sora tob sakana 音楽プロデューサー・照井順政インタビュー 新作『World Fragment Tour』に込めた「世界と出会い直す」というテーマを紐解く

4人組ユニット・sora tob sakanaがメジャー1stアルバム『World Fragment Tour』をリリースする。バンドセットでのワンマン開催、アニソンシンガーやDJも招いた自主企画「天体の音楽会」を開催するなど、アイドルという枠組みに収まらない越境的な活動を続けるこのプロジェクト。全体のサウンドプロデュースを手がける照井順政は、ハイスイノナサ・siraphといったバンドでも活動するミュージシャンだ。現行の前衛的な音楽シーンにも目配せをしつつ、ユニットでの活動をメンバーの成長の場として捉える彼がプロデューサーとして今回意識したのは、世界観を作り込むのではなく彼女たち自身ありきの作品へと「立ち位置を逆転させる」ということ。アルバムタイトルにもある「World=世界」や「Tour=旅行」といった言葉は、10代を駆け抜けるメンバーが向き合うべき課題を示していると同時に、いまこの時代を生きる私たちへの問題提起も含んでいる。その言葉の端々からサウンド・言葉・アルバムの構成すべてに「いま」聴くべき必然性があることが明らかになる、ロングインタビューをお届けする。

(なお、このインタビューは先日の風間玲マライカ卒業発表より前に収録されました)

インタビュー・テキスト:北出 栞

 


 

世界の音楽シーンとバンドサウンドの現在について

――今回のインタビューはアルバムの発売記念ということになるんですけど、アルバム自体について聞いていくのと並行して、照井さんがどういう風にいまの音楽シーンを見られているか、ということについても伺えたらと思っているんです。その上で、初めに先日のライブ(「天体の音楽会 Vol.2」)についてお聞きしたいなと。アニソンシンガー(YURiKA)にアイドル(フィロソフィーのダンス)、バンド勢(PAELLAS、JYOCHO、Tempalay)とそれぞれまったく異なる音楽性で……率直に言うと、非常にカオスな(笑)。

はい、そうですね。

――お客さんにとっても新しい音楽と出会える場になるようにということで設計されていたと思うんですが、いかがでしょうか。

sora tob sakanaの全体的なテーマとして「越境する」みたいな、いろんなジャンルをまたいでいくっていうのがあって。いまのsora tob sakanaというユニットの立ち位置として、アイドルファンのお客さんがいて、バンドを聴くようなお客さんもついてきてくれていて、最近は『ハイスコアガール』のタイアップもやらせていただいたことでアニメファンからも認知されてきている。そういうものを混ぜ合わせたり、ひっかき回せる立ち位置にいるユニットって、あんまり多くないのかなと思っていて。そういうところを活かした動きをしていきたいという意思が、今回のブッキングにも反映されたのかなと思います。

――そうやっていろんなシーンやジャンルがある中で、照井さんがいま一番面白いことが起こっている、刺激を受けている音楽シーンってどういったところなんでしょう?

個人的な部分とsora tob sakanaの作曲に関しての刺激となると分かれてしまうんですけど、個人的にはOneohtrix Point Never(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)だったり、Sophie(ソフィー)だったり、Yves Tumor(イヴ・トゥモア)だったり、Chino Amobi(チーノ・アモービ)だったり、James Ferraro(ジェームス・フェラーロ)だったり……それらがひとつのシーンと呼べるかはわからないんですけど、いわゆるエクスペリメンタルな人たちが独自の手法でポップな形にまとめあげていたり、またはコンセプチュアルな世界を作り上げている様なものが面白くて。ヴェイパーウェイヴ[1]以降の、インターネットのスカムを飲み込んだ音楽とでもいうような。

Oneohtrix Point Neverの最新アルバム『Age Of』より「The Station」ミュージックビデオ。

――なるほど。いま挙げていただいた方々も全員広義の電子音楽のアーティストだと思うんですが、ストリーミングサービスの隆盛もあったりして、ラップトップで完結する人たちのほうがエクスペリメンタルな作品を世に問いやすくなっているというのがあると思うんです。一方でsora tob sakanaはバンドサウンドを基調としていて、「sora tob sakana band set」という形でのライブもやっている。そこで照井さんが考えるバンドというフォーマットを選択することの難しさと、まだこういうストロングポイントがあるよというのがあればお聞かせいただきたいのですが。

そうですね……まずいまの世界のサウンドのトレンドとして、バンドサウンドがあまり聴こえてこないというのがありますよね。いろんな要素が関係してそういう風になってると思うんですけど、ひとつはやっぱりストリーミングっていうものが全世界的には主体になってきている、そうなったときにどういった音作りをすれば映えるのかっていうところで。ラウドネス規制の関係もあってか、全体的に音圧が高くて空間が埋まっているものよりも、音数が少なく、ダイナミクスのあるものが広く聴かれている気がします。バンドのサウンドの美味しい部分を保ちながら、そういった環境にも対応する音作りはバンドのこれからの課題になるのかなと。

正直、自分としてはバンドのサウンドがすごく好きだということは特になくて、イメージに一番近い音が出せればそれがバンドであれラップトップ上の作業であれ構わないんです。ただsora tob sakanaの活動を通じて自分でも打ち込みというものをいろいろと勉強していく中で、逆に「生楽器のよさ」みたいなものも見えてくるっていうところはあって。

――具体的にはどういったところでしょうか。

やっぱり直感的でスピーディーに使えるところです。ギターとかだと「左手でずっと弦を触ってる」とか、アタック以外の部分をずっとコントロールし続けるっていうこととかが……もちろん打ち込みでも再現できるんですけど、なかなか生の楽器のスピード感には追いついてないとか、ちょっと複雑になってしまったりとかっていう部分は大きいと思っていて。

あとは「バンド」ってことでいうと、人との関わり合いがあるかないかっていうところに影響はしてくるのかなと。sora tob sakanaの楽曲はけっこう自分ひとりで部屋にこもって作るみたいな感じなんですけど、やっぱりどんどん視野が狭くなってくるというか。今回バンドセットをやってみて改めて思ったんですけど、風通しがよくなりますよね。同じ目標を持った人と定期的に会って、その人たちから「こういうの見つけたよ」とか、「こういうのやってみたんだ」っていうのをもらうのはすごく刺激になりますし。「バンド」の魅力っていうのはそういう部分ですよね。

「天体の音楽会 Vol.2」より、「WALK」(アルバム収録曲)ライブ映像。

――アルバムのレコーディングでもband setのメンバーの方々に協力していただいているんですか。

「天体の音楽会」に参加してくれていたメンバーの中では3人ですね。ベース(照井淳政)と鍵盤(森谷一貴)とドラム(リンタロウ)は数曲参加してもらっていて。あとは単純に音源だけで参加してくださっているミュージシャンもいます。

――もともと照井さんはプレイヤーからキャリアをスタートされているわけですけど、プロデューサーという立ち位置になったときに、各プレイヤーに対してどのくらい解像度を上げて伝えるんでしょうか。あるいはどのくらいプレイヤーの自由度に委ねているのか。

うーん、やっぱりそこは難しいですよね。未だにそのときそのときで揺れてますし。正直関係性とかにも寄ってきちゃうところはあるんですよね。時間がいくらでもあればいろいろ詰めながらやれるんですけど、やっぱり限られた時間の中でやることなので。勝手知ったる、たとえば今回のライブでも参加してくれたドラムのリンタロウくんとかであれば言わなくても大部分のことはわかってくれてて、こういうポイントだけ伝えれば大丈夫ってこともありますし。逆に今回のアルバムに収録されている「ありふれた群青」っていう曲で叩いてくれてる伊吹文裕さんは僕が単純に彼のプレイが好きっていうだけで呼んだんですけど、そういう方の場合は当然こちらから何もプレイの内容を指定しないというわけにもいかなくて。ただプレイヤーを指名して呼ぶ以上は、その方の個性を出したいっていう気持ちはかなり強くありますね。ガチガチにはあまりしたくない。いったん自由にやっていただいて、ここはこういう風にしてほしいんですよねってポイントだけ少しディスカッションして落とし込んでいく、という形になりますね。

――2016年に出した最初のフルアルバム(『sora tob sakana』)のときのインタビューでは、「レコーディングのスケジューリングに課題が残った」ということも仰られていて[2]。そのあと、band setで演奏するということも重ねてきたことが、今回の制作にもフィードバックされた部分があるのかなと。

そうですね。やっぱりプレイヤーがどういう気持ちでレコーディングに臨むのかって、意外とわかってなかったんだなというのがあって。自分もプレイヤーだからわかれよって感じではあるんですけど(笑)。それは経験を積むことによって、こういうところは言わないと汲んでくれないし、逆にこういうところは自由にやってもらったほうがいいんだなとか、いろいろ見えてきた部分はありますね。

 

「世界と出会い直す」というテーマ――『World Fragment Tour』について

――それでは今回の作品について伺っていきたいと思います。過去のインタビューを読ませていただくと、「アイドルが、ローティーンの女の子が歌うってそもそもどういうことなのか」ということから逆算して、ノスタルジーやジュブナイル性をキーワードに世界観を作り込んでいくという……語弊があるかもしれないですけど、「アイドル」というものをひとつの楽器として使うといったような発想があったのかなと思うんですね。で、今回もこれまでと地続きの世界観ではありつつも、ちょっと踏み出しているような印象が言葉とサウンド、両方の面である。一言でいえば彼女たちも大人になっていく中で、照井さんの中でもジュブナイル的なストーリーを描くっていうところから少し変わってきたんじゃないかと思ったんです。

そうですね。これまではなんだかんだ言っても自分が世界観というものを作り込んで、彼女たちはその世界を自由に生きる、みたいな形でsora tob sakanaというものをエンターテインメント化してきたと思っていて。でも仰った通り彼女たちの自我も昔よりはっきりとしてきて、自分たちが何が好きで、どういう人間なのかということを自覚し始めてるというのを、音楽プロデューサーという立場からすごく感じるようになったんですね。そのときに彼女たち自身というものを主軸に置いて、それをより際立たせるというか、そのための舞台を自分が作っていくっていうようなやり方にしてみたいなというのが最初にあったんです。これまでと立ち位置を逆転させるというか。

照井順政さん

いままでは作られたものを与えられて、それをこなしてなんとなく楽しくやっていたら、いつの間にかけっこう大きくなってメジャーにもなっちゃった……みたいな、順風満帆だったがゆえに自覚もないままだった部分もあると思うんです。もちろんしっかり頑張ってる子たちではあるんですけどね。大きな挫折もなく、高校球児のような熱い涙もなく、わりとのほほんとやってきた。その「のほほん感」を良い形で表現に落とし込むというやり方を選んできたんですが、このままでいくっていうのもちょっと厳しくなってきたなと。

――そうした中で、ゲストクリエイターの方を呼んだということもあるのでしょうか。いままでと違うタイプの曲を歌うことも、ある種のハードルになる。

アルバム全体のテーマが、彼女たちが自分の眼と足で改めて世界と出会い直すっていうものだったんですよ。いままで緻密に作り込まれた世界を生きてた彼女たちが、違う世界と出会うっていうのを具体的にやるためには、人を呼んだほうがいいだろうっていうところはありましたね。

――世界との出会い直し……「World Fragment Tour」というタイトルにも、それが端的に表れているわけですね。

そうですね。どういう落としどころにしようかっていうのは最初は全然決まっていなくて、わりと最後に「ツアー」という投影体を見つけたって感じなんですけど。曲が揃ったときにけっこうバラエティに富んだものになっていて、いま言ったような全体のコンセプトっていうのがあった中で、じゃあこれを旅っていうものになぞらえて改めてしっかり形にしていこうと思って。

 

リード曲「knock!knock!」について

――MVが公開されているのは「knock!knock!」ですが、これがアルバムの顔になる曲ということになりますか。

そうですね。いわゆるリード曲になります。

「knock!knock!」ミュージックビデオ。

――この曲について、Twitterで「様々な視点が層になっている様な曲」と表現されていましたが、具体的にどういった意味なのか教えていただけますか?

すごくわかりやすいところで言えば、表向きぱっと聴いた感じだとテンションが高くて、「次の扉を開くぞ、新しい世界に出会うぞ」みたいな感じに聴こえるように作ったつもりで。ただこの曲を最初に作ったときの発想の大元っていうのは、ツアーというあらかじめプランニングされた旅っていうものに対する批判的な目線なんです。彼女たちが新しく自分の眼で世界と出会い直すっていうところがテーマではあるんですけど、用意された流れに全部乗っかっていくっていうのは、旅をしてる気にはなっていても、結局誰かにおすすめされたものを見てきてるだけだろうと。自分の頭で考えることが大事なはずなのに、ポーズだけとって満足してしまっていることもある……っていう発想から作り始めた曲で。歌詞の前半に鍵括弧がついてるんですけど、それが架空の旅行会社のコピーみたいに自分の中では設定していて。

――(資料の歌詞を見て)あ、本当ですね。

要は「こういうプランのツアーがございます、みんな楽しいよ」みたいな、誘い文句のような感じになっていて。2番でちょっと曲想が落ち着いたところで、別の視点からの言葉が出てくるというような作り方をしていて。

――なるほど。ちなみにちょっと脇道にそれるかもなんですが、その鍵括弧がついている部分で出ている「ショッピングモール」という単語、東浩紀さんの『ゲンロン』を読まれているというツイートもされていたので関係があったりするのかなと思ったんですが……[3]

たしかに(笑)。影響はやっぱり受けてますね。

――あとは「プラン」というと「Summer Plan」という曲が初期にあったのも思い出します。そう考えると、ある種の自己批判的なところもある。

そうですね。とはいえ、それこそ東さんの「観光客の哲学」じゃないですけど、軽い気持ちで観光するっていうのが大事だっていうのは自分も思っていて。ツアーっていうものに対して批判的な目線は持ちつつも、だからといって動かない村人でいてもよくないだろうと。ツアーというものに対する批判のさらに一個下の層として、それでも一歩外に出てみようみたいなところがあります。

――サウンド的にはエキゾチックな間奏のフレーズが耳を惹きますが、異国感という意味でいまのお話につながるんでしょうか。

これは単純にメンバーの2人ほどがK-POPにハマってて(笑)。私たちもこういうのやりたい、じゃあどこかしらでやろうね、みたいなわりと軽い会話があったんですけど。具体的にK-POPをどう取り入れようかなってなったときに、EDMでいうドロップ的な耳に引っかかる中毒性のあるパートや、一見して覚えられる振り付けなどを参考にしつつ、そのまま持ってくるのではなく、上物にはエレクトロニカ的な抒情性を残したり、ドロップのあとに日本的なメロディックなサビを用意したりっていう構成を作ることなどによって、独自の形にしようと思って作った感じです。

――それこそBTSがビルボードでチャート1位を取ったり、音楽における「アジア」と「世界」の関係って以前とはまた違った感じになってきていますよね。今回「World Tour」とタイトルに冠してる中で、この「World=世界」にはどういったイメージが込められているんでしょうか。

そうですね……ジャンルっていうか領域、自分の見てる世界ですよね。(メンバーは)いわゆるデジタルネイティブの子たち、生まれたときからスマホを見てるみたいな感じの子たちで。ただそうやっていろいろ情報を得ているはずなんだけど、やっぱり非常に限定された情報の中で実は生きてるし、しかもすごく表層的な感じがするんですよね。知識はあるんですけど、集中力に欠けるところがあるっていう風に自分にはどうしても見えちゃって。それはそれでひとつの形なんですけど、音楽プロデューサーという立ち位置で関わってる僕の願いとしては、最終的に自分の足で生きていってほしい。このアイドル活動を通じて、情報ってものを自分なりに考えて、最終的にアウトプットしたり、自分の行動に反映させたりする人になってほしいと思っていて。だからネットの表層的な、しかも自分の好みのものだけを見ているというのではなくて……これも東さん的に言えば「誤配」[4]というか。

――「検索ワードを探す旅」[5]ですね。

そうですね。やっぱり思いがけない場所に行ったり、思いがけない言葉に出会ったりというものが大事だし、そういう中で自分の世界を広げていってほしいなと思っているんです。

