行ってから聴くか? 聴いてから行くか? ノラ・ジョーンズ、ただいま来日中
■執筆者プロフィール
原田和典(はらだ・かずのり)
ジャズ誌編集長を経て、現在は音楽、映画、演芸など様々なエンタテインメントに関する話題やインタビューを新聞、雑誌、CDライナーノーツ、ウェブ他に執筆。ライナーノーツへの寄稿は1000点を超える。著書は『世界最高のジャズ』『清志郎を聴こうぜ!』『猫ジャケ』他多数、共著に『アイドル楽曲ディスクガイド』『昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979』等。ミュージック・ペンクラブ(旧・音楽執筆者協議会)実行委員。ブログ(http://kazzharada.exblog.jp/)に近況を掲載。Twitterアカウントは@KazzHarada
ノラ・ジョーンズの来日ツアーが遂に始まりました。日本武道館公演は、なんと3デイズ連続です。
彼女の魅力については、あらゆるひとがあらゆる媒体で語ってきました。私のように「ドント・ノー・ホワイ」(作曲:ジェシ・ハリス)をきっかけにノラにハマった古参も数知れないと思いますし(くわしくは連載第11回を参照)、藤原さくらなど後進アーティストを通じてノラの存在を知った新しい世代も確実にいることでしょう。ジャズ・ファン、ロック・ファン、カントリー・ファン、フォーク・ファン、ポップス・ファン、新しいサウンドに惹かれるファン、伝統的/古典的なサウンドに敬意を払うファン……さまざまな音楽好きが一緒に楽しめる、もっとありふれた言い方をすれば“みんな仲良くなれる”、それが彼女の世界であるような気が、個人的には強くします。
ノラの父親はインド人シタール奏者、ラヴィ・シャンカル。ビートルズのジョージ・ハリスンにシタールを指導し、ジャズ・サックス界のカリスマであるジョン・コルトレーンとも親交を結んだ伝説的存在です。そのコルトレーンの甥は、今をときめくエレクトロニカ/インスト・ヒップホップ界の神格にして『Royal』『Kuso』などで映画監督としての才能も世に問うているフライング・ロータス(スティーヴン・エリソン)。『Kuso』の予告編は動画サイトで見ることができます。そういえばノラも映画とは縁があって、ウォン・カーウァイ監督初の英語作品『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(08年日本公開)では主役を演じていました。「産経WEST」というウェブ上の記事によると、その映画にはなぜかドナルド・トランプ現アメリカ大統領も出ているらしいのですが、封切り時にこれを見た私は当然トランプのトの字も知らないまま、「ノラ・ジョーンズ、女優としてもいけるじゃん」などと思いながら物語に浸っていたのでした。
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』予告編
2012年のアルバム『Little Broken Hearts』をフォローするツアーから、ノラはザ・キャンドルズ(2009年にニューヨークで結成された、アメリカーナ系ユニット)をバック・バンドに迎え入れます。昨年リリースされた最新作『Matter + Spirit』にはノラも参加していたのでお聴きになった方も多いのではと思いますが、今回の来日公演でもザ・キャンドルズのジェイソン・ロバーツ(ギター)、ピート・レム(キーボード)、ジョシュ・ラタンジ(ベース)、グレッグ・ヴィーチョレック(ドラムス)が同行し、主役の歌声を引き立てていることは間違いないと言えましょう。実をいうと私はまだノラ+ザ・キャンドルズのライヴを体験しておらず(2012年の武道館公演には行けませんでした)、動画サイトで見たのみなのですが、歌と楽器の絡み、メンバー間の絶妙な連携に、70年代のジェームス・テイラー+ザ・セクションに通じる空気を感じました。今回の公演、ノラだけではなくサポート・ミュージシャンたちも思いっきり目当てにしながら、一瞬一瞬を心に刻み込みたいものです。
ウェイン・ショーターやドクター・ロニー・スミスなどキャリア半世紀を超える手練れが参加した最新アルバム『Day Breaks』で打ち出したような濃厚なジャズ風味とは、また趣の異なるステージになる予感もします。ですが、それでこそアルバム(配信音源)のありがたみも増すというものです。アメリカーナの新章を拓くノラの姿をライヴでたっぷり味わい、あふれるジャズへの愛を綴るノラをハイレゾで満喫する。こういうリスニング・ライフも味わい深いではありませんか。
推薦音源はノラ名義の基本アイテムに、私が“ジャズ”という観点から選んだ関連作を混ぜて構成しました。「彼女は本当に、多くの素晴らしい先人に恵まれ、まっすぐ才能を伸ばしてきたんだなあ」という思いは、強まるばかりです。
原田和典的 ノラ関連推薦音源
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The Ravi Shankar Collection: Improvisations/Ravi Shankar
ノラの父とジャズ・ミュージシャンの共演。プロデューサーはチェット・ベイカーを見出したリチャード・ボック
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A Love Supreme/John Coltrane
ノラの父の友人にして、フライング・ロータスの叔父
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Lady Day: The Best of Billie Holiday/Billie Holiday
ノラは子供の頃、ビリー・ホリデイの歌う「You go to my head」が大好きだった
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Blowin’ The Blues Away/Horace Silver
ノラの愛奏曲、「ピース」(ホレス・シルヴァー作)のオリジナル・ヴァージョン入り
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Glass Onion/Arif Mardin
初期のノラに欠かせない存在だった名プロデューサー(故人)が、音楽家として腕を振るった作品
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Etcetera (feat. Herbie Hancock, Cecil McBee, Joe Chambers)/Wayne Shorter
ノラの最新作『デイ・ブレイクス』でも快演している大物サックス奏者の意欲作。インド音楽に着想を得た曲も聴ける
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ママ・ローザ/Brian Blade
『デイ・ブレイクス』にも参加しているカリスマ的ドラマーが、シンガー・ソングライター/ギタリストとしての才能を発揮した一枚
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CHARLIE HADEN QUARTE/Charlie Haden Quartet West
ペトゥラ・ヘイデン(ジェシ・ハリスとのコンビでも活動中)の父、チャーリー・ヘイデンのアルバムにノラが参加
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DUETS II/Tony Bennett
アメリカの国民的男性シンガー(今年91歳)とのデュエット。エイミー・ワインハウスやレディー・ガガと、ノラの聴き比べもできる
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Afro Blue/Harold Mabern
ノラ参加の直球ジャズ作品。重鎮ピアニスト、ハロルド・メイバーンの名盤
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Matter + Spirit/The Candles
目覚ましい注目を集めるルーツ系ロック・バンドの最新作。ノラ参加