オルタナティヴ・ロックバンド MEW インタビュー――“ポジティヴなエスケープ“を感じさせる新作『VISUALS』をメンバーに訊く

 2017年に入って、改めて北欧の音楽シーンに注目が集まっている。口火を切るのは3年ぶりとなる待望の新作『アフターグロウ』を発表し、フジロックでの来日も決定したアウスゲイル。同じ日のフジロックにはビョークのヘッドライナー出演も決定し、その翌週には先日ウォルト・ディズニー・コンサートホールで行われたオーケストラとの共演も話題を呼んだシガー・ロスが単独来日を果たす。ここまで読んで、「北欧というか、アイスランドじゃない?」と突っ込んだ鋭い読者もいるかと思うが、そこで登場するのが本稿の主役、2年ぶりの新作を発表したデンマーク出身の20年選手・ミューである。

 

ヨハン(・ウォーラート): 出身地の影響は避けようなくあるよね。僕らが暮らしてるのは年間で4か月しか光の射さない場所なので、その分住んでる人同士の関係は緊密になるし、人生を深く考えるような性格を北欧の人は持っていて、それは音楽に影響しない方がおかしい。僕らはアメリカ人でもイギリス人でもなく、「どこか北の人」っていう感じがあって、郷愁のようなものが他の国より文化に深く根ざしてると思う。統計上だと、デンマーク人って「世界で一番幸せな国民」って言われてるけど、その実感はないね(笑)。むしろ、メランコリーが僕らの一番の特色なんだと思うな。

 

 結成当初からのメンバーだったギタリストのボウ・マドセンが脱退するも、サポート・メンバーを迎え入れ、彼らにしては短期間で制作された新作のタイトルは、その名も『ヴィジュアルズ』。活動当初から映像を使ったライブを展開してきたバンドだけに、彼らにとって直球のタイトルだと言っていいだろう。

 

ヨーナス(・ビエーレ): 今回のアルバムは一曲一曲が写真みたいな感じだと思ってて、写真はパッと見で楽しめるだけじゃなくて、分析できるのが面白いと思うんだ。例えば、パッと見では、女の人が犬と一緒に寝てるだけの写真だったとしても、よく見てみると、心配そうな表情をしてたり、そこから自分なりに写真の背景にあるストーリーを探っていくことができる。そういうちょっとミステリアスな感じのある曲を書きたいと思ったんだ。

 

 そもそもミューのメンバーは小学校からの幼馴染で、好きな音楽だけではなく、好きな映画も共有し、同じデンマーク人のラース・フォントリアーや、スタンリー・キューブリック、オーソン・ウェルズらをフェイバリットに挙げている。ヨーナスは一時期アニメーション制作を仕事にしていたこともあったそうで、ミューの音楽とヴィジュアルは昔から切っても切れない関係なのである。

 

ヨーナス: 僕らはもともと「クリエイティヴなことをやりたい」っていう仲間で集まったんだ。それで変わったアート・フィルムなんかをみんなで観に行ったりする中で、「自分たちでもショート・フィルムを作ろう」ってなって、最初に作ったのが『ODYSSEY』っていうのと、『Mankind’s Destruction Of Mother Earth』ってタイトルだったと思う(笑)。とにかく、変なものが作りたくて、チベットの「死者の書」からの引用をたくさん盛り込んだ作品を作ったこともあったな。実は、YouTubeに断片が残ってるのもあって、それはダンテにインスピレーションを得た作品なんだけど、ヨハンがボウの演じるルシファーと出会って、最後は自分で自分を撃って死ぬって話なんだ(笑)。

ヨハン: 観ない方がいいかもしれない(笑)。

 

 

 彼らの「変わったものが好き」という趣向性は、これまでのアートワークにもよく表れているが(特に、ホラーテイストの『アンド・ザ・グラス・ハンデッド・カイツ』に顕著)、この20年の間で誰もがYouTubeで音楽をチェックするようになって、音楽とヴィジュアルの距離はグッと近づいた。また、ライブにおいても3Dアニメーションやプロジェクション・マッピングなどが用いられ、表現の可能性は広がり続けている。彼らはそんな現状をどのように捉えているのだろうか?

