「シン・ゴジラ劇伴音楽集」配信開始!

7月29日から公開されている話題の映画「シン・ゴジラ」。

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の庵野秀明が総監督・脚本を務め、「のぼうの城」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の樋口真嗣が監督、同じく「のぼうの城」「進撃の巨人」などで特撮監督を務めた尾上克郎を准監督を務めた。

舞台は関東を中心に、突如現れた”ゴジラ”に政府が立ち向かっていく。
”怪獣映画”とは一言では片付けられない、自然災害をも彷彿させるような描写が多く、容赦なく街を荒らしていく姿には心が痛む人も多いのでは。
現代の風潮もリアルに描かれており、実際災害を受けたらこんな風になってしまうのかと不安と焦りさえ感じられた。

「難しい内容なのでは」、と遠ざかってしまう人もいるかもしれないが、
展開のテンポも良く、屈することなくゴジラに立ち向かっていく登場人物たちや作戦が進行して行くにつれ気付けばストーリーにのめり込んでしまう。


moraでは本日から映画「シン・ゴジラ」内で使用された楽曲集「シン・ゴジラ劇伴音楽集」の配信が開始。

48kHz/24bit高音質となっており、音楽ファンには堪らない仕様になっている。

シン・ゴジラ劇伴音楽集/鷺巣詩郎 伊福部昭

鷺巣詩郎自らが楽曲についての説明を執筆。(公式HPから引用

1) ミキシングについて。
 近年「映画の中で鳴っている映画音楽」と「CDや配信で聴く映画音楽」は、まずオーディオ信号の数が違う。前者は「5.1=6本セット」後者は「ステレオ=2本セット」である。『音楽集』CDの解説にも書いたが『シン・ゴジラ』は「5.1サラウンド音響」における後部からの音声を除いた「3.1音響」という特殊な形態。6本セットのデータのうち後部スピーカーぶんの2本が無音状態になっている。「3.1=4本セット」にしなかったのは、6本セット納品が業界基準ゆえの措置だ。
 音楽を録音したマルチ・トラックから「映画用5.1=6トラック」にミックスダウンしたデータ(セット)を映画スタジオに納品。そこでセリフや効果音と共に演出され、映画全体の音響ミックス最終形が仕上がる。その際に音楽は削除されたり編集されたりもするので、最終形から音楽だけを抜き出し、その6トラックを「サントラCD用ステレオ=2トラック」にステレオダウンして、マスタリング後にCD工場へ納品、サントラCDの完成というのが、ごく一般的な商業映画のポスプロ上の音楽ライン工程である。たとえばオーケストラ演奏が72トラックのマルチ・トラックに録音されたならば「録音→映画用→CD用」まで「72→6→2」とダウンサイジングするようにミキシングを進めるのが、エンジニアリング的にも一番自然な流れだからだ。
 ただし以上は、あくまで「公開2~3ヶ月前までに、その映画の音響ミックス最終形がすでに完了している場合」だけに有効なのが、われわれ庵野組にはツラいところだ。『シン・ゴジラ』の最終音響ミックスが東宝スタジオで行われたのは2016年6月中旬。このスケジュールで映画公開とCD発売日を同時に迎えるためには、なんとCD用ミックスを映画用より先に行わねばならない。
 逆工程の「72→2→6」ではミキシング構造上よろしくない。となれば「72→2(CD)」と「72→6(映画)」別々にミキシングするしかない。そう、じつはこれが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版: 序』以降の庵野=鷺巣作品における、知られざる音楽的な特徴なのだ。
 今回の配信は、もちろん「映画本編どおりの音楽」をお聴きいただくことが最大の目的であるが、こうしたミキシングの差異に耳をそばだてれば、まるで色合いや味わいの変化のような表情の違いを見出すことが出来るはずだ。

