臼井孝・月刊moraチャート分析(2016年11月)

 このコーナーでは、moraのハイレゾ・ダウンロードのヒット作を見ていきます。今月から、4週分の月間ダウンロード数を見てまいります。これにより瞬発的ではなく長期的なヒットがいっそう明確になると思います!

 

 さっそく、まずはハイレゾ・シングルチャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・単曲チャート 集計期間:2016年10月24日~11月20日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 4 4 1 1 前前前世 (movie ver.) RADWIMPS U
2 1 1 RAGE OF DUST SPYAIR S
3 9 5 5 3 なんでもないや (movie ver.) RADWIMPS U
4 10 2 cross the line AKINO with bless4 FD
5 13 6 11 4 スパークル (movie ver.) RADWIMPS U
6 19 9 9 11 サウンドスケープ TRUE LA
7 26 18 17 2 聖数3の二乗 いとうかなこ 5P
8 28 8 2 ヴィヴァーチェ! 北宇治カルテット LA
9 16 14 18 10 夢灯籠 RADWIMPS U
10 21 19 13 9 宇多田ヒカル U
11 30 3 LOVE&GAME 四葉環(CV.KENN)、逢坂壮五(CV.阿部敦)、十龍之介(CV.佐藤拓也) LA
12 25 23 22 5 Open your eyes 亜咲花 5P
13 40 15 3 叫べ 沼倉愛美 FD
14 27 10 6 Gospel Of The Throttle
狂奔Remix Ver.
Minutes Til Midnight NU
15 39 13 4 DREAMCATCHER ナノ FD
16 33 40 27 8 God Save The Girls 下地紫野 FD
17 34 27 25 14 花束を君に 宇多田ヒカル U
18 47 22 7 RED GOUACHE UT
18 51 20 8 男子タルモノ!~MATSURI~ 二階堂大和 (CV.白井悠介)、和泉三月 (CV.代永翼)、六弥ナギ (CV.江口拓也)、八乙女楽 (CV.羽多野渉) LA
20 24 32 26 17 なんでもないや(movie ver.) 上白石萌音 PC
20 20 24 28 26 Taking Off ONE OK ROCK AS

※2016年10月24日~11月20日を最新週とし、1週前、2週前、3週前と4週間の推移を表示。
「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:5P=5pb.Recrods、AS=A-Sketch、FD=FLYING DOG、LA=ランティス、NB=NBCユニバーサル、PC=ポニーキャニオン、S=ソニー、U=ユニバーサル、UT=ウルトラシープ

 

 シングル1位は、今月もRADWIMPSの「前前前世 (movie ver.)」、これで13週連続のTOP10入りです。映画『君の名は。』主題歌となっている他の3曲「なんでもないや(movie ver.)」、「スパークル(movie ver.)」「夢灯籠」も月間TOP10をキープ。この翌週からは、RADWIMPSのオリジナル・アルバム『人間開花』内の収録曲も上位入りが濃厚なので、ますますハイレゾ・シングル・チャートはRAD天国(微笑)となるかもしれません。

 

 そんな中、2位に分け入っているのが、SPYAIR「RAGE OF DUST」で2週連続1位と好調です。人気アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のオープニングテーマとなっていることもハイレゾ・ヒットの要因でしょうが、本作は通常音源のダウンロードでも週間TOP10入りしており、またハイレゾ・チャートでも急落していないことから、コアなファン以外にも大きく広がっていることが分かります。彼ららしい疾走感あふれるナンバーに加え、ボーカルIKEのハスキーな声やハングリーな歌詞が、より多くの共感を得ているのではないでしょうか。

 

 

chart5-1

SPYAIR「RAGE OF DUST」(ソニー)

 

 ロングヒット作としては、前月からのRADWIMPSの4作や宇多田ヒカル「花束を君に」に加え、宇多田のアルバム『Fantome』のリード曲となる「道」、そして9月16日に配信開始されたONE OK ROCK「Taking Off」も仲間入り。ここ数週間でじわじわと再浮上しているのは、主題歌となっている小栗旬主演の映画『ミュージアム』が11月12日に公開されたこと、また今週は更なる新曲「Bedroom Warfare」(今週ハイレゾ2位)が配信開始されたことで、前の作品を併せて購入したファンが増えたことも要因でしょう。もともとハイレゾではアルバムなど複数の楽曲をまとめて聴く人が多いのですが、ONE OK ROCKの場合、Takaのシャープな歌声や、それに応酬するかのごとく、起伏に富んだ演奏がより「他の曲も聴きたい」という気持ちを増幅するのでしょう。

 

chart5-2

ONE OK ROCK「Taking Off」(A-Sketch)

 

 

 次に、ハイレゾ・アルバムチャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・アルバム ランキング 集計期間:2016年10月24日~11月20日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 2 2 1 1 スナックJUJU ~夜のRequest~ JUJU S
2 5 3 2 2 Fantome 宇多田ヒカル U
3 1 Winter Acoustic “Kalafina with Strings” Kalafina S
4 10 9 4 3 君の名は。 RADWIMPS U
5 17 11 6 4 BEST -E- 藍井エイル S
6 19 15 8 5 BEST -A- 藍井エイル S
7 7 1 初音ミクシンフォニー~Miku Symphony 2016~ 初音ミク / 東京フィルハーモニー交響楽団 W
8 40 18 3 ヴィヴァーチェ! 北宇治カルテット LA
9 13 10 15 13 ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム ~ オールタイム・ベスト~ Hollywood Movie Works RA
10 20 14 9 12 Utada Hikaru Single Collection Vol.1 (2014 Remastered) 宇多田ヒカル U
11 21 23 13 7 TVアニメーション「マクロスΔ」 ボーカルアルバム2 Walkure Trap! ワルキューレ FD
12 37 17 5 at film.(Complete Edition) 瀧川 ありさ S
13 16 22 16 10 chouchou 上白石萌音 PC
14 14 6 うたわれるもの 偽りの仮面 & 二人の白皇 歌集 (PCM 96kHz/24bit) Suara FR
15 55 24 7 叫べ 沼倉愛美 FD
16 38 33 20 8 シン・ゴジラ劇伴音楽集 鷺巣詩郎 伊福部昭 K
17 22 5 うたわれるもの 偽りの仮面 & 二人の白皇 歌集 (DSD 2.8MHz/1bit) Suara FR
18 23 7 cross the line AKINO with bless4 FD
19 30 4 Happy★Pretty★Clover Rhodanthe* FD
20 3 GODIEGO GREAT BEST Vol.1 -Japanese Version- (24bit/96kHz) GODIEGO C

