安月名莉子インタビュー アニメ『やがて君になる』オープニングテーマでデビューするシンガーソングライターの素顔

2018年10月から放送されているアニメ『やがて君になる』。ガールズラブストーリー、いわゆる「百合」ものとしての軸を持ちつつも、緊張感あるコマ割りと繊細な心模様を描くストーリーテリングで、幅広く漫画好きの心を捉えてきた作品です。まさに待望のアニメ化となりましたが、オープニングテーマを歌唱する安月名莉子さんは今回の「君にふれて」がデビュー作。インターネット上にもなかなか情報がないことから、放送前にはどんな歌声の持ち主なのか、気になっていた原作ファンも多いのではないでしょうか?
実はミュージカルという、演劇が大きくフィーチャーされる『やが君』のストーリー展開にもゆかりの深いルーツを持つ安月名さん。作品と自身の共鳴したポイントや今後の活動への意気込みなど、ひたむきに語る姿勢が印象的だったインタビューの模様をお届けします。

インタビュー・テキスト:北出 栞

 


 

【リリース情報】

アニメ『やがて君になる』オープニングテーマ
『君にふれて』 / 安月名莉子

FLAC [48kHz/24bit] AAC [320kbps]

 

TVアニメ「やがて君になる」エンディングテーマ「hectopascal」/小糸 侑(CV:高田憂希) 七海燈子(CV:寿 美菜子)

【同時配信】アニメ『やがて君になる』エンディングテーマ
『hectopascal』 / 小糸 侑(CV:高田憂希) , 七海燈子(CV:寿 美菜子)

FLAC [48kHz/24bit] AAC [320kbps]

 


 

ミュージカルから弾き語りへ

――本日はよろしくお願いします。Google検索してもなかなか情報のない中で(笑)、公式のプロフィールに目を通させていただいたんですけど……やはり目を引くのが「幼少よりミュージカルやテレビへの出演」という一文です。お幾つぐらいのときから、そういった活動をされていたんでしょうか。

小学校2年生から高校3年生まで、舞台とかミュージカルとかに出演したりしていました。

――その頃はまだギターは弾かれてなかったんですか?

そうですね、その頃は弾いてなかったです。

――じゃあ高校を卒業して、大学に上がるくらいのタイミングで歌一本でやっていこうというタイミングがあったと。それはいったいどうして?

ミュージカルには三大要素として、ダンス・歌・演技とあるじゃないですか。ずっと続けてきた中で、どれもすごく好きだったんですけど、その中でも歌うことが一番好きだったし、周りの方もほめてくださることが多かったので、やっぱり自分は歌って生きていきたいなと。もうひとつは、ミュージカルでは台本があって、それを演じて歌うという形だったわけですけど、自分の言葉で歌いたいなって気持ちがすごく強くなったというのがあって。それでシンガーソングライターとして弾き語りで活動するようになりました。

――そうなんですね。弾き語りではどういったところで活動されていたんでしょうか。

弾き語りは都内のライブハウスが多かったですね。地方にもちょくちょく行くこともありましたが、メインは東京都内で。

――バックバンドなどを入れず、本当にひとりでステージに立つという感じですか。

そうですね。ライブでは、ほとんどがギターの弾き語りでした。

――ミュージカルと弾き語りだと、発声法とかも違うじゃないですか。最初にやってみて難しいなと思うところってありましたか?

やっぱりミュージカルは前に向かって、「センターのちょっと上を見て!」とか、すごく思い切り歌うことが多かったので、その癖がなかなか抜けなかったんです。ライブハウスとなるともっと相手に「伝える」ということが大事になってくるので、そこはすごく苦戦しました。すべてを強く歌ってしまったり……でも、ライブをしていくうちにだんだんそれが自分の味になってきたなと感じて。

――ちょっとコンプレックスに思ってた部分も含めて、自分の個性だなと思える瞬間がどこかであったっていう。

そうですね。それにいままで演じるということをやってきたので、表現したいことを歌いながら「演じられる」っていういい部分もあって。

――自分で書かれた曲に対して、「演じる」っていう感覚が入ってくるというのはどういうことなんでしょう。

たとえばドラマで「浮気の現場!」みたいなのを見て(笑)、現在の自分には絶対ないシチュエーションを演じるために書いたりした曲もあります。でも逆に自分自身の、「いま夢に向かって頑張ってるんだ、苦しいけど……」みたいな、まさに現在の想いを書いたものもあって。そのどちらもが楽しかったんです。

――なるほど。ステージに立つとけっこうスイッチがパッと入っちゃうタイプですか?

