日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.31

Vol.31 Theme : 奇跡の軌跡

 

 その早過ぎる死に世界中から哀悼の声が止まないプリンス……彼のペンによる「Nothing Compares 2 U」で知られるシニード・オコナーが、俳優のアーセニオ・ホールに訴えられたり(プリンスにヤクを渡し続けたとFacebookで言い続けたため)、遺産を巡る争いが絶えなかったりと周辺は慌ただしいままだが……今回もプリンスの音楽を振り返り。涙。

 前回紹介した大ヒット作にして生涯の代表作『Purple Rain』の発表後、普通なら世界的な大ツアーに出て、更にアルバムを売ったりグッズを売ったり、もちろんチケットも売り切れ続出になるに決まってるんだから、まさにアーティストにとっては一攫千金、確変突入のダメ押しチャンスを迎えるはずだったプリンスだが……さすが殿下は違う。ツアーには一切出ずに、何と売り上げ全てを注ぎ込んで自主スタジオ<ペイズリー・パーク>を建設。とっとと次作のRec.に入る……さすが天才! そもそも金儲けが目的じゃないのだ。己の身の丈を判ってるよね……なんでもかんでも売り上げ第一みたいなアーティストやクソ業界人はプリンスの爪の垢を煎じて飲め、アホ。

 そんでそのアルバム『Around The World In A Day』は、もちろん前作の延長線上にありつつも……なんとテーマは<サイケ>。というか<ビートルズ>!? プリンス流60’s POPが大炸裂した、これまた傑作……ファンキーさを残しつつもキャッチーなメロやシンガロング必至のサビ等、プリンス流の3ミニッツPOPがこれでもかと満載。ブラック・ミュージック特有の粘っこさや泥臭さが苦手な人は、こっから聴くと入り易いかも……いや、そんな奴はブラック・ミュージック聴かんでもよろし、か。とにかく先行シングル「ラズベリー・ベレー」のさり気ないフックや、「アメリカ」での辛辣な歌詞等、全然ブレてない殿下が楽しめる一枚。

 

Around The World In A Day
※画像クリックで購入ページへ

 

 POP路線は次作『Parade』でも続くものの、またまた自身主演・監督・音楽による映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』を撮り、そのサントラとして発売されたため一般の評価は低い(もちろん映画は酷評の嵐だったので)。映画の出来はたしかに最高とは言い難い……っつか「パープル・レイン」も含め、基本PVの延長線上の物として楽しむ分にはモウマンタイ(無問題)なんだけど、いかんせん映画大国アメリカでは映画に対する姿勢が俄然シリアスなのでね……でもシングル「Kiss」はいまだにカヴァーされ続ける名曲だし、全体的にメロウな殿下も最高な一枚。

 

Parade
※画像クリックで購入ページへ

 

 反省した(?)プリンスは次作『Sign ‘O’ The Times』を2枚組の、シリアスめな大作として発表。殿下特有のミニマルな打ち込みや、重めのファンクが炸裂しており、これをプリンスの最高傑作とする声は多い。とはいえシーナ・イーストン(80’sイギリスの歌姫。プリンスの秘蔵っ子で超絶パーカッショニスト、シーラ・Eと混同しないように)をフィーチャーしたシングル「U Got The Look」を始め、「Play In The Sunshine」や「Starfish & Coffee」等POPな曲も目白押し。やっぱ大天才。

 

Sign ‘O’ The Times
※画像クリックで購入ページへ

 

 その後も年一、あるいは2年に一枚は必ずアルバムを発表する多作っぷりは凄まじく、その溢れ出る創作意欲は尽きることを知らない……しかも『Diamonds and Pearls』とか『Love Symbol(※)』等、90年代に入っても超絶かっこいいシングルからのアルバム、みたいな流れは途絶えないし、2000年代も『Musicology(※)』等ヒット作にして傑作をちゃんと残し続けているし……晩年の作品ももちろん悪いどころか、超絶に良い。言わずもがな、なプリンス節が貫かれてるし。途中で改名騒ぎがあったり、ワーナーと揉めてからは作品の販売方法が独自過ぎて面倒臭がられたり、すぐ脱いだり(笑)……トラブルも多々ありながらも、これだけブレずに表現を続け、そしてブレずに愛されたアーティストも珍しい。富や名声以上に、ただひたすらに良い音楽をクリエイトする事だけに専念したプリンスという奇跡。作品そのものと同じように、常に尖り続けていた殿下の軌跡を聴かないのは大いなる損失でしかない……もう二度と出会えないかもしれない大天才の傑作の数々を、この機会にチェックすべし。

 

Diamonds And Pearls
※画像クリックで購入ページへ

 

作品名に(※)と表記のあるものは配信なし

 


 

【日高央 プロフィール】

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。