豪華連載陣の選ぶ2016年三大音楽ニュース~その② アーティスト編~

レジェンド級ミュージシャンの逝去、記念碑的な作品の相次ぐリリース、音楽の楽しみ方のさらなる多様化……例年以上に音楽に関わるトピックが多かったこの2016年。インタビュー&連載で様々な角度から作品を紹介していただいた皆さんから、「2016年の私的三大音楽ニュース」を教えていただきました! 各テキストには関連する作品へのリンクも設けましたよ。

連載テーマを離れて聴かせていただくと、またそれぞれの個性が出て面白い……みなさんもぜひ、「三大ニュース」を考えてみてはいかがでしょう?

>>その① ライター編はこちら

 


 

松尾潔(音楽プロデューサー・文筆家)

(テーマ: 2016年に逝ったR&Bレジェンド・ベスト3)

 

1. モーリス・ホワイト

 星になった順に。今年後半、動画サイトで最も流行ったもののひとつにマネキン・チャレンジが挙げられます。そのメインテーマが兄弟ヒップホップ・デュオ、レイ・シュリマーの“Black Beatles”。ポール・マッカートニーまでもがこのチャレンジに参入、晴れて「公認曲」となり、チェインスモーカーズ“Closer”を蹴落としてまさかの全米首位となったわけですが。
 そんな快進撃に水をさすつもりはありませんが、ブラック・ビートルズといえばそりゃアース・ウィンド&ファイアーの別称でしょう!と言いたくもなるわけですよ。ぼくくらいの年齢にもなると。ましてや今年はリーダーのモーリス・ホワイトが亡くなったのですから。

関連作品: アース・ウィンド&ファイアー“Got to Get You Into My Life”(ハイレゾ)

 

2. カシーフ

 9月に亡くなりました。まだ50代だったし、寝耳に水の話でした。
 1980年代終盤、テディ・ライリーとLAリード&ベイビーフェイスの台頭が彼の存在感を希薄にしましたね。特にライリー主導の新しき音意匠ニュー・ジャック・スウィングが、ニューヨークの先輩格にあたるこの人の描くサウンドを古い景色に変えてしまった印象は否めません。
 ミネアポリスのジャム&ルイスは、ジャネット・ジャクソンと組むことで挑戦的態度を錆びつかせることなく巨大な存在へと成長しました。対照的に、ホイットニー・ヒューストンのデビューに尽力したカシーフは、多くのものを得ながらも大きな何かを失ったように思えてなりません。それでもララと組んで放った佳曲たちの輝きは永遠のものです。

関連作品: メルバ・ムーア“Livin’ For Your Love”

 

3. ロッド・テンパートン

 10月に死去が報じられました。静かな生活を好んだ最強のソングライター。
 2003年、久保田利伸と飲んだ夜のこと。当時ぼくが初めてのコラボに臨んでいた筒美京平の話をしたら、久保田さんは目を輝かせて「日本のロッド・テンパートン!」と言った。ぼくは「いや、テンパートンがアメリカの京平先生でしょう」と反論した。
 一瞬の間があって、すぐにふたりとも気がついた。ふたつの主張は正反対のようで、その実まったく同じであることに。
 そもそもロッド・テンパートンの作りだす音楽に夜と酒は似合うのだけれど、こういうくだらない音楽談義のあとの酒はとびきり旨いものでした。

関連作品: マイケル・ジャクソン“Baby Be Mine”(ハイレゾ)

 

■連載

matsuo

 

 

日高央(THE STARBEMS)

 

