日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.22

Vol.22 Theme : 「音楽家は政治を語るべきなのか、語らざるべきなのか

 

 2015年はどんな年だった? 世間的には決してハッピー一色ではなかった……ってのが皆の共通認識なのかな……グッドニュースよりは悪い知らせの方が印象に残ったんじゃない? オリンピックを巡るドタバタや、イデオロギーの衝突、海外でもイデオロギーや宗教の軋轢が連鎖してる印象だし、ここ日本でも政治に関するニュースでほっこりしたり喜んだりした記憶はほぼ無かったかもね……。

 そんな政治不信をひっくり返すべく始まったのがPUNKの一つのきっかけでもあるんだけど、今回はアメリカで最初にポリティカル(政治的)なメッセージを発信したPUNKバンド、デッド・ケネディーズを紹介するよ。バンド名からしてポリティカルな匂いがプンプンしてるでしょ?

  1978年にサンフランシスコで産声を上げた彼ら、通称デッケネは、元々ロカビリーをやっていたギタリスト、イースト・ベイ・レイが、当時勃発したPUNKに触発されてスタートしたので、いわゆるストレートなPUNKっぽさ……性急な8ビートにシャウト気味なVo.……っていうスタイルとはちょっと一線を画していたというか……どこかキッチュでキャンプな、まるでB級映画のサントラのようなまがまがしさを放ってるんだよね。勿論ビートは早いんだけど、サーフ/ガレージのようなエコーたっぷりのギター(「Holiday In Cambodia」)や、ウェスタン映画のようなギャロップ・ビート(「When Ya Get Drafted」)を、PUNKという解釈で倍以上のスピードで演奏したかのような前のめり感が超気持ち良い。

 そして常に半裸でのたうち回るVo.ジェロ・ビアフラの独特の声……高いダミ声にビブラートたっぷりなスタイルは、その後のフェイス・ノー・モアとかガンズ&ローゼスに影響大な個性。アンセム的名曲「Kill The Poor」冒頭の歌い上げから畳み掛けるバンドインの気持ち良さ、「Drug Me」やこれまた大名曲「Too Drunk To Fuck」等の早口言葉みたいなカタルシスはデッケネの象徴。空恐ろしいタイトルなのに、どこか飄々としたユーモアを漂わせる効果も絶大。勿論タイトルや歌詞、そもそもバンド名も政治的なブラックユーモアだらけなので、アメリカよりも先にブラックジョーク好きなイギリスでチャートインするという逆転現象が起こったり、LIVEではビアフラが客に殴られながら歌ったりと、まさにPUNXらしいカオスに包まれていたのもデッケネらしさ。

 しかし80年に発表された1stアルバム『フレッシュ・フルーツ・フォー・ロットン・ベジタブルズ』は名曲揃いの大名盤なのは間違いなく、その鮮烈なサウンドはキッズから、ブラックユーモア好きのインテリ層まで同時に虜にするという離れ技を見せ、一気に全米アングラ・シーンにその名を轟かせたんだけど……エイリアンのデザインでお馴染み天才画家H.R.ギーガーの卑猥なポスターを封入したことで猥褻罪を巡る裁判沙汰になり、その辺からバンド内の人間関係にも不協和音を生み出してしまったというか……裁判の疲弊や、ビアフラ以外のメンバーへの印税未払い等、数々のトラブルが巻き起こり、ビアフラvsイースト・ベイ・レイの間に決定的な溝が出来てしまい、バンドは86年にあえなく解散。2001年にはレイを中心に、ビアフラ以外のメンバーで再結成を果たし、現在も全世界をツアー中。当のビアフラはレーベルを運営しながら数々の音楽プロジェクトに参加しつつ、サンフランシスコの市長選からアメリカの大統領選挙までチャレンジし、現在もポリティカルな活動に余念がない……どんな状況にあろうともブレないPUNK魂、この機会に是非チェックせよ。

 

 さて、俺にとっての2015年は、ザ・スターベムズのメンバーチェンジがあり、勿論それはバンドにとっては苦境に立たされたような状況だったけど、メンバーやスタッフ、そして勿論リスナーやLIVEで実際に観てくれたオーディエンスに支えられて、スターベムズとしての新たなサウンドやパフォーマンスを体得できたような……うまく言えないけど「雨降って地固まる」みたいな一年だったかも。ひとまずありがとう、来年はもっと精進して更にスゴい音を届けるように頑張ろ。良いお年を!

 

今回ご紹介した作品!
『Fresh Fruit For Rotting Vegetables』
Dead Kennedys

 


 

【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。