臼井孝・月刊moraチャート分析(2016年7月)

 今回から始まった「臼井孝のmoraヒットチャート診断」。このコーナーでは、毎月、moraダウンロードランキングの総合部門とハイレゾ部門からヒット曲を見ていこうと思います。私自身、小学生の頃から、テレビやラジオで発表されるヒットチャートをノートに転記しまくり、今の仕事に就いてからも様々なヒットチャート分析を手がけ、かれこれ約40数年(笑)。CD、ラジオ、有線、カラオケ、歌詞検索など世の中には様々なチャートがありますが、その中でmoraではどんな楽曲が人気なのか紐解いていきたいと思います。

 今回は、第1回ということで、まずは2016年上半期のランキングを見てみましょう。

 

上半期[総合]ランキングTOP10 ※色付きのセルはハイレゾ商品

  シングル アルバム
1 海の声/浦島太郎 (桐谷健太) シャンデリア/back number
2 365日の紙飛行機/AKB48 ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム ~ オールタイム・ベスト~/Hollywood Movie Works
3 SUN/星野 源 超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~/いきものがかり
4 FLASH/Perfume 一度だけの恋なら / ルンがピカッと光ったら/ワルキューレ
5 花束を君に/宇多田ヒカル YELLOW DANCER/星野 源
6 クリスマスソング/back number ハイレゾクラシック the First Selection/Various Artists
7 PERFECT HUMAN/RADIO FISH 一度だけの恋なら / ルンがピカッと光ったら/ワルキューレ
8 トリセツ/西野 カナ METAL RESISTANCE/BABYMETAL
9 いけないボーダーライン/ワルキューレ ゆったり聴きたいカフェBGM プレミアムジャズベスト/Cafe lounge Jazz
10 明日への手紙(ドラマバージョン)/手嶌 葵 COSMIC EXPLORER/Perfume

 

 まず、総合部門の上半期1位は、桐谷健太扮する浦島太郎の「海の声」となりました。こちら昨年の夏からauの三太郎CMシリーズで流れ始め、昨年12月に有料で配信開始し、その朴訥な歌い方と素直なメロディー、そして三線(さんしん)の音色がピュアなラブソングとして浸透し、総ダウンロード数は100万件を超えました。さらに、カラオケでもDAM、JOYSOUNDともに上半期1位となっており、まさに配信発のヒット曲と言えるでしょう。

 ちなみに、こちらの楽曲、既にカラオケでも上半期1位(DAM、JOYSOUND共)になっていますが、いまだ配信のみでの発売です(CDは9月28日に予定)。つまり、遂にCDが1枚も売れないまま、大衆に浸透しまくった楽曲が生まれる時代に突入したということです。

本作のほかに、6位の宇多田ヒカル「花束を君に」、7位のオリエンタルラジオが参加しているユニットRADIO FISH「PERFECT HUMAN」、そしてアニメ『マクロスΔ』の挿入歌を歌う女性5人組ワルキューレの「いけないボーダーライン」と、実に4作もCD発売から4ヶ月以上先行した配信ヒットが今年は多発しています。今やシングルCDはグッズやイベント参加券としての役割が大きい分、楽曲の魅力をアピールする為にこういった長期的な配信限定曲はますます増える気がします。

2位は、AKB48「365日の紙飛行機」がランクイン。その“音楽以外の魅力”でバカ売れしていると時に揶揄されがちな彼女たちですが、こうして楽曲だけでも配信でメガヒットするというのが、多くの他のアイドルグループにはない強みでしょう。とはいえ、同じくフォーク路線だった6月発売の「翼はいらない」は、決して配信ヒットしていないので、これは楽曲の魅力のみならず、主題歌となった“NHK連続テレビ小説「あさが来た」”効果も見逃せません。同様に、6位の宇多田ヒカルも朝を爽やかに迎えるにふさわしい曲調と、NHK連ドラの影響が相乗効果となっているのでしょう。

また、Perfume「FLASH」が上半期4位と、自己ベストの配信ヒットとなっています。特に、他のダウンロードサイトと比べてmoraの4位というのは特長的。本作は広瀬すず主演の映画『ちはやふる』の主題歌ですが、和のテイストを織り込んだことで、moraユーザーに多いミドル世代以上の男性にも支持されたということでしょうか。ともあれ、アイドル戦国時代が続く中、固定メンバー&固定プロデューサーで約10年間もヒットを飛ばしているのは実に見事です。

