「どのアーティストを選べばいいのかわからない!」に応えるクラシック・アルバム~藤田真央『passage』配信開始

クラシック音楽には少し興味があって、「ハイレゾクラシック」シリーズや「クラシック人気曲ランキングTOP50!」のようなベスト・アルバムは買ったことがある。でも、アーティストによる演奏の違いなんて、正直まだピンとこない。「ショパン」で検索すれば、ピアニストの顔がどーんと並んだアルバムはいっぱい出てくるけど、いったいどれを選べばいいの??

……そんな「あるある」な悩みをお持ちの方にこそ、自信を持ってオススメしたい。ピアニスト・藤田真央のサード・アルバム『passage』が、本日5月18日に先行配信スタートとなりました。

 

『passage パッセージ – ショパン: ピアノ・ソナタ第3番』

試聴・購入 [DSD]

試聴・購入 [FLAC]

試聴・購入[AAC]

 

この目をひくアーティスティックなジャケットは、直木賞&本屋大賞W受賞で昨年話題になった恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』や藤崎彩織さん(SEKAI NO OWARI)の『ふたご』など数々のベストセラーを手掛ける装丁画家、杉山巧氏によるもの。確かに、普通のクラシック・アルバムとはかなり雰囲気が違うようですが…?

 

ピアニスト・藤田真央

 

藤田真央は、今年20歳を迎える若手のピアニスト。2017年に、世界的に権威のあるクララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝。クラシック業界ではすでに注目を集めている期待のホープですが、こちらの新譜『passage』は、そうした動向に通じるクラシック・ファンだけでなく、「ピアノのアルバムをはじめて聴く人」が楽しめる要素もたくさんあるのだとか。アルバムをプロデュースしたナクソス・ジャパンの長門裕幸氏の解説とともに、その聴きどころを紐解いていきましょう。

 

■そもそも、「クラシックのアルバム」を聴く面白さってなんだろう?

⇒「ほかのジャンルと同じで、アーティスト、あるいは音楽の世界のムーブメントの「いま」がわかることです!」

ジャンルを問わずアーティストは一般的に、折々にテーマを掲げたり、スタイルを変化させたり、音楽活動の節目としてアルバムを制作することが多いです。シングル曲では見えてこない、アーティストの多種多様なイマジネーションの引き出しや、「いま、彼(ら)が何を考え、どうやって音楽に取り組んでいるか」を知ることができるのが、アルバムという形態の魅力です。クラシックのアルバムも、基本はそれと変わりません。特にピアノのソロ・アルバムの新譜は、ひとりのピアニストの「いま」の姿を、鮮明に映し出すもの。それを聴くことは、「いま、音楽の世界にどういうムーブメントが起きているか、どういう価値観や感性が新たに求められているか」を知ることでもあります。

クラシックの世界では、往年の巨匠の名演がもてはやされがちです。もちろんそれらは文句なくすばらしいものですが、一方で、すべての創作活動は“新しいことに意義がある”というのが、私の個人的な考えです。自分と同じ時代を生きているアーティストの「いま」を聴くことには、過去の名演を聴くこととはまったく別の大きな喜びがあります。その喜びとは、同じ時代に生きるアーティストの息づかいを通して音楽を味わえる“ワクワク感”のこと。ぜひ、現役アーティストの新譜にもっと気軽に触れてみてほしいですね。(長門)

 

 

■このアルバム「passage」を、「はじめて手に取るピアノのアルバム」としてオススメする理由は?

⇒「ズバリ「聴きやすい」からです!」

世の中にはさまざまなピアノのアルバムがあり、また、さまざまなピアニストがいます。そのなかで『passage』を特にオススメできる理由は、ひとことでいえば「聴きやすい」からだそうです。

いまの若手のクラシック・アーティストには、音楽活動以外の表現にも長け、自己プロデュース能力の高い本当に魅力的な方がたくさんいて、いちリスナーとしてとても楽しい状況にあります。

しかし藤田真央は、そういう先輩がたとはまた異なるタイプのピアニストです。本人のキャラも普段はちょっと天然系に見えるくらいに(笑)、確固たるものを内に秘めながらも、決して自らアピールしません。演奏の方も、空気の中に自然と“音楽そのもの”が彼の“個性”としてにじみ出てくるような感じがある。いつも聴き手のイメージをかき立ててくれ、新しいお客様を一瞬で引き込んでしまうのです。加えて、“きれいな音を出すために音をコントロールする”というのが、彼自身の演奏のポリシーでもあるので、強奏しても決して音がつぶれず、迫力はあっても圧迫感を与えません。

 

「きれいな音を出す」というのが藤田真央のポリシー

 

