
ライター 原田和典が選ぶ30枚
ジャミロクワイが7年ぶりの新作を出したからか、Suchmosが一大ブレイクを果たしたからか。ダフトパンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』が流行した2013年(もう、そんなに前なのか)あたり、だからといって「アシッド・ハウスが~」という声はほとんどなかったように記憶する。
アシッド・ジャズという言葉の登場には諸説ある。ぼくが好きなのは以下のエピソードだ。おそらく1986年のある日、DJのジャイルス・ピーターソンは、米国テキサス州のファンク・バンド“Mickey and the Soul Generation”の稀少な7インチ・レコードを、回転速度を変えてかけた。変調されたギターのイントロがフロアに幻想的に響き渡った。それを聴いたDJ仲間のクリス・バングスは、すかさずマイクをとってこう言い放った。“あれ(=前にかかっていた曲を示すと思われる)がアシッド・ハウスなら、これはさしずめアシッド・ジャズだな”。つまり当初は「妙な音楽」に対する、風変わりな形容であった。
これがいかに、ダンス>じっくり座って聴く、ドライブ>じっくり座って聴く、ヴォーカルのメロディ重視>楽器の即興重視の、“ソウル・ミュージック、ジャズ・ファンク、ヒップホップ、ブーガルーなどを混ぜ合わせたオシャレな音楽”と同義語になっていくのかについては稿を改める必要があるが、とにかくどこかの国で平成という元号が終わりに近づこうと、同じ頃にUKで発祥したアシッド・ジャズは旺盛そのもの、今もファンを拡大して発展している。30年もの間、各時代の若者に支持され続ける音楽カテゴリーなど、そうあるものではない。
本稿ではアシッド・ジャズ30周年を記念して、「アシッド・ジャズの起源」的なアフリカ系アメリカ人アーティストの作品を含む配信音源全30作品を選んでみた。いまもなお現役で、来日公演を頻繁に行なっているアーティストも少なくない。これらのサウンドに耳を傾けると同時に、ぜひライヴの現場に行ってアシッド・ジャズの音の渦に飲み込まれてほしい。
※アルバムのリリース順

Holiday For Skins
1曲目「ザ・フィ―スト」再生時、背後のプロジェクターに点滅されている「ACID」の文字に注目したDJクリス・バングスが“アシッド・ジャズ”と叫んだこともあるという。一度は聴きたい古典中の古典。
Attica Blues
ジョン・コルトレーン(フライング・ロータスの叔父)とも共演経験のあるサックス奏者、シェップの人気盤。ガリアーノがサンプリングしたタイトル曲、ニコラ・コンテがカヴァーした「クワイエット・ドーン」等を収録。
Black Byrd(ハイレゾ)
50年代から活動を続けてきたジャズ界の重鎮が、R&B/ファンクに本格的に踏み込んだ記念碑的作品。マイゼル兄弟が携わったメロウな音作りに、バードのダミ声ヴォーカルが絶妙に絡む。
Everybody Loves The Sunshine
メロウでファンキーでどこかエロチック、そんなヴィブラフォン奏者/歌手ロイ・エアーズの魅力が爆発した大傑作。タイトル曲は2004年、ロイとエリカ・バドゥのコラボでリメイクされている。
Working Nights
'84年にデビューした男性二人+女性一人ユニットのファースト・アルバム。中心人物のサイモン・ブースは、ここに入っている「Stella Marina」を“史上最初のアシッド・ジャズ”と考えているという。
Cafe Bleu
ポール・ウェラーはアシッド・ジャズではなくモッズのアーティストだといわれそうだが……。ジャズのクールな部分を出汁にした飛び切り洒落た音楽。「ザ・パリス・マッチ」にはエヴリシング・バット・ザ・ガールも参加。
Wait A Minute
略称“JTQ”。ファンキーなオルガン・サウンド一筋に活動を続ける彼らが、結成翌年にリリースした1stアルバム。「スタスキー&ハッチ」には元ジェームス・ブラウン・バンドの面々も客演している。
Closer To Home(Remixed)
チャーリー・ワッツ(ローリング・ストーンズ)との共演でも知られるロンドン出身のサックス奏者が、自身のジャマイカン・ルーツを全開にした一作。伸びやかな吹奏が、レゲエのグルーヴに映える。
Talkin' Loud 1990-1994
Various Artists
アシッド・ジャズを象徴するレーベル、トーキング・ラウドの名曲てんこ盛り。ヤング・ディサイプルズ、K-クリエイティヴ、カーリーン・アンダーソン、インコグニート等の極めつけのナンバーが楽しめる。
A Joyful Noise Unto The Creator
アシッド・ジャズの伝道師といっていいであろうユニット、ガリアーノ(97年解散)の傑作。重鎮サックス奏者ファラオ・サンダース「プリンス・オブ・ピース」のカヴァーは、ファラオ再評価にも貢献したはず。
結晶
現在も田島貴男のソロ・ユニットとして継続しているが、バンド編成の頃の疾走感は格別。ヴィブラフォン奏者ジョニー・ライトルの「セリム」を下敷きにした「ミリオン・シークレッツ・オブ・ジャズ」は必聴。
Jazzin'
日本の重鎮クラブDJ3名が結成したユニット、その第1弾。UKの音楽誌「ストレート・ノー・チェイサー」でも賞賛された「ザ・ラウド・マイノリティ」等、疾走感あふれるナンバーが続く。
Tribes Vibes & Scribes
