NakamuraEmiインタビュー 2ndアルバムへの道程を語る

moraが今一番気になるアーティストNakamuraEmi。メジャー1stアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』はmora推薦のもと2016年度ハイレゾ音源大賞のユーザー賞を受賞しました(特設サイトはこちら)。今回、待望の2ndアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』が発表されるのを機に、NakamuraEmiというアーティストのコアにあらためて迫るべく、お話を伺ってきました。

聴き手:安場晴生/ソニー・ミュージックパブリッシング


 

インタビューの様子。 イラスト:牧野良幸

 

■メジャーデビューまで

――2ndアルバムが発売されるということで、そちらのお話を中心にいろいろお伺いしていきたいと思います。まずはmoraのインタビューには初登場ということで、「NakamuraEmi」というアーティスト名と表記に込められた思いを教えていただけますか。

Nakamura 7年くらい前までは、本名の中村絵美で活動していました。その頃は音楽も全然違う感じで、バラード中心で「人を感動させたいです!」という感じの弾き語りで音楽をやっていたんですけど、あのときは今と違う自分というか、ずいぶんお客さんに頼ってライブをやっていました。そこからいろいろな経験をしていく中で、お客さんに頼らずいろいろなことを切り替えたいなと思い表記を変えました。英語表記にすれば強く見えるかなというのもあって(笑)。30歳手前くらいのころですね。

――そこからインディーズで3枚アルバムを出して、メジャーデビューとなったと。「メジャーデビュー」ってNakamuraさんにとってはどういうものでしたか? 今回のアルバムの楽曲にもまさに「メジャーデビュー」という曲がありますが。

Nakamura 実はメジャーデビューってことが全く想像できていなかったんですよ。たとえば事務所があってレーベルがあって……みたいなこともよくわかってなかったんです。ここがデビュー日だっていうその日にスタッフさんがサプライズでパーティーをしてくださって「もう一つの誕生日ができたよね」と言ってくださって、そのときにはじめて本当の誕生日とは別に、新しい自分がもう一度しっかり出発できるんだと実感しました。

――では、メジャーデビューはインディーズ期と地続きではなく、ガツンと節目になったということですね。

Nakamura そう、もう本当に大きな節目でした。

――誕生ということで言うと、出身地の厚木ということをいつも強調されている気がしますが。

Nakamura 本当に曲の感じが変わった時から……昔は恋愛の歌ばっかり歌っていたんですけれども、ヒップホップのリリックとかに影響を受けて「そのまま自分自身のことを歌っていいんだ」ということがわかってからは「仕事の悩み」とか「友達と出会って感じたこととか」、そういうのを日記みたいにノートに書くようになって、それが曲になってCDになっているんですけど。私は神奈川県の厚木から出たことがないんですけど、そこでずっといろんな仕事を十何種類もさせてもらって、そこでもいろんな人と出会って。私は厚木の人たちに育ててもらったので、必ず厚木っていうのをプロフィールに入れるようにしています。

――厚木という土地柄から何か感じることはありますか? 都心ではもちろんないけど、ド田舎というほどでもないイメージなんですけど。

Nakamura 1時間半くらいで東京に行けちゃうし、山も近いですし、海にも30分くらいですぐに行けてしまうので……でも東京に行ってすごい街並みだったりとか、たくさんの人の感じ方とかが豊富にある感じからその日のうちに厚木に戻ると、私の家は厚木の中でも田んぼだらけのところだし、電波も弱いし、Wi-Fiも少し入りづらくなるし。数時間前には明るいところにいたけど、1時間後には真っ暗な場所でカエルの鳴き声が聴こえたりとか……そういう日常にすごくほっとしたり。あー、東京で感じたことを新鮮にまたここで感じられる。ここにいてよかったなあ、厚木にいてよかったなあといつも感じています。

――いまのお住まいは厚木の御実家なんですね。Nakamuraさんの曲を聴いてるとプロフィールが全部わかってしまう(笑) そういえば、今作の「めしあがれ」ははじめて家族を書いた歌ですね。

Nakamura そうですね。それまでは家を出て一人暮らしをしていたので自分のことを歌ってばっかりだったんですけど、30を越えて音楽はもう趣味にして結婚して仕事をして生きようとしていました。でも彼氏に振られてしまって実家に戻って、申し訳なさをいろいろ感じながら、事務所とかの話もまったくなかった時なので、親との気まずさもありつつ新しい生活が始まって。でも今の時期だから家族のこともきちんと書けるのかなって。家を出てあらためて家族が客観的に見れるようになって、いままでは「お父さん」と「お母さん」だったけど親が人間に見えたというか、はじめて「男の人」「女の人」というふうに見えて。そうか、私は住まわせてもらって育ててもらったんだなというのとともに、“帰ってきた感”をあらためてすごく感じました。

――以前ライブを見たときのMCで「音楽と結婚と素敵な仕事という選択肢が並列にある中で、音楽の道を選んでいく」というくだりがあって、その感じがとても新しいと思ったのですが。

Nakamura 二十歳の頃とかは「メジャーデビューしたい」とか言っていたのですが、でもだんだん仕事をしたり恋愛をして結婚をしたりするからこそ曲が書けるんだ、と思うようになって。音楽を主体にすると曲が書けなくなるから、なら音楽は一生趣味にしようと。ばあちゃんになってもライブはするけど……そうして仕事をしたり結婚したり子供を産んだりとかいうのが30過ぎてからの目標になったので、現在の事務所(オフィスオーガスタ)からお話をいただいた時には、音楽にもう一回戻って貧乏生活するなんて嫌だって思って。そのとき仕事もめちゃくちゃ楽しかったし、ここで一生働きたいというふうに思っていたので、そこから音楽だけをやるつもりは本当になくて。半年くらい「私にはもう無理です」って事務所の方にも言っていたんですけど、その方が毎回ライブに通ってくださって、それでいろんな話をしてくださって。ああ、この人は想像していた「業界」の人とは違うのかなと思って、それから少しずつ考えが変わっていって……職場の人にも音楽をやっているというのを2年くらい経ってはじめて話して、こういう話を受けたんですって相談したら「お前の年齢で挑戦できるなら行け。おれはバービーボーイズのファンだから、杏子さんがいる(事務所)なら行け」って言われて(笑)、なんかがんばってみようかなと思って。

―――そうして、身ひとつでメジャーの世界に飛び込んでいったわけですか。

Nakamura それまでずっとプロデュースしてくださっていたカワムラヒロシという人がいるんですけど、「カワムラさん、今までお世話になりました」って言って、最初事務所には一人で乗り込んでいったんです。それでいろんな方に会わせていただいたりプロの方に囲まれてアレンジしたりしていただいて、でもなかなかうまくいかなくて、「やっぱりできません」ってお断りをしたんです。そうしたら事務所の方が「カワムラさんが君の頭の中を音にできるのなら彼と一緒にやろう」と提案してくださって。事務所の方もちゃんとあらためてカワムラさんと話していただいて、私、事務所、カワムラさんというのがガシッとチームになって。これならやっていけるということで決意しました。

 

■曲作りについて

――歌詞がもちろんNakamuraさんの大きな魅力なのですが、それに匹敵するくらい楽曲も大きな魅力だと思います。ジャズやソウルやいろんな音楽ジャンルを詰め込んだ、そういう音楽性としてのヒップホップ魂というのをすごく感じるというか。

Nakamura ヒップホップやジャズというのは私だけではできなかったもので、私だけでやると四畳半フォークって感じですね。「この曲はこういう感じなんです」って言ってカワムラさんにいろんな音を聴いてもらって、カワムラさんはジャズがルーツの方なのでジャズの要素やポップスの要素とかが入ってきて、はじめてちゃんと曲になるという感じです。カワムラさんの弟さんにもずっとインディーズのころからドラムを叩いていただいていて、もう家族のようなものです。あとはベースの豊福勝幸さん。もともと三人でバンドを組んでいて、この三人とやりたいということからはじまっています。その時からいろいろサポートしてもらっている大事なメンバーです。あと1st、2ndアルバムのドラムはTOMO KANNOさんという方にお願いしました。TOMOさんは厚木のすぐそばに住んでいる先輩で、ジャズクラブで聴いて一耳惚れ(笑)でぜひお願いしたいなと。以前はNY在住だったのですが、こちらに戻ってくるタイミングで一緒にやることができました。なんだか厚木感がいっぱいになって安心しています。

――制作時にはまずデモテープみたいなものを作るんですか?

Nakamura まずは歌詞から曲にして、「四畳半」の状態からカワムラさんに聴かせてそこからいろんな要素を入れてデモテープを作って。それをもとに三日間くらいバンドと一緒にスタジオに入ってわーっと作る感じですね。

――曲から先に作るということはないんですか?

Nakamura ないですね。バラードとかを作っていた頃はコードとかに凝って作ったりしていたのですが、今は全くないです。ヒップホップに出会ってから、彼らの(実際に足音でリズムをとりながら)「リズムだけでおれは歌うぜ」みたいなのがかっこいいなと思って、そこからはコードとかにあまりこだわらず三つくらいコードがあればメロディーをつけて、とにかく言葉が聴こえるようにがんばっています。

――(同席していた30代のmoraスタッフ)「YAMABIKO」とか「NIPPONNO ONNAWO UTAU」とか、タイトルからぐっとつかまれる感じがあるのですが、そのあたりの言葉のチョイスはどのようにされているのでしょうか。

Nakamura 「NIPPONNO ONNAWO UTAU」というタイトルは自分が名前を変えだしたときに生まれたんですけど、いつも自然に女の人のことばかりうたっているなあとか、細やかな心をもった日本人らしい女性になれたらいいなというのがすごくあって。これだけ見ると「女を代表して歌うわよ」みたいな感じですがそうではなくて、「いつかこういう女性になれますように」という気持ちから、自然に出てきたタイトルでした。

 

■2ndアルバムについて

――今回のアルバムはリリースとしては1年2カ月ぶりくらいですが、時系列的に積み上がってできた作品なのでしょうか。

Nakamura そうですね。漢字からNakamuraEmiに変わったときにできた曲やすごく古い曲、メジャーデビューしてからできた曲もたくさんあって、自然に積み上がったものを今回詰め込もうと思って作りました。

――制作の途中では、ハワイに行かれたりもしたそうですね。

Nakamura メジャーデビューしてから3ヶ月くらいキャンペーンを周って、それからツアーを2ヶ月くらい……そこから夏フェスがぶわーっとあって、9ヶ月どっぷり音楽の世界にいたのですが、私はいろんな仕事とか経験から曲ができるというのをスタッフもわかっているので、「どっか行ってこい」って言ってくださって。私はずっと『ホノカアボーイ』という映画が好きだったので、(舞台になっている)ホノカアに行ってみたくって。ひとり旅だったのでまったく英語も通じなくて、レンタカーを借りて島をぐるぐるとしていたというのが貴重な体験だったんですが、そうやってできた曲もとても変な曲だったので、みんな嫌がるかなと思ったら「いいじゃん」ってなって。アルバム候補曲にもなったので嬉しかったですね。

――それがこのアルバムで一番新しい曲ですね。

Nakamura そうです。だからライブでも一度もやったことがなくて。私はライブで構築してレコーディングするタイプなのですが、この曲はスタジオでいっぱい練習してレコーディングした曲です。

――この曲もそうですがNakamuraさんの曲にはとても楽しい音……SEなんかが入っていたりするのですが、これにはどういった意図があるんでしょう?

Nakamura レコーディングエンジニアの兼重哲哉さんもインディーズの頃からずっとご一緒させていただいているんですが、この方がまたとてもアイデアマンで。私の歌詞を立体的にするために、ハワイだったらレジの音だったり私の歩く靴音だったり車のクラクションだったり、歌詞に出てくる音をリアルにリズムのいいタイミングで表現しようとしてくださるんです。それによって曲がそのまま生き物になっていく瞬間がいっぱいあります。兼重さんはエンジニアですがアレンジャーのようなアイデアをたくさん持っていて、音のイメージがどんどん立体的になっていくし、それにバンドメンバーもどんどんついてきてくれて、そうやってさらにサウンドが構築されていくんです。

――そういう風にして作られたサウンドも、Nakamuraさんの作品のとても大きい魅力だと思います。「メジャーデビュー」にはNakamuraさん以外にもたくさんの人の声が入っていますね。

Nakamura 曲を録り終えてミックスチェックの段階になったときにスタッフもバンドメンバーも全員集まって、そこで兼重さんが「全員の声を録りたいんだ」っておっしゃって。まず事務所の人と出会って、そこですべてのきっかけを作ってくれて、レコード会社の人たちに出会って、今のバンドメンバーにも出会ってメジャーデビューできた……そしてメジャーデビューが想像していたよりはるかにあったかいものだった、というのがこのメンバーのおかげなので、みんなの声を入れようよって。それでみんなで一つのマイクで歌いました。

――これだけたくさんの声に支えられてきた、ということが表されているのですね。リードチューンは「大人のいうことを聴け」ですが、Nakamuraさんの曲の中でもとてもメッセージが強い楽曲だと思います。なぜこの曲がリード曲なのですか?

Nakamura 本当にリード曲を選ぶのは迷ったのですが、この曲の歌詞は今だから言えた言葉でした。子供から見ると30歳やら35歳なんてずいぶん大人じゃんって思うけど、私からしたら周りには年上の素晴らしい方がたくさんいて、まだまだガキだなあ、甘ちゃんだなと思う。そんなところから感じた、今でしか書けないことを書きました。
また、今回は「光」とか「宝箱」というのがテーマだったんですが、そのことをすごく含んだ楽曲だったというのもあります。いままでは「自分、自分」って曲ばかりだったんですが、この世界に入っていろんな「光」をもらったなあと……私の曲はそもそも毎日の日記からできているんですが、その日記が宝物みたいになっていくというか、ひとつひとつ「今日は宝物を宝箱にいれておきたいな」という日がすごく増えて。1stアルバムの時は自分が自分が、というのがけっこうあったけど、この1年でいろんなものをもらって「光」が注がれて、「宝箱」にしまうようなものがいっぱいできて、その「宝箱」をパカっと開けてできたアルバムが今作というイメージなんです。

――デビューしてからの9ヶ月は濃かったんですね。

 

■ライブについて

――ライブで曲を育てるとおっしゃっていましたが、ご自身にとってのライブはどのようなものですか?