そうした特性を活かすために、録音も、音響の豊かなキャパ1000人クラスのホール(アクトシティ浜松・中ホール)を使い、空間再現の世界的なオーソリティでありハイレゾ・ファンからも絶大な支持を得るレコーディング・エンジニア、深田晃氏を起用しました。また、ホールを運営する浜松市文化振興財団とヤマハアーティストサービス各位にとても献身的なご協力をいただき、恵まれた環境を整えることができたのも大きなポイントです。

残響が豊かだと全体にふわっとして音楽のディテールが分かりづらくなる場合もありますが、本作では藤田自身が大切にしている音色の変化や微細な指先のコントロールも余すところなく再現することができ、非常にダイナミックレンジの広い、臨場感のある録音になりました。ハイレゾだとその肌触りをよりデリケートに感じ取れますが、もとの録音の質が高いので、ミュージック(通常音質)でも、その音作りの魅力をじゅうぶんに体感できると思います。(長門)

 

レコーディング風景(2018年1月29~31日(セッション録音)アクトシティ浜松 中ホール)

 

■このアルバム「passage」を聴くときの心構えは?

⇒「ぜひ、コンサート会場にいるつもりで聴いてください!」

藤田真央のアルバムは通算で3タイトル目。中学生時録音のファーストアルバム、高校生時録音のセカンドアルバムは、三善晃、プロコフィエフなどの10代らしからぬ渋い選曲が話題を呼びましたが、今回はそれとはガラリと異なる、ポピュラー感のある曲がセレクトされ、より多くの方に親しみやすい内容になっています。

曲は、藤田自身がいま取り組んでいる作品からセレクトしましたが、結果としてコンサートの疑似体験ができるような並びになりました。

1曲目はリストの「ハンガリー狂詩曲第2番」。冒頭の「ダダーン」は、みなさん聞き覚えがあるフレーズなのではないでしょうか。ここでリスナーを一気に藤田真央の音楽の世界に引きこみます。今回の録音の特徴であるダイナミックレンジ(ピアニシモからフォルティシモまで自然に美しく再現できること)を体感しやすいのがこの曲だと思います。

そして、前半のメインとなる、モーツァルトの「ピアノ・ソナタ第18番 ニ長調」。藤田のポリシーである「きれいな音」を存分に楽しむことができ、彼自身も、「一音一音真珠のように美しい音が目に見えるように」弾いた、と語っています。で、コンサートなら、ここで休憩が入るイメージですね(笑)。

後半は、ショパンの「ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調」。これがメインのプログラムといっていいでしょう。父親の死や健康状態の不安を抱えたショパンの複雑な心情が投影された曲ですが、「自分自身で考え抜いた音の響きで演奏することを心がけている」と藤田は言っています。

 

コンサートで客席の喝采に応える藤田真央(2018年2月21日・カワイ表参道「パウゼ」)

 

そして、ここからが超豪華なアンコール、といったところでしょうか。シューマン(リスト編曲)の「献呈」、有名なショパンの「ノクターン第20番」と、フィギュアスケートの演技曲としても話題になった「バラード第1番」。そして最後に、現代のロシアのピアニスト、ヴォロドスが編曲した「トルコ行進曲」。みなさんご存知のモーツァルトの名曲を、超絶技巧を駆使して華やかにアレンジした曲で、コンサートでもいつも大受けのショウピースです。この曲をアンコールで演奏すると、サイン会場にお客様が殺到します(笑)。録音もまだかなり少なく、しかも、ここまで質の高い演奏はほとんどありませんので、ピアノ・ファンの方にもご注目いただきたいですね。(長門)

 

コンサートの後、気さくにサインに応じる藤田真央(2018年3月3日・東京女子大学)

 

■最後に、リスナーの皆様にひとこと。

⇒「アーティストの「いま」を知ることを楽しんでください!」

藤田真央は、昨年のクララ・ハスキル国際ピアノコンクールの優勝を経て、世間の注目度もアップし、本人自身も爆発的に成長しているまっただなかです。TV番組「題名のない音楽会」に出演したり、コンサートの機会も増えたりと、活動を追いかけるにはいちばん楽しい時期かもしれません。

このアルバムは、今年1月に収録したばかり。変化の過程にある彼の「いま」を記録したものです。多くのピアニストは、人生のなかで演奏スタイルが何度も変化します。この『passage』に収録された演奏は、現在の彼でしか表現することのできない演奏です。2018年の「いま」、ひとりのピアニストが何を感じ、何をどう弾いたか、ということを、存分に味わっていただけますと幸いです。(長門)

 

 

関連サイト(外部リンク)

『passage』アルバム情報ページ

藤田真央 プロフィール

藤田真央 今後のコンサート予定