ウルトラアートレコード第二弾「バルーション」ハイレゾ音源リリース

音楽とオーディオをこよなく愛してきた評論家の潮 晴男と麻倉玲士がハイクォリティなジャズ・サウンドをプロデュース。ウルトラアートレコードの第二弾としてリリースされた「バルーション」は小川理子の新たなる側面に迫る話題作。二組のサポートメンバーによるバラエティに富んだ楽曲とDAWにビラミックスを使い音質の極致を目指した音作りが、あなたの魂を揺さぶります。ハイレゾリューションならではのきめの細かい伸びやかなサウンドを心ゆくまでお楽しみください。

 

小川理子『Balluchon』

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「バルーション」によせて  音楽評論家 白柳龍一

ジャズ・ピアニストの小川理子が、通算15作目となるアルバム『バルーション』をリリースした。テナーサックスのハリー・アレンをゲストに迎えたアルバム『トゥギャザー・アゲイン』以来、新譜は9年ぶりということになる。
全12曲中、ジョージ・ガーシュインの作品が3曲、デューク・エリントン関連が5曲を占める。1920年代から30年代にかけての作品が主で、エラ・フィッツジェラルドの愛唱曲が多いのも特徴的だ。アルバムのトップに置かれたガーシュインの《オー・レディー・ビー・グッド》は、抒情的なタッチのヴァースから一転してアップテンポになり、素晴らしい疾走感をもったジャズが展開する。この見事なグルーヴ感はアルバム全体を通じて常に保たれていて、スウィングジャズ全盛期の作品を扱いながら、あふれ出る音は新鮮で瑞々しく色彩ゆたか、刻まれるリズムはじつに明快で心地よい。
小川理子は3歳からクラシック音楽のピアノ曲を弾きはじめ、バッハからモーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、リスト、さらには現代音楽までを弾きこなした。タッチの明晰さ、透明度が高く混濁しないコード(和音)の美しさは、おそらくクラシック楽曲の演奏経験が大きく影響しているのだろう。盤石なピアノ・テクニックに加えてソウルフルなジャズのマインドがあるのだから、その演奏は安定感抜群である。6曲目の《バット・ノット・フォー・ミー》はピアノソロ。強靭なタッチの左手とメロディを歌う右手のバランスが素晴らしく、ストライド・ピアノのお手本のような演奏を聞くことができる。また、これに続く《A列車で行こう》は文字どおり特別快速列車を彷彿とさせる強烈なグルーヴとスピード感によって、「これがジャズだよね!」と思わずニンマリしたくなってくる。
オーディオ界の巨匠二人がプロデュースするこのアルバム、エンジニアの塩澤利安氏はさぞかし背中に二人の視線を感じながらの仕事だったと思うが、今回もまた、見事な解像度を維持しつつ、スタジオにあふれるジャズの放射熱をしっかりと受け止めることに成功している。(CD付属のブックレットより抜粋)

潮 晴男のプロデューサーズノート

パナソニックの役員にしてジャズ・ピアニスト…。小川理子との出会いは、当然ながら前者であり彼女がまだ役員になるずっと以前のことだった。オーディオの話をしていて、彼女の上司が音響研究所の所長を務めた小畑修一だということも分かった。小畑とは私がまだ駆け出しのオーディオ評論家だったころ、平板スピーカーを巡って丁々発止したことを覚えている。
オーディオの女性エンジニアは大変少ないから、それだけで小川の存在は十分印象に残ったが、聡明で凛としていながら相手の気持ちを慮る心根の優しい人柄に魅かれ話が弾んだ。米国のプロデューサーに口説かれ真剣にミュージシャンとして独り立ちしようと考えた時期もあったようだが、音楽はもちろん、なによりもオーディオが好きだったことが、彼女にその思いをとどまらせた。
実を言うと、ぼくは小川がジャズ・ピアニストとしての顔を持っていることを知らなかった。ところが彼女がベルリンでおこなわれた家電ショーで演奏したという話をA面に参加してもらった旧知の仲であるバイソン片山としているうちに、小川と何度も共演したことがあると聞かされてびっくり仰天。世の中は狭いものだと思うとともに、その時彼女のキャリアの長さに感じ入ってしまったのである。
ウルトラアートレコードの立ち上げにあたって、情家みえの「エトレーヌ」に続く作品はいろいろな候補があったが、如何せん弱小のレコード会社であるがゆえに、リリース数は限られるため、ならばぼくの知らない小川のミュージシャンとしての側面に迫ってみようと、前半のA面に相当する楽曲を麻倉玲士が、後半のB面に相当する楽曲をぼくがプロデュースし「バルーション」、新たなる旅立ちというアルバムが完成したのである。新生小川理子の世界をハイレゾサウンドで楽しんでいただければ幸いである。

