東京吹奏楽団とマエストロ コバケイ(小林 恵子)による全曲紹介! 東京吹奏楽団「コンクール応援企画!中編成による吹奏楽名曲集」/mora Classical

東京吹奏楽団「コンクール応援企画!中編成による吹奏楽名曲集」

DSD

東京吹奏楽団「コンクール応援企画!中編成による吹奏楽名曲集」

FLAC

正指揮者 小林 恵子 プロフィールはこちら ▶

東京吹奏楽団とマエストロコバケイ

1

ルドルフ・ヘルツァー:ハイデックスブルグ万歳(編曲:ウォルフガング・ヴェスナー)

小林 恵子

ドイツマーチの代表作のひとつである「ハイデックスブルク万歳」は、ルドルフ・ヘルツァー(1878〜1914)が軍楽隊の隊長(指揮者)だった1912年に作曲した行進曲。ドイツ帝国下の領邦群(テューリンゲン諸国)のひとつ、シュバルツブルク・ルードルシュタット候国の侯爵(君主)の居所が、ハイデックスブルクというお城。曲名はそのお城の名前からとられたもの。

信号(軍隊)ラッパからスタートするこの曲は、主旋律と対旋律がとても美しく絡み合い、またトリオ主題の伸びやかさも魅力的です。 その曲中、絶え間なく信号ラッパが響きます。主旋律、対旋律、信号ラッパ、マーチの土台となるベースライン&和声、いわゆる表拍と裏拍、それぞれの性格・役割を明確に表現することが何より大切です。 中部日本吹奏楽コンクールでは、第59回(2016年度)より課題曲の一曲となり、練習に励んでいる学校もあると思います。それぞれの役割との音量バランスに配慮しながら、魅力的なドイツマーチに仕上げてください。

  • 演奏人数:33人
  • Alto Clarinetは入っていません。
  • Cornetは入っていません。(一部、トランペットでCornetパートの音を演奏しています)
  • Tubaは1人で演奏しています
  • Euphoniumは1人で演奏しています(一部分、Baritoneのパートの音を演奏しています)

クラリネット・星野均

明るく、透明感と躍動感に満ちた曲です。「ハイデックスブルク万歳」はマーチです。基本的には軍隊が行進するための曲です。アメリカンマーチは豪華絢爛な曲が多く、イギリスの行進曲は紳士的で威風堂々としています。しかし「ハイデックスブルク万歳」はそういう曲とは一線を画した、爽やかな名曲です。

どのような背景のもと、この曲が誕生したのか、作曲者の履歴を追ってみます。
作曲者R.ヘルツァーは1878年、ドイツのハルツ山地の麓、チューリンゲンの外れにあるロットレーベンという小さな町に生まれました。父親は靴職人で貧しい家庭で育ちましたが音楽の才能に恵まれ、1902年に歩兵第96(チューリンゲン第7)連隊第3大隊の軍楽隊に採用されています。
24歳で入隊をしたわけです。やはり生活は苦しかったのでしょうか。また、軍楽隊に入ったのですから、音楽の道に進みたかったのかもしれません。
音楽的才能を発揮して認められたヘルツァーは、1908年には軍楽隊の指揮を任されるようになります。そして1912年に作られた曲が、行進曲「ハイデックスブルク万歳」です。第3大隊の駐屯地は、連隊本部のあるチューリンゲンのゲーラ市から西に50キロほど離れたルードルシュタットにあり、この地はチューリンゲンの小さな領邦シュヴァルツブルク・ルードルシュタット侯国の城下町で、君主である侯爵の居城がハイデックス城です。曲名はこの城の名称(ブルクは城の意)であり、軍楽隊による駐屯地賛歌でもありました。
その後、ヘルツァーは自分の軍楽隊を指揮して、この曲を軍事演習の際に披露しましたが、この時の評価は低く、自信作が否定されたことが契機となり軍楽隊を辞めてしまいます。ルードルシュタットの家を引き払った彼はベルリンへ出て、カフェーのオーケストラで作曲家兼指揮者として活動を始めました。
作曲家としての自負心があったのでしょうか、あっさりと軍楽隊指揮者の地位を捨ててしまいます。でもカフェオーケストラの指揮者は楽しそうですね。第1次世界大戦まで2年程前のドイツです。何となく暗い世相を想像しがちですが、実際はそんな事はなく、少し前の19世紀末のヨーロッパ文化が爛熟した雰囲気を充分に残していました。その中での活動だったのでしょう。しかし、時代は急転直下してしまいます。
ドイツが1914年8月の第1次世界大戦開戦を迎えた時、軍人としての思いを断ち切れずに志願兵となります。東部戦線に送られたヘルツァーは間もなく戦闘で重傷を負い、後送されたアレンシュタイン(現在、ポーランド)の陸軍病院で、その年の10月に短い生涯を閉じてしまいます。35歳の若さでした。ヨーロッパは暗い時代に入って行きます。
この曲を演奏してみて勇ましさや、重々しさを感じることはありませんでした。トリオの繰り返し部分の木管パートには、まるで鳥の囀りのような瑞々しささえ感じてしまいます。ある意味において不思議な行進曲です。今から100年ほど前に戦死したこの作曲家の人生を思うと、明るい曲調とは異なる暗い時代背景を感じてしまうのは私だけでしょうか…
最後にこの曲を演奏する時に、心がけた点をクラリネット奏者としての視点から記します。 全ての音符は軽く、短く演奏するように意識しました。フルート、オーボエとユニゾンの箇所は例え、フォルテでも強過ぎないように。金管とユニゾンの箇所は音を大きく出すのではなく、全体の響きを柔らかくするために金管の音を包み込むように。このことは全ての吹奏楽曲に共通します。透明な、明るさを感じる演奏を目指しました。

