TK from 凛として時雨がハイレゾを語る! 『unravel (acoustic version)』配信記念

 TK (凛として時雨) がmoraインタビューに登場。実は先日、人気アニメ『東京喰種トーキョーグール』の1stシーズンに提供した「unravel」が、2ndシーズン最終話にて、ストーリーに合わせてTK自ら再アレンジを行ったアコースティック・バージョンが流れて話題となりました。そんなレア・ナンバーが、5月にハイレゾ配信リリースされることが決定。もともと、独自のセンスでエンジニアリング、ミックス、マスタリングなどに携わり、音へのこだわりを感じさせるTKさん。そこで、興味津々だという最新のハイレゾ環境の魅力をいっしょに体験することになりました。作り手でありアーティストならではの視点をお楽しみ下さい。

 

インタビュー&テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 


  

――ミックスを自分でやられたり、音へのこだわりがハンパないTKさんだと思いますが、ハイレゾへの興味のきっかけは?

TK ミックスをやっているので音へのこだわりがすごいと思われがちなんですけど、オーディオ的な意味合いではないんです。もともとエンジニアの勉強をやっていたワケでもなく、作品として作りたい音の追求の結果なんです。曲づくりの延長線ですね。たとえばビットレートとかにも興味がありませんでした。自分が違いのわかるものだったり、音として自分が欲しいもの以外にはあまり興味が向かなくて。

――なるほど。

TK 世代的なものもあるかもしれないんですが、僕はあんまりMP3にも抵抗がなくて。自分が高校生のころとかMDだったので、いまだにMDの音とか好きだったりして(笑)。圧縮をしてるので、オーディオ的には良いものではないんですよね。でも、ある種コンパクトに聴きたい音がダイレクトに自分に伝わってくる環境なのかもって思っていて。ものは捉えようですよね。

――はいはい。

TK だからハイレゾ音源として192kHzや96kHzの音源をちゃんと聴こうとすると、自分が今まで聴いていた天井よりもっと上のところに音がくるんですよね。さっきハイグレードな高音質空間でノラ・ジョーンズを、目の前に吸音材と1本100万近いスピーカーしかない状態(笑)で聴かせていただきましたけど、体験したことの無い音で驚かされました。今アナログなレコード文化も盛り上がってきていると思うんですけど、MP3で手軽にたくさん持ち歩くというのもいいですし、LPやハイレゾで違った音の世界を体験するのもありだし、選択肢が広がったってことが音楽文化において素晴らしいなと思いました。

――いろんな楽しみ方が出来ますよね。

TK 僕としては自分がミックスした音源を、絶対録音したままの48kHzで聴いて欲しいとか、96kHzで聴いて欲しいというエゴはないんです。聴いている人が選択できるという環境が良いと思うんですね。余韻や音の定位がはっきりわかりやすいハイレゾを体験することで、音ってこうやって出来ていたんだというところに意識が向くことは面白いですよね。もともとこういう音を圧縮して聴いていたんだという発見にもなりますし。これまでのリスナー環境って、そんな視点に意識が向いてなかったと思うんですよ。そこは音楽業界全体の成長としてとして大きいことですよね。

――ハイレゾウォークマンNW-ZX2をアンプPHA-3とMDR-Z7のヘッドホンで聴かれてましたがいかがでした?

TK MP3やCD音質とはぜんぜん音の聴こえ方が違いますね。さっき僕はマイケル・ジャクソンを聴いてましたけど、たとえば天井が低いほうがコンプ感が強いのでロックとかそういう音源の場合は、曲によっては44.1kHzなど、ハイレゾじゃない音でも良いかもしれないなって。でも、ハイレゾで更に高解像度のまま伝えられることによって、自分としてはミックスのやり方も変えていかないといけないなって気がつかされました。どうしても耳に一番最初に届いてくる音っていうのは、個人的に一番上のきれいな透明感だったりするんですよ。曲の印象や音の印象がすごく透明な感じで聴こえるんですね。なので、いままで歪み感として聴かせたかったものが、透明感が加わってくるので同じ状況で聴くと、お客さんがハイレゾで聴くことを想定してミックスしたくなるな〜と。マニアックな話ですけどね(笑)。

――学生時代に聴かれていたという尾崎豊はいかがでした?