アシッド・ジャズの代名詞的グループ、初期の決定盤。スティーヴィー・ワンダー「ドント・ユー・ウォリー・バウト・ア・シング」のカヴァーやインスト「コリブリ」など、今も彼らのライヴに欠かせない定番を収録。
There's Nothing Like This
コートニー・パインとの来日も迫る人気UKソウル・シンガーの出世作。大半の楽器演奏やプログラミングも自身で担当、マルチな才能を遺憾なく示す。バック・コーラスにはキャロン・ウィーラーも参加。
Emergency On Planet Earth
先行シングル「トゥー・ヤング・トゥ・ダイ」等を含む、今なお刺激的な第一弾。“90年代に生まれた最高のUKソウル・アルバム”との声も高い。最新作との聴き比べもお勧めだ。
Jazzmatazz Volume 1
伝説的ヒップホップ・デュオ“ギャング・スター”のグール―(2010年逝去)によるソロ・プロジェクトの第1弾。コートニー・パイン、ロイ・エアーズなどジャズメンのプレイと、ラップの白熱の出会い。
Hand On The Torch
ジャズの名門レーベル“ブルーノート”の音源を思う存分サンプリングして制作された、UKヒップ・ホップ・ユニットのベストセラー作品。「カンタループ」をどこかで一度は耳にした人も多いはず。
The Antidote
2014年に急逝したジャマイカ系英国人ギタリストの出世作。マイルス・デイヴィスの代表曲「ソー・ホワット」をファンキー&ダンサブルに料理し、90年代アシッド・ジャズ隆盛の一翼を担った。
Blowout Comb
活動休止とリユニオンを繰り返す米国産ヒップホップ・ユニットの第2弾。ロイ・エアーズ、グラント・グリーン、ヘッドハンターズ等の音源をサンプリングし、スタイリッシュな世界を繰り広げる。
jazz brat
秋吉敏子(ピアノ)とチャーリー・マリアーノ(サックス)を両親に持つサラブレッドが95年に発表したフル・アルバム第3弾。声域の広さと美しい英語発音を生かした「Rainy Daze」が圧巻。
MG4
91年にバンド形式で発足、96年から大沢伸一のソロ・プロジェクトとして活動中。エンディア・ダヴェンポート、bird、アメール・ラリューらをシンガーに起用し、高揚感あふれる世界へいざなう。
Worldwide 3
カリスマDJ/プロデューサー、ジャイルスが卓越したセンスを発揮した一作。元ガリアーノのメンバー率いる2バンクス・オブ・4、ロイ・ハーグローヴのRHファクターらの楽曲を見事につなぎ合わせる。
Welcome to the Best Years of Your Life
ジャイルス・ピーターソンのレーベル“ブラウンズウッド”から彗星のごとく飛び出した逸材のファースト・アルバム。ドラムンベース調から詩的なバラードまで、幅広い音楽性が詰め込まれた逸品。
PRIVATE EDITS
野崎良太のプロジェクト、Jazztronicが2007~11年に制作したナンバーを野崎自身が2016年にエディット/リミックスした作品集。エッジの立った鍵盤の音色やサウンド・メイキングを、ハイレゾで楽しんでほしい。
Kyoto Jazz Massive 20th Anniversary KJM PLAYS~Contemporary Classics
V.A.
DJやライヴ・セットで国際的に活躍するユニットの20周年記念作。「Find a Way」のベース、コーラス、打楽器の絡みに酔いしれる。トーキング・ラウド等のジャケットを手がけたSwiftyがアートワークを担当。
THE BRAND NEW HEAVIES presents THE ELEPHANT In The Room
歌姫エンディア・ダヴェンポートを輩出したアシッド・ジャズの超名門ユニットが、インストゥルメンタルによる新曲のみで構成した会心作。ファンキーで分厚いバンド・サウンドは、ハイレゾで聴くと迫力倍増。
NEW YORK AFTERNOON
アシッド・ジャズ・レーベルの名パーカッション奏者にして、エイミー・ワインハウスやパティ・オースティンなどのサポート経験も持つスノウボーイの近作。躍動感あふれるリズムを全編にわたって聴かせてくれる。
Guess Who?
ジェイ・ケイ(ジャミロクワイ)を彷彿とさせる歌声、磨き抜かれたメロディ・ライン、浮遊するコード(和音)感に鳥肌が立つ。謎の男、JQが中心となった流動的ユニットによるセンセーショナルな作品。
THE KIDS
今を時めく6人組グループの、最新会心作。大ブレイクのきっかけと言っていい「STAY TUNE」やメンバー自ら「アシッド・ジャズをちゃんとやってみた曲」と語る「PINKVIBES」を、ぜひハイレゾで浴びてほしい。
Automaton
約7年ぶりの新アルバム。「これが今のジャミロクワイだ、ジェイ・ケイだ、よく聴け!」と、頼まれてもいないのに喧伝したくなる。熱く切ないコード感の魅力、鮮烈なリズム(とくに「Vitamin」)を体感せよ!原田和典 Profile ジャズ誌編集長を経て、現在は音楽、映画、演芸など様々なエンタテインメントに関する話題やインタビューを新聞、雑誌、CDライナーノーツ、ウェブ他に執筆。ライナーノーツへの寄稿は1000点を超える。著書は『世界最高のジャズ』『清志郎を聴こうぜ!』『猫ジャケ』他多数、共著に『アイドル楽曲ディスクガイド』『昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979』等。ミュージック・ペンクラブ(旧・音楽執筆者協議会)実行委員。ブログに近況を掲載。Twitterアカウントは@KazzHarada