エンジニア入魂のレコーディング! 「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2017」

去る4年前、第21回日本プロ音楽録音賞「2ch ノンパッケージ部門」最優秀賞受賞作として話題になった「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート 2013」。
その新作であるコンサート・ライブ録音「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2017」が、待望のリリースとなりました。

 

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート 2017/飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート 2017
飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ

試聴・購入 [FLAC | 192kHz/24bit]

試聴・購入 [AAC]

※このアルバムは、2017年3月20日、岐阜県高山市 飛騨・世界生活文化センター 飛騨芸術堂で行われた、第12回 飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサートをレコーディングしたものです。

 

「あえて指揮者をおかず、奏者ひとりひとりが感覚を研ぎ澄ませることで高度なアンサンブルを実現する」……
そんな独自のスタイルで純度の高い音楽を聴かせてくれる「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ」のレコーディング・エンジニアを務めるのが、長江和哉氏のチーム。
このたびは長江氏に、このオーケストラの特徴からこだわりのレコーディング・スタイルまで、たっぷりとお話を伺いました。

 

 

 

●飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラとは

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ (HTVO) は、2005年に旗揚げされた、プロフェッショナルオーケストラで、高山市出身の栃本浩規(東京藝術大学准教授/トランペット)、下呂市出身の森純一(東京フィルハーモニー交響楽団/ファゴット)といった飛騨に縁のある超一流演奏家が中心となり誕生しました。創設時より指揮者を置かないということがこのオケのコンセプトの一つであり、コンサートマスターの荒井英治(東京音楽大学教授/ヴァイオリン)が全体の方向を導きながら、まさに「ヴィルトーゾ = 超一流の演奏家」の魂のぶつかり合いによって紡ぎ出されるサウンドが魅力です。
一昨年の2016年は室内楽でのコンサートでしたが、2017年は、再びオーケストラ編成となり、珠玉の名曲が披露されました。

モーツァルトの交響曲第31番「パリ」で幕を開け、同じくモーツァルトのフルート協奏曲を斎藤和志(東京フィルハーモニー交響楽団首席フルート奏者)と共に奏でたあと、これまでコンサートで取り上げられることも録音されることも少なかった「スペインのモーツァルト」ことアリアーガの交響曲ニ短調を演奏。そしてプログラムのしめくくりとして、作曲家・糸川玲子によって高山市に敬意を表して作曲された組曲 「飛騨高山」が演奏され、会場を埋めつくした500人のファンを魅了しました。

 

 

●レコーディングについて

このコンサートの収録は、私のプランニングによるものです。名古屋芸術大学サウンドメディアコースの卒業生で名古屋テレビ映像のサウンドエンジニアである島田裕文と、東海サウンドのサウンドエンジニア村上健太のチームにより、ドイツ製録音制作機器RMEのマイクプリアンプADコンバーター、MicstasyやHDSPe MADI FXといったMADI録音システムとDAW Magix Sequoiaを使用し、192kHz/24bit Stereo & Surroundで収録しました。

私がこのコンサートが行われたホール「飛騨芸術堂」でHTVOを初めて録音したのが、2006年でした。このホールの音響はとても素晴らしく、ほかのホールにはない「何か」があるように感じています。メロディはとても明るく響きながらも、中低域の残響はとても暖かく太く、またリハーサル中にステージの上で聴いた音は、その音から中低域を少なくしたような印象で、演奏者もお互いの音を聞き聴きやすいのではと推測しています。また、飛騨高山は、木工家具の生産が盛んで、その家具に触れてみると、とてもずっしりとしっかりした印象を受けますが、このホールの表面にも、ふんだんに木材が使われており、このホールの響きの印象は、その飛騨の家具の印象に似ているようにも感じます。

オーケストラは、東京で行われる1回のリハーサルの後、本番1日前に飛騨芸術堂でリハーサルを行い、コンサート当日を迎えます。私たち録音チームの3人は、リハーサルの時も録音を行いながら、最適なメインマイクの位置を設定していきました。マイクは図のようにセッティングし、ステージのすぐ横にステージボックスを設置して、最短距離でマイクのアナログ信号をデジタル変換しました。私は近年、録音技術について、様々な比較と検討を行なってきましたが、このようなクラシック音楽録音の技術面で大切なことは、その音楽にとって最もふさわしい音色とバランスが得られる位置にメインマイクを配置することと、マイクの微弱な電気信号にノイズが混入しないように、マイクの近くにマイクプリアンプを設置して、マイクレベルを増幅しADコンバーターでデジタル化することであると考えています。

 

 

そして、オーケストラの録音は、このメインマイクというオケ全体の直接音とホールからの間接音を収録するマイクの位置がとても大切です。このメインマイクは、ミックス全体の70%から80%のレベルを占めることもあり、このマイクをどのように設置するかが、オーケストラ録音の技術的な部分で最も重要な要素であると考えています。特に、このコンサートのオーケストラの編成は、第1ヴァイオリン/第2ヴァイオリン/ ヴィオラ/チェロ/コントラバスの人数が、5-4-3-2-2という、現在の通常のオーケストラの規模から考えると最小限の編成であるため、弦楽器については、楽器の近くに設置するスポットマイクでバランスを調整するというより、この弦楽器全体を全指向性マイクを用い、ホールトーンとともにどのように収録するかということが最大のテーマでした。これまで、メインマイクについては、このホールで様々なマイクを比較し、試しましたが、DPA 4006がこのオーケストラのカラーに合うように感じ、今回もこのマイクを用いました。コンサート当日は、私は大学行事のため担当できず、録音は、島田、村上の両氏が担当しました。

収録後は、音楽的で最高な仕上がりになることを目指し、私が、編集、ミキシングを行い、収録したフォーマットのままである192kHz/24bitでマスターを制作しました。

 

●配信にあたって

今回、様々な縁がありまして、ナクソス・ジャパンからのハイレゾ配信として、この音源を日本へ、そして、世界に向けて配信させていただくこととなりました。現在では、この録音・編集したDAWから出力したファイルが、インターネットを経て世界中の聴き手の皆さんに直接伝わる時代となりました。音楽家にとっても、私たちエンジニアにとっても、とても刺激的な時代であると思います。

なお、今回の第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各弦楽器のプリンシパルは、「飛騨春慶塗弦楽器」という、江戸時代に高山で生まれた国指定伝統的工芸品の「飛騨春慶」塗りと、ヴァイオリン製作で世界的に有名なイタリアのクレモナ市で製作された「弦楽器」とのコラボレーションにより生み出された楽器を演奏しています。「飛騨高山文化芸術祭こだま~れ2013」の実行委員会プロジェクト「春慶塗で弦楽器をつくろう!」において製作されたものです。
この西洋と和の融合した、世界でただ一つのオーケストラサウンドをお楽しみください。

長江和哉

 


 

顧問/トランペットの栃本浩規氏による解説!

 


 

●飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ 公式ウェブサイトhttps://hidavirtuoso.com/