TK 歌の余韻や演奏の息遣いが当時聞いていた音とは別物に感じますね。NW-ZX2というウォークマンのフラッグシップモデルで試聴させて頂いたんですが、そもそも普段自分が聞いているプレイヤーとの音の差が違い過ぎちゃって(笑)。なんでもかんでも高音質というとちょっとオーディオ的な意味合いを強く感じますが、マスター音源に近いということはより本人の声だったり意図していたものに近いということですよね。もう生で聞く事の出来ない歌声であれば尚更ハイレゾというのは限りなくそれに近いものを感じられる1つの選択だと思いました。

 

(今回、試聴に使用していただいたハイレゾ対応ヘッドフォン)

 

――あと、宇多田ヒカルさんもお好きなんですね?

TK 僕は、凛として時雨をやりながらも最初はあまりロックを聴いていなかったんですよ。最初、ロックを聴き始めたのもLUNA SEAやラルク アン シエルとかをテレビで見たのがきっかけだったりして、いわゆる洋楽は聴いてきませんでした。元々は普通に小室さんの音楽とかJ-POPが好きで今に至りますね。その流れで、宇多田ヒカルさんは今聴いてもですが、当時全てが新しかったですし好きで良く聴いていましたね。それこそ無意識にミックスやマスタリングの音選びもかっこいいなと思って聴いていました。

――このmora readingsというコーナーの第一回目って、宇多田ヒカルの音を作って来たチームが登場しているんですよ。(リンク:宇多田ヒカル・スタッフ、ハイレゾの魅力を大いに語る!

TK あ、そうなんですね。それは気になりますね。

――あと安藤裕子さんもお好きなんですか?

TK はい。ちなみに、この前弾き語りでご一緒させていただきました。マスターにDSDを使った一発録りのライブ音源『Acoustic Tempo Magic』を出されているじゃないですか? どういった感じで聴こえるかがすごい気になって。さっき聴いたらやっぱりライブでしか感じられない様な空気感や緊張感が、ここまでリアルなまま伝わってくるんだなと耳ですごい感じました。余韻がすごい耳に入ってきますね。あといままで聴いていたCD音源と比べると圧倒的に景色として色が見える感じがありました。天井が高くなってさらにそこに色がつく感じ。僕はイヤモニになる前はライブの時にモニターから爆音出し続けてやってきていたので、結構上のほうの耳は死んでるんですよ(苦笑)。それでもハイレゾ・ウォークマンで聴くと、すごい情報量だなって思いました。普通にちゃんとした耳を持っている人が聴くとよりすごいんじゃないかなと(笑)。

――ははは(苦笑)。そして、上原ひろみさんも聴かれたり。

TK 大好きで聴いていますね。家では歌がない曲を聴くことが多いかもしれません。キース・ジャレットとかもそうなんですけど、テクニカルな部分もありつつ、メロディアスな部分も全部聴こえてくるんですよ。次の瞬間何が起きるかわからないような人たちなので、すごいドキュメンタリー性が強いんですね。その中でぐっとメロディーが心を掴む瞬間っていうのがいろんなところにちりばめられていて。毎回聴いていると、その発見があるのがすごいうれしくて。僕が作っている曲だったり一般的な曲って構成を覚えられるじゃないですか? でもそういうのじゃなくて毎回新しい曲を聴いているような感覚でハっとさせられる感覚なんです。

 

――普段は、音楽を聴く時はどんな環境なんですか?

TK 僕はポータブルだとアップル社の電話を……(笑)。なので全然違う音世界ですよね。だからヘッドホンアンプとかも興味を持ってなかったんです。意外とミックスダウンが終わっちゃうと、聴くときはイヤホンも下も上も出ないもので聴いてましたから。なので、今日はハイレゾはもちろんウォークマンの音の良さにもびっくりしました。

――そして、ヘッドホンもフラッグシップモデルのMDR-Z7と、人気商品のMDR-1Aで聴き比べられてましたね。

TK そうですね。余韻や定位の聴こえ方の違いはもちろん、ヘッドホンで音が届くスピード感が同じ曲でもこんなに変わるってことに驚きました。本当に多様化してきているんだなと思いました。となると、どこに焦点をあてて自分が音を作ればいいのかっていう部分に意識はいきますよね。でも、結局いろんな事を考え始めるときりがなくなってくるので、だったら自分の環境を信じるのが良いかなと思っています。

――より高音質なDSDレコーディングにも興味はありますか?

TK 噂は聴きますね。あれもCDよりも何倍もの情報量というハイレゾという括りになるんですか?

