牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第33回

第33回: ジェフ・ベック『ワイアード』

〜ハイレゾでギター・インストの真打ち登場〜

 

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 3大ロック・ギタリストのひとり、ジェフ・ベックの高音質化が今年は話題である。高音質ファンの間では“ジェフ・ベック・ブーム”がおきていると言えなくもない。

 このブームのもとは、ソニーミュージックがリリースしている日本独自企画の〈SACDマルチ・ハイブリッド・エディション〉である。いろいろな特典もさることながら、高音質ファンにはSACDに収録された2chステレオと「クアドラフォニック」(4chミックス)を5.1chに落とし込んだマルチチャンネルが魅力なのだ。

 シリーズではこれまで『ブロウ・バイ・ブロウ』『ジェフ・ベック・グループ』(通称“オレンジ”)、『ベック・ボガート&アピス』が発売されてきた。ある音楽ジャーナリストさんから聞いた話ではセールス的にはとても良かったらしい。ここに具体的な数字は書かないが、音楽ソフトの売上の低迷がとりざたされる中、CD以上にSACDが人気を集めたことに驚いてしまった。

 その最新作が『ブロウ・バイ・ブロウ』と並ぶ人気の『ワイアード』だ。この〈SACDマルチ・ハイブリッド・エディション〉も「予約で人気みたいですよ」とオーディオ好きの人から聞いた。このようにジェフ・ベックの高音質盤に関しては、とにかく熱い肉声を聞くことが多い。「ジェフ・ベックって、ギター小僧が好きなだけではないんだなあ」と今更ながら気づいた。それもオーディオ好きにも人気があることが証明されたのだ。やはり3大ロック・ギタリストのひとりだけある。

 ということで『ワイアード』である。〈SACDマルチ・ハイブリッド・エディション〉の発売とあわせてハイレゾ(FLAC 96.0kHz/24bit)でも配信された。同時に『ジェフ・ベック・グループ』のハイレゾも配信。『ブロウ・バイ・ブロウ』はすでに配信済みだから、ハイレゾでもジェフ・ベックのブームが押し寄せてきた感がある。

 さっそく『ワイアード』のハイレゾで聴いてみると、1曲目の「レッド・ブーツ」から力強い音に圧倒された。耳に柔らかいハイレゾのはずなのに、まるでCDのような音圧だ。特にドラムとベースが凄い。『ワイアード』は『ブロウ・バイ・ブロウ』と並んでギター・インストの傑作として知られているが、主役なのはギターだけではないのだった。ドラムとベースがオーディオ的にも主役級の音量と音場を与えられているので、白熱の演奏になる。

 しかしこの音圧でも圧迫感がないところがハイレゾの素晴らしいところだ。音のエッジや減衰するところに解像度を感じる。メタルな質感を持つ音ながら、ハイレゾではアナログ・ライクな厚味があるから冷たく感じない。

 主役と言えば、元マハビシュヌ・オーケストラのヤン・ハマーの弾くシンセサイザーも主役である。ギターのようにウネリまくる演奏は、まるでジェフ・ベックとツイン・リードギターを奏でているかのようである。このヤン・ハマーのカラミがあるから、『ワイアード』がギター小僧以外にも愛されるアルバムになっているのかもしれない。

 そしてやっぱりジェフ・ベック。ドラム、ベース、シンセサイザーが強力な存在感を出す音場のなかでもぜんぜん負けていない。一歩抜き出るソロをとることもあれば、ある所では溶け合ったりと、鳥のさえずりのように多彩なギター・プレイを聴かせる。まさにハイレゾでギター・インストの真打ちの登場であろう。

 

 Jeff Beck

『Wired』

FLAC|96.0kHz/24bit

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト