牧野良幸のハイレゾ一本釣り! 第11回
第11回:カーペンターズ『シングルズ 1969-1981』
~ハイレゾで僕のメインストリームの音楽に~
カーペンターズは大好きである。しかしカーペンターズを自分の音楽趣味のメインに位置づけると、どこか気恥ずかしく思ってしまうところがあった。やはり「ビートルズやストーンズ、ツェッペリンを聴いてます」と言った方がカッコよかったから。不当な扱いとは分かっていても、いつもは脇に置いて、聴く時だけ「カーペンターズ、大好き」が常だった。
そんなカーペンターズの『シングルズ 1969-1981』がハイレゾで出たものだから、オーディオ的興味もあって、正面からじっくり聴いてみた。低音の厚味と弾力性が増して、筋肉質なボトムになった印象を受けた。リチャードの施したリマスターの効果もあると思うが、ハイレゾが忠実に再現している気がする。
「それでは70年代に愛した、カーペンターズの優しい音場が感じられないのではないか」と危惧する方もいるかと思う。でも僕の聴いた感じでは、低域のパワーパップに比例するように、カレンの歌声もふくよかさが増しているし、リチャードのアレンジがより繊細に耳に入ってくるようになった。カーペンターズの世界はそのままに、音が彫刻的に洗練されたと受け止めたい。
カーペンターズの曲はもともと経年劣化するものではないだけに、ハイレゾで聴くとますます名曲として輝く。ビートルズやツェッペリンの曲と比べても遜色ない風格というかフォルムを持ったような気がした。
「スーパースター」は僕にとって特別に思い出深い曲である。1971年にヒットしたのでシングル盤を買った。初めて聴いたカーペンターズだった。まだビートルズを聴く前で、洋楽のヒットチャートを追いかける中学二年生だった。
「スーパースター」はカーペンターズにしては珍しく暗い影がただよう曲だ。イントロのオーボエから、ポップスというより、どこかの国の民謡とでも思える古風さがあった。キャッチーなヒット曲を追いかけている中学生にはなじみにくい。なけなしの小遣いをはたいて「失敗したなあ」と思った。
しかし何度も針を落とすうちに「スーパースター」は輝きだした。良く聴くとメロディは綺麗だし、最後は盛り上がる。そういう流れをつかんだとたん大好きになったのである。
それでもお気に入りのヒット曲として聴いていたにすぎない。今回ハイレゾで聴いてみると、先に書いたように押しも押されぬスタンダード、それも堂々と自分のメインストリームで聴く音楽と言えるようになった気がする。ハイレゾが彼らの本当の姿を届けてくれたのだろうか。
「イエスタデイ・ワンス・モア」「スーパースター」など名曲の数々を収録!
Carpenters
『シングルズ 1969-1981』
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。