ジョン・ケージ没後25年 川島素晴×アサヒ(macaroom)対談

エレクトロニカ・ユニット「macaroom」は、ジョン・ケージ没後25年となる8月12日に、ケージの楽曲を含むアルバム『cage out』 をリリースした。
ケージの楽譜を忠実に再現し、なおかつ「ポップに」仕上げるという試みだ。

John Cage / macaroom
『cage out』
01 Branches + Song Books
02 Rozart Mix
03 Original Soundtrack From “cage out”

ハイレゾ  通常

 

このプロジェクトは現代音楽の作曲家、川島素晴をアドバイザーに迎え、専門的な指導を受けながら制作されており、楽曲が出来上がるまでのドキュメント映像がYouTubeに公開されている。
ドキュメンタリーを見る

 

macaroomの作詞作曲から編曲まで担当するアサヒと、川島素晴を迎えて、二人に今回のプロジェクトについて話してもらった。 

 

【うろんなかいぎしつ】 川島素晴×アサヒ(macaroom)対談 「ケージとポップス」

 


 ■ジョン・ケージはポップになるのか?

アサヒは、ジョン・ケージの楽曲を演奏家が演奏する際に、「ジョン・ケージ的な」演奏をする傾向があることを指摘する。
演奏家は通常、ジョン・ケージ自身が楽曲どう演奏してほしかったかを考えてそれを再現しようとする。その結果、「ジョン・ケージ 的な」演奏という典型が出来上がってしまうのだ。
しかし、ケージ自身は、自分の「楽譜」と実際に演奏される「音」は全く別のものであると定義しており、「どうなっても良い」 と言っている。それゆえケージの楽譜は「開かれている」といわれたり、また「不確定性」と形容されたりする。にもかかわらず 、ケージの演奏はいつのまにやら定型化しており、開かれていないのだ。こうした状況をアサヒは「cage in(閉じ込める)」と定義し、そこから脱却するために、あえてポップな演奏をすることで「cage out」しようと試みたのだ。
川島は、本来ケージが望んでいた態度を「すべてはフリーダムだ」と言い、macaroomが演奏したポップなケージ作品を「ケージ作品」とクレジットすることを「ギリギリセーフ」で可能であると言っている。

 


 ■演奏に正解はあるのか

川島は、同じく現代音楽の作曲家として有名な武満徹の『ノーヴェンバー・ステップス』を例に出す。
『ノーヴェンバー・ステップス』には図形楽譜による演奏部分がある。自由な解釈が可能であるように思われる部分だが、初演時から何度も演奏した鶴田錦史と横山勝也の演奏が固定されており、まるで口伝の伝承芸能のように受け継がれている。さらに、上記の二人の演奏とは違い自由な解釈で演奏されたものに対して、権利者が演奏の差し止めを求めたこともある。
ジョン・ケージの演奏に関しても、デイヴィッド・テュードアという大家の演奏が「これこそがケージである」というように固定されている傾向があるが、川島は「それはケージの音楽ではなくテュードアの音楽だ」という。川島によると、テュードアはケージの楽譜のほんの一部分を解釈したに過ぎないように思われる演奏をしていることがあるのだ。

 

 


 ■現代音楽とは何か

こうした、先例に習う傾向が現代音楽に少なからずあることに対して、二人は疑問を抱いている。アサヒは、例えばジャパノイズ というジャンルのように、一聴すると現代音楽と同じような取り組みをしているように思われるものでもそう呼ばれないものを不思議に感じている。
川島は、現代音楽というものは、本来は新しい音楽を求めるということであって、無調であることやリズムの周期性の無さとは関係がないことを指摘した。ポップであろうとなかろうと、新しい試みをすることこそが現代音楽であり、「ケージ的」などというイメージは単なる模倣に過ぎず、現代音楽ではないのだ。
そういった意味では、川島はmacaroomのプロジェクトが、「未だかつてなかったケージ演奏という意味においては、これこそが本 当の意味での現代音楽である」と述べた。

 

<特集>
現代音楽的目線から過去の名盤をジャンルレスに紹介する特集ページを展開中!こちらも併せてどうぞ。

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川島素晴

現代音楽作曲家
国立音楽大学准教授
東京音楽大学 尚美学園大学 講師
ダルムシュタット夏季現代音楽講習会にてクラーニヒシュタイン音楽賞を受賞、他に芥川作曲賞、一柳慧コンテンポラリー賞など。
演じる音楽という独自の視点から、笑いやアクションを交えた作品を数多く発表している。


macaroom

ボーカルemaruと作曲家アサヒによるエレクトロニカ・ユニット。
2016年にリリースしたアルバム『homephone TE』は小説家・高橋源一郎から絶賛され、NHKラジオで紹介される。テレビCM『ハイレゾはmora』タイアップ。
ポップな楽曲を制作しつつ、中国武術、先端科学、文学など、様々な協力者とともに他ジャンルの要素を 巧みに混入している。