日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.3

Vol.3 Theme: 「ポールが帰ってきた場所

 
 

 おかげさまでブルーハーツのトリビュート(THE STARBEMSも参加したアルバム『THE BLUE HEARTS 30th ANNIVERSARY ALL TIME MEMORIALS ~SUPER SELECTED SONGS~』。ご購入はこちらから)も好評ですが、もはや日本におけるロックのスタンダードとなった彼らに想いを馳せることは、海外で例えるなら<ビートルズのような存在になってしまった>と言っても過言ではないでしょう。

 ヒロトとマーシーよろしく人気を二分したジョンポール……再来日も楽しみなポール・マッカートニーの魅力とは、双璧をなしていたジョン・レノンの特徴であるブルージーな7thスケールを多用するスタイルに対して、ジャズやクラシックっぽい半音ずつズレていくクリシェや、デミニッシュをじんわりと効かせた、メロウな曲作りにあるような気がします。

 楽譜や楽器に親しみが無い人のためにもざっくり説明すると、ジョンはブルースやR&Rを、ポールはゴスペルや映画音楽を、それぞれ下敷きにしながら曲作りを独学したのではないかと思うのです……聴けば一”聴”瞭然ですが、そのメロディ感やコード感が、彼らそれぞれの楽曲の特徴を形成しつつ、各々の声の持ち味によって徐々に担当する曲の感じも分かれていったというか。

 どちらかと言えばムーディで甘い声が特徴的だったポールは、前述の通り泥臭さやシャープさよりも、お茶の間に受け入れられ易いメロウな曲作りを担うようになりました……ビートルズ解散後の代表曲の一つ「Maybe I’m amazed」(1stアルバム『McCartney』M12収録)にはクリシェの効果が効いていたり、「My Love」(ポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム『Red Rose Speedway』M2収録)ではデミニッシュでEMOい泣きメロを仕上げたり等々。実はそれらの特徴はビートルズの初期においては、カヴァー曲で代用されていました……映画音楽の「ティル・ゼア・ワズ・ユー」とかね。

 当初はおそらく、R&Rブームの中でメロウネスを強く出す事に抵抗があったり、ソングライターの実力としてメロウさとPOPさのバランスを取るのが難しかったのでしょう……ビートルズ初期はまだ弾ける若さを強調したかっただろうし、同時進行でムーブメントとなるフォークROCKやサイケにおいては、メロウさよりも7thのブルージーなニュアンスの方がHIPとされていましたから(この辺のニュアンスを当時リアルタイムで聴いていた人と話してみたいものです)。結果『ホワイト・アルバム』辺りからバラけていくビートルズ、及び解散後の自由な楽曲制作において、ポールは本来の持ち味である映画音楽的なメロウさに帰っていった……それが前述のソロの代表曲に繋がるのでは? そんな想像をしながら聴くと、ポール来日公演の楽しみ方がまた一つ増えそうで、待ち遠しさも倍増します。

 

ソロ初作品

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『McCartney』

 

「ポール・マッカートニー&ウイングス」としての2ndアルバム

Red Rose Speedway/Paul McCartney, Wings

『Red Rose Speedway』

 
 


 
 
【プロフィール】
 
日高央(ひだか・とおる):1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。