【新イタリア合奏団新譜 】5/23(木)まで関連作品のプライスオフも開催

マイスター・ミュージックより、ヴィヴァルディの傑出した作品が並ぶ新イタリア合奏団の注目の新録音が到着。

新イタリア合奏団は、イタリアのヴァイオリン界を牽引するフェデリコ・グリエルモを筆頭に、同国の音楽界を名実ともに支える重鎮が集うアンサンブル。1970年代に一世を風靡した「ローマ合奏団」の流れを汲み、バロック音楽のエキスパートとして知られた「イタリア合奏団」を前身に持つ。
黄金の弦の響き、流れる様なアンサンブルは、まさに至福の時を与えてくれます。

老舗合奏団による21世紀の「四季」は瑞々しく斬新。進取の気概溢れるF. グリエルモの独奏ヴァイオリンはもとより、名手D. カンタルピの即興性に富んだテオルボなど聴き所が満載です。後半の「海の嵐」「ごしきひわ」では工藤重典の清々しいフルートが流麗に歌います。

新イタリア合奏団関連旧譜のプライスオフが2024年5月23日まで開催

アルバムについて <木幡 一誠>

 まさに団体名を地でいく演奏が耳を奪う。革新を伴ってこそ伝統は維持される、という名言も頭をよぎる。イタリアの弦楽器奏者たちが脈々と受け継ぐ響きの美観に、古楽の分野で再構築が進むバロック音楽の様式的解釈がエッセンスとして同居を遂げた……、これはそんなヴィヴァルディだ(ちなみにリーダーをつとめるフェデリコ・グリエルモはイタリアのヴァイオリニストでも重鎮的存在だが、モダン楽器の名手としてばかりでなく古楽器オーケストラでも活躍し、斯界の最注目株にあたるイル・ポモ・ドーロにコンサートマスターとして迎えられていたりする)。

 「四季」というポピュラー名曲から、なんと新鮮な聴取体験が得られることだろう。フレーズの処理や緩急法、強弱のコントラストや装飾楽句の追加はときに大胆なほどだが、しかし自然な呼吸感を失わない。作品の一面をなす描写的書式の場当たり的な誇張に走らず、ヴィヴァルディが譜面に託したメッセージを自らの肉声で雄弁に語るという姿勢の賜物だ。ここで彼らが、1970年代にイギリスで発見されたマンチェスター写本(初版譜とは若干の異同を伴う)も参考にしながら「四季」の解釈に臨んでいるのも、進取の気性の反映といえよう。

 そしてアルバムに華を添えるのは、日本が世界に誇るフルート奏者が加わった2つの協奏曲。フランスを第2の故郷とする工藤重典のラテン的なテンペラメントと、新イタリア合奏団のアンサンブルが交わす、やはり伝統と革新の息吹に満ちた音楽的化学反応まで満喫してみたい。

 全部で12曲のヴァイオリン協奏曲を収めた「和声と創意への試み」作品8を、アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)がアムステルダムの楽譜商ミシェル=シャルル・ル・セーヌから出版したのは1725年。その第1番から第4番が協奏曲集「四季」の名前で親しまれてきた。ソロとトゥッティが交代しながら進む協奏曲のスタイルを、各曲に付されたソネット(14行詩)に基づく描写性と巧みに融合させた点でも画期的な曲集である。以下、ソネットの内容に沿って各楽章にメモを付しておこう。

第1楽章 “アレグロ”

 春の到来を告げるトゥッティ。小鳥たちが喜ばしげに挨拶を交わす(ソロイストと複数のヴァイオリン奏者の応唱)。続く場面は泉の流れの描写。にわかに空が曇り、轟く春雷、きらめく稲妻。それが収まると再び小鳥がさえずり出す。

第2楽章 “ラルゴ”

 一抹の倦怠感を伴う田園風景。ヴァイオリンの伴奏声部は風にそよぐ樹々。ヴィオラが奏でる断続的な音形は、まどろむ羊飼の脇で吠える犬。

第3楽章 “アレグロ”

 ミュゼットを思わせる持続音を従えながら、ニンフと羊飼が優雅に舞う。

第1楽章 “アレグロ・ノン・モルト〜アレグロ”

 人も羊も酷暑に疲れ果て、松林は燃えんばかり。カッコウと山鳩とヒワが鳴き、そよ風が吹く(3連符の連続音形)。

第2楽章 “アダージョ”

 ハエや羽虫の群にさいなまれ、羊飼は疲れた体を癒すこともできない。雷が4度にわたって鳴り響く。

第3楽章 “プレスト”

 羊飼の恐れが的中。雷鳴が轟き、霰が降り、畑の穀物を容赦なくなぎ倒していく。

第1楽章 “アレグロ”

 収穫を祝う歌と踊り。男たちは千鳥足で歩き(独奏声部の音階走句やトリル)、酔い潰れて眠りに落ちる。

第2楽章 “アダージョ・モルト”

 酒宴後の気だるい空気に包まれた甘い眠り。弱音器をつけた弦合奏による和声的楽句が一貫する、特異な楽章だ。

第3楽章 “アレグロ”

 羊飼の恐れが的中。雷鳴が轟き、霰が降り、畑の穀物を容赦なくなぎ倒していく。

第1楽章 “アレグロ・ノン・モルト”

 雪の中を凍えながら進む。そこに激しく吹きつける風。意を決して駆け出すが、あまりの寒さに歯の根が合わない(独奏声部のトレモロ)。

第2楽章 “ラルゴ”

 屋内の情景。暖炉を囲む満ち足りた休息の日々。外で降る雨(ピッツィカートの伴奏音形)が万物を潤す。

第3楽章 “アレグロ”

 氷の上を恐る恐る歩き、地面に激突。駆け出せば氷が砕けて穴が開く(ソネットの文面にはないが、かつての酷暑すら恋しいとばかりに「夏」の第1楽章が回想される)。閉ざされた家の外では南風も北風も、あらゆる風が戦いを演じている。これもまた冬の醍醐味。

 ヴィヴァルディの「フルート協奏曲集」作品10は、「四季」と同様にル・セーヌから1729年頃に出版された。フルートを単独のソロ楽器に指定した曲集としては歴史的に嚆矢と呼べる存在だ。その全6曲のうち、第4番のみが書き下ろしの新作と推察され、残りの5曲は旧作からのアレンジにあたる。当アルバムの2曲は、いずれもフルート、オーボエ、ヴァイオリン、ファゴットと通奏低音という編成の室内協奏曲がオリジナルである。

 作品10の第1番「海の嵐」は“アレグロ”“ラルゴ”“プレスト”の3楽章からなり、分散和音や音階走句が嵐のイメージを喚起する両端楽章の間に、短調に転じた装飾性も豊かな緩徐楽章が置かれている。第3番「ごしきひわ」は曲集で最も人気が高く、“アレグロ”の第1楽章でフルートが奏でるカデンツァ風の楽句は演奏効果も抜群。“カンタービレ”と銘打たれた第2楽章ではシチリアーノのリズムが優雅に舞い、第3楽章“アレグロ”でも鳥のさえずりのような音形がひとしきり耳にとまる。

 ヴィヴァルディが残した楽曲で最も早く出版を見たのは、作品1として世に出た2つのヴァイオリンと通奏低音のための「トリオ・ソナタ集」だった。現存する最古の出版譜は1705年のものだが、初版譜の刊行はそれ以前にさかのぼる可能性が高い。

 イタリアの偉大な先人アルカンジェロ・コレッリが確立したトリオ・ソナタの様式を踏まえながら、自身の個性を探求する姿勢も反映された曲集は全12曲からなり、その最後を飾るのが「ラ・フォリア」。コレッリが同名のヴァイオリン・ソナタで用いたスペイン起源の舞曲が主題として提示され、そこに20の変奏が続く。ヴィヴァルディの創作活動初期を代表する佳作のひとつだ。

演奏家プロフィール

新イタリア合奏団

新イタリア合奏団

 完璧な技巧と高い音楽性で超一流と折り紙付きの名アンサンブル、イタリア合奏団が、21世紀への新たな飛躍を求めてメンバーを一新、「新イタリア合奏団」としてスタートした。メンバーは、イタリアの著名オーケストラのコンサートマスターやソロ首席奏者の経験者、国際コンクールの入賞者、有名なイタリアの室内楽グループ(ローマ合奏団、キジアーノ六重奏団)の元メンバーなどによって構成されている。レパートリーは弦楽六重奏から交響曲まで、指揮者を置かず、ソロもメンバーが交替で担当して演奏している。

フェデリコ・グリエルモ (ヴァイオリン独奏&コンサートマスター)

フェデリコ・グリエルモ-(ヴァイオリン独奏&コンサートマスター)

 フィレンツェのヴィットリオ・グイ国際コンクール優勝者。ロヴィーゴのヴェネッツェ音楽院教授。ローマおよびトリノの国立放送管弦楽団のゲストコンサートマスターを務めた。

ソリストとしてもレオンハルト、ホグウッドなどの巨匠の下、イタリア国内はもとよりロンドン、ボストン、シドニーなど世界各地で活躍。指揮者としても評価を得ている。

工藤 重典 (フルート)

工藤-重典-(フルート)

 パリ国立音楽院を一等賞で卒業し、23歳の若さで第2回パリ国際フルートコンクールに優勝。ランパルに認められ世界各地で演奏する。パリ、ロンドン、ウィーン、ミラノ、ニューヨーク、モスクワ、ミュンへンなど世界各地でソリストとして演奏してきた。

CDはマイスター・ミュージック、エラート、ソニー、ナクソスレーベルなどからリリースされ、75タイトルを超える。1980年、第1回JPランパル国際フルートコンクールで優勝。東京音楽大学教授。文化庁芸術祭賞、京都芸術祭賞、村松賞、仏オベルネ名誉市民賞、伊flaut生涯功労賞などを受賞。