――そうですね。海外のヨーロッパのクラシック方面ですごい盛り上がって、今moraでもDSD配信もスタートしていますね。元はSACDの規格です。

TK DSDの再現性がすごいって話をよく聞きますね。DSDで録ってそれをPCMに変換してやるとどうなるんだろうなっていうのにはすごい興味があって。逆にPCMで録ってDSDにする人もいますよね。どっちが面白いのかなって。最後だけDSDにするほうが楽ではあるんですけど。

――そういう方も多いですね。DSDの雰囲気ってやっぱり出るんですよ。その効果が欲しくてそうやってる方もいますね。ハイレゾで聴きたい音源としてキース・ジャレットをあげていたのは、それこそ音の響きとか余韻とかがわかりやすそうですね。

TK キース・ジャレットは普段よく聴いているので、LPでもMP3でもCDでも全部で体験していますね。なので違いがわかりやすかったです。ライブ音源でいえば、44.1kHzと96kHzの違いのほうが、96kHzと192kHzの違いよりわかりやすいのは何でなんですか?

――ひとつ聞いた話では、アナログテープって40kHzまでらしいんですよ、それを96kHzでカバーできるので。それ以上の192kHzとかになってくると、今度はまたぜんぜん別の話になってきて。50kHzをEQでぐっとあげると、体感上聴いた感じがだいぶ変わるとそういう効果がだんだん出てくる領域に入ってきて、いわゆる別の領域らしいんですね。CDでも50kHzでフィルターかけると音が変わっちゃったりしますし。

TK なるほど。ちなみにハイレゾって何だ?ってわからない人もまだまだ多いと思うんですけど、そもそもハイレゾって分かりやすく言うとどんなものなんでしょうか?

――数値的な定義はありますけど、作り手次第なところも大きいですね。基本的には、スタジオでアーティストさんなり、プロデューサーさん、エンジニアさんがOKした音をそのまま届けられるということですよね。

TK CDが標準で、更に手軽な選択肢としてMP3もあったけど、もっとマスターに近いものが普及できるようになったということですよね。

――料理が冷めないうちに届けられるっていうことですね(笑)。作り手や聴き手がフォーマットを選べるようになったというのが一番ですね。

TK カップラーメンのほうが美味しい場合もありますもんね(笑)。

――CDが生まれたのが約30年前ですから、30年ぶりに新しいフォーマットが普及しつつあるこの1年という感じですね。

TK ここからさらに先のテクノロジーの進化ってどうなるんですかね?

――ハイレゾが普及して、音の良さに気がつくようになると機材や、ミキシング、マスタリングなどレコーディングのやりかたまで変わってくるかもしれませんね。それによって面白い表現が出てきたら楽しいですね。

TK 今ってハイレゾの配信をしているアーティストの方は増えているんですか?

――増えていますね。この1年半くらいで、特に年末からの4ヶ月がすごかったと思います。moraさんが公表しているデータでは、mora売り上げの3割強はハイレゾ音源になったそうですね。

TK 80年代とか、マスターでテープしかないものって多く存在しているじゃないですか? マスターテープから44.1kHzのCDになっていたものがほとんどの中で、それを192kHzや96kHzにするというのは、マスターをまた再生してそれを192kHzや96kHzで録るということですか?

――そうですね。今の状況にあうようなマスタリングをかけて最後24bit/96kHzのパッケージにするっていう流れが多いですね。

TK ビクターのK2HDみたいなハイレゾではない音の音質をアップグレードするような技術はソニーには無いんですか?

――ソニーの場合は機械に入っています。DSEE HXって名前で好きにオンオフができますね。

TK じゃあCD音質な44.1kHzのものがあって、DSEE HXをぽんと押すとハイレゾに近い音になるっていうのは凄い技術ですよね。

――お持ちの音源をハイレゾ相当まで高解像度化して、ハイレゾっぽくするということですね。CDにする時に失われたであろう部分を補完するプロセッシングが機械の中に入ってますね。

TK 簡単にいうと44.1kHzに入っている基音の倍音を計算して出すってことですか?

――おおざっぱにいうとそういうことですね。CDより、MP3とかAACなど圧縮率の高いものにかけると効果が大きいですね。TKさんは、ハイレゾ音源をいままで購入されたことはありますか?

