ピアニスト 白石光隆「ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集」リリース記念インタビュー

今年9月に34回目となったソロリサイタルを開催、そして室内楽等の演奏活動だけでなく、後進への指導や各地でのアウトリーチ活動など、様々な活動をされているピアニスト 白石光隆さん。ニューアルバム「ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集」リリースを記念して、moraでは白石光隆さん、そしてマイスター・ミュージックの平井義也さんに、インタビューをおこないました。

ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集

白石光隆(ピアノ)
白石光隆_ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集

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――アルバムのお話を伺う前に、昨年から続く新型コロナウイルス感染症対策で、ジャンルを問わず様々なコンサートやライブが影響を受けていますが、白石さんご自身の音楽活動への影響はいかがでしょうか。

白石:2020年の2月ごろからコンサートのキャンセルが相次ぎ、昨年8月の中頃までは一切コンサートはできませんでした。そこから感染対策を十二分に施しつつ開催されているものもありますが、海外アーティストの来日公演など様々な事情で中止・延期となっている状況ですね。

 

 ――中止になった公演もあり、影響も計り知れないですよね。そのような中で、今回のアルバム「ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集」はいつごろレコーディングされたのですか?

白石:昨年末も年末、12月の下旬ですね。横浜市の「サンハート」にある音楽ホールでレコーディングしました。

 

――コロナ禍での制作だったのですね。さて、今回のアルバムですが、誤解を恐れずに言うといわゆる「クラシックのピアノ作品集」という枠組みをこえて、とても挑戦的なプログラムの印象を持ったのですが、「ニーノ・ロータ」「久石譲」を取り上げることになったきっかけなどはあるのですか?

白石:きっかけはマイスター・ミュージックのプロデューサー 平井さんから「ニーノ・ロータのアルバムを作りたいのですが、白石さん弾いてくれませんか?」とお話をいただいたことですね。

平井:白石さんとは20年来のお付き合いで、1998年のガーシュインの生誕100年の際に、室内楽のアルバムにて白石さんに演奏をしていただきました。その時の演奏がとても洗練されていて、ずっと印象深く残っておりました。そのため、今回のアルバム制作にあたり白石さんにご相談させていただきました。

 

――これまでに、ニーノ・ロータの作品というのは白石さんには馴染みがあったのでしょうか。

白石:『甘い生活』といったニーノ・ロータの映画音楽に関しては、ニーノ・ロータの作品と知らずに聴いていたところがあり、「あ、ニーノ・ロータの作品だったんだ」と後から知ったものもあります。
 大学時代にコントラバス弾きの友人に頼まれて、『コントラバスと管弦楽のための協奏的ディヴェルティメント(Divertimento concertante for Double Bass and Orchestra)』という楽曲を演奏したのが、ニーノ・ロータ作品との初めての出会いですね。その後、ファゴットの作品を伴奏したりとしていくうちに、ニーノ・ロータの作品を調べていくと、「そういえば、映画で有名なんだ」と認識するようになりましたね。私自身はニーノ・ロータ作品に関してはこのように折に触れ演奏機会があったので、今回「映画作品も含め、ニーノ・ロータのアルバムを作りたい」というお話をいただいたときは、何の抵抗もなく取り組むことができました。

平井:ニーノ・ロータはよく知られてた映画音楽などの他に、膨大な作品を遺しているそうですが、まだ未整理の楽譜も多いと聞きます。今回の一部の楽曲は、楽譜が出版されているのはわかっていたのですが、手に入れるのに時間がかかりました。

 

――なるほど。一方で、久石譲さんの作品は、これまでレパートリーにはあったのでしょうか。

白石:もちろん、アンサンブルをしていると、どこかで出会う作品の作曲家ではありますが、ピアノソロとしてはこれまで無かったですね。今回は久石さんご自身が書かれたオリジナルヴァージョンのピアノソロ楽譜にて演奏させていただきましたが、ピアノの独奏作品として非常に価値が高いと感じています。

 

――実際に音源を聴かせていただいたのですが、ピアノの88鍵を端から端まで細かく使ってオーケストラの世界が表現されているように感じました。白石さんは演奏されていていかがでしたか。

白石:オリジナルヴァージョンの楽譜を弾いてみて、おそらくですがピアノで先に書いてオーケストレーションしてるのではないかなと思います。コンチェルトのオーケストラ部分をピアノ用にしたような楽譜ではなくて、明らかにピアノという楽器を意識して書かれた楽譜だと感じる部分が随所にありました。

過去の私のアルバムでも取り上げたルロイ・アンダーソンという作曲家もやはりピアノで楽譜を先行して書き、そこからオーケストラに広げる手法をとっています。今回、演奏通じてそれに近いものを久石さんの楽譜から感じましたね。

 

――今回のアルバムの楽曲でこの曲に注目してほしい!という曲はありますか?

白石:もちろん、お気に入りの1曲をダウンロードするという文化も生まれてきているので、演奏する側としてはそのニーズにもこたえていかなくてはと思う部分もあります。それでも、やはりできる限り、全曲を通して聴いていただきたいですね。全曲を通してお届けできる緊張感や間が、詰まっていますから。

 

――なるほど。このアルバムは、ニーノ・ロータのピアノ小品ではじまり、久石譲の映画音楽、そしてニーノ・ロータの映画音楽という順に構成されていますが、曲順はすんなりと決まったのでしょうか。

白石:ほぼ、企画当初の曲順になっています。唯一にして、最大に悩んだのが『戯れるイッポーリト』という曲(アルバム:6曲目)をどこにおくか。このことに関しては、ご相談させていただきました。『戯れるイッポーリト』と『子どものための7つの小品』が1つの楽譜にまとめられて出版されているのですが、『戯れるイッポーリト』はその楽譜の1曲目にあるんですよ。だから、このアルバムの1曲目に持ってくるかどうかで悩みましたね。

 

――では、このアルバムの中で、一番苦労したことを教えていただけますか?

白石:弾きづらい曲はたくさんありましたけどね(笑)そうですね、後半のニーノ・ロータの映画音楽ですかね。メインテーマをピアノのみで演奏するにあたっては、リズムをつけたり、オクターブを変えてみたり、何パターンか自分なりのアレンジを用意して、レコーディングに臨みました。

平井:白石さんのアレンジはとてもヴァリエーション豊かで、レコーディングの際にいくつか弾いていただき、そのプレイバックを一緒に聴きながら進めていきました。ぜひその、アレンジの妙味も楽しんでいただければと思います

 

――ニーノ・ロータの映画音楽には、白石さんアレンジが施されていたんですね。せっかくですから、久石さん作品でのこだわりのポイントがあれば教えてください。

白石:『Innocent』や『One Summer’s Day』などの音の少ない楽曲を、どこまで音をのばせるかというところが、技術的に悩んだところの1つですね。発音から音が減衰していくピアノの楽器で、いかにのばせるかというのが課題で、ピアニストとしてこだわった部分でしょうか。

 

――今回の作品は、moraでは通常音源に加え、スペック違いの4種類のハイレゾ音源でリリースですね。レコーディングもかなりこだわられたと聞いています。

平井:今回のレコーディングはDXD384KHzというハイレゾの最高スペックでレコーディングされています。オリジナルのスペックで聴くことができるプラットフォームは現在のところまだわずかでして、moraさんの存在は貴重です。

 

――出来上がったアルバムを、実際に白石さんご自身で聴いてみての感想はいかがですか?

白石:会場の奥行きや空間が感じられて、広さを感じる響きに仕上がっていると思います。そして、音色やタッチなどで変化をつけた表現が、すごく細やかに、そして鮮やかに録っていただけたので、とてもありがたいですね。

今回、座席が100席程度という、小さなホールにて録音しました。でも、実際に完成したアルバムを聴いていただくと、とてもそんな小さなホールで録ったとは思えないほど、大きな広がりのある響きを感じていただけると思います。

 

――確かに、100席程度のホールとは思えないほどの広さを感じる響きでした。一方で、ピアノがとても近くにあるような、贅沢な距離感も感じられました。

白石:そばで弾いているような距離感というのは、まさに、体験していただきたいポイントですね。“奥行きはあるけれど、遠さは感じない”というのは、平井さんはじめとするスタッフの皆さんだからこそ成せる技ですね。

 

――レコーディングに使用されたマイクというのは、マイスターミュージックさんのタイトルでいつも使用されている「エテルナ・ムジカ」(デトリック・デ・ゲアール製)ですか。

平井:そうです、そのマイクですね。今回はとても天井の高いホールでのレコーディングということもあり、響きすぎないようにクリアに録ることができる環境を作りました。何かを参考にするということではなく、白石さんの音楽に適したセッティングを施すことができたと思います。

ゲアールマイク

 

 

――白石さんの演奏を軸に、マイクなどの機材がセッティングされたとのことですが、演奏側としてはコンサートとレコーディングで違いというのはあるのでしょうか。

白石:ホールなどでのコンサートのように、お客さまが客席にいるときの「こういう風に音楽を届けたい」というニュアンスを、そのままレコーディングでプレイしても、いざ自分の録音を聴いてみると自分が描いていたものからかけ離れていたりするんです。それで「こう弾きたいんだけどなあ」と、平井さんにご相談すするんですね。すると、平井さんから「ちょっと、右手を出してみましょうか」とか、「一瞬待ってみましょうか」といったちょっとした一言をいただいて、それを実践して録ってみると、逆に私が思い描いていた演奏になるんです。まさしくスピーカーからでる音のための助言で、コンサートとはまた違ってスピーカーから出る音をターゲットに作った瞬間かもしれません。

ですから、平井さんたちの職人技も相まって、今回のアルバムが完成したと感じています。

ぜひとも、たくさんの皆さんに聴いていただければ、とてもうれしいです。

 

――本日はありがとうございました!

インタビュー:mora スタッフ

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