次に、ハイレゾ部門を見てみます。SNS上でのハイレゾに関する話題は、アニメソングやクラシックに集中していますが、実際の市場はどうなっているでしょうか。

 

上半期[ハイレゾ]ランキングTOP10

  シングル アルバム
1 花束を君に/宇多田ヒカル ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム ~ オールタイム・ベスト~/Hollywood Movie Works
2 真夏の通り雨/宇多田ヒカル 超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~/いきものがかり
3 オルフェンズの涙/MISIA 一度だけの恋なら / ルンがピカッと光ったら/ワルキューレ
4 ninelie/Aimer ハイレゾクラシック the First Selection/Various Artists
5 残酷な天使のテーゼ(Director’s Edit. Version)/高橋洋子 ゆったり聴きたいカフェBGM プレミアムジャズベスト/Cafe lounge Jazz
6 明日への手紙(ドラマバージョン)/手嶌 葵 The World’s On Fire/MAN WITH A MISSION
7 piece of youth/ChouCho(ちょうちょ) それぞれの椅子 (Special Edition)/乃木坂46
8 一度だけの恋なら/ワルキューレ Utada Hikaru Single Collection Vol.1(2014 Remastered)/宇多田ヒカル
9 Always coming back/ONE OK ROCK Greatest Hits/Simon & Garfunkel
10 Knew day/(K)NoW_NAME ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション ~ オールタイム・ベスト/Various Artists

 

 上半期では、なんと宇多田ヒカルの配信限定曲「花束を君に」と「真夏の通り雨」が1位、2位を独占!本人いわく“人間活動”(本格的な音楽活動休止)中に発表された「桜流し」から数えても、約3年半ぶりの新曲で待ちわびた人が多くてヒットしたというのもありますが、とりわけハイレゾでの人気が目立ったのは、1曲に500円以上出しても満足度の方が上回るほどの楽曲制作力にあるのかなと察します。特に、日本テレビ系『NEWS ZERO』のテーマ曲となっている「真夏の通り雨」は、決して派手ではないマイナー調の楽曲ですが、心に深く染み入るような歌詞や歌声で、それゆえハイレゾで特に人気なのかもしれません(総合では15位)。

3位以下を見ると、3位、4位、5位、7位、8位、10位とアニソンがTOP10中6作を占め、やはりアニソンとハイレゾの相性の良さが見て取れます。その中で、5位の高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」に衝撃を受けました(笑)。だって、ハイレゾ配信開始の2013年12月以来、2年半にわたって上位をほぼキープしているのですから。ちなみに、通常音質でのダウンロードは2007年7月11日に開始し、既にミリオンを達成、またCDシングルでの発売は1995年10月25日でこちらは過去4度にわたる発売にて実売でミリオンを達成しています。当時は、オリコン最高17位(2種類の発売形態を合計しても12位どまり)でしたが、今では大人から子どもまで幅広く知るほどの国民的ヒットに成長しました。こうしたロングヒットの背景には、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の根強い人気と共に、イベントLIVEの度に、高橋洋子が現役感あふれるパワフルな歌声で披露し続けていることも大きいでしょう。

アニソン以外では、6位に手嶌葵「明日への手紙(ドラマバージョン)」、9位にONE OK ROCK「Always coming back」(こちらも現時点で配信限定)がランクインし、ジャンルは異なれど、共に繊細な声に定評があるので、これが一般ジャンルのハイレゾ人気の秘訣なのかもしれません。今後も、この傾向が続くのか、それとも他のヒットの潮流の影響を受けるのか、つぶさに見ていきたいと思います。どうぞお楽しみに!

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし):1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やLISMO Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆中。昨年、史上初のハイレゾ配信でデビューした女性シンガーソングライターの丸本莉子が気になっています。特別、美声でもないけれど、不思議と言葉が心に残ります。今夏から、全国各地でフリーLIVEを積極的に行っているようなので、よかったらチェックしてみては。LIVEでのお客さんのあしらい方(?)も見事です! Twitterは@t2umusic