2

オリヴァー・デイビス:ウェールズの歌

小林 恵子

吹奏楽版・懐メロランキングがあったら、絶対に上位に入るであろう「ウェールズの歌」。昭和時代、本番で演奏するしないにかかわらず、音楽室でこの曲を音出しした記憶がある方は多いと思います。
アルバート・オリバー・ディヴィス(1920〜2005)は、ウェールズ以外にも、様々な国・地域の民謡を素材にして作編曲した作品を多く遺しています。

3つの楽章から成り立つこの組曲は、1970年に作曲されました。「ウェールズの丘や谷には、この世の中で最も旋律の美しい民謡が多くある」とウェールズ民謡に最上級の賛辞を呈したディヴィスは、6つのウェールズ民謡をこの組曲に用いています。 第一楽章の最初に登場する民謡は、ウェールズの国歌「我が祖先の地」。スポーツの試合等で耳にしたことがあるかもしれません。この国歌を含め、心地よいメロディーラインを堪能してほしいと思います。

  • 演奏人数:33人
  • E♭ClarinetとAlto Clarinetは入っていません。
  • Oboe及びFagottoはdiv.がありますが、それぞれ1人で演奏しています。

トランペット・杉本正毅

この曲は3曲で構成されています。もうかなり古い曲ですが、本当にシンプルで分かりやすい曲です。
僕はこの曲が大好きです。
イギリスやアメリカでいわゆる吹奏楽が流行り始めた頃の基本になった曲の1つでデーヴィスはこのほかにも沢山の曲を残しています。吹奏楽愛好者には是非演奏して欲しいと思っています。

最近の吹奏楽はかなり複雑化しているような気がしますが、ウェールズの歌のようにシンプルな作品を演奏すると改めて吹奏楽の良さや楽しさを感じることが出来ます。
個人的には、東吹CD『温故知新』の録音の時に、汐澤先生の指揮で演奏したことが、最近での大きな思い出になっています。先生の妥協しないリズムやフレーズ感にこだわった合奏はとても新鮮で楽しく、ま、とても緊張感のある演奏でした。
今回の演奏も是非聞いていただき、そして是非演奏して欲しいと思います!

3

サミュエル・ヘイゾ:セブンス

小林 恵子

サミュエル・R・ヘイゾ(1966〜)の作品は、日本でも「ヘイド」などお馴染みですが、ヘイゾの音楽というと、やはり、リズミカルな動きが特徴的というイメージ。 「セブンス」も、冒頭から変拍子の連続でスタートしますが、実は、そのスタートにも意味があり…この曲における、小節内の音符数・フレーズ内の音符数・音程の幅・拍子・コード等々、あらゆる要素が「7」に関連されて作られているのです。

ちなみに、ジャズとクラシックを融合させたジョージ・ガーシュインと、ジャズ界およびビッグバンド界を牽引しているゴードン・グッドウィンの二人への賛辞を込めた作品ですが、ヘイゾは、その尊敬する二人の名前の頭文字(G)も、アルファベットの7番目であることの偶然性をも語っていますが、そこまでのこだわりが?!
約4分の長さですが、演奏し応え十分な一曲です。裏拍をとるのが難しい部分もありますが、冒頭の変拍子も自然にとれるようになるでしょう。

  • 演奏人数:33人
  • Contra Alto Clarinetは入っていません。
  • Contrabassは入っていません。
  • Percussionは、Percussion1〜4, Chime, Timpaniのパートがありますが、5人で演奏しています。(一部入っていない音もあります)

