ザ・ビートルズ『ホワイト・アルバム』50周年記念スペシャルエディションがハイレゾ配信。ロングレビューも到着。

1968年11月、ザ・ビートルズ通算9作目であり、初の2枚組アルバムとして発売された『ザ・ビートルズ』。自身のレーベル、アップル・レコードからの第1弾作品でもあるこのアルバムは真っ白なジャケットから後に“ホワイト・アルバム”と呼ばれることになり、50年の長きに渡ってリスナーを魅了し続けてきました。

2017年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に続き、今回『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』の50周年記念エディションがハイレゾフォーマットで配信。全曲の新ステレオ・ミックスと5.1サラウンド・ミックスに加えて、同時期にレコーディングされたデモ、同作のレコーディング時に残されたセッション・レコーディング等の未発表音源を収録しています。
新ステレオ・ミックスと5.1 サラウンド・ミックスはプロデューサーのジャイルズ・マーティンとミックス・エンジニアのサム・オケルが担当。「5人目のビートルズ」と呼ばれた名物プロデューサー、ジョージ・マーティンの遺志を継ぐスタッフによる、新しい音像の『ホワイト・アルバム』をぜひお楽しみください。

 

【早わかり! スーパーデラックス版とデラックス版の違い】

スーパーデラックス版・デラックス版共通収録

  • 『ホワイト・アルバム』本編 Disc1 リマスター・・・17曲(M1~M17)
  • 『ホワイト・アルバム』本編 Disc2 リマスター・・・13曲(M18~M30)
  • エッシャー・デモ
    (ジョージ・ハリスン宅でのアコースティックセッション)・・・27曲(M31~M57)

スーパーデラックス版のみ収録

  • セッションアウトテイク集・・・50曲(M58~M107)

 


 

「ホワイト・アルバム」新リミックス 試聴レポート
(テキスト:本間孝男)

ザ・ビートルズのオリジナル・アルバムがアニバーサリー・エディションとして単独でリリースされるのは、昨年の『サージェント・ペパーズ』に続き2度目になる。今年も50周年記念エディションとして新ミックスの『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』が、11月9日に世界一斉発売される。

アニバーサリー・エディションは様々なパッケージで発売されるが、全てに共通するのは新ミックスの30曲。moraからは、そのハイレゾ版のダウンロード配信もスタートする。スーパー・デラックス・エディションに収められているBlu-ray Discと同じ音源のようだ。また、10月頭に開催された特別試聴会で来日したジャイルズ・マーティン(ザ・ビートルズ・アニバーサリー・エディションのプロデューサー)の直接インタビューにも成功しているので、そのコメントの一部を加味してハイレゾ試聴記をレポートしたい。

 

ジャイルズ・マーティン氏

 

『サージェント・ペパーズ』や『アビイ・ロード』と並びザ・ビートルズの最高傑作と言う人も多い『ザ・ビートルズ(通称:ホワイト・アルバム)』。試聴レポートの前にその成り立ちや録音セッションに関連する基本情報を前作との違いをふまえながら整理しておこう。

ザ・ビートルズの4人は1968年春、長かった『サージェント・ペパーズ』の録音セッションのインターバルとしてヨガと瞑想の講習を兼ねてインドのリシケーシュに長期間滞在した。その間に書き溜めた沢山の新曲を英国に持ち帰った。1968年の5月の最終週、4人はサリー州はイーシャーのジョージの家に集まり、これらの楽曲のうち27曲のアコースティック・デモをジョージが買ったばかりの4トラックのレコーダーに録音した。ファンの関心が高い“イーシャー・デモ”である。27曲のデモのうち19曲が『ホワイト・アルバム』の収録曲として陽の目を見た。録音が進むうちに曲数がさらに増える。プロデューサーのジョージ・マーティンは曲を厳選してLP1枚のアルバムにするよう説得したが、メンバーは完成した30曲を収録するためLP2枚組を主張。メンバーの意見がとおり、ダブル・アルバムでの発売となった。絶頂期を迎えつつあったザ・ビートルズの『ホワイト・アルバム』は予想を上回る成功を収め、ダブル・アルバムとして史上最大の売り上げを記録した。ギネスは1週間200万枚のアルバム売上記録を認定。2000年にRIAA(米レコード協会)は19×プラチナム・アルバムと認定した。米国だけで1枚物LP換算で1900万枚を売り上げる記録的な作品となった。

録音のやりかたも大きく変わった。『サージェント・ペパーズ』まではほぼ完成した曲に入念にリハーサルを重ねてからスタジオに入る。まずリズム隊(ドラムス、ベース、ギター、キーボード)を録音してバッキングトラック(カラオケ)を作り、それに音を重ねるスタイルがとられた。『ホワイト・アルバム』からはリハーサルもジャムセッションもすべてテープを回して録音。ベスト・トラックと思われるテイクにオーバーダブを重ねるというシンプルなものになった。しかし100テイク録っても本番のアルバムには使われないということも起こり、膨大な量のセッション・テープが残ることになった。