Nakamura ライブは自分の中で一番大切なものかもしれないですね。はじめて聴いたお客さんには「何こいつ? 誰?」というところから始まると思うんですけど、そういう人に言いたいことを演説するというか、何を伝えるかというのは今の自分がそのまま出ると思いますし。MCもそうだし、挨拶ひとつそうですけど……たとえばその30分のステージで、全部自分がバレると思うんですね。「このライブに向けて自分はどうやっていくか」ということを日々やっているので。ライブは一番勝負の時でもあるし、お客さんの反応が一番ダイレクトにくる一番わかりやすい時間なので、自分の音楽人生には一番大きなものを持っていると思います。あとMCはすごく苦手で、伝えるのが難しいのですが、そのライブにお金と時間をかけてわざわざ集まってくださっているので、自分がどういう人間なのか、なんでこの曲をつくったのか、なんで今日ここに立たせてもらっているのか、「今日は来てくださってありがとうございます」という気持ちだけは伝えられるように喋っているつもりです。

――ライブの目標はありますか?

Nakamura 日本全国の主要都市だけでなく、「えっ、この町に?」みたいないろんなところでやりたいですね。大きいところももちろん目標なんですけど、まずは聴いてくれてるみなさんにこちらから会いに行けるよう、日本全国津々浦々行きたいというのが目標です。

 

■気になるアーティスト、ハイレゾについて

――最近気になるアーティストはいますか?

Nakamura Nulbarichさんとか。気持ち良く聴けるんですよね。私の曲って疲れると思うのですが……いい意味でも疲れる言葉とかが、ガーッて詰まっているんで(笑) なので逆に気持ちよく聴ける音楽を探しています。
あとはMassan × Bashiryというアーティストで、ギターと歌だけの二人組なんですけど、本当にライブが素晴らしくって。「なんかワードください」ってお客さんに3つくらいお題をもらいながら、そのワードを使ってフリースタイルをやるんですけど、あんな暖かいフリースタイルは聴いたことがなくて。フリースタイルって「闘り合う」イメージかと思うんですがそうではなく、自分の生活を吐き出しながら一斉にお客さんを沸かせる、そんなライブ感とかを見ていると……自分もライブを大事にしているので、そういう意味で衝撃を受けたのはこの人たちです。

Nakamuraさんはmora推薦のもと投票でハイレゾ音源大賞のユーザー賞を受賞されました。受賞されたときの感想を教えていただいてもいいですか。

Nakamura  受賞の知らせのちょうどその時、バンドメンバーやエンジニアの方も一緒にいて飲んでたんですけど。もう、聴いた瞬間みんなで大喜びして。とても嬉しかったです。本当にありがとうございます。

――ハイレゾであらためて聴いてみたい作品があれば教えてください。

Nakamura 土岐麻子さんが新譜を最近出されていて、それはいい音で大きな音で聴きたいです。

――洋楽だと?

Nakamura Ronny Jordan! ギターの方で、もう亡くなっているんですけど、ずっと聴いていられる。ジャズとヒップホップが混じっているんですけどすごく格好よくて。この方は本当にいい音で聴いてみたいですね。

――最後にこのインタビューを読んでいる方にメッセージをいただけますか。

Nakamura 出会った人や聴いてくださっている人からいろんな言葉や場所をもらって曲が出来ていくと思います。これからも地に足を着けた動きができるようにがんばっていきたいと思いますので、応援よろしくおねがいいたします。

(1月某日都内オフィスオーガスタにて)

major 2nd album
『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』

 ハイレゾを購入

1.Rebirth
2.大人の言うことを聞け MV
3.晴人
4.ボブ・ディラン
5.ヒマワリが咲く予定
6.ハワイと日本
7.めしあがれ
8.メジャーデビュー

~NakamuraEmiさんが気になるアーティスト・作品~

Nulbarich
『Guess Who?』
Massan × Bashiry
『阿吽』
Guess Who?/Nulbarich 阿吽/Massan × Bashiry
土岐麻子
『PINK』
Ronny Jordan
『Off The Record』
PINK/土岐麻子 Off The Record/Ronny Jordan