トロンボーン・渡辺善行

セブンスを自分が演奏するのは、今回が初めてでした。変拍子もあり、凄く難しいと思っていましたが、実際に演奏してみるとスピード感の心地よい作品で、一気に好きになりました。
さて、今回の配信にあたりメンバーが「作品のコメントを書く」ことになりました。さて、何を書こうか…楽曲全体に対しての事は、小林さんに任せるとして…

…悩んだあげく…トロンボーンに「特化」した「アプローチ」を書いてみたいと思います。 変拍子 11/16、7/16…少し慌ててしまいそうですが…冷静に考えると、3拍子と2拍子。打楽器を聴いて、2小節ずつのセットで考えると安心です。ただ、セッティングで打楽器が遠い時は、聞きすぎると遅れるので、注意が必要です。変拍子は自分のカウントをしっかりしようとし過ぎて、曲全体が流れなくなってしまうことがあるので、細かいカウントと音楽全体の流れを両方同時に感じると良いと思います。 ティンパニと 東吹の場合はティンパニがトロンボーンの後ろ(やや上手側)にセッティングされています。なので29小節目からの様に、動きが同じ所はモックン(ティンパニ)を聴いて、アンサンブルします。ティンパニは音程の要であり、タイミングの要なので、セクションの皆が、いつものティンパニの音(演奏)をキャッチしておくと、タイミングの悩みはもちろん、ハーモニーの問題もかなり解決します。 速すぎる 75小節目の4拍目【C→D♭→C】は一生懸命になりすぎて、早くなってしまいます。速い動きは一生懸命になるあまり気付くとトロンボーンだけが慌てていることがあります。トロンボーンだけではないので、近くで同じ動きをしている(細かい動きが得意なメンバー)を良く聴いて、落ち着いてアンサンブルしましょう。 ハイ…気を付けます(笑) 替えポジション 速い動きは替えポジションを使うようにしています。特に低い音では替えポジションが少ないので苦労します。105小節目に16分音符で【C→B♭→C→E♭→F】の動きがあります。この箇所は今回【①6→V3,5→V1→3→1】の様にしてみました。※VはF管ヴァルブを押したときのポジション。
テナーバス・トロンボーンやバストロンボーンでは【②V1→1→V1→3→1】が普通だと思うのですが、僕は替えポジションを使いました。
他に【③V1→V3,5→V1→3→1】も試したのですが、①の方がしっくり来ました。
インラインのバストロだと、CをG♭管を使うと2ポジションで出せるので【④g2→1→g2→3→1】と言うのも出来るので、よりストレスが無くなると思います。※gはG♭管を押したときのポジション。
この様に替えポジションを使うことで、スライドの動きにストレスがなくなるのでオススメします。例えば…合奏でチューニングするB♭は5ポジションでも出ます。課題曲Ⅰの89小節-2拍目のB♭で使ってみては如何でしょうか?他にもその上のDは【1-4-7】ポジションで出ます。日頃から替えポジションの練習をしておくと良いでしょう。※中音域以上ではF管の替えポジションは使用しません。
トロンボーン以外の方は、全く「???」だと思いますが(笑)…演奏の参考になれば、と思います。

4

ダナ・ウィルソン:ショートカット・ホーム

小林 恵子

オハイオ州生まれのダナ・ウィルソン(1946〜)の作品は、日本でもコンクール等で取り上げられていますが、この「ショートカット・ホーム」は、ジャズピアニストとしての顔も持つウィルソンの遊び心が満載の一曲。ジャズスタイルを取り入れながら、いろいろなモティーフが複雑に、でもそれぞれがパズルのピースのようにうまく組み合わさって出来ている、面白い作品です。

ホーム(home)とはハ長調の主和音(ドミソ)のことで、この最後の和音まで一気に駆け巡るファンファーレ。 ところどころ、変拍子に、或いは、テンポが変わったように感じられるかもしれませんが、4分音符単位の拍とテンポは実は終始一定。なので、聴くより、演奏はしやすいかもしれません。是非、おしゃれにワクワク、パズルを楽しんで、ドライブ感を演出して頂きたいと思います。

  • 演奏人数:33人
  • OptionalのOboeとFagottoは入っています。
  • Trumpetは4パートですが、3人で演奏しています。

フルート・柴田真梨子

この曲を初めて吹いた時の事は今でも鮮明に覚えています。その時私はピッコロを担当していましたが、リズムの複雑さと音符の細かさ、それに何と言ってもハイBから駆け下りてくるパッセージの繰り返しが印象的でした。客観的な視点に立ってみると、この曲は非常に吹奏楽らしいカッコ良さが散りばめられた曲ですね。

