日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.16

Vol.16 Theme : 「猛暑をサバイブするヒント

 

 皆さんは夏にどんな音楽を聴きますか? 落ち着いたサウンドで納涼したり、逆にウッさい音で汗かいてサッパリするとか? 色んな楽しみ方があると思いますが、俺はHIP HOPを聴く頻度が上がります! BPMが速くないから落ち着いて聴けるのもあるし、そうかと思うとアゲアゲで踊りだしたくなって良い汗かける曲もあるしで至れり尽くせり……今回はそんなHIP HOP界からレジェンドを紹介しましょう。

 杉作J太郎さんのラッパー名義「L.L. COOL J太郎」の元ネタにもなった、LL COOL J……エル・エル・クール・ジェイです。RUN DMCらと共に80年代のHIP HOP黎明期を支えた30年選手の大ベテランなラッパーですが、そもそも名前の「LL」が「Ladies Love」つまり「女性は皆クールなジェイが好き」の略称という、今考えると結構お茶目なステージ名を付けちゃう好人物!

 実際、当時は多くの女性ファンを獲得していたので、それをネタにディスられまくったりもしましたが、名前に負けない実力を持ったアーティストなのです……彼の斬新さは沢山あって、最初のヒット曲『I Can’t Live Without My Radio』は、派手派手にデコレーションするのが善しとされていた80’s文化真っ只中の1985年に、ほぼリズムマシーンの音のみでストイックにラップする斬新さで大ヒット! 続くシングル『Rock The Bells』も、当時のDJ達がこぞって2枚使いしたド定番曲。CDJ全盛期の今は2枚使いする人も減ったかもですが、いわゆるクラブ文化の発展に大いに貢献しているのです。

 そしてクールJの偉業は何と言っても……HIP HOP界初のバラードを歌った(正確にはラップした)男であるという事! スウィート過ぎるHIP HOP界の大名曲『I Need Love』、今では当たり前になっているバラード・タイプのHIP HOPの先駆けであり、世界初のラップ・バラードとして歴史に刻まれています。さすが「女はみんな大好き」なクールJです!

 しかし結果「バラードばっかりライムする甘ったるいラッパー」の偏見が大きくなってしまった彼は、HIP HOP界、ひいては音楽界全体から舐められてしまうのです……クールJをディスるラッパー達も増え、タフな印象が大事なHIP HOP界では「バラードでも歌ってろや」とバカにされる存在になってしまうのです……。

 しかしそんな状況をひっくり返したのもクールJの偉業の一つ。甘ったるいラッパーと揶揄されて落ち込んでいた当時の彼に、おばあちゃんが「バカにする奴らなんかノックアウトしちゃいなさい」と励まされ、それをヒントに作り上げた『Mama Said Knock You Out』で、タフな印象も獲得し再び大ヒット! その勢いでHIP HOP界から初の「MTVアンプラグド」にまで出演しちゃうモテっぷり。しかもロビン・ウィリアムスの大ヒット映画「トイズ」出演を皮切りに、俳優としても引っ張りだこの存在に!

 更に本業の音楽も手を抜かずに、しっかり作品をリリース&ヒットさせるスキルはハンパなし! 90年代はギャングスタ的なサウンドを、2000年代はティンバランドらを招聘してクラブ寄りなサウンドも取り入れて常にシーンの最前線に身を置きつつ、映画やテレビでも存在感を放つアクターをしつつ……なんだ、やっぱりクールJは「女みんな大好き」だし、女性だけじゃなく男性からもしっかり愛されてるじゃな〜い!な八面六臂の活躍を続け現在に至ります。今じゃグラミー賞授賞式のメインホストに4年連続で指名されるというかつてない栄誉にも預かるほどの存在に……ショウビズ界を30年に渡ってサバイブし続けた彼のサウンドを聴けば、猛暑や酷暑の今夏をサバイブ出来るかもですよ!

 


 

今回ご紹介した楽曲を網羅したベスト盤!

オール・ワールド/
L.L.クールJ グレイテスト・ヒッツ

 

 

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【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。