「DISSIDIA FINAL FANTASY -Arcade- O.S.T.」発売記念! 作曲家・石元丈晴氏インタビュー

スクウェア・エニックスによるアーケード版『DISSIDIA FINAL FANTASY』のBGMを収録したオリジナル・サウンドトラックDISSIDIA FINAL FANTASY -Arcade- ORIGINAL SOUNDTRACKがmoraにて配信開始。
メニュー画面で流れる楽曲やバトル曲はもちろんのこと、世界屈指のオーケストラであるロンドン交響楽団が、アビー・ロード・スタジオで新規録音した新規楽曲、そして『FINAL FANTASY TACTICS』の楽曲も収録。歴代FINAL FANTASYのアレンジ音源と至極の新曲を収録した、ファン待望の音楽作品です。
今回サントラの配信を記念して、『DISSIDIA FINAL FANTASY』シリーズの音楽を担当してきた石元丈晴氏にインタビューを実施。
アビー・ロード・スタジオでの録音などここだけの制作秘話に迫りました。
 
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(インタビューはSQUARE ENIX本社ミキサー宅前にて)
 

――よろしくお願いいたします。今日は大きく三つに分けてお伺いしていきたいなと。ひとつはアーケード版「DISSIDIA FINAL FANTASY」(以下DISSIDIA)の新しくリリースされたサントラのお話。ひとつは以前リリースされた「FINAL FANTASY 零式」(以下零式)のサントラのお話、あとはご自身のバンド「The Death March」のお話などもお聞かせいただければなと思っています。

石元丈晴(以下、石元 はい。よろしくお願いいたします。

――まず「DISSIDIA」のお話から。いままで石元さん、携帯型のゲーム機や、据え置きゲーム機といったコンシューマゲーム機のサウンドを作られてたと思いますけど、今回はアーケードで鳴らすというところで制作の違いとか、意識された部分などございましたら。

石元 まず、極力音のレベルを大きくしました。音楽ジャンル的には別にこだわりはなかったですけど、ゲームセンターで隣の人が音ゲーとかだったらあまり聴こえなかったりするので。派手にミックスしたりとかっていうのは一応考えています。ゲームはゲーム用のミックスをやって、CDはCD用にちょっと抑えた感じで。

――なるほど。じゃあアーケードで使われてる音源とCDとではだいぶバランスが違うと。

石元 だいぶ違いますね。けっこうアーケードのほうはノイジーな感じになってるんで……まあうちの筐体は幸いヘッドフォンの端子が付いてたんで、イヤフォンやヘッドフォンで聴いてる人はそのまま挿せば音もそのまま聴けるんです。それはちょっとラッキーでした。

――そしたらサウンドの傾向とかはわりと以前の「DISSIDIA」の流れを踏襲しつつ、っていう。

石元 そう……まあちょっとチャレンジ的なこともやってはいるんですよ。テーマをロックにして歌を入れたりとか、あとは電子音を使ったアレンジとか。実質的な三作目なので、前と同じっていうよりはディレクターが変わったっていうのもあって、新しくしたいっていう思いがあったみたいですね。

――なるほど。過去曲のアレンジっていうのがけっこう多いと思うんですけど。そのあたりの、この曲はこういうアレンジにしようっていうのは、わりとディレクターの方からの注文なんですかね。

石元 いや、ディレクターからはあまり「こういうのがいい」というのはなくて。バトルゲームなのでイントロからちょっと激しめにいきたいっていうコメントがあったくらい。あとはある程度サウンドチームに任せてもらいました。

――選曲とかもサウンドチームさんのほうで?

石元 いえ、選曲はディレクターがやりました。

――それをこれはこういうアレンジにしよう、こういう人にアレンジを頼もうとかいう風に割り振っていくって感じで。

石元 そうですね。

――そのアレンジ以外にも、新曲を今回アビー・ロード・スタジオで収録とかもあったんですけど。このアビー・ロード・スタジオの収録はけっこう大がかりだったと思うんですけど、これは石元さんのアイデアとかだったんですか? やりたい!っていう。

石元 そうですね(笑) 前は「零式」のときにシドニーのオペラハウスに行って、今回もそこでレコーディングしようかなって思ってたんですけど、アビー・ロードでもできる、っていう話になって。じゃあスケジュール聞いてみよう……と。そしたら何日か空いてたんですよ。それで「じゃあもう行きます」って言って……ロンドン交響楽団の演奏でアビー・ロード・スタジオ、でしかも「ファイナルファンタジー」という、それをやりたくて(笑)。