 

「バルーション」の楽曲について

麻倉玲士プロデュースA面の解説

1) Oh lady be good(03’12”)作曲=ジョージ・ガーシュウィン
小川理子は抒情的なタッチの前奏から一転してアップテンポに進め、コキゲンなスウィングが展開。ピアノを始め、ギター、ベース、ドラムスも快活なリズムを聴かせる。ピアノのエッジがしっかりと立った決然さ、ギターのセクシーさに注目してほしい。

2)Love for sale(05’35”)作曲=コール・ポーター
1930年のブロードウェイミュージカルThe New Yorkersで歌われた。「愛を売る」ための勧誘文句が連続するため当時は放送禁止となりそれが逆に注目を呼んで大ヒット。ゴージャスなピアノ、クリヤーなコードワーク、ドラムの躍動、ギターの立ち、ベースの色気……が聴きどころだ。

3)In a sentimental mood(04’29”)作曲=デューク・エリントン
デューク・エリントン1935年の作品。物憂げなメロディがスタンダードとして長く愛さている。ソニー・ロリンズ&モダン・ジャズ・クァルテット、ビル・エヴァンス、などが名盤を残している。音楽的表情の豊かさ、タッチの明晰さ、ベースのスケールの大きさ、ソロギターの官能性……が、聴きどころだ。

4)Do nothing till you hear from me(03’43”)作曲=デューク・エリントン、作詞=ボブ・ラッセル(ボーカル/小川理子)
オリジナルは、1939年にデューク・エリントンがトランペッターのクーティ・ウイリアムスのために作曲した「Concerto For Cootie」という器楽曲。1943年にボブ・ラッセルによって歌詞がつけられた。小川はピアノを演奏しながら小悪魔的な歌詞をコケティッシュに歌っている。

5)I got Rhythm(04’54”)作曲=ジョージ・ガーシュウィン
ジョージ・ガーシュウィン作曲のスタンダード・ナンバー。作詞はアイラ・ガーシュウィン。ミュージカル映画「巴里のアメリカ人」では、主役のジーン・ケリーがパリの子供達と歌った。重量級のクルマを軽々とドライブするような強烈駆動力のピアニズムが聴き物。文字通りリズムが躍動している。

6)But not for me(2’49”)作曲=ジョージ・ガーシュウィン
ジョージ・ガーシュウィンが作曲し、同じくアイラ・ガーシュウィンが作詞した失恋ソング。1930年ミュージカルGirl Crazyのために書かれた。小川にはソロで弾いてもらった。一音一音にアクセントを持つ快適なスウィング感、低音の盤石感と高音の絢爛さが聴きどころだ。

潮 晴男プロデュースB面の解説

7)Take the A train(5’27”)作曲/ビリー・ストレイホーン
デューク・エリントン楽団のピアニスト、ビリー・ストレイホーンが作曲したこの楽団のテーマ曲でもある。A列車とは元々地下鉄A線の名称だが、ここではエネルギシュでスピード感あふれる蒸気機関車に近いイメージの疾走感あふれる演奏をお楽しみいただきたい。

8)C jam blues(05’48”)作曲/デューク・エリントン
シンプルなリフの続く作品ながら、どこか知性を感じさせるデューク・エリントン、1941年の作品である。小川はこの曲の持ち味を十分に活かし、丁寧かつ大胆なタッチでプレイする。バックを支えるドラムとベースのソロプレイ、浜崎のフルートも聴きどころだ。

9)Smile(4’00”)作曲/チャールズ・チャップリン(ボーカル/小川理子)
1936年に公開されたチャップリンの映画「モダン・タイムス」のテーマ曲である。元はインストゥルメンタル曲だが、1954年にジョン・ターナーとジェフリー・パーソンズが歌詞をつけてナット・キング・コールが歌った。小川はピアノを弾きながら歌詞に込められた思いを丁寧に引き出している。

10)Perdido(4’05”)作曲/ファン・ティゾール
キャラバンでもお馴染み、デューク・エリントン楽団のトロンボーン奏者、ファン・ティゾールが1942年に作曲したナンバーである。小川はストライド奏法を駆使した演奏をおこないバックもテンション漲るプレイでそれに応えている。