※2016年10月17日~23日を最新週とし、1週前、2週前、3週前と4週間の推移を表示。
「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:C=日本コロムビア、FD=フライングドッグ、FR=FIX RECRODS、K=キング、LA=ランティス、NU=NBCユニバーサル、PC=ポニーキャニオン、RA=Rambling RECORDS、S=ソニー、U=ユニバーサル、W=ワーナー

 

 アルバムでは、JUJUのカバーアルバム『スナックJUJU ~夜のRequest~』が2位以下を大きく引き離し、月間1位となりました。プライベートでも行きつけのスナックが数軒あるというJUJU、そんな筋金入り(!)の彼女がカバーに選んだ楽曲は「DESIRE -情熱-」(オリジナル:中森明菜)や「ラヴ・イズ・オーヴァー」(欧陽菲菲)など、全くもって鉄板なラインナップ(唯一、隠れ名曲なのが来生たかおの「GOOBYE DAY」ですが、こちらも水越けいこ「Too far away」同様、スナック愛好者に人気のバラード)で、アレンジも原曲やオリジナル・アーティストをリスペクトしていることが、ひしひしと伝わってきます。

 これまで女性歌手のJ-POP、ジャズ、洋楽と何作ものカバーアルバムを手がけてきたJUJUですが、彼女のアルバムの中でも、また世に溢れる幾多のカバーアルバムの中でも、本作のハイレゾでのヒットは際立っています。やはり、ミドル世代にお馴染みの懐かしの名曲を歌っていることに加え、じっくり聴きたいと思わせる上質な歌声や演奏あってのことでしょう。

 

chart5-3

JUJU『スナックJUJU ~夜のRequest~』(ソニー)

 

 発売1週間で月間3位に入ったのは女性3人組Kalafinaの新作『Winter Acoustic “Kalafina with Strings”』。とはいえ、本作は弦楽器のカルテットとピアノのみの編成での人気LIVE「Kalafina with Strings」のスタジオ録音盤で、また人気の楽曲もアコースティックにてセルフカバー、またクリスマスソングも同時収録されるなど、とても企画色が強く、通常のアーティストでは、セールスが大きく落ち込んでしまうことがままにあります。

 しかし、実際に聴いてみると、ライブ盤同様の迫力を備えつつ、拍手や歓声などがない分、パフォーマンスに集中できるという、まさにハイレゾに強い作品というのが分かります。三声による繊細なハーモニーも、演奏の美しい音色も、寒い冬にピッタリで、まさに需要ある所に供給あり、を実現したような心ニクい(微笑)企画。アニメをキッカケにKalafinaファンになった人も多いでしょうが、本作はクリスマス時期にじっくり音楽を楽しみたい人にもオススメです。

 

chart5-4

Kalafina『Winter Acoustic “Kalafina with Strings”』(ソニー)

 

 同様に、7位の『初音ミクシンフォニー』も、VOCALOID×オーケストラという、いかにもハイレゾファンの多くが歓喜しそうな企画で、こちらも当然ながらCDや通常音源に比べ絶好調です。

 

 また、興味深い現象として、Suaraが多数タイアップ曲を手がけてきたゲーム『うたわれるもの』のボーカル曲を集めたアルバム『うたわれるもの 偽りの仮面 & 二人の白皇 歌集』のPCM(FLAC)が14位、DSDが17位と、2つの再生フォーマットでランクインしています(合算すれば月間7位レベル)。

 よりアナログに近い音質で楽しめるというのがDSD音源の特長で、クラシックやジャズのファンに好評だとよく聞きますが、本作の場合PCM:DSDで売上比は53:47と現時点でほぼ互角。ただ、DSD音源の再生環境が限られていることを踏まえると、Suaraのファンがオーディオファンと呼ばれる層に重なっていることがうかがえます(DSDは1週目に売上が集中していることから、よりコアなファンに人気なのは確かでしょう)。

 

chart5-5

Suara『うたわれるもの 偽りの仮面 & 二人の白皇 歌集』(FIX RECORDS)

※リンク先はPCM版のページ

 

 他にも、月間20位にGODIEGOの日本語歌唱バージョンを集めたベスト盤も登場しており、ちょうど同じく伝説バンドのQUEENと売れ方が似ているので、こちらもハイレベルな演奏を期待しての事でしょう。

 

 今回も、J-POP、アニメ、クラシカル・クロスオーバーと幅広いジャンルの新旧の名盤が集まりました。大人のこだわりのあるリスナーが多いからこそ、今後も様々な新しいヒット現象が見つかりそう。とても楽しみです!

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた記事を執筆中。2016年1月号の日経エンタテインメント!では、年間ヒットチャートの分析を担当(通算15回目)。Twitterは@t2umusic