1. 相次ぐROCKレジェンド逝去

年始のデビッド・ボウイ病死を皮切りに、昭和や20世紀を彩ったROCKジャイアンツが相次いで鬼籍に入ってしまった……ボウイも然りだがプリンスなんてまだ還暦前だぜっ!? 神様、一体何の仕打ちだいっ!? と心で叫んだオッさんオバちゃんが続出したのが容易に想像出来る……でもこれ熟年リスナーだけの問題じゃなくて。例えば五十路間近の俺でさえもリアルタイムのボウイは『スケアリー・モンスターズ』ぐらいからで、煌びやかな70’sグラム期は完全に後追い世代。つまり良心的なリスナーはこれからレジェンド達の過去作をディグるわけで、ディグってる最中に新譜が出てタイムラグを楽しむ、といった聴き方が出来ないのは非常に勿体ないと個人的に思ったり。あまり新譜のなかったレオン・ラッセルやエマーソン・レイク&パーマー(遂に3分の2がいなくなってしまった)は仕方ないとしても、レナード・コーエンのように現役バリバリのミュージシャンもちょいちょいいたので、これを機に過去の膨大なアーカイブをmoraで振り返ってみるのも良きかと。

関連作品: Leonard Cohen『You Want It Darker』(ハイレゾ)

 

2. 薬物問題

古今東西ROCKスターと薬物問題は切っても切れない関係で歴史を彩ってきた側面もあるが、ドーピングしまくってたストーンズがまだまだ元気に新作『Blue & Lonesome』をリリースしたり(ブルーズ・カヴァー集ではあるが)、ご存知の通りアメリカでは嗜好品及び医療使用として合法化した州まで登場。自己責任の範疇という概念が比較的浸透している欧米に対し、皆保険の普及やコンプライアンスだけがどんどん厳しくなる日本では認識のズレが広がり? まだまだ薬物トラブルが頻発している模様。もちろん違法行為を奨励したいわけではないが、ネット普及と共に逆に情報過多に陥り、薬物って結局どうなん? というポイントがズレまくったのかなという印象だった2016年。マイケルやプリンス然りで、いわゆるドラッグ以外の薬物問題もありつつ、正解は自分で決めるしか無いわけで、テメェでテメェのケツをどこまで持てるのか? が今後ますます問われるだろうし、そもそもドラッグ無しでハイになれるのが音楽の良きところでもあると思うんで、その良さをもっと引き出せるかが今後の音楽の盛り上がりにも繋がっていくのかと。

関連作品: The Rolling Stones『Blue & Lonesome』(ハイレゾ)

 

3. スターベムズ新譜発売

僭越ながら自身のザ・スターベムズで3rdアルバムを発売させて貰えたのが2016年最後のハイライト。1stから2ndにかけてはメンバー達自身でも「これまでのキャリアと違う事」を自らに課さねばならなかった時期でもありつつ(苦しいながらも音楽的な楽しさはあったけどね)、ぼちぼち禊は済んだろてと自由に作った一枚。どうせ何を言ったって聴かねえ奴は聴かねえし、ガタガタ言う奴ほど聴かねえんだから理詰めにする気はさらさら無くて、ただただシンプルに今思うエェ曲を紡いだ結晶。スターベムズ的UKロック? カラフルな意匠をまとわせてみた1曲目から、サム・クック始め多くのソウルマンに捧ぐラストまで、一気に駆け抜ける13曲は、あえて! モダンな音像をちょっぴり踏み外してみた意欲作でもある。LIVEでの再現性をシカトしたからこその楽しさと、だからこそLIVEでスパークする刹那を上手く詰め込めたと思うんで、生活にリズムや勢いが欲しい時にでも聴いてみて。

関連作品: THE STARBEMS『Feast The Beast』

 

■連載

hidaka

 

 

タイチマスター(DJ/Producer)

 

1. いとうせいこうトリビュート・アルバム『再建設的』に参加

個人的に最も重要だったトピックスはこれですね。僕はちょうどRUN D.M.CやBeastie Boysなどのヒップホップを聴き始めた中学2年生のときに、いとうせいこうさんの『建設的』を聴いて「日本語でもこんなにかっこよくラップができるんだ!」と衝撃を受け、すぐさま同級生とヒップホップ・ユニットを組んだのです。そして中学3年生のときに人生初のライブをやるのですが、そのときにカバーしたのがせいこうさんの「BODY BLOW」という曲。それから30年近く経ってまさか本人からオファーが来て、そのときの同級生MCUとその曲を正式にカバーできる日が来るなんて!!今年の、というより自分の人生においても一大事件でした。

関連作品: いとうせいこう & リビルダーズ『再建設的』

 