2) マスタリングについて。
 ミキシングも違えば、マスタリングも『音楽集』(CD)と『劇伴音楽集』(配信)は、まったく異なる。
 5.1(今作は3.1)であれ、ステレオであれ、あらゆる劇伴音楽のミキシングは鷺巣みずからが手がけるのだが、CDフィニッシュ(マスタリング)については、全幅の信頼をよせるパトリシア・サリヴァン氏にここ10数年間すべて託している。ハリウッドの女王と呼ばれる彼女は、まさにハリウッド作品サントラを総ナメ状態(http://www.allmusic.com/artist/patricia-sullivan-fourstar-mn0000990394)であり、Legendary Pictures版『Godzilla』(2014年)を手がけたことも書き加えておこう。
 当然『音楽集』CDも(23、24、25、26は除いて)パトリシアがマスタリングを施したのだが、この『劇伴音楽集』は東宝スタジオに最終納品した「3.1=4トラック」をステレオダウンしただけだ。それが映画本編に最も近い状態だからである。もちろん伊福部作品は完全にオリジナルのままデータ・フォーマットを揃えただけだ。
 「マルチ→ステレオ→パトリシアによるマスタリング」が『音楽集』。
 「マルチ→3.1=4トラック→ステレオダウン」が『劇伴音楽集』(伊福部作品は除く)。
 以上が、明快な図式である。

3) 「ハイレゾであってハイレゾではない伊福部音源」など、そのフォーマットについて。
 今回の配信フォーマット[24bit/48KHz]については、正直すこし迷った。[96KHz]のハイレゾで配信して欲しいという要望も多かったからだ。
 もし鷺巣作品だけだったら[24bit/96KHz]にしていたかもしれない。しかし光学録音素材をも含むモノラル音源の伊福部作品を無理やり[24bit/96KHz]にフォーマット変換して「ハイレゾでございます」と謳うことは、ある種の欺瞞になってしまう。
 [24bit/48KHz]と決したのは、それが近年「映像における音声の統一フォーマット」だからである。つまり映画の最終ミックス上のフォーマットと同一。モノラルはモノラル、ステレオはステレオ、3.1はステレオダウン・ミックスを施したとしても、映画の中で鳴っている音楽に限りなく近い状態で、皆様にお聴きいただきたいという意図だ。
 あくまで個人の見解だが、ハイレゾの定義は「音が良い」のではなく「余裕がある」ことだと鷺巣は考えている。誤解を恐れずに極論すれば「内容物より収納箱が豪奢」ということ。ミキシングの項でも述べたが、同音声を5.1=6トラック、ステレオ=2トラック、モノラル=1トラックに凝縮しようとするなら、多容量のほうがあらゆる余裕が生ずるのは当然の理ではないか、と。
 しかし音楽というのは「単に耳から信号として脳に伝わる」だけではなく、けっきょく「(音楽の)何かが、人の心に響き、人の心を打ち、人の心を動かすもの」ではないだろうか。
 『シン・ゴジラ』における伊福部昭の楽曲群への大きな反響はそれを証明して余りある。全編[24bit/48KHz]というフォーマットは数値としてハイレゾの範疇に入るが、今回あえて声高にハイレゾと謳わない理由も、どうかご理解いただきたい。

2016年9月 Angouleme(フランス)にて

*伊福部昭氏作編曲音源においては、旧媒体(6ミリテープ)の物理的な劣化により失われた帯域を繊細に修復し、3.1chの立体音響の中で、オリジナルが持つカリスマ性をどう響かせるかを注力しながら、庵野総監督と音楽プロデューサーにより、詳細な音響検証が行われデジタイズされたモノラル音源である。


さらにゴジラシリーズの一作目、1945年公開「ゴジラ」で使用された全楽曲が、シネマ・コンサート用のスコア、完全復刻版ハイレゾにて配信中。

映画「ゴジラ」(1954)ライヴ・シネマ形式全曲集/和田薫 指揮 日本センチュリー交響楽団

FLAC / DSD 

このパッケージでしか聴くことの出来ない貴重な音源も収録され、ゴジラファンには堪らない一枚になること間違いなし。

2016年夏に大きな爪痕を残した映画「シン・ゴジラ」、改め「ゴジラ」の凄さを体感してください。