牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第12回

 第12回:「マイ・ウェイ」フランク・シナトラ

~ハイレゾを聴きながら、妄想で歌い上げる「マイ・ウェイ」~

 

 

 「マイ・ウェイ」は、カラオケで歌ったら最高に盛り上がる曲である。と同時にヘタクソが歌えば大やけどをする曲でもある。中途半端な歌唱力でマイクを握ったら、場がシラケるのを通り越して、憎しみの目で見られる可能性が高い。よほど自信のないかぎり、シロウトは「マイ・ウェイ」には手を出さない方が身のためであろう。

 しかし「マイ・ウェイ」を聴くのなら話は別だ。僕みたいなシロウトでも、どんどん聴いていい。というか何度も繰り返し聴きたくなるのが「マイ・ウェイ」である。実際には歌わないが、頭の中で「マーイ、ウェーイ!」と歌い上げる自分を妄想してしまう。自己陶酔を極めるために、何度も繰り返して聴く。人前で歌わないのだから、せめて頭の中だけでは歌わせてほしい。

 その「マイ・ウェイ」、沢山のカヴァーがあるにもかかわらず、今も昔もフランク・シナトラの歌唱で聴くのが好きだ。どこまで歌い上げてもイヤミに聞えないのは、さすがシナトラ。歌手自身に風格があっての「マイ・ウェイ」なのである。

 「マイ・ウェイ」は1969年のヒット曲ということで、シナトラにしてはどこかフォーク・ロック調のアレンジで始まる。しかしストリングスやビッグ・バンドが加わると、やはりショー・ビズ的な風味となる。

 これがシナトラらしいし、「マイ・ウェイ」を不滅のものにしたアレンジとも思うのだが、オーディオ的には同時期のロックと比べると聴き所に乏しい。10代の頃、45回転ドーナッツ盤を聴いている時、僕はいつもそう思っていた。どこか枯れたサウンドで、大円団で味わう陶酔度は120%でも、オーディオ的には「まあ、いいか」だったのだ。

 しかしベスト盤『Ultimate Sinatra』のハイレゾ(FLAC 44.1kHz/24bit)に入っている「マイ・ウェイ」を聴いて、長年の思いも消え去ったのだった。解像度が云々と言うより、音に確固たる“芯”が入った感じだ。シナトラの円熟したヴォーカルに対抗できるほど、伴奏も胸板の厚い音になった気がする。

 ハイレゾの「マイ・ウェイ」を聴いていると、ドーナッツ盤の時以上に陶酔しまくりである。今夜も頭の中で思い切り「マイ・ウェイ」を歌い上げている。妄想を極めるのにも、ハイレゾは効果があるのだなあと知った。

 


 

ヒット曲・名演を収録した『アルティメット・シナトラ』
(FLAC|44.1kHz/24bit)

 

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。