誰かがやったから、とかじゃなく。うちの会社でアビー・ロードでやろうっていうのが、社内ではあまりないんじゃないかなと思って。値段はけっこうしたんですけど(苦笑)、自分としても「夢を叶えに」行ったわけではなくなんというか……それなりのものになるだろうって確信はやっぱりあったんです、行く前から。なので行けるなら行こうと(笑) 最初にアポを取ってから2ヶ月くらいしかなかったんですけど、スムーズでした。やっぱりアビー・ロード・スタジオって言ったら世界的なスタジオじゃないですか。みんな名前を知ってるし、スタジオの前に観光客も集まっている。あの(ビートルズ「Abbey Road」のジャケットの)写真を撮ろうとして(笑)。ずっと暗くなるまでみんないるんですよ。そしてスタジオの人も、やっぱり世界中からオファーが来るわけじゃないですか。だからスタジオで働いてる人も、自分たちがどうやって世界に見られてるかってことをすごくわかってる感じがして。なんか……うん、最初の入って一時間くらいはちょっと落ち着かなかったですね(笑)。

――そうですよね(笑)

石元 僕らはスタジオ1っていう、めちゃくちゃ広いスタジオでやったんですよ。オーケストラだったんで。隣にスタジオ2っていう、いわゆるピンク・フロイドとかビートルズとか、歴代のバンドがやったスタジオがあって。「ちょっと入っていいですか?」って言って(笑)。ちょうどたまたまセッションもやってなかったので、入って、これがポールの弾いたピアノですよーって。そのまま置いてあるんですよ! 内装も当時のままになってて。次はぜひ2スタでもやりたいと思ってますということも言いました。

――バンドのサウンドもありますもんね。じゃあスタッフの方もエンジニアリングの方もすごく手際もいいというか。

石元 そうですね、オーケストラをやり慣れてるエンジニアの人でした。でも次はバンドに特化した人とか、バンドのサウンドで次は行きたいなと思いました。ブリティッシュ・ロックって、自分も一番好きなジャンルなんで。

――思いがいろいろと。

石元 そうですね。でも僕、実はあまりビートルズは聴いてないんですよ。どっちかというとピンク・フロイドとかのほうが好きなんで……でもひと通り好きな人たちはあそこでやってますね。

――LSO(ロンドン交響楽団)とやってみてどうでした? いろんなオーケストラとやってはいると思うんですけど。

石元 格式高い感じはすごくしてますね。やっぱり、一軍・二軍・三軍ぐらいまで演奏者もいて、そこからどんどんメジャーリーグみたいな感じで上がっていくみたいなんですけど。時間内にきっちり終わらせるスキル……まあ短い時間だったんですけど、演奏はすごくばっちりでした。

――指揮もされたんですか?

石元 それはアレンジャーの佐藤賢太郎氏がやってくれました。スタジオも一発で録れるスタジオだったんで……まあ臨場感は出たんじゃないかなと思います。

――前後に周りの観光的なこともできたんですか?

石元 最初はなかったですね。で、3日間でやろうと思ったんですけどちょっと足りなくて。向こうに滞在したまま延長して……結局2週間くらいの滞在になって。終わってから飛行機も先だし、何もすることがなくて(笑)。日本からは曲を直してくださいってくるんですけど、僕はロンドンにいるから、それもできなくて。普段僕はレコーディングに行ってもあまり観光ってしないんですよ。仕事やって、もうあとは帰りたいみたいな感じになっちゃうから。シドニー行ったときもそうだったし。いい機会だと思ってもう飲んで食って……を毎日やってましたね(笑)。

――なるほど(笑)

石元 あと、エアー・スタジオってもう一個有名なところがあるんですよ。教会自体がスタジオになってて。そこは見学に行きましたね。仕事はしてないですけど。そこのほうがなんかすごかったです。アビー・ロードもいいですけどそっちも気になりましたね。

――コーラスの収録とかやってみたいですね。

石元 そうですね。オーケストラもできますし……ただ、建物が古いらしくて。ボロボロで。それでもうなくなるかもしれないっていう話はあるんですけど。

――早めに行きたいという感じですね(笑)

