牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第31回

第31回: スウェード『Night Thoughts』

〜ハイレゾで堂々とスウェードを聴くオーディオ・オヤジ〜

 

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 1990年代にブリット・ポップというのが人気になった。僕はブリット・ポップについては詳しくはない。ただ何となくオアシスとかブラーに手を出したのだった。オアシスは好きになれたけど、ブラーは自分には合わないなと思った。

 オアシス以上に聴いたのはスウェードかもしれない。ファーストの『スウェード』からサードの『カミング・アップ』までよく聴いた。ブレット・アンダーソンの耽美的なヴォーカルとダークな雰囲気が好きだったのだ。

 しかし僕のような中年になろうとしている男がスウェードのCDを買うのははばかられた。タワーレコードのおねえさんの「オアシスの新作『ホワットエヴァー』いいですよ!」とオジサンをいたわる笑顔には耐えられても、スウェードのCDをカウンターに持っていくのを見られるのはマズかったでしょう。耽美的でないオジサンが、淫靡なジャケットの『スウェード』と『ドッグ・マン・スター』を手に持っていたので変態に思われたのではないか。

 その頃テレビでスウェードのライヴを観たことがある。世代がぐっと下の若者だらけなのが気まずかった。ロンドンの小さなクラブに、日本のひとりオジサンが混ざっている姿が浮かび、若者たちに見つかる前にそそくさと(想像の中で)外に飛び出したのだった。

 

 そのロンドンに住んでいた知人が日本に帰ってきた時に、「オアシスやスウェードが好きなんだよね」と言ったことがある。僕と同世代である知人は大笑いして「そういうの、ロンドンでは子どもが聴くものだよ!」と一蹴された。若者から見ればアラフォーの僕や知人はオジサンであり、オジサンから見ればティーンエイジャーは子どもとなる。こりゃ、ますます、オジサンは困った。

 その後スウェードは解散したので、スウェードのことは墓の中まで持っていけばいいかと思っていた。しかし再結成して2013年に『ブラッドスポーツ』を出す。「これ以上聴いちゃいかん」と思いつつも聴いてみた。もし同窓会的な音楽だったら決別するつもりだった。しかし“スウェード節”は健在で、現役時代が続いているかのようであった。

 

 そして今年2016年に通算7作目の『Night  Thoughts』が発表された。さすがにブリット・ポップ世代もオジサン、オバサンだろう。僕が堂々とスウェードを聴いてもおかしくない。『Night  Thoughts』がハイレゾで配信されたのだから、なおさらオーディオ・オヤジは堂々と聴いてよろしい。

 『Night  Thoughts』はうれしいことに、これまでのスウェードで一番好きなアルバムに思える。重厚なストリングスで始まるところからしてダーク感が漂う。ブレット・アンダーソンのヴォーカルも歳を感じさせず耽美的である。「No Tomorrow」や「Like Kids」は大ヒット曲「トラッシュ」を思わせるスウェードらしいポップ・チューンだ。

 

 オーディオに話を移すと、スウェードは昔から中域が豊かではなく、高域がハイな音作りだ。ハイレゾの『Night  Thoughts』でもその傾向は同じである。もちろんそれでOKだ。アナログっぽい、中域が豊かな音になったら「スウェードの世界」ではなくなる。

 しかし金属的な衣をまとったサウンドが出てきても、音が伸びやかなのはハイレゾの良さだろう。音の出方に交通整理ができているから高域よりの音が今まで以上に楽しめる。ハイレゾで「スウェードの世界」に浸ろう。

 

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『Night Thoughts』

FLAC|96.0kHz/24bit

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト