牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第27回

第27回:ドン・マクリーン「アメリカン・パイ」

〜AB両面のシングル、収録アルバムも素晴らしく〜

 

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 CD世代の人は分からないと思うが、アナログ・レコードの時代、シングル盤は誰もが通る道であった。まずはシングルで自分の好みのバンドやシンガーを見極めて、清水の舞台から飛び降りるくらいの決心で最初のLPを買う。これが通過儀礼だったと思う。

 ただシングル盤でヒットチャートを追いかけるのは、それはそれで素晴らしい聴き方である。僕の場合はちょうど70年代の初頭で、ポール・モーリアの「エーゲ海の真珠」とか、ミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」などが思い出深い。

 そんな思い出のシングル盤の中でダントツの存在が、71年暮れから72年始めにかけて大ヒットしたドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」である。

 

 なぜかというと、1曲がシングル盤の片面に収まらないで、A面とB面に分割されて収録された大曲だったからだ。A面が「アメリカン・パイ パート1」、B面が「アメリカン・パイ パート2」。これが中学二年生の“シングル小僧”には「スゲー」となったわけである。

 だから当時はとても長い曲に思えたのであるが、今、オヤジになってから買ったシングル盤が手許にあるので調べてみると、A面が4分13秒B面が4分34秒。合わせて8分47秒である。それほどでもないと思う。長い曲として有名なビートルズの「ヘイ・ジュード」でもシングルの片面に入っていたから、両面に分けなければ入らない、ということだけで凄いと思っていたのだろう。

 ただシングルの印象があまりに鮮烈だったので、LPの『アメリカン・パイ』まで聴きたいとは思わなかった。僕がアルバム全体を聴いたのは、実に21世紀になってからで、輸入盤のCDで聴いたのが始めてである。そこで「ヴィンセント」などの名曲を聴いて、ようやくアルバムの『アメリカン・パイ』も素晴らしいと知ったのだった。 

 ちなみにアルバム収録の(本来の)「アメリカン・パイ」はシングルよりも13秒短い。シングルはレコード面をまたぐのに違和感がないように、切れ目で編集を施しているからだと思う。でもA面のフェイド・アウトとB面のフェイド・インが繋がっていなくて、これも苦肉の策だったのが分かる。いずれにしても「アメリカン・パイ」は聴き惚れてしまう曲なので、アルバムの正規バージョンでもあっという間に終わってしまう。今シングルでは欲求不満になって聴くことができない。

 

 ここでハイレゾの「アメリカン・パイ」の話に入ろう。このエッセイを書くために、シングル盤やCDも取り出して聴いたので、今回はハイレゾの音質の違いが分かりやすかった。

 シングル盤の音は中域から低域に厚味があり、とりあえずはアナログ・サウンドである。ただ“高音質のアナログ・サウンド”までいかないのは、解像度が弱くてモコモコ感があるからだろう。オーディオ・ファイルの言葉で言えば「ダンゴ風」というか。惜しい。

 対してハイレゾやCDの音は、シングル盤のアナログ・サウンドとは大分違う響きである。まずモコモコが消え、すっきりとクリアな音になる。しかしCDではやはりエッジがキツい。ハイレゾはクリアながらも、きめ細やかなサウンドになっている。シングルのアナログ感もこれはこれで嫌いではないが、モコモコ感に気を取られない分、それからアルバム全体を聴き通すなら、ハイレゾの音質がベストだと思う。

 

 Don McLean
『American Pie』

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牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト