タイチマスターの「サンプリングは文化です。」第2回
この連載では古今東西のサンプリング・ミュージックにスポットを当て、サンプリングを使った楽曲とその元ネタとなった楽曲をABC順にペアでご紹介していきます。初回の反響がとても大きく嬉しい限り。今回も楽しいサンプリングのお話をしていきましょう。
Aの続きで今回はJungle Brothersの“Acknowledge Your Own History”を。Jungle BrothersはAfrika Baby Bambaataa、Mike G、Sammy Bの3人組で 、De La Soul、A Tribe Called Questと並んでNative Tongues一派を代表するグループです。アフリカ回帰を掲げ、ファッションもそれまでのヒップホップの金ピカマッチョなイメージとは全く違うエスニックなテイストで、独自の存在感を放っていました。この曲は、彼らの2ndアルバム『Done By The Forces Of Nature』（89年）に収録されていて、女性シンガーのVinia Mojicaがゲスト参加しているソウルフルな楽曲です。 前作『Straight Out The Jungle』が大ヒットを記録し一躍人気者になった彼らですが、このアルバムはより一層アフリカ回帰志向が強くなり、かなりディープなサウンドになって前作ほどのヒットはしませんでしたが、その音楽性の高さからヒップホップの歴史上の名盤としての評価は非常に高いです。
『Done By The Forces Of Nature』
※“Acknowledge Your Own History”はM6に収録
元ネタはRoy Ayersの“Black Family”という曲。アメリカのヴィブラフォン奏者でありジャズとファンクを融合させた音楽を生み出した第一人者として有名なRoy Ayers。レア・グルーヴとしてDJ達が再評価し、未だにクラブでレコードがプレイされるなど高い人気を誇っているミュージシャンです。そんな彼のアルバム『Lots of Love』(83年）に収録されているこの曲。イントロのギターフレーズをサンプリングして、そのままループしていますね。ピッチは少し落としてますが、89年なので前回の連載で書いたチョップ＆フリップというテクニックはまだ発見されていない時代です。
（moraでの配信はないため動画サイトへのリンクを貼っています）
そして、このJungle Brothersの『Done By The Forces Of Nature』というアルバム、実は日本と深い関わりがあるのです。なんとアルバム全体のプログラミング（サンプラーでサンプリングしてループして、シーケンサーに打ち込む作業）を日本出身のミュージシャン、テイ・トウワが手がけているのです。日本の美大を卒業後、まだ無名だった氏がニューヨークでDJの武者修行をしている頃に、アルバイトでデザインの仕事もしていてJungle Brothersの12インチ・シングルのジャケットをデザインすることになったそうで、その打ち合わせでスタジオを訪れた際にJungle Brothersのメンバーがサンプラーなどの機材の使い方に四苦八苦している様子を見て「僕ならもっと簡単にサンプリングできるよ」と声をかけ、結局このアルバムのプリプロ（レコーディング前の曲作り作業）はほとんどテイ・トウワの自宅マンションで行われたそうです。
ちなみにアルバムのタイトル曲である“Done By The Forces Of Nature”は日本のサンプリング・マエストロ、ヤン富田が当時日本でDJの教則用にリリースしたレコードをテイ・トウワがメンバーに紹介し、それをそのままサンプリングしています。ヤン富田のサンプリング・センスは当時世界的に見ても最先端の域に達していて、氏のインストゥルメンタルのレコードを聴いて衝撃を受けたイギリスのジェームス・ラヴェルという若者が「こういう曲を出すレーベルを作りたい」とWo’Waxというレーベルを立ち上げ、トリップホップと呼ばれる一大ムーヴメントを巻き起こすことになるなど、サンプリング・ミュージックにおいて日本のミュージシャンが世界に与えている影響は少なくありません。そんな話も追々この連載のなかでしていきましょう。ではまた！
［執筆者プロフィール］
タイチマスター (DJ/Producer)
1995年にインディーズ・レーベルadjustmentを立ち上げ、KREVAが在籍していたユニットBY PHAR THE DOPESTやKICK THE CAN CREW、アルファらを続々とデビューさせ日本のヒップホップ・シーンに多大な影響を与える。2005年にケツメイシRyojiやライムスター宇多丸、ハナレグミ、MEG、LITTLE、G.RINAなど多彩なゲスト・ボーカルを迎えた自身初のオリジナル・アルバム「DISCO-NNECTION」でEMIよりメジャー・デビュー。近年はTOKYO No.1 SOULSETのBIKKEらと共に新ユニットHELクライムを結成し、2014年にアルバム「地獄」をリリース。その他にもナマコプリや大森靖子など様々なアーティストのサウンド・プロデュースやリミックス、アニメのサウンド･トラック制作などで精力的に活動中。
