牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第4回

第4回:Wings「Let ‘Em In」(幸せのノック)

~ハイレゾなら僕の「ポール・ベスト・ワン」~

 

 

 来日で、またまた話題のポール・マッカートニー。いくつになっても精力的に活動しているポールには恐れいってしまう。そんなポール・マッカートニーのアルバムもハイレゾ配信されている。それも70年代全盛期のソロウイングス名義のアルバムがハイレゾになっているのだからたまらない。

 この連載はタイトルにもあるとおり、「この一曲」を取り上げる趣向である。しかし数々の名曲を世に送り出してきたポールから「この一曲」を選ぶのは難しい。でも「ハイレゾでこの一曲」となると話は別だ。ふだんは優柔不断な僕だが、迷わず「Let ‘Em In」を選びたい。

 邦題に「幸せのノック」とつけられた「Let ‘Em In」は、1976年の『Wings At The Speed Of Sound』の1曲目に収録されている。マーチーン・ルーサー・キングや、ジョン・レノンのことと言われるブラザー・ジョンなど、家にやってくる人物の名前をあげていくポールらしい佳曲だ。ベスト盤にも必ず収録されるほど、ポールの代表曲である。

 それにもかかわらず、である。僕は長い間この「幸せのノック」がそれほど好きではなかった。というか重用視していなかった。「ジェット」とか「あの娘におせっかい」に比べると、全盛期を過ぎた甘い曲に思えたのだ。それは収録アルバムにも言えることで、何を隠そう『Wings At The Speed Of Sound』を聴いたのは、ハイレゾが初めてなのである(大告白)。

 そんな僕なのに、ハイレゾの「Let ‘Em In」を聴くや虜になってしまった。どうして57歳にして「Let ‘Em In」が突然好きになっちゃったんだろう?

 暖炉を思い浮かべるような温かみのあるサウンドが、ハイレゾの高音質と見事にマッチしているところかな。最初のチャイムの音から、なんとも言えない空気感が漂う。ブラスの音もハイレゾだと厚くて心地よい。

 というわけでハイレゾで聴く「Let ‘Em In」は、僕にとって格別のオーディオ・タイムである。ポールなら『McCartney』や『Ram』、それから『Band On The Run』『Venus And Mars』などを聴きたくなるところだが、ハイレゾで聴くのは「Let ‘Em In」が収録されている『Wings At The Speed Of Sound』が断然多い……。

 その『Wings At The Speed Of Sound』にしてもハイレゾだと新鮮に聴けるから不思議だ。ポール以外のメンバーがヴォーカルをとっている曲が含まれていて、必ずしも評判のいいアルバムではないが、それさえも楽しめるのは、ハイレゾという魔力のせいか、とも思う。

 いずれにしてもハイレゾで僕の「ポール・ベスト・ワン」があっさりと決ってしまったのである。今さらですが「Let ‘Em In」、いい曲です。

 

 


 

今回ご紹介した作品はこちら!

「Let ‘Em in」収録、76年のアルバム
『At The Speed Of Sound』

 

 

牧野 良幸 プロフィール
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。