石元 雷の音とか鳴ったら、そのままスタジオの中に入っちゃうみたいな。次機会があったらやってみたいですね。

――サントラ全体として、何か聴きどころとか個人的に気に入った曲とかっていうのはあったりするんですかね。

石元 今回11曲アビー・ロードで録ってきたんですが、今回のサントラには5曲しか入ってないんです。残りの6曲は、「DISSIDIA」はまだ稼働してるので、次のCDを……また同じくらいの曲数入ると思うんですけど、そのときに入れようと思ってます。今回はアビー・ロードとロンドン交響楽団でやったっていうのが僕としてはやっぱり推しかな。あとはテーマをバンドでやってるっていうのもあるんですけど。まあそれもいい感じだと思うんで(笑) 聴いてもらいたいですね。

――ひと通り聴かせていただきましたけど……

石元 まあ、暑苦しいですよね(笑)。独特な感じはしますよね、ゲームの。

――オープニングのアレンジもバトル中に流れるって感じなんですか?

石元 そうですね。その辺は一連のテーマから持ってきてるメロディです。

――バトルでやりながらアガるような。

石元 そうですね。1曲目からめちゃくちゃ暗いですけどね(笑)。何が始まるんだ!?という。

――(笑) 重厚な感じというか。今回のサントラに入ってない曲って、現状のゲームの中でもまだ流れないっていう感じなんですかね?

石元 まだ流れてないですね。これから入れていって……キャラが追加されたら、曲も追加したり。

――アレンジの曲とかも追加の予定とかってあるんですか? 新曲以外に。

石元 全然ありますよ。過去のFF(のアレンジ)ですよね。まだまだあります(笑)

――追加曲の新曲とアレンジでまたCDも……。

石元 そうですね。次の曲はもうバトル曲ばっかりなので、一番暑苦しいです(笑)。静かな曲はたぶん一曲もないと思うんで。

――しかし改めて見ると、本当にFFのバトル曲の数って多いですね。

石元 ええ。まだまだありますよ(笑)

――ご自身でもFFの初期のほうのシリーズってプレイされていたんですか?

石元 小学校、中学校のときですかね。「Ⅶ」で最後までやって、という感じですね。

――個人的に思い入れのある曲ってあったりするんですか。

石元 僕は「Ⅶ」が好きですね。「Ⅶ」って……やっぱり何か独特なんですよ。曲も植松さんらしいなと思ってるんです。初期のファミコンの曲とかはやっぱり発音制限があったり、中の音源で鳴らさなきゃいけなかったりとか、大変だったと思います。今みたいにまともに音楽を鳴らせる、そういう時代じゃなかったんで。だからメロディがずっと(流れてるっていう)。それでやっぱりゲームをやった人が刷り込まれて、メロディを覚えるっていう。僕ももうずっとメロディが鳴ってるんです、その植松さんの曲が、自分の作った曲よりも。朝起きて用を足している最中も歌ってしまうし(笑)、面白いです、そういう音楽って。メロディを歌ってて、「あれ、この曲なんだっけ」ってわからなくなるときがあるんですよ。それがわかったときめっちゃ気持ちいいな!って(笑)

――今回の「DISSIDIA」のサントラはハイレゾはまだ配信されてないんですけど、この先ハイレゾで配信する予定っていうのはあるんですか?

石元 一応アビー・ロードでは96kHzで録ってるんです。可能ではありますし、先々、またブルーレイやハイレゾで出したりというのはできますけどね。でも96kHZの音ってどうなんだろうっていう……ちょっと自分はそこまで耳がよくないなというのが。

――再生環境もないとですし。

石元 そうですね。でも一応先を見越して、96kHzでレコーディングはしています。

――せっかくだし聴いてみたいですよね。オーケストラだとよりハイレゾの影響は大きい気もしますね。

石元 そうだと思いますね。生演奏のジャズとかも、すごくいいんだろうなって思います。ロックとかは……ノイズサウンドなので、どうなんだろうという気はしますけどね。

――アナログからデジタルのレコーディングに変わった時にも、けっこう嫌がったアーティストもいましたからね。デジタルのクリアーさというか。

――「零式」のほうはハイレゾがすでに出てますけど、あのときはけっこうハイレゾ用にミックスの直しとかもされて。

石元 そうですね。あの時はやりました。

――音源自体を差し替えたりとかってこともやったんですか? 各パートのサンプリングの……

石元 ああ、ありますよ。

――全曲やるのはけっこう大変だったんじゃないかと思うんですけど。

石元 そうですね。60何曲か入ってたんじゃないかな。まあこれからああいうのは増えるんじゃないですかね。まとまったブルーレイの商品が(笑)

