日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.10

Vol.10 Theme : 「虎は皮を残すが、PUNK界のジャイアンは何を残したのか

 

 皆さんは映画『ソレダケ/that’s it』をご存知ですか? 自分にとっても特別な作品なのですが、きっと音楽を愛する多くの人々にとって特別な作品になるであろうこの映画のことを、少しお話しさせて下さい。

 始まりはブッチャーズです……PUNK界のみならず、インディーでもメジャーでも、あらゆるギターBANDに影響を与えまくりながら、その名は海外にまで轟き、遂にはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとの共演まで果たしてしまった伝説のBAND、ブラッドサースティー・ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)……北海道の荒野から産声を上げた彼らは、そのヒリヒリしたサウンドも特徴的ながら、ギタボ(Gt.Vo.)の吉村秀樹という男のジャイアンっぷり? 愛されっぷりも特殊でした。

 酒乱というかアル中というか、とにかく片時も酒を離さない(特にいいちこ)吉村さんは、図体のデカさと眼力の強さ、腕っぷしの強さやキレるポイントが謎過ぎてw、ライブハウス界隈でも常に一目置かれ……いや、恐れられた存在でした。しかしよくよく話してみると70’s~80’sの英米PUNK、そして日本のインディーPUNKへの愛がハンパなく、いつしか俺は吉村さんの博識っぷりに惹かれて随分と親しく、音楽について話し込むようになったのです。

 おかげで俺がビークルやってた時にはたくさん対バンさせて貰ったり、『popdod』というアルバムでは「SUMMEREND」という曲で激烈な爆音ギターを弾いて貰ったり……そのお返しで? 吉村さんはブッチャーズの『NO ALBUM 無題』にて、ツアー中一緒に遊んだ長崎の海の想い出を「OCEAN」という曲に託してくれたり……話し出せば切りがない程たくさんの想い出があります。

 そんな吉村さんがアルバム『youth(青春)』制作後に逝去してしまい、多くのリスナーとバンドマンが途方に暮れてしまったのですが……その喪失感を埋めるが如く発表されたのが、映画『ソレダケ/that’s it』。元々は石井岳龍監督に、アルバムと連動した映像作品を依頼しながらも吉村さん逝去で頓挫していたのを、監督自らの意志で新たな映画として再構築し、ブッチャーズのサウンドが新旧問わず流れまくる、まさにロックな映画なのです。

 全編を貫くブッチャーズの楽曲もさることながら、『爆裂都市』や『狂い咲きサンダーロード』でお馴染みの石井監督によるスピード感溢れる映像が、独特の緊張感を生み出している傑作です。キャストの豪華さや話題性云々を置いても一見の価値あり。是非、劇場に足を運んでみて下さい。

 
 

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【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。