金管楽器が刻むリズム、木管楽器の重なり合うメロディー...まるで映画のワンシーンのような緊張感のある謎めいた雰囲気を醸し出しています。
タイトルが示しているように必ずホームであるC−durに戻ってくるという仕組みになっており、各声部が複雑に絡み合いながらも必ず解決する所に、吹いていて気持ち良さを感じます。特に曲の終わり方がバチッと決まり、C−durに戻るとスカッとしますね。
フルートの音色はともするとモヤっとしがちなので、今回のレコーディングではこの曲の緊張感のある雰囲気と印象的なリズムを生かす為に、引き締まった音色とクリアなアタック、そしてキレのあるリズム感で演奏することを心掛けました。約3分という短い時間の中に凝縮された吹奏楽のエッセンスを是非味わってみて下さい!

5

スティーヴン・ライニキー:セドナ

小林 恵子

アリゾナ州中北部、赤い岩山に囲まれたセドナ一帯は、レッド・ロック・カントリーとも呼ばれており、壮大な景色が広がっています。ネイティヴアメリカンの聖地として、今日では、パワースポットとしても多くの観光客が癒しを求めて足を運んでいます。オハイオ州生まれのスティーヴン・ ライニキー(1970〜)は、このセドナの景観に感銘を受け、2000年に市民バンドの委嘱曲として「セドナ」を作曲しました。

ライニキーの吹奏楽作品には、わかりやすい曲が多く、日本でも多くの作品が演奏されています。その多くの作品の中でも、おそらくいちばん演奏されている曲でしょう。 冒頭に登場する主題が、終始一貫して使われています。途中で二倍の音価で大らかに登場したり、中間部では、調性・拍子・テンポも変わった中で歌われ、また、最初のテンポに戻った場面では、カノンで表されています。この繰り返される主題の音の跳躍ですが、岩山を表しているのかもしれませんね。
これからも、吹奏楽のレパートリーとして、幅広い世代に愛され続く曲だと思います。

  • 演奏人数:33人
  • Contrabassは入っていません。(一部、Baritone Sax.で演奏しています)
  • Percussionは5人で演奏しています。(一部、入っていない音があります)

クラリネット・粟生田直樹

1970年生まれのアメリカ人若手作曲家、スティーヴン・ライニキー作曲のこの曲は、オハイオ州ケッタリングの市民吹奏楽団の創団40周年を記念して委嘱作曲されました。ライニキーは現在シンシナティ・ポップス・オーケストラの副指揮者兼作編曲家・トランペット奏者でもあり、この「セドナ」を筆頭に、わかりやすい曲調の曲が多いことで日本でも人気の作曲家です。

タイトルの「セドナ」とは、アメリカのアリゾナ州中北部に位置する街の名前で、個性的な形の赤い砂岩の岩山に囲まれた不思議な土地であり、古来ネイティブ・アメリカンが聖地として崇めた場所で、現在もパワースポットとして有名です。ライニキーはこのパワースポット「セドナ」の景観にインスピレーションを受け、この曲を作曲されたとされています。
曲は約6分の短い序曲で、急―緩―急の典型的な形式。短く鮮烈なスネアのソロで幕を明け、クラリネットによるテーマが登場します。このテーマが全曲を通して様々な形に姿を変え、様々な楽器により演奏され、その後ろにはスネアドラムによる明快なリズムが彩りを添えます。
また、各楽器のソロを数多く効果的に用いられているのも特長です。特に中間部後の急速部分に始まるクラリネットとファゴットによるカノン風のやりとりは、息の合ったリズム感とスピード感が要求されます。吹いていても自然と気分が乗ってくる素敵なカノンですが、配置によって音の時差が生まれてしまう組み合わせだけに、高度な集中力が必要な箇所です。
沢山の方に演奏していただき、ライニキー「セドナ」のメロディーを初めて聴いた時の気分の高揚感をぜひ味わって欲しいです。アリゾナ州「セドナ」の情景写真をインターネットなどで調べるとより一層イメージが湧き、曲により深く入り込めると思います。

― New Release ―
『輝くアメリカン・サウンド!』東京吹奏楽団 第63回定期演奏会 小林恵子 正指揮者就任披露/mora Classical

『輝くアメリカン・サウンド!』東京吹奏楽団 第63回定期演奏会 小林恵子 正指揮者就任披露

DSD

『輝くアメリカン・サウンド!』東京吹奏楽団 第63回定期演奏会 小林恵子 正指揮者就任披露

FLAC