 

アルバムの構成に込められた仕掛け

――『ゲンロン』でも最近特集が組まれていましたけど、照井さん自身もいまゲームにはすごく関心を持ってるという話をTwitterでされていましたよね。アルバムの前にはゲームセンターを舞台にしたアニメ『ハイスコアガール』のテーマ曲だった「New Stranger」もありましたし、今回の収録曲でも「シューティングスター・ランデブー」にそのものずばり「ゲーム」という歌詞が出てきて。

まあ、この楽曲(「シューティングスター・ランデブー」)の中に出てくるゲームっていうのは、どっちかというと予定調和になってしまうことへの問いかけという形で使っているんで、そこまで大事に使っているというわけではないんですけどね。個人的にもゲームは大好きですし、いろんなエンタメとか文化のジャンルがある中ですごく刺激的な分野だと思うんです。この先もいろんな進化がありそうだっていうのがあって。『Detroit: Become Human』[6]も買いましたし(笑)。

TVアニメ『ハイスコアガール』OP映像。

――その『Detroit』もそうですけど、ゲームって世界に対してプレイヤーとして介入するという形になるから、選択肢によるマルチエンディングだったり、メタな表現が進化するところがポイントだと思うんです。

あとは没入感の強さですよね。当たり前ですけど、実感としてすごいものがあるっていうのがわかるので。

――個人的にはエンターテインメントが「没入」というキーワードありきになるのはちょっと危険な気がしていて……それこそ、限定された情報の中で世界を捉えてしまうっていうこととも表裏一体だなと。だからその際を見つけていくというか、没入しすぎないように片足をかけて、世界を見るひとつの装置として付き合う方法というのが、ゲームの進化から学べることなんじゃないかと思うんです。

それはsora tob sakanaを始めた頃の問題意識にもすごく似てますね。当時の僕はアイドルビジネスの大半が、ありとあらゆる手を使って依存状態を作り出すみたいなやり方に見えてしまっていて……もちろんそれが単純に悪だとは思いませんが、sora tob sakanaはそうじゃない形でなんとか成功できないかと思っていました。そういうところから出発したので、いま仰ったようにひとつの世界を見る要素として使いながら、より自分の世界を広げていってもらえるような表現にならないかなというのは考えてきていて。

――なるほど。いま仰ってくださったことは、今回のアルバムの構成にも表れていると思いました。インタールードの「暇」というトラック、これはメンバーの皆さんが寝転がりながらリモコンで前半の曲の断片をザッピングしていくようなトラックになっていて。これはそれまで没入して聴いていた状態から半歩はみ出させる表現だなと。

そうですね。ファンタジー的なものにいろんなイメージやメッセージを織り込んで、彼女たちが発信者となるみたいな形は引き続きこのアルバムでも踏襲してるんですけど、一個メタ的な視点を入れることによってより作品の解釈の幅だったり、重層的な視点を持たせたかったっていうのは狙いとしてありました。

――彼女たちの「暇だ」っていう素が出ている感じの言い方には、それまで安心して聴いていた自分なんかはちょっとびっくりしたりもして(笑)。

sora tob sakanaというか、自分の曲はけっこう堅苦しくなってしまう傾向があって……展開だったり歌詞だったりもわりと重いというか、重厚だったりするっていうのが、自分の中で反省点としてずっと持っているところで。このアルバムも終わってみればバラエティに富んでるって自分でも思えるんですけど、最初のほうにできていた曲は同時期に作っていた配信曲の「アルファルド」も含めて「なんか真面目過ぎる曲が多いなあ……」って思ってて。でも彼女たちのパーソナリティは別にそういう感じでもないし、けっこうだらだらしてる面もある。僕はそういうところが人として好きだったりもするので、さっき言った狙いに混ぜ込む形で、そういうところも出そうと思ってこの曲を配置したところもありますね。

「アルファルド」ミュージックビデオ。

――照井さん自身が彼女たちから刺激を受ける部分もありますか?

