【クラシック新譜】小暮 浩史『リブラ・ソナチネ 〜福田 進一 ギター・ディスカバリー・シリーズ VI〜』

マイスターミュージックより、小暮 浩史『リブラ・ソナチネ 〜福田 進一 ギター・ディスカバリー・シリーズ VI〜』が配信スタート。
活躍が期待される優れた才能を発掘し、高音質録音で紹介する「ギター・ディスカバリー・シリーズ」の第6弾となる本作は、福田進一をして「晩学の天才」といわしめた、鬼才、小暮浩史による帰国後初の新録音です。

リブラ・ソナチネ ~福田進一ギター・ディスカバリー・シリーズ VI~

小暮浩史(ギター&テオルボ)

AAC[320kbps]

FLAC[96.0KHz/24bit] FLAC[192.0KHz/24bit] FLAC[384.0KHz/24bit]

DSD[11.2MHz/1bit]

今回は小暮浩史本人へのインタビューと福田進一からの推薦文(ともに発売元提供)と共に本作をご紹介いたします。

小暮浩史は、第60回東京国際ギターコンクール、第17回ヴェリア国際ギターコンクール(於ギリシャ)にて優勝。18歳よりクラシックギターを始め、これまでに高田元太郎、福田進一各氏に師事。早稲田大学教育学部を卒業し、渡仏。ストラスブール音楽院にてデュオ・メリス(アレクシス・ムズラキス、スサナ・プリエト両氏)、テオルボおよび通奏低音を今村泰典氏に師事。

今作はフレンチバロックから印象派、近・現代までのフランスのギター・レパートリーが並び、17世紀ド・ヴィゼーの作品に至ってはテオルボでの演奏という、凝ったプログラム。フランス留学を終えさらに充実した小暮による、響きのヴァリエーションに富む様式の変遷をハイレゾDSD384Khzレコーディングで聴く、注目の作品集。トラック11‐13で聴くことが出来るテオルボ(大型リュート)はヴィジュアル面でもインパクト抜群です。

Photo ⓒ濱津和貴

『リブラ・ソナチネ〜ギター・ディスカバリー・シリーズVI〜』に寄せて

福田進一

 この「ギター・ディスカバリー・シリーズ」は、これから活躍が期待される若い優れたギタリストを発掘、最高の録音で世に送り出すべく、2013年にスタートした。
 小暮浩史は、その第1作でデビューの後、留学を経て東京国際ギターコンクールで優勝。2018年には第2作、2021年の本作ですでに3作目となり、その演奏は今や洗練された常連の貫禄を見せている。
 このアルバムは、まるで豪華なフレンチのフルコースを供するが如く、フランスのギター・レパートリーの数々が、小暮の考え抜かれた絶妙な味付けで登場する。
 エスニック風味の前菜としてディアンスのソナチネに始まり、セゴビア伝来の渋いスタンダード名曲タンスマンのカヴァティーナ、少し箸休めにドビュッシー、そしてロマン派コストの軽妙なロンドと続いて、ここで小暮がフランス留学時代から長年暖めてきた古楽器~彼にとっての秘密兵器とも言える大型リュート、テオルボが登場する。この未知の楽器による、ギターとはまったく別の意味での重厚、華麗な音色は聴き手に新鮮なショックを与えるだろう。聴こえてくるのは、ルイ14世のお抱え音楽家であったヴィゼーによる最高級の食卓の音楽だ。調弦もタッチもすべて奏法が異なる楽器に臆することなく取り組み、自分のものとしてしまう天性の器用さは、小暮の真骨頂。そして最後に並べられた親しみ易いデザートの数々は、ラモー、サティー、再びディアンス、カフェの代わりに、シャンソン風のレイモンで締めくくる。実に心憎い構成と演出。
 小暮浩史の東京国際コンクールでの快演は、まだ私たちの記憶に新しいが、そこで彼を優勝に導いたフランスの名器ダニエル・ルシュールの独特の音色が、このアルバムでは奏者の澄んだ音感、音楽センスと完全一体化して心地良い。
後味の良い、最高のフレンチ・フルコースはこれからも多くのファンを生むことだろう。

 


小暮浩史 ニュー・アルバム
『リブラ・ソナチネ〜ギター・ディスカバリー・シリーズVI〜』とその背景

その音色やジャンルを超えた表現力に惹かれ…

◯クラシックギターを始められたきっかけと、その魅力を教えて下さい

小暮:もともと高校時代は鉄弦のアコースティックギターを独学で弾いていました。大学に入りどこかのギターサークルに入ろうと探していたときにクラシックギターと出会い、その音色やジャンルを超えた表現力に惹かれ転向したのがきっかけです。
 クラシックギターの魅力は、なんといってもナイロン弦の柔らかくて優しい音色だと思います。クラシックからポップスまで幅広いレパートリーがあることや、一人でメロディーも伴奏も弾けること、さらには気軽に持ち運んでどこでも演奏できるところなどもいいですね。

◯世界で最も権威あるコンクールの一つ「東京国際ギターコンクール」に、見事優勝されましたね

小暮:初めて参加したのが2010年、優勝できたのが2017年でした。留学の都合で帰国できなかった一回を除き、必ず毎年出場していましたので通算で7回も挑戦したことになります。日本にいながら海外のコンクールの覇者達と競えるのはとても貴重な機会だったと思いますし、そのおかげで留学を決心することにもつながりました。
 「今年も頑張ってね!」という周りの皆さんからの激励が、年々増えていったのはありがたかったですし、とても印象に残っています。

フランス留学とテオルボ

◯フランス、ストラスブール音楽院への留学はどのような思いからですか

小暮:私は一般大学の出身ですから、楽典や和声などの勉強がどうしても苦手だったので、いっそのこと基礎の基礎から習うために留学しようという気持ちがありました。もちろんギター科では一流のギタリストが教えていますから、その講師に教えを乞いたいと思ったのも目的です。
 またリュート科教授に今村泰典さんという日本人リューティストがいらっしゃるのですが、私はこの方の奏でる音楽が本当に好きで、是非この人に直接習ってみたいと考えたのも大きな動機です。

◯今回のアルバムではテオルボも演奏されていますが、その出会いは

小暮:今村先生からの「小暮くんも、テオルボ弾いてみない?」という言葉を受けて、挑戦してみたのがきっかけでした。もちろん最初は全く弾けなくて、ギターとは似て非なるものだと実感しました。しかしながらやっていくうちに楽器そのものの、低くて深い、温かい響きに魅了されました。ギターとは違い、アンサンブルが活躍の場になるというところも、今までソロ活動が多かった私にとっては、非常に勉強になりました。

◯テオルボは長いネックが特徴的ですが、奏法の違いなどを教えて下さい

小暮:左手で弦を押さえ、右手で弦を弾くという点においてはギター奏法とはあまり変わりませんが、弦が6本しかないギターに対して、テオルボは14本ありますので、両手共にそのフォームが微妙に異なってきます。弦の張力も違いますし、ネックの形状も違うので、力の入れ方や、弦のはじき方も若干変わります。ギターと比べると力は必要ありませんが、そのぶん音のニュアンスをコントロールするのが難しいです。右手親指で弾く低音弦側は開放弦しか使わないというのもギターとの違いですね。

緩急をつけながらなるべく起伏に富んだ演奏を…

◯レコーディングとその選曲についてお聞かせ下さい

小暮:レコーディングにおいては、「ライブ感」を大事に演奏することを心がけました。今回使用したマイクはギターの音の細かいニュアンスまで具に記録してくれますので、緩急をつけながらなるべく起伏に富んだ演奏を心がけました。 
 レパートリーとしては私の留学先だったフランスものに焦点を当ててプログラミングしました。更に私が海外で勉強したテオルボの音色も加えることによって、ユニークなアルバムになったのではないかと思います。

◯ワンポイント・ハイレゾDXD384の音については

小暮:まず、コンサートホールで聴いている響きがそのままのクオリティで記録されていることには驚きです。複数のマイクのミックスすることなくワンポイントだけですから、ごまかしの効かない「裸の」音が聴こえてきます。
 ギターは指先で直接弦に触れることにより音を出す楽器なので、その音のニュアンスには無数のヴァリエーションがあります。リスナーの方々にこの違いを聴き取る体験をしてもらえるということは素晴らしいことで、演奏家にとっても自分の音をありのままに、鮮度よく届けてくれる最良のツールであると確信しています。

Photo ⓒ濱津和貴