そうですね、ステージに立つことは大好きで。でもやっぱり今回デビューをさせていただくにあたって、お客さんの層も変わったし、毎回緊張します。新鮮でしたね、「慣れてるのに慣れない!」みたいな(笑)。

――具体的にどういった違いを感じられましたか。

ミュージカルの場合は演技の流れがあるので、その中で最後まで向かっていくわけですけど、一曲パッと歌うってなったときには、その瞬間のみなさんの反応がリアルに感じられるじゃないですか。「君にふれて」を初披露したときもお客さんがすごく微笑んで「この曲知ってるよ!」っていう感じで、ああ、ちゃんと知ってくださってるんだなというのをダイレクトに感じました。

――ライブハウスのお客さんとアニメファンの違いというのもありましたか?

そうですね……ライブハウスのときはギター一本で、音源とともに弾き語りをするということがなかったんです。なのでどうやってノってくれるのかな、というのは思いました。でもワクワクする気持ちのほうが強かったですね。あとはアニメがきっかけで初めてライブに来てくださるお客さんもいらっしゃるので、古くからのお客さんと両方いる中で、どういう話し方をすればいいんだろうとは思って(笑)。でも結局自分は自分でしかないので、そこは素直にちゃんとみなさんとお話できたらなと思ってやりきりましたね。

 

「君にふれて」と『やがて君になる』について

――ここからは今回のシングルについてお聞きしていきたいなと思います。「君にふれて」はアニメ『やがて君になる』の主題歌ということで、作詞作曲をシンガーソングライターのボンジュール鈴木さんが手がけられていますね。安月名さんは制作のどの段階でこの曲を初めて聴かれたのでしょうか。

今回はオーディションがありまして……なのでタイミングというとオーディションのお話をいただいたその時になりますね。ボンジュールさんご本人の仮歌が入っていたんですけど、まさにボンジュールさんならではの音域の広さで、私にとっては歌ったことのない未知の音域で(笑)。だからひとつ自分の中のチャレンジでもあって、聴いた瞬間は「よし、歌ってやるぞ!」って感じでした。

――なるほど。歌詞に関してはいかがでしょうか。

オーディションのときは(主題歌となるアニメは)女の子同士のラブストーリー、ということまでは聞いていて、正直そのくらいの情報しかなかったんです。担当させていただくことが決まったあとに、原作も読ませていただいたんですけど。

――そうなんですね。初めて歌詞を読んだとき、たとえばタイトルにもある「君」ってどんな人のことなんだろうとか、安月名さんなりに解釈した部分はありますか。

実は最初はちょっと違う歌詞で、ほぼストーリーの流れに沿ったものでした。すごく優しいキラキラしている歌詞の中にも、すごく苦しいような表現の仕方があって……で、その後あらためて原作を読んでみると、女の子同士だけの感情じゃないというか、誰もが共感できるものになってるなということを感じて。

――「この作品はいわゆる“百合”で~」とか言って、簡単に片付けちゃいけない感じがありますよね。コマ割りとか、間の取り方にも緊張感があって……

(机をたたきながら)そうですそうです! 熱くなりますよね(笑)。原作を読んだ時点で、もちろん自分の中でもどういう言葉、どういうトーンで話してるんだろうという想像はしてたんですけど、アニメを観てさらにその自分の考えをひっくり返すくらいの、「この台詞をこんなに溜めて、こんな気持ちで言ってたんだ!」みたいな発見がいっぱいあって。歌詞に対してもどんどん考え方が変わってくるというか、味がどんどん出てくる歌詞だなと感じています。

――オープニングの映像はどうでしたか? 自分はすごくびっくりしたんですよね。普通だったら主役の二人、七海(燈子)さんと小糸(侑)さんが映るところから始まるだろうと思っていたら、七海さんの隣に座ってるのは佐伯(沙弥香)さんで。一番最初に表情のアップが映るのも……

(叶)こよみちゃんだったりするし。

――そうそう。僕は最初すごく浅く読んでしまっていて、「君にふれて」の「君」って七海さんと小糸さんの、主役の二人のお互いのことを指しているのかなと思ってたんですけど、実際にはたくさんの矢印がいろんな方向を向いている。それを全体的に包み込むような感じで「君にふれて」という曲が流れる感じになっているなと。

わー……素敵(笑)。

――恐縮です(笑)。

いや、ほんとにその通りだなって思って。私も1回目オープニング最初観たときは正直ハテナで(笑)。

――校舎の中、ジャングルみたいになってますしね(笑)。

でも2、3回観るにつれて……やっぱり(映像の中に出てくる花の)花言葉も調べるじゃないですか。それも内容とリンクしていたり……なんと言っても一番震えたのが、サビ直前の沙弥香さんが燈子さんに手を伸ばして手を届かないところからの……サビinみたいな。そこがほんとに切なく心がぎゅってなりまして。それも何度も観るにつれて、いい意味でどんどん心が苦しくなりますし。

――人を好きになる気持ちがわからない、と言っていた七海さんの根っこには、実はお姉さんみたいになろうとしているという……「演じる」ということがある。安月名さんもかつて取り組まれていた、「演じる」ということ自体が作品にとって重要なテーマになっているわけですが。

でも、あそこまでリンクしてる演じ方は観たことないですね(笑)。あそこまで自分のことを照らし合わせて、小糸ちゃんも「こんな七海先輩はいやだ!」って、そこに合わせていくっていう……あんなにリアルな劇ってあります?(笑)

――劇と自分の人生の境目がわからなくなっていくっていう……そこまでの経験は、さすがに安月名さんにもなかった?

