福田進一,小林道夫デュオ・アルバム リリース記念

1993年に福田進一と小林道夫によってレコーディングされた、ギターと鍵盤楽器のための貴重な作品集が、再編集、リマスタリングを施され、30年振りに復刻。

「ポンセ:ギターとチェンバロのためのソナタギターと鍵盤楽器のための作品集

DSD[5.6MHz/1bit]

FLAC[96.0kHz/24bit]

AAC[320kbps]

リリースを記念して、福田進一/小林道夫 バロック・アルバム POキャンペーン を9月25日(月)より開催中。

プライスオフ期間:2023年9月25日(月)~10月24日(火)23時59分

さらに、福田進一氏に今作のアルバムについてのコメントが届きました。ぜひご覧下さい。

アルバム紹介 プライスオフ対象タイトル

 


◯アルバムについて <福田 進一>


  30年という歳月を長いと感じるか、短いと感じるか……人によってその感じ方は様々だろうが、私にとってアルバム「ギターと鍵盤楽器のための作品集」の録音セッション(1993)は、ほんの数年前の出来事のように思えてならない。

 何故なら、録音当時、還暦を迎えられたばかりの小林道夫先生……私にとって憧れのマエストロとの初共演という緊張感。また、クラシックギターと鍵盤楽器という世界的に前例の少ない組み合わせによるレコーディング……さらにフォルテピアノとはおそらく史上初の録音であろう自負。そして、開館したばかりの府中の森ウィーンホールという、新しい、しかも最高に贅沢な音響。私の中に、すべてのシチュエーションが、フレッシュかつ鮮烈な体験となって、深く刻み込まれたからに相違ない。

 1993年当時、デビューから10年を経過した私は、ニューヨークを含めたアメリカ・デビューツアーや、ブローウェルのソナタの初演など重要な仕事を終えたばかり。さらにフランスの2大名器、ロベール・ブーシェ、ルネ・ラコートを入手し、それらを使って、新発見のギター音楽を紹介したい、生まれ変わった自分の演奏を世に問いたい、といった様々な意欲に満ち溢れていた。それはこのアルバムのプログラムと内容に反映されていると思う。この演奏が30年の時を過ぎて、未だフレッシュにリスナーの耳に届けばこれほど嬉しいことはない。

 発売当時のレーベルの消滅と共に、長らく廃盤となっていたこのアルバムを最新のリマスター技術を駆使して甦らせてくださったマイスター・ミュージックの平井義也氏の御尽力と御理解、そして過去現在を通して、このアルバムに関わって下さったスタッフの皆さんに深く感謝したい(2023年7月)

 


◯プログラムノート <福田 進一>


M.M. ポンセ:ギターとチェンバロのためのソナタ

 それまで古楽器としてのみ認知されていたチェンバロが、近現代の作曲家にコンサートホールで演奏可能な楽器として注目されだしたのは、1920年代。折しも作曲界には新古典主義の潮流が押し寄せ、また演奏会ではチェンバロ奏者ワンダ・ランドフスカが大活躍していたころと合致する。この時期、スペインの代表的作曲家ファリャの『チェンバロ協奏曲』、フランスのプーランクによる『田園の奏楽』などの名曲が次々と発表されたのである。中南米では既にひとかどの有名作曲家でありながらも、その地位を捨てて1925年からパリでポール・デュカスの下、遅い留学生活を始めたメキシコのマヌエル・マリア・ポンセもまたこれらヨーロッパ新古典主義の音楽に傾倒した人物の一人である。友人であり経済的スポンサーでもあった巨匠セゴビアの勧めで数々のギター独奏曲を生み出したことで知られるポンセだが、室内楽では1926年に小品『ギターとチェンバロのためのプレリュード』を、続いて1931年にこの『ギターとチェンバロのためのソナタ』を書いている。

 このソナタは典型的な3つの楽章からなる。第1楽章アレグロ・モデラートはホ短調、ソナタ形式。冒頭リズミカルな主要動機による第1主題は2つの楽器から、アラベスクのような精緻な音の織物を紡ぎ出す。この動機は朗々としたギターのオクターブによる第2主題が現れても絶えずオスティナートとして鳴り響く。展開部では両者がまったく同じ旋律を2拍ずれながら発展していき、主題が再現される。第2楽章はグレゴリオ聖歌を思わせる美しい歌による対話。おそらく民謡の一節であろうこの歌は非常に旋法的で、まさに無国籍的な情緒にあふれている。第3楽章アレグロ・ノン・トロッポはホ長調、複合ロンド形式。チェンバロによる陽気な主題は、ギターのリズミカルな対旋律に絶えず妨害されながら進行する。目まぐるしいチェンバロの3連符の連なりにギターが絡み合うコーダは高度な技巧が要求される。

* 楽譜はニューヨーク/ペアー・インターナショナル1973年版。楽器はモンマルトルの画家から身を成し、生涯に154本の作品を残した現代の名工ロベール・ブーシェ(No. 112/1966)を使用。演奏ピッチはA=442Hz。

 

R. シュトラウベ:ソナタ 第1番

チェンバロ伴奏による「ギターのためのソナタ集」より

 ルドルフ・シュトラウベは1717年にドイツのトレブニッツに生まれ、1730年代にJ.S. バッハが音楽監督をつとめていたライプツィヒの聖トーマス教会付属学校でオルガン、チェンバロ、リュートを学んだ。1754年イギリスに渡り、初めはリュート奏者として、後にはギタリストとして名を馳せ、以後その生涯をイギリスで過ごした。

 このソナタは、現代のギターとは完全に異なった調弦の“イングリッシュ・ギター”(18世紀後半にロンドンで流行した小型の洋梨型ギター)のためのオリジナル。シンプルな旋律線は、普通のギターで演奏しても何ら問題ない。全体はラルゴ〜アレグロ・モデラート〜アレグレット(変奏曲)の3つの楽章からなる。

* このCDでは、英国図書館に現存するオリジナルからのファクシミリ(ギター・パートと数字付き通奏低音の2段譜)を使用した。楽器はフランスのミルクールに生まれ、パリで活躍した歴史的名工、ルネ・ラコートの比較的初期の軽い音色のギターに、リュート弦を張って演奏している。演奏ピッチはA=417Hz。

 

ベートーヴェン〜F. カルッリ編曲:

モーツァルト《魔笛》より「恋人か女房があればいいが」の主題による10の変奏曲 作品169

 古典期ギター音楽の先駆者的存在であった、イタリア、ナポリ生まれのギタリスト兼作曲家フェルディナント・カルッリは、パリのサロンで名を上げ、その生涯に350曲を越える作品を残した。どの作品も親しみやすくイタリア的な明るさにあふれてはいるが、残念ながら後のジュリアーニなどに比べて音楽的、技術的に高いとは言い難く、現代のギター・リサイタルで取り上げられることはめったにない。しかし、その室内楽には、珍しい改作が多く含まれている。

 ベートーヴェン原曲のチェロとピアノのための変奏曲op. 66の編曲では、大胆にも12あるベートーヴェンのオリジナル変奏からギターに適した8曲を選び、並ベ変え(有名なヘ短調の変奏を切り離している!)、しかもカルッリ自作の変奏(もちろんギターが主役)を2曲つけ加え、ご丁寧に自分の作品番号までつけて出版している。著作権保護の意識が高まった今日では、とんでもないことのように思えるが、このように有名な曲が気軽に家庭で楽しめるよう、どんどん室内楽に書き直されたのも、当時では、生きた音楽による会話が何よりの娯楽であったからに違いない。

* 楽譜はフィレンツェで刊行された、パリ初版のファクシミリによる。楽器はルネ・コラート晩年の作品を使用。この楽器は絃蔵(いとぐら)に弦を巻く特殊なメカニズムが内蔵されており、当時のラコートのギターでは最高級にランクされている。演奏ピッチはA=430Hz。

 

M. ジュリアーニ:

パイジェルロ《水車小屋の娘》より「うつろな心」の主題による大変奏曲とポロネーズ 作品113 (作品65改訂)

 イタリア古典期を代表するギタリスト、作曲家マウロ・ジュリアーニの最高傑作のひとつ。時を同じくして活躍したスペインの名手フェルナンド・ソル(1778〜1839)がギター独奏曲を中心に活動し、この楽器のもつ内面性を追求し続けたのに対して、ジュリアーニは協奏曲、室内楽曲、歌曲までこなし、その生涯に150曲を越える作品を残した。1806年から1819年にかけてウィーンに滞在し、ピアニストのフンメルやモシュレス、ヴァイオリンのマイセダーらと親交をもち、数多くのギター入り室内楽作品を生み出した。

 「うつろな心」の主題による大変奏曲とポロネーズは、当初ギターと弦楽四重奏のための作品として、このウィーン滞在期間の1814〜15年ころにミラノのリコルディ社から刊行された。このCDで演奏されているギターとハンマークラヴィーアのためのヴァージョンは1823年に刊行されたもので、おそらくこのハンマークラヴィーア・パートは親友であった大ピアニスト、イグナーツ・モシュレスの知識が関わっている。この「うつろな心」の主題は古典期の作曲家がこぞって取り組んだほどの名旋律だが、ジュリアーニは見事に協奏曲風の作品に仕立てている。

 まず、ハンマークラヴィーアのソロによる神秘的な導入部に続きイタリアの晴れ渡った空を思わせるような序奏、そしてギターによるテーマと4つの変奏が展開する。第1から第3までの変奏はまさにギターの技巧のオンパレード。特に第2変奏は今日のギターではジュリアーニの意図どおりに演奏できない左指の跳躍によるもの。一転して第4変奏はシシリアーノ舞曲風の緩やかな美しい変奏で、この曲全体のチャーム・ポイントとなっている。長い間奏の後、ジュリアーニが好んで終楽章に用いたポロネーズが開始されるが、ここでもギターのヴィルトゥジティが極限まで発揮されるように書かれている。

* 楽譜は古典期のギター音楽研究の第一人者ブライアン・ジェフェリ監修のテクラ社による1823年ミラノ初版のコピーを使用。楽器は第3曲と同じルネ・ラコート。演奏ピッチはA=430Hz。


演奏家プロフィール


福田 進一(ギター)

 11才より故 斎藤達也(1942-2006)に師事。1977年に渡欧、パリ・エコールノルマル音楽院にてアルベルト・ポンセに、シエナ・キジアナ音楽院にてオスカー・ギリアに師事した後、1981年パリ国際ギターコンクールでグランプリ優勝、さらに内外で輝かしい賞歴を重ねた。世界数十カ国の主要都市でリサイタルを行い、バロックや19世紀ギター音楽の再発見から現代作品まで、その幅広いレパートリーと、ボーダーレスな音楽への姿勢は世界の音楽ファンを魅了している。

 教育活動にも力を注ぎ、その門下から鈴木大介、村治佳織、大萩康司といったギター界の実力派スターたちを輩出。それに続く新人たちにも強い影響を与えている。現在、世界各地の音楽大学でマスタークラスを開催、上海音楽院(中国)、大阪音楽大学、広島エリザベト音楽大学、アリカンテ大学(スペイン)において客員教授を務めている。

 平成19年度、日本の優れた音楽文化を世界に紹介した功績により、外務大臣表彰を受賞。平成23年度芸術選奨・文部科学大臣賞をギタリストとして初めて受賞した。

moraで配信中の福田進一作品はこちらから

 

小林 道夫(チェンバロ & フォルテピアノ

 東京芸術大学楽理科卒業。旧西ドイツ・デトモルト音楽大学に留学し、幅広く研鑽を積む。チェンバロ、ピアノ、室内楽、指揮など多方面にわたり活躍し、特にJ.S. バッハ、モーツァルト、シューベルトの解釈及び演奏では最高の評価を得ている。伴奏者としての活躍は、世界的名伴奏者であったジェラルド・ムーアに比肩するとまで云われ、これまでに、フィッシャー=ディースカウ、ヘルマン・プライ、エルンスト・ヘフリガー、オーレル・ニコレ、ジャン=ピエール・ランパル、モーリス・アンドレなどと内外で共演している。1970年第1回鳥井音楽賞(サントリー音楽賞)、1972年ザルツブルク国際財団モーツァルテウム記念メダル、1979年モービル音楽賞、2020年日本製鉄音楽賞特別賞をそれぞれ受賞している。

moraで配信中の小林道夫作品はこちらから

 


プライスオフ対象タイトル