「もっと眠れる感じにできないか」……エンジニアのアイデアから生まれた、最高に気持ちいい寝落ちアルバム『もりでねてた』

【本記事は、音源配信元のナクソス・ジャパン様より寄稿頂きました】 

環境音楽、クラシック、ヒーリング、エレクトロニカ……

さまざまなニュアンスをもつ音楽に包まれて、森のなかで、ゆっくりスヤスヤ………

2019年夏、そんなコンセプトのアルバムがリリースされました。

もりでねてた music for diffusing sleepy environment ~ chapter harp ~ <配信先行リリース>

Off-Toneレーベル

AAC[320kbps] FLAC[96.0kHz/24bit]

Tr.1 ドビュッシー: 前奏曲集 第1集 – 亜麻色の髪の乙女
Tr.2 サティ: ジムノペディ第1番
Tr.3 ラヴェル: 亡き王女のためのパヴァーヌ
Tr.4 ドビュッシー: アラベスク第1番
Tr.5 リスト: 愛の夢 S541/R211 – 第3番
Tr.6 ショパン: エチュード第13番 変イ長調 Op. 25-1「エオリアン・ハープ」
Tr.7 デュラン: シャコンヌ 変イ短調
Tr.8 パリー: ソナタ第2番
Tr.9 ロッシーニ: ハープのためのソナタ
Tr.10 J.S.バッハ: アヴェ・マリア

Artists

エレン・セーイェシュテード・ボートケル(ハープ)
ノーラ・シュルマン(フルート)
ジュディ・ローマン(ハープ)
Matsusaka Daisuke(エレクトロニクス)

 

試聴してみると、クラシック原曲の面影があるようなないような、摩訶不思議な雰囲気とともにゆっくりと森のなかに分け入っていく、心地よさ満点の音楽ワールド……

なるほど、たしかにこれは気持ちよく「寝落ち」できそう。

「Off-Tone」(←おふとん!)レーベルオーナーであり、アルバム『もりでねてた』の制作者、Matsusaka Daisuke氏へのインタビューをまじえつつ、このアルバムの魅力に迫ります。

Matsusaka Daisuke

 

きっかけは「もっと眠れる感じにできないか?」

──「安眠」系のアルバムは、ジャンル問わず世の中にたくさんあって、どれも人気です。『もりでねてた』はクラシックの名曲音源にリエディットをほどこしているそうですが、新感覚のファンタジックな聴き心地ですね。制作したきっかけは何ですか?

(Matsusaka Daisuke)自分はエンジニアとして、クラシック音楽レーベルのナクソス・ジャパンの商品に多く関わっていました。そのなかに『眠れる森のハープ』というコンピレーションがあったのですが、あるときそれを聴きながら、「これをなんとかもっと眠れる感じにできないか?」と思ったのがきっかけです。

 

──たしかにクラシックの名曲は、盛り上がったりカタルシスがあるからこそ名曲なわけで、美しくはあるけれど、睡眠導入にホントに向いているかというと……やや疑問符がつきますよね。すばらしい演奏であればあるほど、眠りからは遠ざかっていく(笑)

(M)クラシックの原曲ではおのずと限界がある「もっと眠れる」という実用性を、リエディットによって向上させました。制作中に聴いてもらった友人や子供たちは軒並みすぐに寝てしまいましたし、うちの猫に至っては毎回必ず寝ます(笑)

とはいえ、原曲への愛を感じない乱暴なことは絶対にやりたくなかったので、もとの音源からかけ離れすぎないように意識して制作しました。

 

──どのようなリエディットをしたら、このような独特な響きが生まれるのでしょうか?

(M)元音源をデジタル処理で10倍以上の遅さまで引き伸ばしてまた元の速度に戻す、という作業を何度も重ねると、音が完全に滲んで雰囲気だけを残したドローンサウンドが出来上がります。その出来上がったドローンに元の音を重ねるんですが、そのときに展開にアレンジを加えてあります。

途中から音がうろ覚えになってぼやけていく感じ、あるいは記憶がごくかすかしか残っていない感じなど、『もりでねてた』というシチュエーションをめぐるさまざまなシーンを想像しながら切り貼りしました。

仕上げとして、元音源の断片をちりばめました。これは元の波形を均等の幅で切り刻んで鍵盤上に配置できる、特殊なサンプラーを使っています。

そのサンプラーを、手動での演奏や打ち込みデータでの演奏ではなく、いろいろな場所で採取した環境音をトリガーとして動作させることによって、完全に無作為なサウンドが生まれました。

ある種の「自然のリズム」が刻まれているといえるかもしれません。

 