 

ヨハン: この間「ブリット・アワード」を見てたんだけど、同じステージなのにアーティストによって見た目がガラッと変わるんだよね。例えば、リアーナのステージとジャスティン・ビーバーのステージは全然違うステージに見えて、あれはホント驚いたな。ただ、現状ああいったことをやるのはすごくお金がかかるから、相当メジャーなアーティストじゃないと難しくて、そこをどう工夫するかが大事なんだと思う。

ヨーナス: 他のプロジェクトでプロジェクション・マッピングを使ってみたことがあるんだけど、機材がかなり必要で、それを持ち歩くとなると運搬も大変。それを考えると、やっぱり大事なのはコンテンツそのもので、僕らならではのユニークなものを作ることが大事だと思う。いろんな映像を使ってるバンドのライブを観に行くと、確かにかっこいいなって思うものも多いんだけど、そのバンドならではのパーソナルな感じがないと、冷たい印象を受けることもある。なので、僕らは僕ららしい美意識が感じられて、ちゃんと温かみがある、そういうコンテンツを用意したい。

ヨハン: その意味では、映写を前からやるか後ろからやるかって結構重要で、僕は客席の側からステージに向かって投影する方が好きなんだ。スクリーンに至る前にバンドがいると、バンド込みのヴィジュアルになって、その方がオーガニックな感触になるんだよね。あと、そもそも僕らは曲の持ってるムードやフィーリングを強調するための視覚効果をやってきたつもりで、映像だけで勝負するつもりじゃないっていうのも大きいかな。

 

ヨハン・ウォーラート(Ba)

 

 ヨハンの言葉通り、ミューの世界観はまず楽曲ありき。しかも、90年代のオルタナティヴ・ロックを背景に持ちつつも、ヨーナスの中性的な歌声はもちろん、決して定型には収まらない予測不能の曲展開によって、作品ごとにそのオリジナリティを更新し続けている。そのため、ミューの楽曲制作には多くの時間を要し、実際に、前作『+-』から前々作『ノー・モア・ストーリーズ』の間には6年という歳月を費やしていが、『ヴィジュアルズ』では閃きを重視することで、これまでになくスピーディーに楽曲を仕上げていった。

 

ヨーナス: 一曲一曲にヴィジュアル・イメージを設定しながら作っているとはいえ、実際にメンバーにどんな絵柄が浮かんでるかを訊いたら、それぞれ違うことを言うと思う。ただ、何かきっかけになる発想があると、そこからスケッチを始めることができるんだ。全くの白紙ではなく、ガイドライン的なイメージがあると、目的地まで歩きだしやすくなる。そういう意味で、僕はいつも自分の頭の中に絵を描いてるんだけど、今回は特にそれが顕著だったね。

ヨハン: 僕らは音楽に対する考え方から人生観に至るまで、あらゆる意味で違うところがある。ただ、それぞれが異なる能力を持ち寄ることによって、「自分たちはこんなこともできるのか」ってエキサイトできるし、そういう意味では「違う」ってすごく大事なことで。ただ、レコードの方向性という意味では、目指すところは一緒だから、そこに至る過程をそれぞれのやり方で楽しむって感じなんじゃないかな。

 

 本作のキー・ヴィジュアルになっているのは、どこかの部族のマスクを被っているかのようなライトに照らされているヨーナスの顔で、またしても実に奇妙な仕上がり。アルバムに先駆けて公開された“85 Videos”のミュージック・ヴィデオでも、眩い光の世界が展開されている。

 

ヨーナス: 今回はアートワークがまず先にあって、自分の中では万華鏡のイメージだったんだ。“85 Videos”はもともとイントロの雰囲気からジャングルみたいなイメージだったんだけど、そこからあんまり広がらなくて、もともとあったイメージを持ってきたんだよね。あれはコンピューターで作った映像ではなくて、カメラをスライドに乗せて動かしながら撮ったモチーフを組み合わせてるんだけど、いつも最初からコンピューターで作るんじゃなくて、実際に撮った映像をコンピューターでいじるっていう順番なんだ。万華鏡のイメージを人間の顔に映し出すと、光によって模様が変わることで、人格もどんどん変わってるように見えて、それがあの曲の雰囲気に合ってるんじゃないかと思ったんだ。

 

ヨーナス・ビエーレ(Vo, Gt)

 

 “85 Videos”にしろ、続いてミュージック・ヴィデオが公開され、鳥のようにくちばしの伸びた人がコミカルなダンスを踊る(ヨーナスと奥さん!)“Twist Quest”にしろ、本作はポップに開かれたメロディーや派手目なシンセとホーンの使い方、ファンキーなリズムが印象的で、80年代のポップス的な色合いを強めた作品だということができる。

 

