる私を見ていただけたらと思い、収録しました。もうひとつの表現者、コンポーザーとしてのサラ・オレインを、この曲を通して知っていただければと思います。

――最後に、アルバム全体についてひとことお願いします。

サラ・オレイン アルバム「Cinema Music」では、私の映画に対する憧れと愛を、歌手やヴァイオリニストとしてはもちろん、映画そのものに寄り添う音楽をひとりの“演技者”として表現することができたと思っています。映画というコンテンツが持つ素晴らしさ、楽しさを、サラ・オレインが表現する「Cinema Music」を通して、さらに感じとっていただければ嬉しいです。

 

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