【新譜発売】岡崎 耕治(ファゴット) 岡崎 悦子 (ピアノ)『シューマン:幻想小曲集、交響的練習曲 』』

シューマンの傑作が並ぶ聴き入るプログラム


マイスターミュージックより、ロマン派ならではの抒情性をたたえる甘美な「幻想小曲集」に、難易度高くピアノの傑作として知られる「交響的練習曲」など、屈指の名作が並ぶ、シューマンをメインとしたプログラムが到着。

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曲目について<岡崎 悦子>


ロベルト・シューマン:幻想小曲集 作品73

 1849年にシューマンが作曲したソロ楽器のための一連の作品(アダージョとアレグロ Op. 70や3つのロマンスOp. 94など)に属し、1849年2月11日からわずか3日間で作曲され、ドレスデン宮廷楽団の首席クラリネット奏者ヨハン・コッテとクララ・シューマンのピアノでプライベートな初演が行われている。クラリネットとピアノの為に構想されたが、出版に際してヴァイオリンもしくはチェロで演奏しても良いと記され、今ではファゴットの重要なレパートリーとして演奏される機会が多い。

 自筆譜では「夕べの小品集」(Soileestücke)と題されているが、出版の時にこの題目となる。3つの小品から成り、各曲それぞれの特徴を持ちながらも密接な関係性を秘め、全曲の統一性が見られる。

Ⅰ. Zart und mit Ausdruck 

 「柔らかく、表情豊かに」 イ短調 4/4

 ピアノの三連符で誘い込むように始まるa-mollの旋律は、優しい語りかけで始まり、a-mollとF-durの2つの調が絡み合いながら、明るさと暗さの中を行き来するような表情の変化で、最終的には2曲目のA-durに導かれる。

Ⅱ. Lebhaft, leicht 「生き生きと、軽やかに」

 常に空気中で浮かぶような軽やかさが特徴で、2つの楽器の語り合いに蝶々が舞っているような瞬間を感じる。ピアノは三連符のアルペジオに旋律は二連符で記譜されており、ファゴットの二連符と同様に演奏するかどうかは、演奏者の解釈によって異なる。

Ⅲ. Rasch und mit Feuer 「急速に、燃えるように」

 一拍目の最初の八分音符が無い三連符で、正に燃えるような出だしで2つの楽器が始まる。3曲全てに共通する三連符と二連符の絡み合いが、この終曲でも中心のモチーフとなっている。Codaでは2曲目の主題が現れ、華やかなフィナーレに誘い込む。

 

ロベルト・シューマン:交響的練習曲 作品13

 1834年から35年にかけてシューマンと交際していたエルネスティーネ・フォン・フリッケンの父フリッケン男爵の「フルートとピアノのための『主題と変奏』」の旋律を主題として、1834年〜1837年にかけて作曲された。初版から、以下のような変遷で出版が行われている。

 

・1834〜1835年版

 テーマと終曲、その間に9つの変奏(まず初めに作曲されたのが、遺作とされている5曲の変奏曲)を持つ12章の作品として書かれた。当時考えられた表題は『悲愴的変奏曲集』Variations Pathétiques、『フロレスタンとオイセビウスによる交響的性格の練習曲』Etüden im Orchestercharakter von Florestan und Eusebius、『フリッケン男爵のテーマによる幻想曲と終曲』Fantasie et Finale sur un théme de M. le Baron de Fricken,など。

・1837年版

 『交響的練習曲』そしてテーマには「旋律の各音はあるアマチュアの作品に基づく」と言う注記がある。1834〜35年版の第3、6、7、8、9変奏はこの版からカット、新たに6曲が加えられ、全体に改訂が加えられてテーマと12の練習曲となる。

・1852年版

 『変奏曲形式の練習曲』Etude en forme de variations として出版。1837年版の第3、9練習曲は変奏曲では無い、としてカットされ、新たに2曲の変奏が挿入された。

・1873年全集版

 シューマンの死後、ブラームスによって出版。1837年版にカットされた5曲の変奏が『遺作』op. post. と  して加えられた。

 『交響的練習曲』と題されているように、まさに交響的でコントラストに富む手法が施され、主題の動機的、音響的内容がフィナーレという頂点に向けて展開している。作品中、シューマン自身が自らの中に体現しようとした相反する二つの性格、メランコリックで内向的なオイゼビウスと行動的で興奮しやすいフロレスタン、その二人の間に立って仲を取り持つラロ先生の三者が絶妙な均衡を保ち、人間性溢れる作品となっている。

 最後の終曲(Finale)は、ハインリヒ・マルシュナーのオペラ「聖堂騎士とユダヤの女」の中のロマンス「誇らしきイギリスよ、歓喜せよ」の主題を元としている。

 遺作を演奏する場合、どのように配置されるかは演奏者の判断となるが、今日は1837年版を基本に第5練習曲の後に遺作全5曲を挿入。

 

セルゲイ・ラフマニノフ:ソナタ 作品19

 1897年第1交響曲が初演の後で酷評された(初演を指揮したグラズノフの不得手が原因であったと言われている)ラフマニノフはその後3年間、鬱病になり作曲活動から離れた。ようやく1900年にピアノ協奏曲第2番を書き上げ、自信を持って初演が行われた後、翌1901年に友人で有るアナトーリー・ブランドゥコーフの為にチェロパートを作曲し、同年モスクワで初演されている。

 第3楽章は変ホ長調で始まる優美な旋律をファゴットで、絶妙な和声感をピアノが表現し、宇宙空間的な世界を歌い上げる。その幻想的なAndanteは前作のAdagioと重なる感がある。

 

ロベルト・シューマン:素晴らしく美しい5月に 作品48-1

 歌曲集「詩人の恋」Dichterliebeはハインリヒ・ハイネの詩によるR.シューマン作曲の連作歌曲で、この曲は全16曲からなる歌曲集の第1曲にあたる。

 5月になると,すべての花のつぼみが開き、小鳥たちが愛の歌をさえずる、まさにそのときに詩人の心にも愛が芽生え、その愛を「彼女」に告白した、という愛に溢れる作品。

 

ロベルト・シューマン:春の宵 作品39-12

 シューマンが1840年に作曲した歌曲集、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩による、全12曲からなるリーダークライスの最後の曲。

 クララと結婚した1840年の作品で、恋する感情の高まりが溢れ、喜びで一杯のシューマンの気持ちが終始表れている。


演奏家プロフィール   


岡崎 耕治(ファゴット)

 16歳よりファゴットを始める。1972年、武蔵野音楽大学卒業。同年、東京交響楽団入団。73年、第42回NHK毎日音楽コンクール第2位入賞。74年、ドイツ政府交換給費留学生として、デトモルト音楽大学に留学、A. ヘンニゲ、H. ユンク教授にファゴットを、J. ミヒャエルス、 H. ヴィンシャーマン、P. マイゼン、T. ヴァルガー教授に室内楽を師事し、76年、全員一致の首席で卒業。同年、宮本文昭(Ob)、山本正治(Cl)各氏と共にフランス、コルマール第9回 国際室内楽コンクール木管トリオ部門で第2位入賞。78年、演奏家資格試験を最優秀で修了し帰国後NHK交響楽団に首席奏者として入団。多くの内外演奏家との共演、テレビ、ラジオにも多数出演、ソロ、コンチェルト、室内楽で活躍している。第16回、22回「有馬賞」受賞。ソロ・アルバムのCD『ブルレスケ』他、多数のCDをリリース。草津夏期国際音楽アカデミーには第二回から度々参加。元NHK交響楽団首席ファゴット奏者、元東京藝術大学 招聘教授、現在武蔵野音楽大学教授、日本ファゴット(バスーン)協会理事長。

 

岡崎 悦子 (ピアノ)

 東京藝術大学附属音楽高校、東京藝術大学を経て、デトモルト音楽大学留学。ピアノを福井直俊、小林仁氏、F. W. シュヌア、K. シルデ、G. ヴァシャヘーリ各氏に師事。室内楽をA. ヘンニゲ、J. ミヒャエルス、H. ヴィンシャーマン、P. マイゼン、A. ナヴァラ教授に師事。内外の著名な演奏家との共演を数多く行い、室内楽奏者として活躍。ドイツ、ハンガリー、ブルガリアに於いて、数多くの演奏会に出演、室内楽、ソロ、コンチェルト、ピアノ・デュオを始め、委嘱作品の初演を中心とした現代作品のソロとアンサンブルでの演奏会を度々開催。マイスター・ミュージック、ビクター、等からソロ・アルバム『モーツァルト:ソナタ』『ショパン:幻想即興曲』及びピアノ・デュオ『二台のピアノのための作品集』を始めとして、室内楽作品など多数のCDをリリース。武蔵野音楽大学教授を勤め、現在も非常勤講師として後進の指導を続ける。