すごくありますね。たとえば、自分の発想にはない文章の接続が面白かったり。ブログの文章とか、複雑骨折してるみたいな文章なんですよ(笑)。思いついたままに、散文詩のように書いたりしてて。あとは……わがままで、すごく直情的な部分を出してくる一方で、大人以上にすごく気を遣ってる部分もあったりで、人間の複雑さっていうものを考えさせられます(笑)。それに単純にいまの文化とかもすごくわかりますよね。やっぱTik Tokとか見ないしな、みたいな……それこそ僕自身が「自分が好きなものだけ見る」ってのに陥ってるじゃないかと。K-POPにしても、自分だとやっぱり音楽家の目線でチェックしちゃうところを、ほんとに純粋なファンとしての目線から「こういうのがいいんだ」っていうのを学ばせてもらったり。

 

ゲスト作家陣とスタジオ作業について

――今回ゲストで参加されている作家陣については、「天体の音楽会」にも出演されていたJYOCHOのだいじろー(中川大二朗)さん、照井さんが一緒にバンド(siraph)も組まれている蓮尾理之さんといるので、もともとお付き合いのある方にお声かけしたという感じなのかなと思ったんですが。

実は他にも声をかけた方は何人かいて。ちょっとタイミングだったりとかでハマらなかったので、最終的にこの3名という感じなんです。あくまでアルバムの中にほしいピースを作ってくれそうな人に声をかけたっていうことで、知り合いだからとか関係値っていうのはほとんど考えてないですね。結果的に、蓮尾くんとかはやっぱり仲がいいのもあってすごくツーカー的にやってくれたんで、それは非常に助かったんですけど。

――なるほど。君島大空さんは、このタイミングで初めてお会いしたんですか。

そうですね。僕はSoundCloudで彼の作品を聴いて、すごくいいなとずっと思ってて。いつかご一緒できたらなと思っていたときにこのアルバムを作ることになって、テーマが「一歩先に踏み出す」みたいなものに決まったときに、いままでとちょっと違う世界観を作れる人としてすぐ浮かんで。いきなりTwitterでDMを送って(笑)。そうしたら「ハイスイノナサを聴いてました」みたいな返信がきて、それでお話して……でしたね。

君島大空 1st EP『午後の反射光』より「遠視のコントラルト」ミュージックビデオ。

――いい話ですね。その「燃えない呪文」は全体にリヴァーヴのかかった音響など、ミックスも含めてすごくひとつの世界観を感じさせる曲で。

宅録を中心に活動されてきた方ということもあってか、細部のこだわりがすごいなと思いましたね。自分も彼の曲のレコーディングやミックスには同席していたんですけど、勉強っていうか、純粋にどういう風にやるんだろうっていう興味があって。最終的にマスタリングにも立ち会っていただいたんですが、マスタリングエンジニアさんも「こんなのやったことないよ!」ってくらい上(高音域)を削ったりしてて。音としてわかりやすく特殊な感じになってるなと思います。

――なるほど。アルバム全体のミックスやマスタリングにも、照井さんがすべて立ち会われたということなんですよね。

そうですね。

――このインタビューが載るmoraでは非圧縮のハイレゾ音源を配信させていただいていて。ハイレゾ音源のいいところとしてよく言われるのが、音のレイヤー、層っていうのがまさに分離して聴こえるというところなんですね。こうした特性は「knock!knock!」についてお聞きしたときにも触れた、多層的な視点を持つことが大事だというアルバムのコンセプトにも合っているんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう。

今回、いままでよりは意図的に展開だったり音数だったりを削ぎ落としてるつもりでいて。その分一個一個の音選びだったりを吟味して、力のかけ具合のバランスが変わってるというか。アンサンブルをすごく構築していくっていうところよりも、そもそもの音にかける時間を増やしたという感じだったので、ハイレゾにしたときに音の立ち具合とかがはっきりするのかなとは思いますね。

――「天体の音楽会」でも披露されていたラストの「WALK」などは非常にバンドらしい疾走感のある曲ですけど、全体的にいわゆる「せーの」で録った場面というのはない感じですか。

そうですね、各パート別々に録音しています。デモの時点でアンサンブルの大まかな内容っていうのは自分の中で決めてしまうので、そのときにいいバランスにしておいて、あとはやってもらうミュージシャンの解釈を入れ込んでいくという形でした。