──「自然のリズム」。それが『もりでねてた』というコンセプトにもつながっていくわけですね。

(M)はい。自分は、毎年夏に、野外イベント「CAMP Off-Tone」を主催しています。

CAMP Off-Toneは、森の中でゆっくり音楽を聴きながらキャンプをしたりご飯を食べたりお風呂に入ったり買い物をしたりするというイベントなんですが、あまりにも心地よすぎるのか、まだアーティストが演奏しているけっこう早い時間でも、気づいたら大半の人が寝てしまっているんです。

そんな経験から「もり」ではこういう音楽を聴きながらみんな「ねてた」よ、というコンセプトを思いつきました。これは、感じ方次第で日常とも非日常ともとれる空間を目指すOff-Toneのコンセプトそのものでもあります。

 

 

──「ねてた」というネーミング、「自然にそうなっちゃった」的なニュアンスがこめられていてすごく良いです。音楽って、演奏している前で寝ちゃいけないという強迫観念があったりしますよね。その思い込みを軽やかに取り払っているのが面白いと思います。ジャケットも素敵ですね。

(M)ジャケットで使用した写真は、CAMP Off-Toneの会場のマウントピア黒平。ステージなどが何も設営されていない状態です。

森林公園であり、かつみんなが「ねてた」場所でもある、ということで、この写真をセレクトしました。

ちなみに、今年も9月14~16日にCAMP Off-Toneを開催予定です。

https://www.offtone.in/camp/

去年(2018年)のCAMP Off-Toneの様子

 

「あらゆる音楽ジャンルをまたぐものができないか」という探求

──『もりでねてた』は、クラシックをベースにしつつも、アンビエントや環境音楽など他のジャンルとも強い関連を持っているように窺えます。制作者ご本人としては、このアルバムのジャンル性をどういう風にとらえていますか?

(M)「アンビエント」とひと口に言っても非常に細分化しており、また解釈の幅も広がっています。昨今、世界中から注目の的となっている日本の「環境音楽」も、アンビエントの一部として解釈されることがあります。

さらにヒーリングやニューエイジの一種としてもとらえられてきた環境音楽ですが、実はそういった感情や観念とは別な方向性もあります。最近の日本の環境音楽は、建築やアートと関連が深く、ジョン・ケージの影響からサウンドスケープなどの論理的な考え方も盛り込まれるなど、非常に高度で洗練されていて、世界的な注目を集めています。

有名なクラシック曲を用いつつ、ヒーリング、ニューエイジ、環境音楽、サウンドスケープなどの複数のジャンルをまたぐものが出来ないかと考えた末に、カバーではなく再構築(元音源の音を素材として組み立てなおすこと)を行うという手法を採りました。

 

──Matsusaka DaisukeさんはDJ、作曲家、アレンジャー、エンジニアとして活動されていますが、それらの多岐にわたるご経験が、さまざまな音楽ジャンルへの深い洞察や、今回のアルバムのような新しいアイデアを生んだのでしょうか。

(M)『もりでねてた』は、DJカルチャーという視点を持ち込んだつもりです。特に制作する際に用いた発想はDJユース的なもので、「エクステンデッドミックス」「リミックス」「ダブバージョン」といったものに近いです。

高度な演奏技術は必要としないので、ある意味では誰でも作れます。でもそれだけに、発想そのものが逆に活きてくるという、DJカルチャーらしい面白さを感じていただけると嬉しいです。

制作方法から見ても、実はDJカルチャーの中にはジョン・ケージの発想である”偶然性の音楽”の要素も息づいています。こうした言わば文化の循環利用によってそれらがアップサイクルされることも願っています。

 

「なんとなくいい感じの音がほしいな」というあらゆるシーンに

──オススメの聴き方はありますか?

(M)「なんとなくいい感じの音がほしいな」というあらゆるシーンにオススメです。

自宅ではリビングはもちろんお風呂のBGMとして定番になっていますし、寝る前に携帯からスピーカーもつなげずにそのまま枕元で小さく鳴らすのも気に入っています。

どんなオーディオでも構わないですし、小さな音も大歓迎です。ぜひホッとしながらの「ながら聴き」をお勧めします。

ただし運転中だけはご注意ください(笑)

 

──『もりでねてた』リスナーの方にひとことお願いいたします。

本当に大好きな曲を選んで、愛情を込めてエディットしましたので、アンビエント、環境音楽が好きな方だけではなく、クラシックファンの方にとっても、新たな可能性へのアプローチになったらうれしいです。もちろん、寝落ちしたい方にもオススメです。

 

──ありがとうございました。