牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第42回

第42回: ダイアナ・クラール『Turn Up The Quiet』

〜1分ほどでダイアナに心奪われた〜

 

 

ダイアナ・クラールのニューアルバム『Turn Up The Quiet』がハイレゾでリリースされた。今回はミュージカルやジャズの名曲をカヴァーしたジャズ・スタンダード・アルバムだ。

1曲目の「ライク・サムワン・イン・ラヴ 」は、ベースのソロで始まる。ゴリゴリと太い音である。固く弾けるようなベース音だ。まわりには空気感も感ずるから余白が心地良い。

そこにダイアナ・クラールのヴォーカルがあらわれる。ベースに負けないほど広がりのある音像である。これがダイアナの唇の湿り気まで伝わるようリアル。

曲が始まってまだ1分少々であるが、これだけで「いい音だぁ」と完敗である。普通なら音の細部とか鳴り具合を時間をかけて聴いて、「うむ、これは高音質だ」となるのであるが、今回は1分ほど、正確には最初のベースの入りから心奪われた。その後ピアノ、ドラムス、ギターが加わっての演奏は言わずもがなである。

 

世にヴォーカル・アルバムは無数にあるのに、ダイアナ・クラールのハイレゾは、どうしていつもいい音なんだろう。彼女のヴァーカルがハイファイ向きの成分を含んでいるのだろうか。ピアノやドラム、ベースも加え,トータルでいい音なのだから、これはもう“オーディオの女神”が舞い降りているんじゃないかとさえ思ってしまう。

音質もさることながら『Turn Up The Quiet』には好きな曲が多い。2曲目の「ロマンティックじゃない?」ではスピーカー左から忍び寄るストリングスにうっとりする。ナット・キング・コールが大ヒットさせた「ラヴ / L-O-V-E」は何度聴いても楽しい曲だ。ダイアナは原曲の味をほとんど崩さないで歌い込んでいくが、ピアノはところどころアヴァンギャルドである。

コール・ポーター作曲の「ナイト・アンド・デイ」はダイアナ・クラールの18番(?)とも言えるボサ・ノヴァ調。ジョニー・マーサーの名曲「ドリーム」はしっとりと歌い上げられる。シンプルな伴奏をストリングスがささえるアレンジは古典的だけど、ダイアナのヴォーカルがのっかると艶っぽさが格段に出る。ラストの「夢で逢いましょう」では、懐かしのジャズ・スタンダードをぴりっと聴かせてアルバムが終わる。

 

僕はこのハイレゾを家のステレオで聴いているわけであるが、いい音を再生している時のオーディオ・システムは「いい顔」をしているものである。『Turn Up The Quiet』のハイレゾを流している時は、自分のシステムがワンランクもツーランクも高級になったような気がする。絨毯の敷き詰められた高級オーディオ・ショップのハイエンド・システムに変貌したような錯覚に陥るのだ。そにでまたニンマリ。

 

音も気分もゴージャズになるダイアナ・クラールの『Turn Up The Quiet』。あなたもハイレゾで聴いてみてはいかがか。

 

 

Diana Krall『Turn Up the Quiet』

FLAC|192.0kHz/24bit 試聴・購入

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

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