 

今後の展望

――本日お話を伺って改めて思いましたが、sora tob sakanaって、照井さんという音楽プロデューサーとメンバーの関係だったり、そこから導かれるコンセプトがすごく独特かつ普遍的なものだと思うんです。それこそ世界にも通用するような……なので最後に今後のビジョンがあればお聞かせいただきたいです。

世界展開はぜひしていきたいですね! その上で、まずやっぱりいま海外ってストリーミング主体だと思うので、次回からはより曲作りやアレンジの時点でそうした流れに対応するような構築の仕方にしていこうと思ってます。具体的にいえば、今回よりももっと(展開や音数を)削ぎ落していくとか、聴かれる環境を考えた音作りとか。

ただ、単純にそっちに合わせるというのも良くないとは思っています。やっぱりメンバーがあってのユニットなので、あの子たちのような個性を持った少女たちと一緒にやるっていうところを意識しながら、あとは日本の中で育ってきた自分の解釈っていうものをちゃんと持って、戦っていけたらと思ってます。

――期待しています。長い時間ありがとうございました!

 

【註】

[1] 2011年頃を境にオンライン上のコミュニティから発生した音楽ジャンル。80年代~90年代当時のポップスやCM音楽などをサンプリングし、伸び切ったカセットテープで聴くような音質にあえて加工することで、ノスタルジーを喚起するような作りになっているのが特徴とされる。下記のサイトも参照。

現代ビジネス「ミレニアル世代を魅了する奇妙な音楽「ヴェイパーウェイブ」とは何か」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59738

TABI LABO「Vaporwave――ネット世代が生んだアングラカルチャー」
https://tabi-labo.com/feature/vaporwave

[2] CDJournal「連載:南波一海 presents ヒロインたちのうた第3回 照井順政」より。 https://www.cdjournal.com/main/special/song_of_the_heroines/645/27/f

[3] 東浩紀は批評家・哲学者・ゲンロン元代表(2019年3月現在)。現代社会を考えるメタファーとしてショッピングモールに注目した論考も多く、写真家の大山顕との共著で『ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市』(幻冬舎新書、2016年)もある。

[4] 東浩紀の初めての著作『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』(新潮社、1998年)の中で提示されて以来、彼の哲学の中心に据えられるキー概念。平たくいえば、郵便物が間違って届くことがあるように「思いがけない出会い」がもたらされる余地があるということ。

[5] 東浩紀の著書『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎文庫、2016年)のこと。同書の内容を一部発展させる形で、近年の主著である『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、2017年)が執筆された。

[6] フランスのゲーム制作会社、クアンティック・ドリーム社による2018年発売のPlayStation 4用アクションアドベンチャーゲーム。照井さんが読んだという『ゲンロン8 特集:ゲームの時代』においても大きく取り上げられていた。

 


  • World Fragment Tour/sora tob sakana

    メジャー1stアルバム
    『World Fragment Tour』

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  • 【収録曲】

    1. whale song
    2. knock!knock!
    3. FASHION
    4. タイムトラベルして
    5. 燃えない呪文
    6. 嘘つき達に暇はない
    7. 暇
    8. ありふれた群青
    9. シューティングスター・ランデブー
    10. World Fragment
    11. WALK

【購入者特典】
sora tob sakana『World Fragment Tour』をまとめて、あるいは収録楽曲を1曲以上ご購入していただいた方の中から、抽選で【サイン入りチェキorサイン入りポスター】をプレゼント!

■プレゼント内容
・sora tob sakana直筆サイン入りチェキ:3名様
・sora tob sakana直筆サイン入り『World Fragment Tour』ポスター:5名様

■応募期間
2019/3/13 (水) 00:00 ~ 4/2 (火) 23:59

■対象作品
sora tob sakana『World Fragment Tour』
※アルバムをまとめて、あるいは収録楽曲を1曲以上ご購入していただいた方が対象となります。
※AAC・FLAC(ハイレゾ)ともに対象です。
※ご応募はお一人様一回限りとさせていただきます。

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