いやー、あれを自分が演じてたら、死んじゃいますね(笑)。あれを淡々とこなせる燈子さんの凛とした素晴らしさ、人間性には、憧れますね。

――すごく覚悟を決めて劇に臨んでいますからね。ちなみにもうちょっとライトに、一番好きな、共感するキャラクターっていますか。

えっと……結構箱推し(※)なんですけど(笑)。みんなそれぞれいいところがあるじゃないですか。でもあえて言うなら……そうだな、こよみちゃんが好きですね。

――小説を書いていて、劇の脚本も書いてくれる子ですね。

そうですね。あそこまでひとつのことに真剣になって、書いたものをすぐ「誰かに読んでほしい」って思えるのはすごいなって。話し方からしてけっこう飄々としている感じなんですけど、実はすごく負けず嫌いで。人の意見も素直に聞き入れるんですけど、内心では「ああ、本当はそれがやりたかったんだ!」って悔しい気持ちにもなったりして……そうやってまっすぐに成長していくこよみちゃんがすごく好きですね。

――自分にも似ている部分があるんじゃないですか?

そういうことですね、たぶん(笑)。

※『やがて君になる』という作品全体で推している、ということ。

 

作詞を手がけた「rise」と曲作りについて

――2曲目に収録されている「rise」では、安月名さんご自身が作詞にクレジットされていますね。どういった流れで制作が進んでいったのでしょうか。

先に曲をいただいて、そのあとに歌詞を付けていきました。最初はバラード調のアレンジだったんですよ。すごく壮大なメロディーだったので、「これは大きいことを書きたい!」と思って、「この地球にいま生きている自分」を題材に書いていたんですけど。そこからたくさんアドバイスをしてくださったのがこの(共同作詞にクレジットされている)RUCCAさんで。「こういう風に書いたらもっと相手に伝わるんじゃない?」とか、漢字の美しい表現方法などを教えてくださいました。

――ルビが付いている単語とかですよね。スケールの大きさを感じさせる部分については、安月名さんの元々の想いがあったということなんですね。

そうですね。これまで作ってきた歌詞を見ても、何かを自然にたとえたりする歌詞が多かったんです。

――これから安月名さん自身が作詞作曲された楽曲が世に出ていく機会もあると思いますが、曲作りの上で影響を受けたなと思う人がいたら教えていただけますか。

作曲面だと、スコットランド出身のKTタンストールさんですね。自分ひとりでピアノ、ギター、タンバリンを踏んでリズムを刻んで、それをループマシンに入れて同期させて……最初から最後までひとりで「演じ切る」方なんですね。もともとYouTubeを観て、ギターのベースラインをすごく大切にした弾き方をしているのを観て衝撃を受けまして。来日公演も観に行きました。歌詞の面では家入レオさんですね。私が大学の一年生のときくらいに「Mステ」で観たのが印象的で。夢を追っかけてる当時の自分と重なりあう部分がすごくあって、やっぱり(歌詞を書く上では)共感できるというのは大事だなあ、ってそこで学んだんですよね。

――ありがとうございます。ちなみに自分で曲を作るときは詞と曲、どちらが先にできることが多いですか?

最初に影響を受けたKTタンストールさんの曲は、すごくリフがかっこよくて。「このギター、かっこいい!」というところから好きになったので、初めは曲から先にできることのほうが多かったんです。でも最近は歌詞をすごく大事にしていて……詞を先に書いたものを実際ライブハウスで歌ったときに、ダイレクトに「よかった」ってお客さんに言っていただいて、やっぱり言葉って一番最初に伝わるものなんだなっていうことを実感したんですよね。なのでいまは半々くらいです。作り方がだんだん変わっているのが現状ですね(笑)。

 

おわりに

――最後に今後の目標をお聞かせください。

デビュー曲としていただいた「君にふれて」は、曲も詞も本当に素晴らしいもので。私自身もさらに作品に寄り添えるように――みなさんが求めている歌い方だったり、気持ちだったりを込めて――歌っていきたいです。そして先ほども言ったように、自分で作った曲の世界を「演じる」ことも、自分自身のことを歌うことももちろん好きなので、ちゃんと自分からも曲を作って、私らしく素直に表現していけたらと思います。壁に当たることもこれからたくさんあると思うんですけど、音楽を好きな気持ちをこれからも忘れずいられたら、それが一番いいなって。こよみちゃんみたいに……じゃないですけど(笑)、いろんな方の意見に耳を傾けつつ、自分でもどうすべきかちゃんと見極めて、これから先もまっすぐ音楽をやっていきたいです!