2. プリンス逝去

マイケルに続き、プリンスまで50代で亡くなるとは思いませんでした。プリンスは、音楽はもちろんファッションやアートワークに至るまで、誰にも遠慮せず自分の美意識を貫いてる姿が本当にかっこよかった。誰かの真似やコピーではない本物のアーティスト。近年もコンスタントにリリースがあったので、なんとなくこの人は長生きしてずっと作品を出し続けるんだろうな、なんて勝手に思っていたから、突然の訃報にただただ言葉を失いました。特に最近の作品は往年の勢いを取り戻しつつあるような充実した内容だっただけに、本当に残念です。まだまだ作品を聴きたかったですね。

関連作品: Prince『4Ever』

 

3. ア・トライブ・コールド・クエストのラスト・アルバムがリリース

こちらも今年メンバーのファイフが逝去したヒップホップ・ユニット、ア・トライブ・コールド・クエストですが、彼の亡くなる直前まで制作していたというラスト・アルバム『We got it from Here… Thank You 4 Your service』が突如リリースされました。年末ギリギリでしたが、自分のなかで今年の洋楽ベスト・アルバムに決定。バスタ・ライムスなど往年の仲間に加え、ケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークなど今をときめく若手もゲストに呼んでちゃんと現在進行形のヒップホップをやっているのが素晴らしかった。古くからのファンも最近の若いファンも両方納得するであろう、ベテランの理想といえるアルバムでした。

関連作品: A Tribe Called Quest『We got it from Here… Thank You 4 Your service』(ハイレゾ)

 

■連載

 

 

瀧川ありさ(シンガーソングライター)

 

1. 山下達郎さん新宿ロフトライブ

10月にあの山下達郎さんが老舗ライブハウス新宿ロフトの40周年記念としてアコースティックライブ2daysを開催するというニュースを最初に見た時は信じられませんでした!その名の通り、約6万人の応募があったそうで、行けた方はさぞ今年の運を使い果たしたと思ったでしょう……。心から羨ましいです。難波弘之さん、伊藤広規さんのお三方でのアコースティックライブ。普段のバンドでのホールコンサートとは一味も二味も違うライブだったと思います。ライブレポートを読むことしかできませんでしたが、新曲「CHEER UP! THE SUMMER」を含むセットリストもトークも、生唾を飲む内容でした。

関連作品: 山下達郎『CHEER UP! THE SUMMER』

 

2. 宇多田ヒカルさん音楽活動再開

2011年から「人間活動」に専念されていた宇多田ヒカルさんが4月に音楽活動を再開されました。この5年間、宇多田さんが音楽シーンにおいてどれだけ大切な存在だったかを改めて痛感する日々で、さらにわたしの世代のミュージシャンがどれだけ彼女に影響を受けてきたのかも幾度となく目の当たりにしてきました。2012年には「桜流し」を聴くために『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を観に行きましたし、活動再開を待ち望んでいましたが、一人の母となり帰ってきてくれた宇多田さんは、改めて一人の人間として、女性として、アーティストとして、そのすべてに母性を纏い、美しく儚く強い音を届けてくれました。

関連作品: 宇多田ヒカル『Fantôme』(ハイレゾ)

 

3. 藍井エイルさん無期限活動休止

レーベルメイトの藍井エイルさんが11月の日本武道館公演をもって無期限の活動休止に入られました。エイルさんは初めてお会いした時から、飾らない柔らかい言葉で優しく接してくださいました。その後もお会いするたびに、その綺麗な佇まいで無邪気に声をかけてくれる姿が、嬉しくて憧れの存在で。一度対談させて頂いた際には、自身の音楽への真面目で熱い想いを話してくださり、すごく感銘を受けました。武道館で披露されていた「アカツキ」は、わたしの楽曲でもお世話になっているSakuさん作詞曲の楽曲で、ファンのみなさんとの心の繋がりを何より大切にされていたエイルさんの歌声がこころに突き刺さります。またお会いできる日を願っています。

関連作品: 藍井エイル『BEST -E-』『BEST -A-』(ハイレゾ)

 

 

■連載

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