mora限定配信中! 「究極のオーディオチェックCD」2017年版を解説

オーディオ情報誌『月刊ステレオ』恒例企画「究極のオーディオチェックCD」シリーズの2017年版がmora独占で配信中! FLAC|192.0kHz/24bitとDSD(DSF)|5.6MHz/1bitの2形態で配信中です。

 

究極のオーディオチェックCD2017ハイレゾバージョン(PCM192kHz/24bit)/Stereo

究極のオーディオチェックCD2017ハイレゾバージョン

DSD(DSF)|5.6MHz/1bit

FLAC|192.0kHz/24bit

 

今年はオーディオ評論家 石田善之氏によるプロデュース。「歴史をとらえたマイクたち」というテーマのもと、氏が所蔵してきた50年代から80年代の歴史的名器と呼ばれたマイクを使用し、それぞれの音の違いから、時代によって音はどう変化していったか、その変遷を感じていただけます。

 

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石田善之さん

 

また、収録されている楽曲は7人編成によるディキシーランド・ジャズ(※草創期のジャズのこと)のスタンダード・ナンバー。豪華メンバーによる卓越したテクニックと、一度はどこかで耳にしたことのある、色あせない往年の楽曲を楽しむことができます。

 

<使用マイク>

前半のジャズ録音 1940年ー1960年代
・ノイマン M269(トランペットに使用)
・RCA 77D,77DX(クラリネット、ピアノ、ギターソロに使用)
・ノイマン U-47(トロンボーンに使用)
・東芝 Aベロ(バンジョーとジャズギターに使用)
・アルテック 639B(チューバに使用)
・ソニー C37A(ドラムスオーバートップとギターソロ)
・サンケン MS2(バスドラム用)

後半のジャズ録音 1960年代後半ー80年代が中心
・ソニー C575(トランペットに使用)
・AKG SOLID TUBE(クラリネット)
・ノイマン U87(トロンボーン)
・ノイマン KM86(バンジョー ジャズギター)
・オーディオテクニカ AT4050(ピアノ)
・AKG 414EB(チューバ)
・ノイマン KM84(ドラム オーバートップ)
・エレクトロ・ボイス RE20(バスドラム&ギターソロ)

レコーダー:タスカム DA-3000
録音:オーディオテクニカ アストロスタジオ

 

<曲解説>

1. Indiana
 イントロのクラリネットとピアノは中央からわずかに右寄りに位置する。フロント3本の管楽器は、中央にトランペット、わずかに左にトロンボーンで、極端に左右中央と振り分けるのではなく、3つの楽器の演奏上の絡みを重視している。冒頭のクラリネットの音色は典型的なリボンマイクの音と理解していただきたい。指向性のポジションは単一からわずかに双指向寄りのL3、低域調整はM、マイクとクラリネットの距離は20cmほどである。

2. Just a close walk with thee
 冒頭のトランペット用のマイクは「タマ・ノイマン」とも呼ばれるノイマンの管球式で最後期のM269。30cmほどの距離からねらっている。各旋律楽器にはLexiconのリバブレーターでほぼ同じ量のわずかなエコーを加味しているが、この残響感と明るく張りのあるトランペットの音色、そしてマイクの持つ音色がうまくマッチさせようと考えた。チューバはアルティクの古典を代表する複合マイク639Bで単一指向性、40cmほどの距離からとらえている。

3. That’s a plenty
 トロンボーン用のマイクはノイマンの古典を代表するU-47。ヘレン・メリルのジャケット写真でもお馴染みだが、今日では稀少性の高いものとなってしまった。本体にはATTがないため、-20dBのパッド(ATT)の挿入でプレーヤーの中川英二郎の非常にパワフルな演奏に対応した。トランペット用とチューバ用はコンデンサー型だが、クラリネット用のリボン型とはタイプの違いを超えて音色的な融合を目標とした。

4. Dark Eyes
 Dark Eyesを含む4曲までのマイクはすべて共通。ピアノ用は2本のRCA 77DXで指向性はL3。それぞれ低弦と高弦を狙い、低域の減衰なしのMポジションで、左寄りの定位としている。ドラムスはオーバートップに左右2本のC37Amで低域減衰はM1。バスドラはMS-2で無指向性だが、この強烈なエネルギーにマイクが耐えられるか、若干の不安があったため、距離は50cmと少々離し、締まり過ぎず緩すぎずのバランスを狙った。

5. Swanee
 ここでちょっと一服、という感じでバンジョーのソロ。バンジョーは打楽器的な要素も加わるため、コンデンサー型の使用も考えたのだが、弦楽器の響きの柔らかさを存分にピックアップするべく、このソロを含む前半5曲はAベロとした。弦との距離は20cmほどだが近接効果も加わるため、低域調整は5段階中の3、高域調整はフラット、指向性切り替えなしの8の字型である。前半の4曲では前方からの管楽器のかぶり込みを避けるため、演奏者の青木氏には90度の角度で座っていただいた。

6. St.James Infirmary
 マイクが変わるとここまで雰囲気が変わる、ということが実感できよう。前半とは演奏者の位置も、マイクのポジションや距離も指向性もほとんど変わらないよう努めた。少しでも変わると響き感や低域~高域のバランスも自ずと変わってくるためである。好き嫌いは別として、前半の、部厚く奥行きを感じさせるサウンドとは少し異なり、後半は若干サラリとして、この曲も悲しい「お葬式」の曲なのだが、その表情はかなりストレートに感じ取れるようだ。

7. Old rugged cross
 クラリネットもバンジョーも前半のリボン型から後半はコンデンサー型に変わる。クラリネットの中域?低域はRCAが厚みや密度感を聴かせたが、それに対して後半のSOLID TUBEは柔らかななかにも音色的な深みを、バンジョーもAベロの太さというか、分厚い響きに対して爽やかな切れ味を感じさせる。もちろんリボン型とコンデンサー型で、タイプによる音色の違いも無いわけではなく、周波数特性にも裏付けされるところだが、個々のマイクそれぞれに持ち味や独自の特徴を持つことを改めて感じさせられる。

8. High Society
 チューバのマイクは前半が639Bで、今日でも捨てがたい魅力 を感じさせ、中低域に力があり切れ味の良い低音感を聴かせたが、後半は金管楽器に対して定評が高い414EB。ここでのチューバも低域の抜けの良さと金管ならではの音の張りの良さ、締まりとエネルギーを聴かせている。ジャズの低音のリズムは、ストリングベースでも全く共通だが、ダンピングの良さが必要とされ414EBの切れ味の良さもこの低音感の印象につながるところ。RE20がバスドラムの締まりと力を聴かせる。

9. Avalon
 前半のU-47もこのU-87も同じノイマンのラージダイヤフラムで、20年ほどの時代的な違いがあるが、双方とも魅力的なトロンボーンの音色を聴かせている。管球とソリッドステート、という違いがあり、U-47は無指向性と単一指向性だが、U-87には双指向性が加わり10dBのATTも組み込まれ、ファントムでもある。使い勝手という意味では全く異なるが、音色的にU-47には未だに捨てがたい味わいを感じさせる。

10. St.Louis blues
 ピアノにはオーディオテクニカのAT4050を2本使っているが、前半の77DXとはまさに好対照と言って良いくらい明るく輝かしい音色ながら、トランペットの鋭くえぐり取るような切れ味の良さでブルースの深い味わいを聴かせる。前半の「タマ・ノイマン」に対してソニーの大型コンデンサー型のC575も張りのあるシャープに突き抜けるような高域が楽しめる。ドラムのオーバートップもKM84に変えたが、こうした変更により前半と後半の音色の違いが味わえると思う。

 

 

<レコーディング風景>

 

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