――わりとスクエニさんが先駆けになってる感じはありますね。

石元 ムービーとか、きれいな映像もうちは魅力でもあるんで、企画としてはピッタリだと思うんですよ。

――今度はゲーム単独というよりは、石元さんの音楽のお話を聞きたいんですけど。これまで「DISSIDIA」ですとか、「零式」とか、「すばせか(すばらしきこのせかい)」とか……これまで担当されたタイトルってわりとロックとかオーケストラであったり、合唱が入ったり、けっこう重厚といいますか、石元さんの分厚い感じのサウンドが印象的なんですけど。それは元々そういうサウンドが好きなんですかね。それともゲームに合わせてそういう感じになったのか……。

石元 うーん、自分があんまり「ゲーム音楽」っていうのは、特にあまり意識してないんですよね。僕はもうポップミュージックを聴いて育ったので、むしろここ入った時も「ゲームのCDが出てる」ってことを聞いてカルチャーショックだったんですよ。「え、そんなの出てるんだ!?」って思って(笑)。僕はまた違うタイプだったので。他の人はけっこうゲームの音楽の作家さんに憧れてウチに入ってきたとか言うんですけど、僕はそういうのがなかったから、自分がやりたいことっていうのをやらせてもらってる感じではありますね。あんまりこういう風にやれって言われたことがなくて。最初にやりたいことをやって、「これでいいじゃん」って言われたから、それで言われなくなったっていう。

――なるほど。

石元 どういう風にすればいいですかって訊くと、こういう風にしてってやっぱ言われるんで……僕はあまり訊かないですね(笑) 人間訊かれるとやっぱ言うじゃないですか、責任ない人が(笑) 責任あるのは、顔も名前も音楽も出してやるのは僕だから……僕が好きなようにやるっていうのも、ディレクターさんとかもだいたい知ってるんで。たまに要望も飲んだりとか(笑)あまりアレすると駄目なんで。ここだけはというときは要望を飲んでという風にしてますね。

――石元さん自体学生時代にバンドとかやってたりはしないんですか?

石元 バンドをやってましたよ。もう若いころ、20代前半とか。オリジナルで。でもどうしても洋楽を聴いてきたので、日本語でロックっていうのにすごく違和感があったんですよ。今は日本語でもかっこいいバンドってわりかしいるなと思ってますけど、当時BLANKEY JET CITYっていうバンドがあって、あとブルーハーツが好きでした。

――The Death Marchというバンドのほうもありますけど、こちらもやっぱり自分のやりたい活動のひとつとして大きいって感じなんですかね。

石元 うーん……まあ普段の仕事は一人での作曲のほうなんで、バンドは何かある時しか動かないものなので(笑)。普通の、世間のバンドさんみたいにツアーやったり、アルバムを一年か二年に一枚出したりとか、そういうことではないので……まあみんなそれぞれ忙しいし、みんな自分の柱のバンドがあるんで。スケジュール合わせたりするのも難しくて。でもこの前2曲新曲録ったんですよ。バンドの。それはまあ次の「DISSDIA」に入れる予定なんです。その2曲はまた全然違う感じにしました。あえて日本語で2曲ともロックをやってるっていう。

――今後のライブとかCDの活動の予定っていうのは、まだあんまりないんですか。

石元 まあちょいちょい活動できればなーとは思ってますね。まあ、自分も下手ながらにちょこっとギターは弾いてるんで(笑)

――バンドでアビー・ロードで録音、というのも目標にしつつ……

石元 そうですね……このバンドじゃなくてもいいんですけど、オーケストラじゃないものをスタジオ2で録りたいなとは思いました。あの匂いがやっぱりたまらないんですよね。

 

「DISSIDIA FINAL FANTASY -Arcade- ORIGINAL SOUNDTRACK」

好評配信中!

DISSIDIA FINAL FANTASY -Arcade- ORIGINAL SOUNDTRACK/SQUARE ENIX

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■石元丈晴 プロフィール

スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。

担当作は「FINAL FANTASY 零式」「すばらしきこのせかい」「DISSIDIA FINAL FANTASY」など。

 


 

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