ヨハン: 僕らはノイジーなオルタナティヴ・ロックを聴いて育った一方で、そのさらに前には親の聴いていた80年代の音楽を聴いていて、デヴィッド・ボウイ、プリファブ・スプラウト、ケイト・ブッシュ、トーキング・ヘッズとか、ありがたいことに趣味のいい音楽を聴いて育ったんだ。今まで自分たちが作ってきた、鋭い、硬い感じのアプローチに比べると、80年代の音ってスムーズなところがあって、その感じが僕らが今回書いた曲に合ってたんだよね。まあ、僕らがやると結局ストレートなポップスにはならなくて、どこかひねくれたことをやらないと、自分たちが楽しめないんだけど(笑)。

ヨーナス: 去年デヴィッド・ボウイとプリンスが亡くなったことが今作に影響してるかはわからないけど、大変な損失であることは間違いなくて、何事も永遠には続かないってことを思い知らされたし、自分の寿命のことなんかも考えるようになった。あと、今は世の中的にもいろいろ考えさせられるというか、気づかされる時代だよね。政治的な状況を見ても、すごく暗い出来事が起こっていて、歌詞にはそういうヘヴィなテーマも出てきてる。ただ、アルバムの楽曲自体は高揚感のあるもので、そこには80年代的な要素が貢献してるんじゃないかな。幅広い要素を組み合わせるのが僕らの音楽の作り方だから、どこかが暗くなると、一方では、明るい要素を持ってきたくなるんだよね。

 

 〈うまくいくはずだった きっとぼくらは消えたんだ〉と歌う“Nothingness And No Regrets”から始まり、競争社会に対する違和感を綴った“Carry Me To Safety”で幕を閉じる『ヴィジュアルズ』には、確かに現代社会のヘヴィな状況をヨーナスなりの視点で切り取った言葉が溢れている。しかし、ヨーナスは「ミューは昔も今も政治的なバンドであったことは一度もない」と言い切る。

 

ヨーナス: 僕らって自分勝手なことばっかりやってるというか、疑問ばっかり投げかけて、解決策は提示していないんだ。でも、解決策を講じるのは僕らの専門ではない。僕らの専門は音楽で、悲しみとか嘆きの要素を音楽で表現することは、ある意味前向きな行為だと思う。だって、悲しみや苦悩を抱えてる人がそれを聴いたときに、「自分だけじゃないんだ」って思えるからね。それはある意味、解決策につながると思うし、そういった形での共感、孤独を少しでも軽減するってことが僕の音楽でできていればいいなって思うよ。

 

 ミューの音楽をヘッドフォンで聴きながら街を歩いていると、いつもの日常の景色が少しだけ違って見える。それは決して後ろ向きな意味での逃避ではなく、現実をタフに生き抜くためのポジティヴなエスケープである。そこで立ち現れるヴィジュアルは、決してキラキラと明るいだけではなく、日照時間の少ない北欧に通じる、メランコリーな空気を伴ったものかもしれない。しかし、僕らはそれを日々噛みしめながら、また一歩前へと進んで行くのだ。

 

インタビュー・文:金子厚武

 

 


 

MEW / VISUALS

ハイレゾ | 通常

TRACKLIST:
1. Nothingness and No Regrets
2. The Wake Of Your Life
3. Candy Pieces All Smeared Out
4. In A Better Place
5. Ay Ay Ay
6. Learn Our Crystals
7. Twist Quest
8. Shoulders
9. 85 Videos
10. Zanzibar
11. Carry Me To Safety
12. Seeker Shivers*
13. Heavenly Jewel Thief*
*日本盤ボーナストラック

 

【バイオグラフィー】

1994年に幼馴染のヨーナスとボウ、ヨハン、そしてスィラスによって結成されたデンマーク出身の4人組オルタナティヴ・ロックバンド。日本デビュー作となった2003年『フレンジャーズ』がデンマークの音楽評論家によるアワードで「アルバム・オブ・ザ・イヤー」「バンド・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、同年サマーソニックで初来日。その後2作品を発表し、2009年には再びサマーソニックで、翌年には単独ツアーで再来日。そして2014年、一時脱退していたベーシストのヨハン・ウォーラートが復帰、翌年4月に約5年半振りとなる新作『+-』をリリース。同年のサマーソニック出演。その後、ギタリストのボウ・マドセンの脱退を経て、11月にはジャパン・ツアーのために来日した。2017年4月、2年ぶりの新作『ヴィジュアルズ』をリリース。

 

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