11)Nobody knows the trouble I’ve seen(03’41”)「誰も知らない私の悩み」(ボーカル/小川理子)
19世紀後半から歌われる黒人霊歌。「自分の悩みは誰も知らない、しかしイエスは分かっておられる。神に栄光あれ」と謳われるとおり信仰心に満ちた歌詞で綴られる。小川の歌からもそうした気持ちがよく伝わってくる。

12)Lady Madonna(03’13”)作曲/ジョン・レノン、ポール・マッカートニー
1968年2月に収録されたレノン、マッカートニーの作詞、作曲となる17枚目のシングル・カット。小川は小学生の頃からこの曲を弾いていたということだが、縁とは不思議なもので、彼女がアビーロードスタジオを訪れた時、ポールが実際に使ったピアノと出会い即興で演奏する。偶然この映像を観たぼくはこのアルバムに収録することを即決した。

 

パーソネル紹介

●小川理子(ピアノ/ボーカル)
 大阪市生まれ、慶應義塾大学理工学部・生体電子工学科卒業。松下電器産業(現パナソニック)株式会社入社、音響研究所に配属。会社員の傍ら、ジャズピアノを弾きはじめる。2003年、米国Arbors RecordsからCDをリリースし、「Jazz Journal International」誌2003年度評論家投票にて第1位獲得。2008年、社会貢献活動の一環で、中国四川省大地震のチャリティコンサートを企業横断で企画、出演。2014年、テクニクス事業推進室長。2015年、役員就任。2018年、役員兼アプライアンス社副社長・技術本部長。

A面パーソネル

●バイソン片山(ドラム)
 日本の大御所的ジャズドラマー、音楽プロデューサー、作曲家であり、ドラム・リズムクリニックも主宰する。1951年、宮城県気仙沼市生まれ。日野元彦氏に師事し、プロドラマーとしての活動を開始。国内外で演奏。後進指導にも熱心に取り組んでいる。キャラクターに注目され俳優としても活動し、CMにも多数出演している。

●山村隆一(ベース)
 1965年大分生まれ。79年、ラグタイムギターを始め、82年エレキベースに転向。90年からウッドベースを始める。これまで数多くの内外著名ミュージシャンとの共演経験を持つ。日本の楽曲をジャズアレンジ、六弦ベースによる癒し系ライブの展開などにも積極的。クイーンの著名コピーバンドのベーシストとしても活躍している。

●田辺充邦(ギター)
 1965年、東京都生まれ。10歳からギターを始め、高校時代からジャズに傾倒し、ジャズギターを宮之上貴昭氏に師事。1985年からプロ活動を開始。1988年からニューヨークを中心に活動。八代亜紀のジャズアルバム「夜のつづき」でギターを担当。教則本の出版や音楽雑誌の試奏レポート等、多彩な分野で活躍している。

B面パーソネル

●浜崎 航(はまさきわたる サックス&フルート)
1978年長崎県生まれ。医師免許、スクーバダイビングインストラクターなど異色の経歴を持ち、日本のジャズシーンを牽引する実力派としても注目を集めるサクスフォン奏者である。セルマー社野中貿易50周年記念サクソフォンコンクールジャズ部門にて第1位受賞。モントルージャズフェスティバルに出演するなど多方面で活躍。またその類まれなフルーティストとしの能力も高く評価されている。

●中林薫平(なかばやし くんぺい ベース)
1981年生まれ。甲南高校入学と同時にブラスアンサンブル部に入部しウッドベースを始める。甲南大学入学後はJazz研究会に所属し2003年の守口・門真ジャズコンテストでグランプリ、ベストプレイヤー賞を受賞。日野皓正を初め多くのジャズメンと共演する。2008年にカルテットを結成するほか、劇団とのコラボレーションをおこなうなどその活動は多岐にわたる。

●吉良創太(きら そうた ドラム)
1989年高知県生まれ。東京音楽大学打楽器科大学院修了後、打楽器を菅原淳、岡田真理子らに、またドラムを岩瀬立飛、小松伸之、吉川英治各氏に師事する。その後日本のジャズ界の巨匠、鈴木勲のバンドに加入し本格的に活動を開始する。都内でのライブ演奏を初め打楽器集団DA・DA・DOUNを主宰。若手ながら正確なドラミングと歌心あふれる演奏で多くの支持を得ている。