バンド全体が参加してベースになるバッキングトラックを作ることが絶対条件ではなくなったため、アーティスト個々が別々のスタジオ(アビイ・ロード2スタと3スタなど)でそれぞれソロで作業することも多くなった。このため『ホワイト・アルバム』は4人がバンドとして参加したトラックは30曲の約半分の16曲にとどまっている。様々な音楽要素を含んだ多様性にあふれたアルバムといわれるのもその辺に理由がありそう。

前々作『リボルバー』から前作『サージェント・ペパーズ』でミキシング・エンジニアを務めていたジェフ・エメリックはこの『ホワイト・アルバム』のセッションの半ばで、1歳年下のケン・スコットにその座を譲り降板してしまう。ミュージシャン気質の強いケン・スコットに担当がかわったので『ホワイト・アルバム』のロック色が一層濃くなったのは確か。本作のステレオ・ミックスは全てケン・スコットの手によるもの。彼はその後デヴィット・ボウイのアルバムのプロデューサー/ミキサーとして名を馳せている。ちなみに降板したジェフ・エメリックはAppleに移籍後、翌年の『アビイ・ロード』のセッションでは外部ミキサーとしてジョージ・マーティンとともにビートルズの録音に復帰している。残念なことにエメリックは10月2日に72歳で急逝した。

今回配信される新ミックスを担当したのは前作『サージェント・ペパーズ』と同じチーム。ザ・ビートルズのプロデューサー、故ジョージ・マーティンの息子ジャイルズとアビイ・ロード・スタジオのチーフ・ミキサー、サム・オケルの二人だ。前作『サージェント・ペパーズ』はモノ・ミックスをベースにして作業が行われたが、『ホワイト・アルバム』はステレオ・ミックスを元に作業が進められた。『ホワイト・アルバム』のセッションからはモノとステレオがほぼ同等に扱われ、ザ・ビートルズのメンバーはどちらのミックスにも立ち会うようになったことが大きい。それ以前は、ステレオ・ミックスはプロデューサーとミキサーの仕事のように扱われ、メンバーはほとんど関心を持たなかった。

ミックスダウン(リミックス)に使われるのはアビイ・ロードの金庫室に厳重に保管されている8トラック/4トラックのマルチ・マスター。1インチ(25.4mm)幅のアナログ・テープだ。これをミックスして2ch(L、R)のステレオ・ミックスと5.1chのサラウンド・ミックスが作られる。ジャイルズとサム・オケルの二人は『ホワイト・アルバム』のアニバーサリー・エディションのために150本ものミックスダウンを行ったという。内訳はホワイト・アルバム 2018ステレオ・ミックス 30曲、イーシャー・デモ 27曲、セッションズ 50曲。この他に多数の5.1chのサラウンド・ミックスが加わる。

ザ・ビートルズのリミックス企画全体のプロデューサーを務めるのは、ジャイルズ・マーティン。ザ・ビートルズの全カタログを管理するアップル・コアの上級スタッフで、アビイ・ロード・スタジオ内に専用作業ルームを持つ。上司はポールとリンゴそして相続人(ヨーコ・オノとオリヴィア・ハリスンの2人の未亡人)だという。最近ザ・ビートルズの販売権を持つユニバーサル・ミュージックはジャイルズを”Head Of Audio & Sound”の特別職に任命した。内容は明らかでないが、少なくともユニバーサル・ミュージック傘下のスタジオ、ロンドンのアビイ・ロード・スタジオとロサンゼルスのキャピトル・スタジオは彼の指揮下に入ると見られている。ジャイルズの知識とセンスが高く評価されているようだ。

リマスターはリミックスと全く別物。リマスターはステレオ・ミックス済みのオリジナル・マスターを使い、ノイズ除去やローエンドの整音などを行うもので、リミックスと異なり基本的に定位(楽器や歌手の位置)の置き換えや音質の変化(過度な低音ブーストなど)は行なわない。ジャイルズ本人にリミックスとリマスターをそれぞれどう思うと聞いたところ、「リマスターには関心がない。リミックスでなければやらないよ。」と率直な答えが返ってきた。

ジャイルズへのインタビューで『サージェント・ペパーズ』と『ホワイト・アルバム』のリミックスでどんな違いがあったかと質問すると、「4トラック・レコーダーによる制約が大きかった『サージェント・ペパーズ』は設計図に基づいて作られているように各パートが厳密に組み立てられている。それに比べるとトラックが多い『ホワイト・アルバム』は自由度が高いのでもっとシンプルに音を扱うことができた。その分楽器の音や部屋への音の広がりに集中することができたと思う。」と答えてくれた。