TK あります。この前クラムボンの新作も聴いたんですが、空気感や余韻が全然違うのでとても楽しめましたね。僕もまだそんなにハイレゾ音源を持っていないので、新譜を聴ける楽しみとハイレゾを体験出来るという2つの楽しみがあります(笑)。

――それを聴くハイレゾ環境はどんなプレイヤーだったんですか?

TK ウォークマンは持ってないんですが、家で聴くときはパイオニアのデジタル・アンプとELACのスピーカーですね。もともとはONKYOのコンポで聴いていて、それを軸に最近いろいろアンプとスピーカーを探し始めて、アナログ・アンプも良かったんですけど、もともと使っていたONKYOのアンプがデジタルで、デジタルのほうが立ち上がりの早さだったり、聴いている間に音の変化がない印象があるんです。わりとシャキっとした速めの音が好きなのでデジタル・アンプを使ったシステムでミックス作業だったり音楽を聴いています。

 

――そして、5月にTKさんの作品もハイレゾでのリリースが決定したと。

TK あっ、そういえば(笑)。

――アニメ『東京喰種トーキョーグール』の「unravel」のアコースティック・ヴァージョンですね?

TK 去年リリースした「unravel」のアコースティック・ヴァージョンを最終回の挿入歌として作って欲しいというお話を頂いたんです。たまたま録るときにトラック数も少なかったので88.2kHzの32bitで録っておいたんですね。元々はリリースの予定も無かったんですが、冗談っぽくハイレゾでも配信できるねって身内で話してたんです。そうしたら、反響が大きかったみたいで、僕も興味を持っている良いタイミングだったのもあって初めてハイレゾで配信しようということになりました。バンド(凛として時雨)ではまだハイレゾ化をやってないんですが、CDを最終形として考えるかどうかで音の作り方が全然変わって来ますよね。

――別物な感覚として受け止めているのですね。

TK 今回はソロで弾き語りというのもあって、歌の響きだったり、隙間を活かしたアレンジになってます。なのでハイレゾで聴いても面白いのかなと思って。リバーブ感だったり、声の倍音や息遣いとかも綺麗にでてますね。初めてハイレゾで聴いてもらいたい音ができた感じなんです。

――今後またハイレゾを想定したレコーディングであったりリリースっていうのは?

TK そうですね。いつもは48kHzですが、やっぱり96kHzや88.2kHzで自分で録るとなると機材面の問題があるんです。トラック数が半分になっちゃったりとか。録りながらミックスでプラグインもどんどん挿していくのでどうしてもPCのスペックの問題にも直面してしまいます。そうなってくるとプロツールスで誰か外部のエンジニアの方にお願いしてという感じになるので、そういう難しさはあるんですけど、バンドとしてやってみたいアプローチではありますね。ハイレゾって名前は聴いたことあるけど、たとえば時雨がやりはじめたから試しに聴いてみようかなとか、そういった形で自分たちが誰かにとって新しい扉を開けられるミュージシャンになれればいいなって思いはあります。僕も好きなアーティストのリリースがきっかけで聴いたのもあって、そこは先導してやっていきたいですね。

――それこそフェス好きな若いリスナーの子たちは、まだまだハイレゾ文化に縁遠い方が多そうですね。ライブ的なリアルな視聴体験がハイレゾで出来ることを考えると、TKさんの行動によってリスナーの触れられる機会が増えると面白いですよね。

TK 時雨だと、僕も声の成分ってすごい上の周波数が多いので、ハイレゾになると情報量の多さが逆に心配ではあるんですが(苦笑)。なのでいままで耳障りだったものが、更にエッジーに(笑)。そこも含めて、音の新たな選択肢として楽しんでもらえれたら嬉しいですね。

 


 

TK from 凛として時雨、自身初のハイレゾ音源!

『unravel (acoustic version)』
(TVアニメ『東京喰種トーキョーグール√A』挿入歌)

 

凛として時雨 moraアーティストページ

TK from 凛として時雨 moraアーティストページ

 


 

【プロフィール】

凛として時雨:2002年、埼玉にて結成。男女ツインボーカルから生まれるせつなく冷たいメロディと、鋭く変幻自在な曲展開は唯一無二。プログレッシブな轟音からなるそのライブパフォーマンスは、冷めた激情を現実の音にする。TK(Toru Kitajima)は、ボーカル&ギター、ソングライティングを務める。

凛として時雨 公式サイト:http://www.sigure.jp
TK from 凛として時雨 公式サイト:http://tkofficial.jp