「佐藤純之介のアニソン天国(パラダイス)」第二回

Side A:アニソンアーティストって?

 みなさんこんにちわ。株式会社アイウィル、音楽制作プロデューサー佐藤純之介です。第一回目からマニアックと評判のmora連載第二回目! お待たせしました!

 前回、アニソンとJ-POPの違いやアニソンがアニメファンに深く愛される所以についてお話したのですが、今回は「アニソンアーティスト」についてお話できればと思います。声優さんがキャラクターの名義でアニメのシチュエーションや心象描写を歌うキャラクターソングに対して、主題歌を担うアニソンアーティストの存在も近年のアニメにとって非常に欠かせない存在です。テレビで流れるオープニングやエンディングの89秒の中で、いかにクオリティ高く映像とシンクロするのか、作品が内包する重要なメッセージやテーマをいかに歌で届けるか、がアニメそのもののヒットにも繋がる可能性を秘めており、時としてアニメそのものの話題以上の注目を浴びる事もある程、アニソンアーティストは非常に重要なポジションを担っています。

 では、どうやってアニソンアーティストがアニメ主題歌を作っているのか?ですが、アニメのプロデューサー、監督、音響監督、レーベルのプロデューサー等様々なアニメスタッフの意見や想いをヒントにしつつ、アーティストの方向性、作品との相性や世界観に寄り添い……と様々な意見を踏まえるのですが、すべてを取り入れるとどっち付かずの楽曲になってしまうので、音楽プロデューサーやディレクターが大事な要素を厳選しアーティストやクリエーターと共にデモソングを作成し改めてアニメスタッフにプレゼン、必要に応じてリテイクに応じたり別楽曲の提案を行い採用を受けレコーディングへと進みます。この際大事なのはとにかくバランス!アニメに寄り過ぎた楽曲だとアーティストの主張が消えてしまい、アーティストに寄り過ぎた楽曲だとアニメとのシンクロ二シティが下がってしまう。これでは音楽としてのクオリティが高く出来たとしても、アニソンとしてはあまり良い結果にはなりません。ただのタイアップソングとしてではなく、絶妙なバランスのすべてを包み込み、アーティストとしての主張とアニメ作品の共通のメッセージを見出し、どちらのファンにも喜んでもらえる楽曲を表現できるのが、評価されるアニソンアーティストの持つ実力であり魅力です。

 私が音楽制作プロデューサーを務めるアニソンアーティスト、fhánaを例に具体的なアニソン制作の裏話をご紹介したいと思います。fhánaは3人のサウンドプロデューサー、佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunagaとボーカルtowanaによる4人組ユニットで、2013年夏にTVアニメ『有頂天家族』エンディング主題歌「ケセラセラ」でランティスよりデビュー。男子メンバーがそれぞれ一人でも楽曲制作出来るだけのスキルを持つ上に、メンバー全員が大のアニメ&ゲームファン!まさにアニソンを歌うために集まったユニットです。彼らのアニメに対する理解力、アニソン制作に対する情熱はとても熱く、作品世界に深く寄り添いすべてを包み込む練られたサウンドとメロディーは業界全体にも評判を呼び、デビュー2年目にして6クール分のアニメ主題歌を担当しています。彼らとの楽曲制作の際に私から提案しているのはスタート地点としてのキーワードと向かうべき方向のみ。TVアニメ『ウィッチクラフトワークス』のOPテーマとなった3rdシングル「divine intervention」では、「魔法」「愛する人を守る」等のキーワードに加え、アニメーション制作プロダクションがバトルシーンの演出や映像のスピード感に定評のあるJ.C.STAFFと言うことで BPMをぐっと早くし、89秒の中で展開を沢山作ることで映像編集ポイントを作りオープニングアニメーションとのシンクロ感を高めれるように作曲をしてもらったり、4thシングル「いつかの、いくつかのきみとのせかい」ではアニメの原作コミック『僕らはみんな河合荘』第4巻の表紙で主人公の律が読んでいる作品世界にだけ存在する架空の本の題名を曲のタイトルとすることで、大きな存在感を示しました。この秋にfhánaがオープニング主題歌を担当するTVアニメ『コメット・ルシファー』のオープニング曲もまだ詳細は言えませんが、これ以上無いほどにアニメへの親和感を表現しているので、発表された暁には制作現場の裏側やアーティストが込めた想いも想像しながら聴いていただけると幸いです。

 と言うわけで第2回目、担当アーティストへの愛ゆえ少し語りすぎましたが、他のジャンルとのアニソンの最大の違いは当然ですがアニメありき。作詞や作曲、編曲をする上で常にアニメ作品のストーリー性、アニメーションの作風を意識することで独自の表現手法が生まれ、まだまだ発展していく新しいジャンルです。新しく登場するアニメ作品の数だけアニソンが生まれていく中でどうやって個性を伸ばしていくのか、リスナーのハートを掴むのか日々トライしています。この連載がキッカケでアニソンに深く興味持って貰える人が増えれば幸いです。ではまた!

 

今日のアニソンハイレゾ!

fhána『Outside of Melancholy』

fhánaの1stアルバム!2013年デビューからのアニメ主題歌5曲を収録。アニソンではない完全書き下ろしのオリジナルの楽曲も多数収録し、全14曲の聴き応えあるアルバムとなっています。関わったアニメの作品世界を一つの世界線に例え、それぞれがすべてfhánaの音楽性そのものと解釈し、軸をブラさない彼らの音楽は時代に囚われない普遍性を持っています。

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Side B:音楽ガジェット紹介!

ROLAND TRシリーズ

電子楽器メーカーROLANDが80年代に発売した私物のドラムマシン各種……。10月から始まるとあるアニメのエンディングテーマで使用。ランダムでエンディング主題歌で使用するドラムマシーンが変わります。誰か気づいてくれるマニアックな人はいるのでしょうか……(大汗)

 


佐藤純之介のアニソン天国(パラダイス)第一回

佐藤純之介のアニソン天国(パラダイス)第三回

 

佐藤純之介 プロフィール

株式会社アイウィル音楽制作プロデューサー。 1975年大阪生まれ。YMOに憧れ90年代後期よりテレビや演劇の音楽制作の仕事を始め、2001年に上京。レコーディングエンジニアとしてJ-POPの制作に参加した後に、2006年アニソンレーベル、株式会社ランティスに入社、2011年ランティスの音楽制作部が独立した株式会社アイウィルに転籍。現在はプロデューサー、ディレクター、エンジニアとしてアニソンを中心に音楽制作に携わる。