 

ビートルズの公式YouTubeチャンネルにて、ジャイルズ・マーティン氏へのインタビュー番組も配信されている。(英語)

 

「White Album 2018」(96kHz/24bit) インプレッション
(テキスト:本間孝男)

今回配信となるハイレゾ音源をいち早く試聴する機会を得たので、そのインプレッションを早速レポートしたい。比較試聴のため用意した盤は2009年リマスターの『ホワイト・アルバム』ではなく、1987年版『ホワイト・アルバム』のCD(東芝EMI)。1987年版はオリジナルのステレオ・マスターのフラットトランスファーに比較的近いと思うからだ。
重点的に聴いたのはオープニングの「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」、「ディア・プルーデンス」、「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」、「ジュリア」、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、「バースデイ」、「ヘルター・スケルター」、「レボリューション1」、「レボリューション9」、最後はエンディングの「グッド・ナイト」までの10曲。全般的に音の鮮度が上がり、余計な低域のブーストがなく中域の見通しが良い音に仕上がっている。

■ 「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」/「ディア・プルーデンス
ジャイルズは「『ホワイト・アルバム』のリミックスで楽器やリズムの定位を変えたか」という質問に答えて「かなりオリジナルと違う。私がベストだと思うポイント、心地よいと思うポイントに定位させている。センターにドラムスやベースを置き、ヴォーカルもセンターのケースが多い。」と答えてくれた。左-中央-右のスタンダードなステレオの定位だ。オリジナルのケン・スコットのミックスよりジャイルズはさらに3点定位を徹底している。このため音場や再生空間の広がりがナチュラル。ジョンやポールのヴォーカルが明確にセンターに定位して、より全体のバランスが自然に感じられ、広帯域なハイレゾ再生でも一層聴き易くなった。その代表格が「ディア・プルーデンス」。今風のモダンなサウンドに仕上がっている。

■「バースデイ」/「ヘルター・スケルター
ケン・スコットのオリジナル・ミックスもあなどれない。ポールが書いた「バースデイ」ではケンのミックスは70年代初頭のロックサウンドを彷彿とさせる勢いのあるもの。新ミックスはチョピリ迫力が薄れてしまった。もう一つのポールのハードロック・ナンバー「ヘルター・スケルター」は両者引き分け。全体的に帯域が狭い分ケン・スコットのミックスに分がある。

■ 「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス
『ホワイト・アルバム』でリミックスが一番難しかった曲をあげてとジャイルズに聞いた時に答えてくれた曲。「なぜって、オリジナルのバランスが絶妙で、少しでもバランスをいじると繊細なジョージのヴォーカルが後ろに引っ込んでしまうから」と答えてくれた。これ1曲で3日以上かかったそうだ。ちょっと曖昧なケン・スコットの楽器の定位(ドラムスなど)を組み替えヴォーカルのバランスを取り易くしている。これでクラプトンのギターもジョージのヴォーカルも両方とも引き立てることに成功した。右に置かれたポールのベースと左のジョンのギターどちらも音色をクリアーに調整しているのがハイレゾではよくわかる。ケン・スコットは自身の著作でこの曲のセッションの記憶がまったくないと言っている。クラプトンが外部ミュージシャンで加わっただけの何の変哲もない普通のセッションとして淡々と作業が進んだようだ。

■ 「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ
ジャイルズ流のナチュラルな空間の取り方で最も成功しているのがこの曲。ハイレゾで聴く価値のあるミックス。ポールのヴォーカルの1人多重録音の処理のセンスの良さもよく出ている。

■ 「ジュリア
レノンの最もエレガントな曲の一つ。ジャイルズ・マーティンがポールにリミックスを聴かせに行った際に真っ先にリクエストされたのがこの曲。ヴォーカルと一人多重の処理が上手くとても聴きやすい。オリジナルのケン・スコットのミックスも定位が曖昧だが暖かい雰囲気が良い。

■ 「レボリューション1」/「レボリューション9
ミックスダウンのコンセプトがオリジナルと新ミックスではかなり違う。『ホワイト・アルバム』セッションで最も最初に着手されたのが「レボリューション1」。ジョンがセッションの最後までコラージュに取り組んだのが「レボリューション9」。ジャイルズの「9」のミックスはコラージュというよりもオーケストレーションぽくまとめている。インタビューではぜひBlu-rayの5.1チャンネルを聴いて欲しいと語ってくれた。かけるときは電気を消さずにと一言。

■ 「グッド・ナイト
ジョンが書き、リンゴが歌ったクロージングナンバー。ジャイルズのミックスは映画風の広がりと暖かさのあるもの。リンゴが眼前で「目を閉じてお休み」とつぶやくイメージ。オリジナルのケン・スコット版はミュージカルのエンディング風。コーラスが前に出てリンゴは奥目で歌う。