日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.33

vol.33 Theme : ロックンロールの母とロックンロール・ギターの父

 

 またもや巨星 堕つ! とは言え「スコッティ・ムーア」という名前を聞いたことがあるリスナーは、相当なロックンロール・マニア……でも「ストーンズのキース」が憧れ、「エルヴィス」を支えたギタリストと、誰しもがピンとくるビッグネームがこぞって彼の影響を公言してはばからない……そんな偉大なるギタリスト、スコッティ・ムーアが、先頃84歳で永眠。彼がどれだけ優れたギタリストだったかを振り返りまくるの巻。

 

 1931年にテネシーで生まれたスコッティ少年、当時はまだロックンロール出現前なのでジャズやカントリーをこよなく愛する音楽少年として成長。カントリー界の大スター、チェット・アトキンスに大きな影響を受けた彼は、低音弦と高音弦を別々に弾くギャロップ奏法を習得し、スターライト・ラングラーズというカントリーBANDを結成しローカルで活動。その巧みなギターの腕前に惚れ込んだサン・レコードの社長サム・フィリップスが、新人ボーカリストのバックBANDとして彼らを売り出そうと計画……ここまではよくある話。

 

 しかし当初加入させようとしていたボーカリストが行方不明となり、仕方なく代理で呼んだボーカリストがその後の彼らの運命を……いや、世界中の歴史を変える事になろうとは誰が予想したろうか……そう、代理ボーカリストはロックンロール・キング、エルヴィス・プレスリー! 当時はしがないトラック運転手だったエルヴィスが、母の日のプレゼントとして吹き込んだレコードがサム・フィリップスの耳に留まりVo.として大抜擢。当時は黒人のR&Bを白人がキレイにカヴァーするのが主流で(荒々しいR&Bやゴスペルを大衆的なポップスに変換しちゃってた)、エルヴィスはそれに反して荒々しいままに歌えるボーカリストだった。かねがね人種差別政策に反対だったサム・フィリップスは、黒人のように歌える彼をメインに据える事を決意し、結果エルヴィス・プレスリー初のシングル「That’s Altight」はローカルヒットし、リスナーの多くは黒人の新人歌手だと勘違いしていたという伝説が残っている。アルバム『The First Original Recordings That Made History 1954-1956』に収録されているのでチェックされたし!

 

 それからのエルヴィスの快進撃はもはや説明の必要もなく、瞬く間に世界的なスターとなるが……そんな彼の数々の代表曲でギターを弾いたのがスコッティ・ムーア。チェット・アトキンス仕込みのギャロップ奏法で「Hound Dog」や「Heartbreak Hotel」といった大ヒットを彩り(アルバム『ELVIS – BEST HITS IN JAPAN』他に収録)、中でもスコッティ最大の功績は、いわゆる現代で言う<パワーコード>奏法の発明! 今でこそシンプルなコードの押さえ方でジャーン、ジャジャジャーンとギターをかき鳴らすのは当たり前だが、カントリーやジャズが最先端だった当時は指やピックで単音ずつ弾くのが普通で、コードをかき鳴らすというのは画期的な奏法だった……これが無かったら現在のロックは全然別物だったのではないか……とさえ言われる重要案件。名曲「Jailhouse Rock」のイントロ等で確認出来るので、多くのアルバムに入っている大名曲を聴き倒して、スコッティの偉業に感謝しながらロックを楽しもうぞ!

 

The First Original Recordings That Made History 1954-1956 ELVIS – BEST HITS IN JAPAN

 


 

日高央 プロフィール

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

日高央(ヒダカトオル)(@hidakatoru) | Twitter
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