牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第37回

第37回: ビリー・ジョエル『The Essential Billy Joel』

〜ハイレゾでアメリカン・ロックの楽しさを〜

 

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 今回はビリー・ジョエルのベスト盤『The Essential Billy Joel』のハイレゾである。ビリー・ジョエルのベスト盤はこれまでもいろいろ出ていたけれど、本作は1973年の「ピアノ・マン(原題: Piano Man)」から始まり、2001年のクラシック作品「Invention In C minor」まで、全キャリアが年代順に並んでいるところがミソである。

 ビリー・ジョエルは現在ライヴ活動を活発におこなっているものの、ずっとポビュラー音楽としての新作は発表していない。わずかにクラシック系のアルバムを発表しただけである。ひょっとしたら、いつか新作が聴ける日が来るかもしれないが、今のところはビートルズやサイモン&ガーファンクルのように残されたアルバムを聴くしかない。

 しかしそこは時代を超えた名曲ばかり、『The Essential Billy Joel』を聴いていると、ビリー・ジョエルの曲が自分の人生に深くシンクロしていることを強く感じてしまう。僕が音楽を聴き始めた頃、既に解散していたビートルズやサイモン&ガーファンクルとちがって、ビリー・ジョエルはほとんどがリアルタイムで聴いてきたからだろう。

 『ニューヨーク物語(原題: Turnstiles)』や『ストレンジャー(原題: The Stranger)』『ニューヨーク52番街(原題: 52nd Street)』からの楽曲は、まぎれもなく僕の青春の思い出だ。二十歳前後によく聴いていたレコード盤やカセットが目に浮かぶ。80年代に入っての『ソングズ・イン・ジ・アティック』は兄貴のレコードで聴いた。

 その後の『グラス・ハウス(原題: Glass Houses)』『ナイロン・カーテン(原題: The Nylon Curtain)』『イノセント・マン(原題: An Innocent Man)』は発売時にLPこそ買わなかったものの、FMで聴いたり、レコード店を覗けば耳に入ってきた。まるでレコードを聴きこんだかのように自分の身体に染み込んでくる。それが80年代という時代だった。

 続く『ザ・ブリッジ(原題: The Bridge)』『リヴァー・オブ・ドリームズ(原題: River of Dreams)』は音楽雑誌の表紙になるほど話題作であり、問題作だった。この2作とデビュー時のアルバムが僕にとっての「後追い」になったけれども、これらの曲も昔から親しんでいたような錯覚を覚えた。結局ビリー・ジョエルの全キャリアがアメリカン・ロックの古典であると同時に、僕にとっても親しい音楽であったと、このベスト盤を聴いてつくづく実感したのである。

 オーディオに話を移すと、これまでレコードやCDでビリー・ジョエルを聴いてきて、不思議と音質に不満を持ったことはなかった。それがたとえ、エアチェックしたカセットであってもである。曲が素晴らしいだけでなく、アレンジや音作りが優れていたからだと思う。どんなメディアで聴いてもアメリカン・ロックの楽しさがストレートに伝わる、それがビリー・ジョエルの素晴らしいところだ。

 それでもハイレゾはレコードやCDで聴いていたよりも、さらに楽しく聴けた。音質はクッキリとして迫力があるし、解像度もあるだろう。しかし何がどう高音質になったというよりも、アメリカン・ロックの本質が現実の音として体現化されたところが、このハイレゾの楽しさだ。

 これまで「素顔のままで(原題:Just the Way You Are)」のような余情的な曲を好んで聴いてきたけれど、ハイレゾでは「ガラスのニューヨーク(原題: You May Be Right)」のようなロックン・ロールが新鮮に聴けたのである。もちろん「シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン」のようなバラードも味わい深い。ビリー・ジョエルの名曲の数々は幾多のメディアを経て、ハイレゾでより普遍的に輝くにちがいない。

 

The Essential Billy Joel/Billy Joel

The Essential Billy Joel

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牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト