【クラシック新譜 】川田知子(ヴァイオリン) / 福田進一(ギター)

マイスターミュージックより、本日配信開始の新譜2タイトルをご紹介。共に国際コンクールでの優勝経験もある名手、DXD384KHzレコーディングでの音源です。

さらにそれぞれの旧譜を期間限定のお求めやすい価格で!楽器はヴァイオリン、ギターと異なりますが今回紹介する過去作品では共にバッハを取り上げています。

■SALE期間:2019年6月23日(日)23:59まで ⇒ 終了いたしました。

新譜紹介:川田知子

テレマン:無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア / 川田知子(ヴァイオリン)

AAC[320kbps]

FLAC[96.0kHz/24bit]

FLAC[192.0kHz/24bit]

FLAC[384.0kHz/24bit]

DSD[11.2MHz/1bit]

以下に、CDライナーノーツより木幡 一誠氏による収録曲目の解説を抜粋して引用いたします。

ファンタジア 第1番 変ロ長調

 強弱の対比感も重要な要素をなす“ラルゴ”では、その旋律線を彩る三連符のフィギュアからフランス的にギャラントな香りも立ち上る。“アレグロ”はイタリアのヴァイオリン音楽(たとえばコレルリの諸作品)を思わせるパッセージに、フーガ風の声部進行を託した楽句が彩りを添えていく。ト短調に転じた“グラーヴェ”は和声的な陰影も濃い。その後に“アレグロ”がリピートされることにより、結果的に“緩-急-緩-急”の楽章配列からなる教会ソナタの構成を踏まえた曲となっている。

ファンタジア 第2番 ト長調

 緩徐楽章に2つの急速楽章が続くのは、作曲当時にドイツで流行を始めていたソナタの様式でもあった。冒頭の“ラルゴ”と続く“アレグロ”は、高度に編まれた対位法の綾と和声的充足感の両面によって耳を奪う。曲をしめくくる“アレグロ”はジーグ、ないしフォルラーヌを思わせる活発な舞曲調。

ファンタジア 第3番 へ短調

 形式的には教会ソナタにあたる。へ短調というキーのメランコリックな性格を生かした“アダージョ”でも、続く“プレスト”でも対位法的なラインが強い表出力と共に連なる。3小節の和声進行からなる“グラーヴェ”を導入部として流れ込む“ヴィヴァーチェ”は、短く簡潔ながらも動機作法面での緊張感が高い。

ファンタジア 第4番 ニ長調

 躍動的なモチーフに導かれた“ヴィヴァーチェ”はヴィヴァルディの合奏協奏曲にも通じる装いだ。続く“グラーヴェ”と、ジーグのリズムで書かれた“アレグロ”でも、オーケストラ的な響きの効果とヴァイオリンの技巧性の両方を生かした書式に妙味がある。

ファンタジア 第5番 イ長調

 即興的な楽句がトッカータ風に続く“アレグロ”から、フーガで開始される“プレスト”へと流れ込む。それがいったんホ長調で解決を見ると、同じパターンが5度上のキーで繰り返され、主調に転じて楽章をしめくくる。8分音符の沈着な歩みが重音奏法で連なる“アンダンテ”(バッハの無伴奏ソナタ第2番の第3楽章も連想されよう)がフリギア終始に至った後に置かれているのは、生命力に富む音の流れに応唱的な進行を巧みに盛り込んだ“アレグロ”。

ファンタジア 第6番 ホ短調

 冒頭の“グラーヴェ”は2つの旋律声部が対話を交わす形で進み、その背後に秘められた(省略を伴いながら最小限の音として配された)バス声部ともども、1人の奏者によるトリオ・ソナタさながらの様相すら呈していく。続く“プレスト”はかなり厳格かつ巧緻に編まれたフーガ。ト長調に転じた“シチリアーノ”はドローン風の持続音の効果も耳にとまり、そこからは野外で踊られる舞曲の雰囲気も伝わってこよう。終曲の“アレグロ”は長調の中間部を抱く3部構成。

ファンタジア 第7番 変ホ長調

 第6番同様に教会ソナタの形式をとる。重音奏法も多用される“ドルチェ”に、クーラントのリズムに協奏曲風の動機作法が結びついた“アレグロ”が続く。“ラルゴ”では幅広い音程を行き交う旋律線がエモーショナルな感興を醸し出し、ガヴォット風の舞曲として書かれた“プレスト”にも同じ言葉があてはまる。

ファンタジア 第8番 ホ長調

 親密な語り口調の中にギャラントな音使いをちりばめた“ピアチェヴォーレメンテ(心地よさをもって)”に、急速な舞曲調の“スピリトゥオーソ”と“アレグロ”が続き、それぞれポロネーズやメヌエットに通じる要素が認められる。

ファンタジア 第9番 ロ短調

 憂いを帯びた牧歌調の“シチリアーナ”に始まり、その後の“ヴィヴァーチェ”ともども、バスや内声の進行を随時補う跳躍音形の用法が目立つ。終曲は短長格のリズムが面白い効果をもたらすジーグ風の“アレグロ”。

ファンタジア 第10番 ニ長調

 冒頭の“プレスト”は推進力に富み、トゥッティとソロが交替する協奏曲の図式を凝縮したような装いも備わる。対照的にソロ・ソナタの緩徐楽章を思わせる“ラルゴ”はしばし内省的な情調に沈む。作品をしめくくる“アレグロ”では、やはりジーグのリズムがひとしきり舞う。

ファンタジア 第11番 へ長調

 伸びやかなタッチの中に多声部進行的な立体感も秘められた“ウン・ポコ・ヴィヴァーチェ”が、ト短調に転じたアリア風の“ソアーヴェ(甘く柔和に)”を挟んで反復される。終曲の“アレグロ”は快活にして流麗なポロネーズ風。

ファンタジア 第12番 イ短調

 一貫して流れる付点のリズムが峻厳な空気感をもたらす“モデラート”に始まる。その中程の経過楽句では半音階的な進行が微妙な翳りを演出し、同じ効果は続く“ヴィヴァーチェ”にも認められるものだ。“プレスト”はイ長調に転じたブーレ。明るく輝きを放つ開放弦の響きも交えながら、曲集の最後を飾るにふさわしい力感を発散させていく。

―――曲目について  木幡 一誠

新譜紹介:福田進一

パストラーレ ~J.S. バッハ作品集 6~ / 福田進一(ギター)

AAC[320kbps]

FLAC[96.0kHz/24bit]

FLAC[192.0kHz/24bit]

FLAC[384.0kHz/24bit]

DSD[11.2MHz/1bit]

こちらの作品も、CDの充実したセルフライナーノーツより、個別の楽曲解説部分を抜粋・引用する形でご紹介させて頂ければと思います。

アリア ゴルトベルグ変奏曲 BWV 988 より

 ゴルトベルク変奏曲 BWV 988 は、アリアと30の変奏曲からなる2段鍵盤のチェンバロのための「クラヴィーア練習曲集」の第4巻として出版された。主題となったト長調のアリアはバッハの2度目の伴侶であったアンナ・マクダレーナのための音楽帳第2巻(1725)に収録されている。シャコンヌ同様、下降する低声主題に基づくが、その上に展開する気品に満ちた旋律線には、優美かつ変化に富んだ細かな装飾が施されている。ギターへの編曲にあたって、原曲のイメージを損なわず、かつ鍵盤楽器から撥弦楽器への自然な移行を心がけた。幅広い音域をカバーするために第6弦をレに下げて原調で演奏している。

ソナタ ト短調 BWV 1001

原曲:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト短調 BWV 1001

 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全6曲に収められた最初のソナタであり、宗教的かつ壮麗な響きに満ちている。教会ソナタとして4つの楽章から成る。特に第2楽章フーガは、ギターによるバッハ演奏の歴史の幕開けとも呼べるタレガによる最初の編曲(イ短調)で知られる。この録音では6弦を短3度高く、ソに調弦し演奏している。

 

【アダージョ】 極めて厳粛な雰囲気で開始される歌は、全体を通じて多用される重音に彩られ、自在で即興的、かつドラマティックな展開で、次に続くフーガへの期待を高める導入部となっている。

 

【フーガ Allegro】 バッハ自身によるリュートのための編曲も存在している(フーガ イ短調 BWV 1000 として第5集に収録済み)。またオルガンのための別編曲(フーガ ニ短調 BWV 539)も存在する。ヴァイオリンの機能を考慮されたフーガ主題は短いが、シンプルさゆえに印象的で、頻繁に呼応し合う。その間に挟まれた喜遊部では、リュート的なアルペジオ(分散和音)が聴こえる。様々なドラマが展開し大きなクライマックスを形成する名作である。

 

【シチリアーノ】 変ロ長調に転じ、天国的な幸福感、安堵感に満たされた6拍子系のシチリア舞曲。先述の調弦法により、ギターにおいて、その主題は線的にも分散和音的にも扱うことが可能である。

 

【プレスト】 一転して、劇的な、のちのパガニーニによるカプリスをも想わせる終楽章。下降から開始される前半と、上昇する後半の対比から、気まぐれなパッセージを繰り返す無窮動の面白さ。単純な16分音符の連続なのだが、旋回、シグザグ、飛翔、そこにはあらゆる形の運動が含まれており、バッハの創造性に驚嘆するしかない。

 

アリア パストラーレ BWV 590 より

 パストラーレ(田園風)はキリスト降誕を讃える鍵盤作品。原曲は4つの楽章から成り、このアリアはその第3曲である。原調はハ短調だが、ここではギターに適した全音高いニ短調に移調している。淡々と流れる8分の3拍子の伴奏によるアリアだが、全体の雰囲気はキリストの受難あるいは聖母の涙を暗示した深い悲しみで覆われている。

パルティータ ニ短調 BWV 1004

原曲:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 BWV 1004

 名曲中の名曲とされる第5楽章シャコンヌを含むパルティータ第2番は、バッハが書いた無伴奏全6曲の頂点を指し示す長大な作品である。ブラームスの左手のためのピアノ編曲から多くのアイデアを得たと思われるセゴビアの編曲に始まり、以後ギターにおいてそのアプローチは様々である。ヴァイオリンの原曲に一切の音を足さないという純粋主義者もいれば、過剰なまでに音を添加して鍵盤に近づけるヴィルトゥオーゾもいる。しかし、私がこのバッハ作品集第1~6集で行なった編曲の方針は一貫して単純明快で、原曲から想像できる通奏低音(basso)を足してみて、表現が良くなれば採用、仮に理想的でも表現や技術に無理が生じれば不採用という、シンプルに中庸を狙うことだった。すでに充実した和声が施されたソナタよりも、線的に表現したパルティータの方がより熟考を要する。この第2番では、ギターでの表現上、シャコンヌが持っている音の厚みとバランスを取るためには、私はどうしても手前の4つの楽章にbassoが必要と感じていた。そう思ってトライすると、冒頭のアレマンデから、すでにシャコンヌの下降する主題が聴こえてくるのである。もう、バッハの創造性に感服するしかない。

【アルマンド】 ドイツ風を意味する4拍子の舞曲である。他のすべての舞曲と同様、バッハは同じ曲調のアルマンドを2度は書かない。パルティータの第1番では付点音符を多用したフランス風のアルマンドだったが、ここでは16分音符が粛々と流れる。それは長大な曲全体の前奏曲でもあり、変化に富んだ序章のアリアとも考えられる。

【クーラント】 バロック期の組曲の中ではアルマンドに続く第2曲に置かれる3拍子のフランス舞曲。このパルティータでは1拍を3分割した旋回する躍動感に富んだリズムが使われている。

【サラバンド】 一転して荘重なスペイン舞曲で、2拍目にアクセントを持つ。そのリズムは終楽章のシャコンヌに共通しているが、そのシャコンヌには最初の1拍がない。このサラバンドでは、のちの劇的な展開とは真逆の、深い内省をはらんでいる。

【ジーグ】 イギリス、あるいはアイルランドの民俗舞曲であったジグがバロック期にフランスに渡り、ジーグとなったと言われる。ジーグにも様々な種類があるが、ここでは前半後半ともに、躍動感に富んだ8拍の跳躍の後、連綿とした16分音符が続く。興味深いのは、このジーグの和声進行が極めてスペイン的で、続くシャコンヌへの必然性を高めていることで、一瞬の長調への進行がパルティータ全体の息抜きになっている。

【シャコンヌ(チャコーナ)】 近年の研究によるとシャコンヌの起源となった舞曲チャコーナは、新大陸の南米のもので、それがスペイン、イタリアに渡ってバロック期以前に大流行した、元来は快活な踊りだったそうだ。イタリアのモンテヴェルディ、フレスコヴァルディ、フランスのリュリなど、ヨーロッパの各地方とそれぞれの時代の作曲家を経由し、ドイツに渡り、バッハの師ブクステフーデに辿り着くまで、様々な道程があったに違いない。そういう意味で、バッハのシャコンヌはひとつの到達点であり、それゆえに器楽の独奏曲において最も大きな内容と世界観を包括しているのだ。全体は低声主題に基づく32の変奏、短調〜長調〜短調の3つの部分から成る。今回は私にとって3度目の録音であり、すでに語り尽くされたシャコンヌの細かな分析や詳細は割愛させて頂いた。

 

コラール前奏曲「イエスよ、私は主の名を呼ぶ」 BWV 639

 パリ留学時代、シネマテックという古い映画を専門に上映する映画館があり、そこでロシアのタルコフスキーの映画「ソラリス」を観て感動した。いつまで経っても耳から離れない静謐なテーマが、バッハのコラール前奏曲であることを知ったのは後にケンプのピアノ編曲による演奏を聴いてから。今日までずっと編曲したいと思っていたが、オリジナルの3声体をギターで弾くのは容易ではない。ここでは原曲のヘ短調から、手前のパルティータ第2番と同じニ短調に移調してみた。

 

プレリュード BWV846  平均律クラヴィーア曲集 第1巻 より

 アルバムの最後にアンコールとして、有名な平均律クラヴィーア曲集の冒頭のプレリュードに挑戦してみた。あえて挑戦と書くのは、このプレリュードをギターで弾き通すのは、想像に反して全く容易ではないからだ。冒頭のアルペジオ、単純なドミソドミソドミの連続こそ簡単だが、以降の展開は音域の問題も含めなかなかくせ者である。最近、歌手の友人の伴奏のためにグノーのアヴェ・マリアの伴奏(厳密には全く同じではない)を編曲する機会があり、この独奏版が生まれた。難易度を感じずに、お楽しみいただけたら幸いである。

 

※関連旧譜プライスオフSALEは、2019/6/23(日)23:59で終了いたしました。