牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第41回

第41回: サンタナ『ロータスの伝説』

〜44年を経て完全版となった『ロータスの伝説 (完全版)』の歩き方〜

 

 

『ロータスの伝説』はサンタナの1973年の来日公演を収めたライヴ盤だ。70年代に制作された洋楽アーティストの“ライヴ・イン・ジャパン”の中では、ディープ・パープルの『Made In Japan』と並ぶ名作である。どちらも日本発でありながら、世界的な評価を得て海外発売になったことでも共通している。

その『ロータスの伝説』がようやくハイレゾ化された。それも未発表音源を加えての「完全版」である。配信はFLACのほかにDSD(DSF)が用意されている。まさにオリジナルから44年を経て、至れりつくせりのリリースだ。

しかし何ぶんオリジナルLPでも3枚組、今回の「完全版」はさらに7曲(35分)を追加しているので長丁場である。ここは長年聴いてきた者として、少しでも親しみやすくなるよう“『ロータスの伝説 (完全版)』の歩き方”を書いてみよう。

 

初めて聴く人にとって、聴き所はズバリ2カ所だ。

 

ひとつは「瞑想」(トラック1)から「僕のリズムを聴いとくれ」(トラック7)まで。

会場がシーンとしているだけの「瞑想」をハイレゾで聴いてもと思うが(笑)、「瞑想」があってこその『ロータスの伝説』だ。聴く方も黙って1分、待つべし。

1分間の瞑想のあと「家路(ゴーイング・ホーム)」で厳かに始まるや、のっけから怒濤のサンタナ・ワールドに突入である。「ブラック・マジック・ウーマン」「僕のリズムを聴いとくれ」などの名曲がスタジオアルバムの数倍の迫力で演奏されていく。これでサンタナの凄さ、楽しさを味わってほしい。

 

もうひとつの聴きどころはコンサートの終盤である。

「君に捧げるサンバ」(トラック24)から、ラストの「ネシャプールの出来事」(トラック30)まで。「君に捧げるサンバ」「祭典」「ネシャプールの出来事」といった大曲はライヴならではの迫力と即興演奏に満ちている。

なかでも16分に及ぶ「ネシャプールの出来事」はアルバムを締めくくる大トリだ。途中カルロス・サンタナの“泣き”のギターは、そっとビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」を奏でる。他にも「マイ・フェイヴァリット・シングス」や、サンバ「ブラジル」などが挿入される。この遊び心がライヴらしくて最高。

バンドも怒濤の盛り上がりをみせ、ラテン・ロック、ジャズ・ロック、フュージョン、すべての要素がつまった熱演を展開する。ここでもチック・コリアの名曲がワンフレーズ飛び出してくるからお聞き逃しなく。

 

初めて『ロータスの伝説』を聴かれる方は、以上の2カ所をまずは散策してみてはどうか。これでもLP2枚分くらいの長さがあるけれど。

 

一方、古からのファンには中間部が聴き所だ。完全版になったことにより、オリジナルLPより段違いに“味わい度”が増したのだ。中だるみしなくなった。「実際はこんな演奏もやっていたんだ!」と驚かれること間違いなし。

もちろん初出でカットされた曲だから最重要なものではない。しかしこれらの音源が加わることで全体の流れが自然になった。そうなると既出の曲もさらに輝く。やっぱりライヴというのは全体構成も演奏の一部だと分かる。

 

最後にハイレゾの音質について書こう。僕が聴いたのはDSD(DSF)である。

 

ハイレゾは音質も“大人のロック”である。音圧で聞かせる音ではない。サンタナの演奏は迫力がありワイルドでも——こう書くと語弊があるかもしれないが——音質は繊細である。オリジナルのアナログサウンドを数段グレードアップした感じだ。

ダイナミックレンジが広いから自ずとヴォリュームを上げて聴くことになる。ラテン・パーカッションの粒立ちの良さも聴き所だろう。

ハイレゾでは一気に全トラックが聴けるところも忘れてはならない。これはオリジナルLPやCDでも不可能だった。なかなかやれるものではないが、一気に聴けば約2時間30分。本当のライヴを再現しているのに近い。そう考えるとハイレゾこそ「完全版」にふさわしい。

 

 

サンタナ『ロータスの伝説 (完全版)』

DSD 2.8MHz 試聴・購入

FLAC 96.0kHz 試聴・購入

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト