【mora × OTOTOY 共同企画】好き者スタッフが語り尽くす、アニメと音楽の2018、ココがすごい!

え~、もうね2018年も終わりですよ。OTOTOYの会議室では、なにやら眼鏡のふたりが早口でまくしたてるように話しております…… なんでしょう、どうやらアニメとその音楽に関する内容みたいですね。え、なにやってるの、こちらの眼鏡はOTOTOYの伊達くんじゃないか、あ、そちらの眼鏡はmoraスタッフの関取さんじゃないですか……ということで、この記事は、初のmoraとOTOTOYの共同企画として、ふたつの配信サイトのアニメと音楽をこよなく愛するふたりのスタッフに来てもらい、ざざざっと語っていただきました。記事内では最近の作品、どこに注目するとアニメと音楽がより楽しめるのかとか、いま最良の劇伴音楽作家は誰なのか! とかみっちりみっちりと深く結びついたアニメと音楽の関係性を、そのほとばししぎるほどの愛で語り尽くしております。題して、「アニメと音楽の2018、ココがすごい!」ということで、来年のアニメ注目作も含めてお話してますのでぜひともみてやってください。

編集:OTOTOY

 

楽曲とアニメの関係を深く感じさせた作品たち

――まずはテレビシリーズ・アニメについてお願いします。

関取 2018年はオリジナル作品が活況の年でした。スタジオ単位で見てみると、『けいおん!』などを制作している〈京都アニメーション〉(以下、京アニ)がこれまでとはまた違った流れの作品を出してきたなと。写実的な西洋風の舞台を初めて本格的に描いた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、NETFLIXで全世界同時配信もされました。第3期を数える『Free! -Dive to the Future-』やNHKで放送された『ツルネ -風舞高校弓道部-』など、女性向け作品にも本腰を入れ始めた印象です。

アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』PV第4弾

関取 また、〈京アニ〉と対置させて考えたいのが〈TRIGGER〉。この会社は『新世紀エヴァンゲリオン』などの作品を制作した〈ガイナックス〉の流れを汲んでいて、先行作品からのパロディやオマージュをふんだんに盛り込む作風にも特徴があります。今年は〈A-1 Pictures(現:CloverWorks)〉と共同で制作した『ダーリン・イン・ザ・フランキス』と『SSSS.GRIDMAN』という、2本の大型企画がありました。やはりパロディやオマージュを盛り込みつつも(後者はそもそも90年代の特撮作品が原案となっている)、登場人物の距離感の表現には現代的な感性も取り入れられていて、人間ドラマとして見応えのある作品になっていましたね。

伊達 僕も今年はオリジナル・アニメが面白かったなと思っていて、最近ニューヨーク・タイムズが発表した「ベストTV 2018 インターナショナル部門」に選出されて話題になっていた、『宇宙よりも遠い場所』や『ひそねとまそたん』、『プラネット・ウィズ』などが特に全編通してクオリティも高く、印象的でしたね。

関取 『プラネット・ウィズ』は漫画家の水上悟志さんが描き下ろしのネームを切っていて、それをもとに絵コンテと脚本が起こされているんです。そのネームは水上さん自身の手で清書された上で、月刊誌に連載もされていて。まったく新しいオリジナルアニメのあり方だなと。

TVアニメ『プラネット・ウィズ』PV

伊達 事前にお互いにいくつか作品を挙げたとき、これが一致したのはすごくうれしかったです(笑)。『プラネット・ウィズ』は最高でした。 漫画にもなっているんですけど、そういうおもしろい作り方をされている部分も画期的でしたよね。水上悟志さんは『トップをねらえ!2』が大好きらしく(※1)、『プラネット・ウィズ』の音楽は『トップをねらえ!』と同じ田中公平さんというレジェンドが担当されています。登場するロボットのデザインも『トップをねらえ!2』でメカデザインを手がけた、いづなよしつねさんが担当していて、こういう原作者の好きなものを過去作からしっかり取りこんだうえで、現代のオリジナル作品に還元したという部分がかなり刺さりました。この作品も音楽の力はすごく強かったと思います。過去のアニメの影響とか、音楽の力が今作の魅力の一部として働いているっていうことが分かるという部分も素晴らしいですよね。

関取 水上さんは、なぜ田中さんに依頼したかという理由を「音楽でちゃんとコマ割りを作ってくれる」人だと説明していて(※2)。そういう新しいアニメと音の関係の話もできる作品でしたね。対照的に、『SSSS.GRIDMAN』はAパートのBGMが一切ないんですよ。『エヴァ』でも音楽を担当されている鷺巣詩郎さんが手がけられていて、内容的にも『ウルトラQ』から続く特撮作品の音楽的脈絡を意識されているそうです(※3)。

※1 『プラネット・ウィズ』公式HP スペシャルインタヴュー
http://planet-with.com/interview-report-vol3/

※2 いよいよ7月8日(日)よりTVアニメ『プラネット・ウィズ』放送スタート! 原作・水上悟志トークイベントレポート | V-STORAGE (ビー・ストレージ) 【公式】
https://v-storage.bandaivisual.co.jp/report/event/92635/

※3 オリジナルサウンドトラックのパッケージ版には鷺巣氏によるライナーノーツ「『ウルトラQ』(1966)からの音楽的脈絡。」が収録されている。
https://gridman.net/product/cd/soundtrack.php

伊達 そういうふうに、コンセプチュアルに楽曲の段階からひとつ踏み込んでプロデューサーさんに頼んでいて、音楽と作品がしっかり溶け合って、いろいろな視点から楽しめるものが多かったですね。

関取 タイアップで後付けのような形で音楽が決まるのではなく、脚本や資料を読んで、ストーリーの内容を汲んだ上で主題歌を書くということが多くなっていて。しかもそれがいわゆるアニソン・アーティストだけではなく、普通にロックシーンで活躍しているバンドにおいてもあるんですよね。これは極端な例かもしれませんが、今年原作・アニメともに完結した『東京喰種トーキョーグール』シリーズのオープニング・エンディングはまさにそう。原作者の石田スイさんが、残響Recordあたりのバンドが好きで「このアーティストがいい」と音の世界観を含めて決め打ちで頼んでいるそうで、TK from 凛として時雨をはじめ、当初無名だったバンド(※4)や解散したバンドのコンポーザー(※5)が起用されたりもしています。

※4 『東京喰種re:』第1クールのエンディングを担当した「Cö shu Nie」は、関西を拠点にインディーズで活動するバンドだったが、石田スイがプライベートで音源を愛聴していたことから大抜擢。石田によりタイトルを付けられた「asphyxia」でデビューし、2019年1月スタートのアニメ『約束のネバーランド』のエンディングも担当することが決まっている。

※5 『東京喰種√A』および『東京喰種re:』第2クールのエンディングを担当した「österreich」は2013年に解散したバンド「the cabs」のコンポーザー/ベーシストであった高橋國光によるソロプロジェクト。解散以来、表立った活動からは退いていた高橋を石田によるオファーが引き戻し、プライベートでも交流が続いているという。

「やめたいと思わなかったことがない」東京喰種・石田スイと盟友・高橋國光が語る創作と葛藤
https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/osterreich-sui-ishida

伊達 アニメ作品を通してこういう動きがあるのは面白いですよね。主題歌に関してだと、今期の『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』はガールズ・バンドthe peggiesがオープニングを担当していて、劇伴とエンディングはfox capture planが担当しています。この作品の青春とSFっていうテーマ両方に楽曲でもフォーカスをあてて、OPでは歌詞にも音にも青春感を全面に出した真っ直ぐなロック・ナンバー、EDではそれとは相反するようにジャズ・テイストな楽曲で複雑・難解といったSFの世界観と思春期の気持ちを彷彿させるみたいな。これはスタッフの方がそれを狙ったかどうかまではわからないんですが、 こういう他ジャンルの音楽を『青ブタ』っていう作品のテーマでしっかり繋いでいたり、映像もそれに合わせて魅せていて違和感がなくて「この作品にはこの曲じゃないとダメだな」って強く感じられました。個人的にそういう作品はアニメも楽曲も印象的になってますね。

TVアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」第1弾PV

関取 むしろお互いの触媒になって、深いところを引き出し合うような関係になってきているなと、いろんな作品から見てとれますね。先ほども挙げた『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のエンディングが「トリカゴ」というキャラソンなんですけど、作詞作曲を手掛けているのが乃木坂46の「制服のマネキン」や「君の名は希望」、欅坂46の「青空が違う」なども手がけている杉山勝彦さん。本編がディストピアSFみたいな、管理された世界のなかで生きている子どもたちがいかに外の世界へ脱出するのか……という話なんですけど、エンディングの映像ではキャラクターが(本編では着ない)現代の女子高生風の衣装を着て、“反逆のアイドル”とも呼ばれる欅坂46のイメージを重ねられている。アニメのファンだけではなく、乃木坂46や欅坂46のファンのところにも届いたのかなと思っていて、moraでもしっかり売れてくれました(笑)。楽曲のパワーがアニメの世界観を「深読み」させてくれるんですよね。

 

話題作が多かった2018年の劇場版アニメ作品

伊達 では、そろそろ劇場アニメの方も振り返って。まずは〈京アニ〉の『リズと青い鳥』が今年観たアニメ映画では衝撃でしたね。

関取 これは別格というか……(笑)。「アニメとして」とかそういうレベルではない、もはや芸術作品と言ってもいい域にある作品で。スタッフ的には2016年の『聲の形』と同じで、監督が山田尚子さん、劇伴を作曲しているのはagraph名義で電子音楽作品もリリースしている牛尾憲輔さんです。『聲の形』のときからそうなんですけど、絵コンテを切るのとコンポージングを同時並行で行っていて、抽象的なレベルで音楽とアニメーションを同期させていて。今作ではさらに足音のSEもサントラのループに溶け込ませた形で、感情の波をコントロールしていくという……言うなれば「観るアンビエント・ミュージック」みたいな作品なんですよ。

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映画 聲の形 オリジナル・サウンドトラック a shape of light

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伊達 僕も『聲の形』のサントラが本当に好きで移動中とかに今でもずっと聴いているんですけど、アルバム単体で聴いてもかなり良い作品だと思うんです。『リズと青い鳥』のサントラも、もちろんアルバム単体で聴いても素晴らしいんですが映像との結びつきがより強固に感じられたというか。本編を観たあとでこのアルバムを聴くと映像が脳裏に浮かぶし、映像に音楽がなかったら成り立たない作品なんじゃないかとさえ思いました。劇場作品ってTVアニメじゃ出来ない大きな盛り上がりやスケールの大きい話とかが多いと思うんですけどこの作品はそうではなくて。淡々とメインキャラクターふたりの話が進んでいくっていう。そういう内容を劇場版の作品としてやったという衝撃もありましたね。最初に観終わったときは、「えっ? いま何を観たの?」みたいな唖然とした感覚になったのを覚えています(笑)

『リズと青い鳥』ロングPV

関取 牛尾さんは今作の音楽を制作するにあたって、「学校の中にあるモノから覗き見るような視点」を考えたと言うんですよ(※6)。ドラマティックなことは起こらないんだけど、だからこそ微細な感情のやりとりが際立つ。起承転結をしっかり作っていくようなタイプの映画とは、文法が根本的に異なるんです。逆に起承転結をしっかり作って、その中にいるキャラクターの感情をとにかく動かしていく作風の筆頭に脚本家の岡田麿里さんがいますが、この方が初めて「監督」という立場で関わった『さよならの朝に約束の花をかざろう』も今年初めの公開でした。女性作家として「母と子」のテーマを盛り込むなど“らしい”面もありましたが、個人的には存外真っ当なファンタジーものに落ち着いたなという印象でしたね。

※6 最後の「ピン」という音で希美の幸せを願った―牛尾憲輔が語る「リズと青い鳥」と音楽(1)|Zing!
https://eonet.jp/zing/articles/_4102098.html

伊達 岡田麿里さんの脚本作品といえば『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『とらドラ!』など、現代で男女さまざまなキャラクターが絡み合う群像劇の印象が強いので、監督としてこういうファンタジーな世界観を取り上げたのはすこし驚きました。今作は背景美術も圧倒的でしたし、rionosさんの主題歌「ウィアートル」もかなりよかったですね。今年は別のアニメの主題歌や劇伴もrionosさんが担当している作品もいくつか気になったものがあって、彼女の今年の活躍っていう部分からもこの作品は印象に残っています。

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編

関取 他には、宇多田ヒカルが主題歌を提供した『ペンギン・ハイウェイ』もよかったです。劇伴は舞台や展示に作品を提供している現代音楽系の阿部海太郎さんという方で、あまりアニメ作品では聴かないタイプの音が鳴っていたかなと。監督の石田祐康さんは1988年生まれで、若い勢いを感じさせる作品でしたね。

伊達 あと僕は『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』を挙げました。18年ぶりの新作を公開、しかも前作からそのままthe pillowsを起用して『フリクリ』を作った、という部分だけで個人的な感謝の気持ちもあって名前を出したいと思いました。僕は前作のフリクリの時にはまだ小さくて、あとから作品を観て大好きになったんですよね。まさか大人になってこの作品について騒げるとは思ってなかったので。今フリクリの新作の映像を見れた、それだけで本当に嬉しかったですね。

FooL on CooL generation/the pillows

FooL on CooL generation / the pillows

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――劇場版作品といえば、新海誠監督の新作『天気の子』も発表されました。

関取 『君の名は。』の大ヒットがつい最近に感じますが、来年でもう3年なんですよね。今回はどんなミュージシャンとコラボするのか…。「またすごい曲をいただいてしまいました」という新海氏のツイートもありましたし、気になります。他にも、『夜明け告げるルーのうた』がアヌシー国際アニメ映画祭で受賞を果たした湯浅政明監督の最新作『きみと、波にのれたら』も公開されるなど、話題に事欠かない一年になりそうです。

伊達 まだ情報は少ないですけど、キャラクターデザインも『君の名は。』から引き続き田中将賀さんみたいですし、音楽の面も含め続報が楽しみです。『きみと、波にのれたら』も凄く楽しみにしている作品で、脚本が吉田玲子さん劇伴は大島ミチルさんっていうこっちにも期待せずにはいられない名前が並んでますよね。そして、両作品が6,7月公開で時期も固まっているという…。本当に来年も劇場版作品は熱い年になりそうな気がします(笑)。

 

アニソンの「外」の視点をもったアーティストたち

――すこし外れるんですけど、これから注目を浴びるかもしれないアーティストはいますか?

関取 『SSSS.GRIDMAN』の主題歌を手がけたOxT(オクト)さんでしょうか。ボーカルの大石昌良(オーイシマサヨシ)さんはSound Scheduleというバンドもやられていて、一度解散も経験している方なんです。そこからアニメ作品に作家として楽曲を提供するようになっていって、2017年の「ようこそジャパリパークへ」(『けものフレンズ』主題歌)でブレイクしたのですが……そんな大石さんが書く「UNION」の歌詞に、〈ヒーローになれやしないんだって 主人公は誰かやるでしょって 知らぬ間に諦めたりしないでよ〉〈目の前の僕らの世界は何ものにも代えられない世界 それは子供も大人も関係ない〉というラインがあって。これが彼のバンド・ヒストリーと重なってきて、泣けるんです。いまは居場所をアニソンの中に見つけたわけですけど、いわば「外」から来た人だからこその解釈力がある方なんですよね。UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんもそういうスタンスで、作家的にいろいろな作品に関わっていますけど。

10.6(土)~スタート! 新番組『SSSS.GRIDMAN』放送直前PV!

関取 いま面白いアニメの音楽を作っている人って、そういうアニメの「外」の視点を持ち込んでくれる人だと思うんですよ。元々僕もアニメファンというより、音楽ファンというところからアニメに興味を持ったタイプなので、そういう方たちが作った音楽が実際ヒットしているのをみて、ああ、自分の感性は間違っていなかったんだなと思えるようになってきました(笑)。

伊達 いまのお話だと、fhánaとかもそうですよね。メンバーがもともとfhánaとは別に音楽をやっていて、中心人物の佐藤純一さんはFLEETというバンドをやっていましたし。ギター担当のwagaさんもオリジナル曲を動画サイトに挙げたりしていて、今は他のアーティストに楽曲の提供とかもしています。名前の挙がった牛尾さんも、オーイシさんも、田淵さんも、他にはクラムボンのミトさんとかもそうですけど、外の視点を持っていて、かつちゃんと「アニメのことを好き!」っていうアーティストの楽曲は印象的な作品が多い気がしますよね。

関取 そうそう。好きっていうのはすごく大事ですよね。「わかってるな~!」みたいな(笑)。

伊達 そういったところでも、曲を作っている人を個人的にはもっと表に出したいなと思っていて。こういう人たちがこんなアニメに対してこういう曲を作っている、ということをもっといろんな人に知ってもらいたいなとも思いますね。配信サイトとしては、そこがフックのひとつと考えてどんどん表に出したいなと。フィジカルはアニメ版のジャケットとか特典を目当てに、いわゆるキャラクター性を重視して買う人が多いとすれば、配信側ではもっとクレジット側に注目して楽曲自体の魅力を前に出していくのも大事なんじゃないかなって。僕自身が誰がアレンジしている、誰が作曲しているかでアニソンを聴くことも多くて、そこから知らない音楽につながることも多いのでそういう体験が届けられたら嬉しいです。あと音質というところでいえば、OTOTOYではロスレス音源の配信もやっていて、ハイレゾまでは出てないけど、世に出ている一番良い音質というところ、アニメ音楽のファンの方たちが反応してもらえたのも嬉しかったですね。デレステの音源とかも大きい反響をもらいましたし、やっぱり少しでも良い音で音楽を聴きたいっていう人はたくさんいると思うので、高音質とアニメの組み合わせならではの楽しみ方とかは模索し続けて、情報をすこしでも自分達からお渡ししたいなって思いますね。

Trinity Field (M@STER VERSION)/渋谷凛 (CV: ç¦ align=

Trinity Field (M@STER VERSION) / 
渋谷凛 (CV: 福原綾香)、北条加蓮 (CV: 渕上舞)、神谷奈緒 (CV: 松井恵理子)

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2019年注目作品、そして今後のアニメ界隈の動きはどうなる?

――さてでは今後の話に。2019年の注目作品をいくつか挙げてもらいました。関取さんはテレビアニメ『さらざんまい』を挙げています。

関取 これはフジテレビ系の「ノイタミナ」枠で放送される、『少女革命ウテナ』や『輪るピングドラム』を手がけた幾原邦彦監督の新作ですね。僕は彼が打ち出す哲学的なテーマにずっと関心があって……。いままでは女の子同士の、いわゆる“百合”的なモチーフが多かったのが、今回は男の子が主要人物ということで、どうなるのかなと。いまがどういう時代なのか、ということにもすごく敏感に作品づくりをされる方なので、注目したいですね。

さらざんまい “つながるPV” 完全版

――おふたりが揃って挙げている作品には、『ブギーポップは笑わない』があります。

関取 『エヴァンゲリオン』と同時期、90年代末に一巻が出たライトノベルが原作ですね。現代の日本を舞台にしていて、『化物語』の西尾維新にも大きな影響を与えた作品として知られています。ちなみに、現在もちゃんと続刊が出ているので、決して「過去の作品」ではないということを強調しつつ……(笑)。先日公開されたPVでは映像そのもののクオリティもさることながら、その編集センスもすごくて。劇伴は『リズと青い鳥』の牛尾憲輔さんが手がけているんですが、セリフのリズムと牛尾さんの劇伴が作り出す不穏な空気感に加えて、主題歌が入ってくるタイミングも完璧で。OxTの片割れでもある作曲家のTom-H@ckさんがやっているもうひとつのプロジェクト、MYTH & ROIDが担当しているんですけど、こちらのユニットはアニソンの文脈にインダストリアル・ロックのサウンドを取り入れるなど、より実験的な音楽性を志向しているんです。都市に不穏なものが紛れているかもしれない……という感覚は時代を問わないものだと思うので、それを音楽・音響面でも表現してくれる作品として期待しています。

TVアニメ『ブギーポップは笑わない』 PV 第2弾

――関取さんは劇場公開作品として、『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』も挙げています。

関取 2017年に始まったリブート三部作が来年完結するんですね。第二部に当たる『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』が先日公開されたんですが、これが素晴らしくて。最近って10年前くらいの作品のリメイク・リブートがすごく多いんですよね。これには当時の中高生がお金を使える年代になったという、ビジネスライクな理由も正直あると思うんです。でもこの『ハイエボリューション』シリーズはそれを逆手にとって、原作の素材を使って新たな物語を構築していて。第一部の公開時には「単なる総集編じゃないか」という辛辣な意見も散見されたんですけど、第二部でそういう形になった理由も明かされていて。詳しくはぜひ実際に観てほしいんですが、ちょっとだけ言うと、当時のテレビ放送――地デジ化前なので画角の比率が違う――で流していた映像もそのまま使っていて、そういったところにも物語的な必然性を与えているんですよ。

映画 『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』 本予告60秒

伊達 『ハイエボリューション』が他のリメイク作品と違うのは、単に過去の映像を綺麗にしたとかではなくて、テレビアニメ以外に展開した『エウレカセブン』っていう名前のつく作品、例えば劇場版や続編、コミックス、それらを全てをひっくるめてリブートしているんですよ。これ音楽でいうとサンプリングとかの手法に似ているなとも思っていて。元ネタという言い方は変ですけど、『エウレカセブン』っていう膨大に広がった作品を素材として捉えていて、 エウレカを好きな人はどこかで絶対にグッとくるシーンがある。そういう風に過去に積み重なったものをしっかりと再構築して作った作品というのが第二部では凄く伝わってきましたね。楽曲の面でいうと劇中でやくしまるえつこさんと砂原良徳がカヴァーしている「Ballet Mécanique」が流れますね。もともと「バレエ・メカニック」っていうタイトルがTVシリーズの中でもファンに屈指の人気の回に付けられていて。「この映画でこれを流すのは卑怯でしょ!」っていうような(笑) 。とにかくいろいろな部分で妥協のない第二部だと感じました。このための第一部だったんだなと思うと納得ですよね。

Ballet Mécanique/やくしまるえつこ & 砂原良徳

Ballet Mécanique / やくしまるえつこ & 砂原良徳

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――他には注目作はありますか?

伊達 僕は〈TRIGGER〉制作の映画『プロメア』が楽しみですね。『キルラキル』や『天元突破グレンラガン』を作った今石洋之監督と脚本の中島かずきさんのコンビが作る劇場版の新作です。これはもう、「このふたりが作る新作なら見るしかないでしょ……!」っていう。〈TRIGGER〉やキルラキルのコンビと言えば、迫力のある作画と大げさなくらい、大胆なアクション! みたいなイメージがあると思うんですけど、今回の『プロメア』は PVを見ると3DCGが強めなのかな? っていう表現の方法でも凄く気になりますね。過去作の続編の流れとしては、『コードギアス 復活のルルーシュ』も楽しみにしています。いまさら何かをいう作品ではないですが、これも単純に続編が観れると思ってなかったので。

映画『プロメア』第一弾PV 制作:TRIGGER

関取 作り手としては、単なる「昔はよかった」で終わらせないようにということを絶対に意識しているはずで。視聴者・観客としてもそういった気概を受け止めていきたいです。

伊達 最初に話した『フリクリ』とか『コードギアス』とかも、かなり人気の強い作品ですし、物によっては本当に蛇足になりかねないですもんね。大きいタイトルで続編を作ることは、制作側はもちろん観る側も勇気のいることだと思うんですけど、やっぱりそういう期待を超える作品が見たいっていう思いのほうが強いです。

――最後にトレンド予測を。スマートフォン・ゲーム向けソーシャル・ゲーム(以下、ソシャゲ)がアニメと連動する動きが加速するのではないか、とふたりとも挙げていますが、これはどういうことでしょうか。

関取 来年はスマートフォン・ゲーム発のコンテンツとしては大きいアニメ化がふたつあって。ひとつは『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』。2011年に大ヒットしたアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』のスピンオフ作品で、テレビシリーズとして放送されます。もうひとつは『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)。こちらは劇場版とテレビシリーズの制作が同時に発表されました。

TVアニメ「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」ティザーPV

関取 スマートフォンゲームで特徴的なのは、基本的にストーリーが「終わらない」ものであるという点です。人気さえ続けば新たなシナリオがどんどん追加されていく。そこで何がやり取りされているかというと、「時間」ですよね。いわゆる「ガチャ」をやるのも、そこにお金を投下して強いアイテムを手に入れることで、攻略にかかる「時間」を買っているという捉え方ができる。だからこそ高確率で強いアイテムが手に入るイベント時にはリアルタイムで盛り上がるし、Twitterのトレンドにもよくわからないワードが上がってきますよね(笑)。そう考えるとアニメは毎週1回放送されるというサイクルと、ゲーム上のイベントのサイクルをいかに連動させていくかが重要なんじゃないかなと。ゲームでしか聴けなかった音楽がアニメでも聴けたり、またその逆であったり……というサイクルを起こしていく。音楽の聴かれ方としても、アニメありきで、それを観てストーリーが好きで聴くというのではなくて、ゲームをプレイする中でいつの間にか身近なものになっている音楽を、いわばサブリミナル効果的に買ってしまう。『Bang Dream!』や『アイドルマスター』など、音楽系のゲームを中心にすでにそういう動きは起こっているわけですけど、そういう中でどういった音楽が人気を得るのかも気になっています。

伊達 そういう風にスマートフォン・ゲームは露骨にトレンドがタイムラインに上がってきてユーザーが盛り上がっていることとか、駅内には広告が大きくあってそれを写真に撮る人がいたりとか、興味がない人の生活にも何かしらの情報が入ってきますよね。ユーザーとの関わりかたという部分で『FGO』のアニメ化に関しておもしろいなと思うところは『ゲームの中で映像化してほしいストーリーはどれですか』と公式がユーザー・アンケートをとって実現したものなんですよね。

Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア- ティザーPV

伊達 買い切りのゲームや放送が走っているアニメ作品とは違って、常にユーザーと運営側がリアルタイムで長い間繋がっているソシャゲだとファンに対してこういう還元の仕方が出来る、というケースは凄く現代っぽくて良いことだと思います。もちろんタイトルやユーザー数の規模によって出来ることは変わって来ると思うのですが、ユーザーとの関わり方という点で見ればそれはアニメ・コンテンツも今後大事になっていくのかなと。そのプラットフォームがソシャゲになって、アニメや音楽イベント然り、おもしろいことに繋がっていったり、人気の秘訣になるんじゃないですかね。ソシャゲに対してマイナスな意見を持ってるかたもいると思うんですが、ユーザー側もとにかく気になったものはどんどん遊んでみて自分に合ってるかどうかって調べて見るのも大事だと思います。

――ユーザーからのフィードバックが反映されていると実感できるということが大きいんですね。

徒花ネクロマンシー/フランシュシュ

徒花ネクロマンシー / フランシュシュ

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関取 さっきの「(アニメの勘所を)わかってる」と感じられるクリエイターの作る音楽が人気になっているという話にも通じますが、ユーザーと一緒にコンテンツが成長していくことが大事なのかなと思います。「仕事」というところをどこか超えた、作り手も楽しんで作っている作品というのはやはり伝わるもので。放送前のプロモーションでは一切内容を伏せ、毎話の展開で徐々にネット上の盛り上がりを見せていった『ゾンビランドサガ』(※7)は、まさにそういった作品でしたよね。リアルイベントなどで演奏されることで、視聴者とスタッフ・キャストとの直接的な接点になりますし、そういう意味でも音楽はますます重要になっていくのかなと。

※7 10月~12月に放送されたオリジナル作品。ゾンビとして蘇った、生きた時代も異なる7人がアイドルグループ「フランシュシュ」として(なぜか)佐賀県を盛り上げるために活動するという、あらすじを聞いただけでは「なんのこっちゃ?」と思わず言いたくなる作品。ギャグあり、歌あり、ヒューマンストーリーありで、プロデューサー役の宮野真守をはじめとしたキャスト陣の熱量の高い演技も相まり、秋クール1、2を争う盛り上がりを見せた。

オリジナルTVアニメ「ゾンビランドサガ」PV

伊達 『ゾンビランドサガ』最高でしたよね(笑)。先日開催された〈CygamesFes2018〉のステージもかなり盛り上がっていましたし、オフィシャルの聖地巡礼ツアーも追加募集が決まったりと、ネット上の盛り上がりがリアルにもしっかり反映されてる様子が目に入るのは視聴者としてもやっぱり気持ちが良いです。ユーザーもクリエイターもお互いにしっかり敬意をもって、その結果コンテンツが成長していくような環境がどんどん生まれて欲しいって思います。

 

最後にふたりが選んだ2018年のベストタイトルを紹介

OTOTOY 伊達が選んだ今年の5枚

映画『リズと青い鳥』オリジナルサウンドトラック「girls,dance,staircase」
UNION / OxT(OTOTOYのサイトに飛びます)
ワルキューレは裏切らない / ワルキューレ
World Atlas / fhána(OTOTOYのサイトに飛びます)
NieR:Automata Orchestral Arrangement Album(OTOTOYのサイトに飛びます)